部署別 / 危機管理・防災課
危機管理・防災課の働き方と評価|一年の波と、成果が切り分けられない理由
危機管理・防災課の働き方には、他の部署にない切り替わり方があります。
本部が立つかどうかで、仕事の性質が完全に変わることです。
平常時は、計画を書き、訓練を設計し、協定を更新する。期日に余裕があり、正確さが求められる仕事です。
本部が立った瞬間、分単位で情報を捌き、確定していない情報のまま判断を支える仕事に変わります。
そして、その切り替わりは、予告なく来ます。
この記事では、一年の波と、成果が評価に結びつきにくい構造、そして民間に移ったときに何が変わるかを整理します。不満の話ではなく、構造の話として読んでください。転職の場面で、自分の仕事をどう説明するかに直結します。
言い換えは危機管理・防災課の経験は民間で何と呼ばれるか、行き先は危機管理・防災課からの転職先、書類は職務経歴書、面接は面接で聞かれることに分けています。
「設置することができる」と書かれています
まず、この切り替わりを条文で確認します。
災害対策基本法第23条の2第1項は、こう定めています。
市町村の地域について災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合において、防災の推進を図るため必要があると認めるときは、市町村長は、市町村地域防災計画の定めるところにより、市町村災害対策本部を設置することができる。
そして第2項で、市町村災害対策本部の長は、市町村災害対策本部長とし、市町村長をもつて充てるとされています。
読み解くと、3つのことが分かります。
1. 「発生するおそれがある場合」に設置できる。起きる前から立てられます。
2. 「市町村地域防災計画の定めるところにより」。どういう条件で立てるかは、平時に計画で決めておきます。
3. 本部長は市町村長。本部が立つと、組織の最上位が直接指揮する体制に切り替わります。
3つ目が、働き方に効いてきます。
本部が立つと、危機管理・防災課は、市長と全部局の間に立つ位置になります。情報を集約し、整理し、判断の材料として出し、決まったことを各部に流す。組織全体の情報の結節点になります。
この経験は、そのまま企業で使えます。企業の対策本部も、社長と各部門の間に立つ人が必要です。平時は計画を書き、有事は結節点になる。役割の構造は同じです。
一年の波
年間の動きは、出水期を中心に、準備と検証が前後に配分される形になります。
| 時期 | 主な仕事 | 忙しさ |
|---|---|---|
| 4〜5月 | 人事異動後の体制整備、職員研修、出水期前の点検 | 高 |
| 6〜7月 | 出水期に入る。警戒体制、待機、避難所の開設準備 | 読めない |
| 8〜9月 | 台風期+防災の日。総合防災訓練の企画・運営 | 最も高い |
| 10〜11月 | 訓練の検証、地域防災計画の修正、防災会議 | 高 |
| 12〜1月 | 次年度予算、備蓄の更新計画、協定の更新 | 中 |
| 2〜3月 | マニュアルの改定、避難所の点検、年度末の整理 | 中 |
| 通年 | 地震はいつでも起きる。24時間の連絡体制 | — |
いちばん重いのは8〜9月です。台風期と、防災の日に合わせた総合防災訓練が重なります。訓練は住民、自主防災組織、消防、協定事業者を巻き込むため、準備に数か月かかります。
そして、読めないのが6〜10月です。大雨のたびに警戒体制に入り、夜間や休日に参集します。しかも、空振りに終わることのほうが多いという性質があります。
もう一つ、人事異動の直後が危ないという構造があります。4月に担当が入れ替わり、手順を覚えきらないうちに出水期が来ます。だから、4〜5月の研修と点検が重いことになります。
成果が対策の効果として切り分けられないのは、構造によるものです
危機管理・防災課の成果が評価に結びつきにくいのには、3つの構造的な理由があります。評価してもらえないという話ではなく、成果の性質からそうなるという話です。
1. 被害の大小は、主に自然条件で決まる
対策が良かったから被害が小さかったのか、そもそも規模が小さかったのか。切り分けることができません。
大きな被害が出たときも同じです。対策が不十分だったのか、想定を超える規模だったのか。どちらとも言えます。
2. 発災時の成果は、全庁のものになる
実際に動くのは、避難所を開ける部署、道路を復旧する部署、罹災証明を出す部署です。危機管理・防災課は、その全体を調整する側にいます。
調整の成果は、個別の部署の成果としては数えられません。
3. 準備は完成しない
計画は毎年見直す必要があり、訓練のたびに新しい課題が出ます。「これで完成した」という状態になりません。
区切りがないぶん、達成感が測りにくい構造です。
この3つのうち、2つ目と3つ目は自分で言語化できます。
「調整した件数」と「計画に反映した改定項目の数」です。
訓練を何回実施したかではなく、訓練の結果として計画のどこを何項目直したか。これは方向を持つ数字で、企業の危機管理でもそのまま指標になります。
民間に移ると変わる4つのこと
1. 守る対象を、事業の重要度で絞れる
自治体は住民全体が対象で、絞ることができません。企業は、優先して復旧する事業を決められます。
これは楽になる部分です。ただし、「何を優先するか」を決める会議が必要になり、その合意形成が仕事になります。
2. 費用対効果を金額で説明できる
自治体では、対策の効果を金額で示すことが難しい場面が多くあります。企業では、事業が止まったときの損失額を基準に説明できます。
予算を取る説明がしやすくなるという点で、これも楽になる部分です。
3. 権限の行使が、社内の合意形成に変わる
自治体では、避難の指示や警戒区域の設定という権限の行使が含まれます。企業では、社内の判断です。
強制力がないぶん、事前に基準を決めておくことの重みが増します。基準がないと、その場で毎回議論になります。
4. 待機と参集の形が変わる
自治体の24時間の連絡体制は、職員の参集を前提にしています。企業では、交代制の当直がある会社と、担当者が個人の携帯で受ける会社に分かれます。
ここは会社によって大きく違うので、入る前に必ず確認してください。
在職中に残しておくべき記録
転職を考え始めたら、在職中に手元に控えておくものがあります。辞めてからでは集めにくくなります。
| 残すもの | 使う場面 | 注意 |
|---|---|---|
| 被害想定(最大震度、浸水想定区域内人口、想定避難者数) | 職務要約 | 規模がいちばん伝わる。計画に載っている |
| 指定避難所・指定緊急避難場所の数 | 職務要約 | 公表されている |
| 協定の締結件数と相手方の業種 | 担当業務、実績 | 個社名は書かない |
| 訓練の回数・参加者数 | 担当業務 | 延べ人数で可 |
| 訓練の結果として計画を改定した項目数 | 実績 | 方向を持つ数字。自分で控えるしかない |
| 参集訓練の所要時間 | 実績 | 同上 |
| 本部を設置した回数(年度別) | 面接 | 公表されている場合がある |
| 備蓄の品目数・数量 | 担当業務 | 計画に載っている範囲で |
5行目が最重要です。「訓練を年◯回実施した」は回数の話にしかなりませんが、「訓練の結果、計画とマニュアルを◯項目改定した」は、サイクルを回した証拠になります。
そして、書いてはいけないものも確認しておきます。
- 避難行動要支援者名簿の内容、対象者の属性、共有先の具体
- 災害時に支援が必要な施設や、その所在と状況
- 被災した個人・世帯の状況
- 公表されていない被害想定の詳細や、脆弱な箇所が特定できる情報
- 国民保護計画の具体的な想定の内容
- 対応に当たった個人が特定できる記述
- 庁内の部署間の調整の経緯
公表されている地域防災計画と訓練の実施報告に載っている範囲で書くのが原則です。
つまずきやすい点
1. 待機時間を「無駄が多かった」と説明する
「予測の段階で体制を立て、空振りを許容する運用を回していた」と言い換えてください。
2. 訓練の回数だけを書く
計画を何項目直したかを控えてください。方向を持つ数字です。
3. 本部での役割を「調整」の一語で終える
市長と全部局の間に立ち、情報の結節点になっていたと具体的に言ってください。
4. 被害想定の数字を持っていない
扱っていた規模が一言で伝わります。地域防災計画に載っています。
5. 退職後の手続きを確認しないまま動く
退職手当や共済の扱いは在職期間で変わります。所属の人事担当課と共済組合で先に確認してください。公務員には雇用保険が適用されないため、辞めてから探すと収入のない期間がそのまま持ち出しになります(公務員に雇用保険がない理由)。
どの経験がどの方向で値が付くかは、募集の出方で変わります。どの経験に値が付くのかから相談できます。
まとめ
- 災害対策基本法第23条の2は、発生するおそれがある場合に市町村災害対策本部を設置でき、本部長は市町村長と定めています
- 本部が立つと、この部署は市長と全部局の間に立つ、情報の結節点になります。企業の対策本部でも役割の構造は同じです
- 一年の山は8〜9月の台風期と総合防災訓練。6〜10月の出水期は読めず、人事異動直後の4〜5月も重くなります
- 成果が評価に結びつきにくいのは、被害の大小が自然条件で決まる/発災時の成果は全庁のものになる/準備が完成しないという3つの構造によるものです
- 訓練の回数ではなく、訓練の結果として計画を何項目改定したかを控えてください。方向を持つ数字です
- 民間に移ると、対象を絞れる/費用対効果を金額で言える/権限の行使が合意形成に変わる/待機と参集の形が変わるの4点が変わります
よくある質問
残業や休日出勤は多い部署ですか
団体や年によって違うため、一般化はできません。ただし、構造として、出水期に警戒体制で参集すること、8〜9月に訓練の準備が集中すること、24時間の連絡体制があることは、どこでも共通します。面接で聞かれたら、季節によって大きく偏ることと、予測の段階で動く運用であることを説明するのが正確です。個別の職場の事情をそのまま話す必要はありません。
民間でも24時間の連絡体制はありますか
会社によって大きく違います。交代制の当直を置いている会社、担当者が個人の携帯で受ける会社、外部の監視サービスに委託している会社があります。入る前に必ず確認してください。逆質問で聞くなら、「緊急時の連絡を受ける体制はどうなっていますか」と聞けば足ります。この質問自体が、実務を知っている人の質問として読まれます。
異動して1年ですが、経歴として使えますか
使えますが、もう一年いたほうが材料は増えます。一年目は、出水期を一度越え、訓練を一度回すところまでです。二年目に入ると、前年の課題を計画に反映し、それを次の訓練で検証するという二周目が回せます。書類にいちばん効く「計画を◯項目改定した」という実績は、二周目でないと書けません。判断の目安は、訓練を一巡設計し、計画の改定を一度通しているかです。書き方は職務経歴書に整理しています。