部署別 / 河川・砂防課
河川・砂防課から民間に移ると働き方と評価はどう変わるか
河川・砂防課の働き方には、他の部署と決定的に違う点が1つあります。
予定を、自分で決められない部分があることです。
出水期に入れば、降り方によって動きます。夜でも、休みでも、動きます。そして、動いた結果として何も起きなければ、そこには何も残りません。
この記事では、一年の波、評価が見えにくくなる構造、民間に移ると変わる4点、在職中に残しておくべき記録の順に整理します。
言い換えは河川・砂防課の経験は民間で何と呼ばれるか、書類の書き方は河川・砂防課の職務経歴書|書き出しから実績の出し方までに書いています。
責任が、区域に張り付いています
働き方の話を、条文から始めます。水防法第3条です。
> 市町村は、その区域における水防を十分に果すべき責任を有する。
一文です。
ここに、この仕事の時間の使い方が全部入っています。
責任が付いているのは、案件でも、事業でも、年度でもありません。区域です。区域は、消えません。だから、終わりが来ません。
民間の仕事の多くは、案件に責任が付きます。受注して、納めて、検収が終われば、その案件は終わります。次の案件が始まるまでの間が空くこともある。ところが、区域に責任が付く仕事には、その切れ目がありません。
この違いが、移った後にいちばん効いてきます。そして、たいていは、楽になる方向に効きます。
一年の波
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 4〜5月 | 年度の事業の立ち上げ、県の事業との調整、点検の委託の発注 |
| 6〜7月 | 出水期に入る。水防の体制の確認、当番の編成、自主防災組織への説明 |
| 7〜10月 | 大雨と台風の時期。降れば動く。被害が出れば調査と復旧の申請 |
| 11〜12月 | 渇水の時期に工事を集中させる。区域の周知、ハザードマップの改定 |
| 1〜3月 | 工事の完了検査、災害復旧の精算、次年度の予算と計画 |
平らな月がありません。
しかも、7月から10月の動きは、予定表に書けません。書けるのは体制だけで、実際に動くかどうかは、その年の降り方で決まります。
面接でこの波を説明するときは、月ではなく、段階で話すほうが伝わります。「水位の第一の段階で待機、第二で参集」という形です。
評価が見えにくくなる3つの構造
1. 起きなかったことは、記録に残りません
備えが効いた年は、何も起きません。そして、何も起きなかった年の報告は、短くなります。手を尽くした年ほど、書くことが減る。この逆転が、この仕事の評価をいちばん歪めます。
この構造に固有の事情もあります。起きなかったことを記録に残そうとすると、「何がどれだけ防げたか」を示す必要が出てきますが、それは示せません。降らなかっただけかもしれないからです。だから、備えの効果は、原理的に証明できない。ここで多くの方が、証明できないものは書かないほうがよいと判断します。ところが、民間の防災や保全の部門も、同じ壁の中にいます。証明できないものに費用を付け続ける説明を、毎年している。だから、「証明できないまま、体制を維持してきた」という事実そのものが、この分野では経験として読まれます。
2. 成果の帰属が、外に出ます
砂防の事業も、大きな河川の改修も、実施するのは県や国であることが多い。市町村の側は、地元の同意を取り、用地の相談に乗り、負担金を付け、工事中の問い合わせを受けます。完成したときに名前が出るのは、事業の主体のほうです。
この構造に固有の事情もあります。市町村の側が持っている部分は、事業の中でいちばん時間がかかる部分であることが多い。地元の同意です。用地に関わる話は、年単位で動きます。そして、同意が取れなければ、事業そのものが動きません。つまり、工程の先頭にある、いちばん止まりやすい部分を担当していたことになります。受託の側の会社から見ると、ここを動かせる人は、工程全体の見通しを持てる人です。名前が出ないことと、重要でないことは、別です。
3. 判断が、組織の名前で出ます
避難の情報は、市長の名前で出ます。区域の指定は、知事の名前で出ます。材料を作った人の名前は、どこにも出ません。
この構造に固有の事情もあります。判断が組織の名前で出るということは、外れたときの責めも、組織が受けるということです。これは、担当者を守る仕組みでもあります。ところが、この形に長くいると、「自分が決めた」と言うことに抵抗が出てきます。面接では、そこが消極的な印象として読まれてしまうことがあります。守られていた仕組みから出るときに、言い方だけは切り替えておく。「案は私が作り、課で決めました」——この一段で足ります。
民間に移って変わる4点
1. 予定が、立つようになります
これが、いちばん大きい変化です。天候で動く仕事から離れると、夜と休みが自分のものに戻ります。逆に、「呼ばれれば動く」形に慣れていた分、予定が埋まっていることに落ち着かなさを感じる方もいます。これは、数か月で慣れます。
2. 成果に、名前が付きます
受託の側に回れば、自分が担当した業務として記録が残ります。提案が通ったか、通らなかったかも、はっきりします。通らなかったことも記録に残るので、そこは負荷にもなります。
3. 相手が、選べる相手になります
行政では、区域の中にいる人は、全員が相手でした。選べません。民間では、契約している相手が相手です。この範囲の狭まりを、物足りなく感じる方もいます。一方で、「線が引ける」ことの楽さは、移った方の多くが最初に挙げる点です。
補足すると、相手が変わることには、もう一つの面があります。行政では、相手が納得しなくても、制度は進みます。区域は指定されるし、工事は必要なら行われる。民間では、相手が納得しなければ、そこで止まります。説明の重みが増すということです。在職中に、納得しない相手に説明し続けた経験は、ここでそのまま効きます。むしろ、説明せずに進められた経験しかない人のほうが、移った後に苦労します。
4. 費用の説明の相手が、変わります
備えの費用を説明する相手が、住民と議会から、社内と顧客に変わります。問われ方は、「その費用で何が防げるのか」という、より直接的な形になります。ただし、説明の組み立て方そのものは同じです。在職中にやってきたことが、そのまま使えます。
在職中に残しておくべき記録
| 残すもの | 使い道 | 注意 |
|---|---|---|
| 管理の延長・施設の数・区域の数 | 職務要約の冒頭に入れる | 台帳と公表資料の数字を使う |
| 発注した工事の件数と金額(年別) | 扱った規模の証明 | 個別の案件名は書かない |
| 説明会の回数と、扱った議題の類型 | 合意の設計の経験の証明 | 地区の名前は書かない |
| 自分が作った基準・手順の名前 | 実績欄の芯になる | 文書の中身ではなく、作った事実を残す |
| 出水期の体制に入った回数 | 面接での答え方の材料 | 段階で書く。被害の詳細は書かない |
数字は、異動すると取りにくくなります。在職中に、桁だけでも控えておいてください。
つまずきやすい点
1. 「何も起きなかった年」を、空白にする
体制を維持した年です。維持したことを書いてください。
2. 事業の主体でないことを、理由に引く
地元の同意、用地の相談、負担金、工事中の窓口。市町村の側が持っていた部分は、受託の会社がいちばん知りたい部分です。
3. 数字を控えずに異動する
延長、施設の数、区域の数、説明会の回数。後から取りにくくなります。
4. 災害の規模を、経歴の中心に置く
大きな災害を経験したことは、経歴ではありますが、実績ではありません。そのときに運用していた手順を書いてください。
5. 予定が立つことを、物足りなさと取り違える
呼ばれて動く形に慣れていると、最初は落ち着きません。数か月で慣れます。
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
まとめ
- 水防法第3条は、市町村は、その区域における水防を十分に果すべき責任を有すると定めています
- 責任が区域に付いているので、案件のような終わりが来ません。ここが働き方の芯です
- 一年は、出水期を挟んで波があり、7月から10月の動きは予定表に書けません
- 評価が見えにくいのは、①起きなかったことは残らない ②成果が事業の主体に帰属する ③判断が組織の名前で出るの3つの構造によります
- 民間に移ると、予定が立ち、成果に名前が付き、相手が選べる相手になり、費用の説明の相手が変わります
- 在職中に、延長・施設・区域・工事の件数と金額・説明会の回数を控えておいてください
よくある質問
出水期は動けないので、転職活動の時期が限られます
そのとおりです。この経歴の方の場合、面接の日程を組みやすいのは、11月から5月までです。ただ、書類を作る作業は、体制に入っている時期でもできます。先に数字を控えて、実績を3つ書き出しておく。そのうえで、閑散の時期に日程を組む。この順番にすると、限られた期間を、面接だけに使えます。なお、選考が急ぐ求人ばかりではありません。受託の会社や、企業の防災の部門は、期の始まりに合わせて採ることも多く、数か月単位で動く案件もあります。時期の制約は、先に伝えておけば調整されることが多い部分です。
技術職で採用されましたが、現場に出る時間が減ってきました
それは、書き方を変える合図かもしれません。現場の時間が減って、調整、予算、委託の管理、住民への説明が増えているのであれば、それは「設計する側に寄った」ということです。民間では、この寄り方が評価される職種があります。発注者の側の支援、事業の管理、受託の側の管理の職です。書くなら、現場の経験と、管理の経験を、両方の年数で分けて書いてください。「現場◯年、その後、調整と管理◯年」という形です。どちらか一方に寄せるより、幅として読まれます。
何も起きない年が続くと、自分の仕事に意味を感じにくくなります
その感覚は、この仕事の構造から出てきます。備えが効いた年ほど、手応えが薄い。成果が「無かったこと」として現れる仕事は、行政の中でもそう多くありません。1つ言えるのは、民間で同じ性質の仕事を選ぶと、この構造は付いてくるということです。事業継続も、設備の保全も、平時は目立ちません。一方で、費用と人を先に投じる判断を通してきた経験は、そうした部門でいちばん求められている経験でもあります。構造ごと引き受ける方向に進むのか、成果が見える形の仕事に移るのか。この2つは、行き先の選び方が変わります。判断の材料は河川・砂防課から転職しやすい業界と職種に並べています。