制度とお金 / 失業給付と税金
公務員に雇用保険がない理由
退職して次を探すあいだ、失業給付を受けながら活動する。民間で働く人にとっては当たり前のこの選択肢が、公務員にはありません。
このこと自体はよく知られていますが、理由を正確に説明できる人は多くありません。そして理由を知らないまま「公務員には何もない」と思い込んで、使えるはずの制度を見落としている方がいます。
この記事では、雇用保険法の条文に戻って、なぜ適用されないのかを確認します。そのうえで、代わりに用意されている制度と、退職後の空白期間をどう設計するかを整理します。
雇用保険法は「公務員を除外する」とは書いていない
雇用保険法第6条は「適用除外」という見出しで、この法律が適用されない者を列挙しています。所定労働時間が週20時間未満の者、31日以上雇用される見込みがない者、季節的に雇用される者、学生、一定の船員。そして第6号が、公務員に関わる規定です。
> 国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であつて、厚生労働省令で定めるもの
読み方に注意が必要です。「公務員だから除外する」とは書かれていません。除外の条件は、「離職した場合に、他の法令・条例・規則等に基づいて支給される給与の内容が、求職者給付および就職促進給付の内容を超えると認められる者」であることです。
つまり制度の考え方はこうです。退職手当という別の仕組みがあり、その内容が失業給付を上回ると認められるから、雇用保険を重ねて適用する必要がない。だから除外する。
退職手当があることが、除外の理由になっているわけです。ここを押さえておくと、次に説明する制度の位置づけが理解しやすくなります。
なお、地方公務員の退職手当は地方自治法第204条第2項により条例で支給されるものです。条文が「他の法令、条例、規則等に基づいて」と書いているのは、この構造を指しています。
全員が一律に除外されるわけではない
第6号の末尾には「厚生労働省令で定めるもの」とあります。誰が除外されるかは省令に委ねられていて、条文の文言だけで全公務員が自動的に外れる形にはなっていません。
実務上、常勤の職員は除外されるのが通例です。一方で、非常勤や会計年度任用職員の方は、勤務時間や任用の状況によって雇用保険が適用されている場合があります。
自分がどちらなのかを確かめるいちばん早い方法は、給与明細を見ることです。雇用保険料が控除されていれば、雇用保険の被保険者です。控除がなければ被保険者ではありません。心当たりのある方は、辞める前に一度確認してください。ここを取り違えると、退職後の資金計画が丸ごとずれます。
代わりに用意されている「失業者の退職手当」
もう一つ、知られていない制度があります。国家公務員退職手当法第10条の「失業者の退職手当」です。
条文は長いのですが、骨格はこうです。勤続期間12月以上(特定退職者にあっては6月以上)で退職した職員のうち、受け取った退職手当の額が、雇用保険の基本手当を受けたと仮定した場合の額に満たない者について、退職後に失業している場合、その差額に相当する額を支給する、という仕組みです。
つまり、「退職手当が失業給付より手厚いから除外する」という前提が崩れる場合に備えた規定です。勤続年数が短く退職手当が少ない方は、ここに当たる可能性があります。
⚠ ただし、これは国家公務員の制度です。地方公務員の退職手当は条例で定められるため(地方自治法第204条第3項)、同様の規定があるかどうかは自分の自治体の退職手当条例を確認する必要があります。多くの条例が国の制度を参照した作りになっていますが、確認せずに当てにするのは危険です。例規集で「失業者の退職手当」を検索してみてください。
退職後の空白期間をどう設計するか
失業給付を前提にできない以上、空白期間の設計は自分でやるしかありません。押さえる点は3つです。
1. 収入がゼロになる期間の長さを見積もる
在職中に転職活動を終えられれば空白は生じません。空白を作る場合は、次の給与が支払われるまでの月数を数えます。入社月の給与が翌月払いなら、その分も勘定に入れます。
2. 支出が増える項目を先に洗う
退職すると、それまで給与から引かれていたものを自分で払うことになります。健康保険(任意継続組合員か国民健康保険か、家族の扶養か)、国民年金、そして住民税です。住民税は前年の所得に対して課されるため、収入が下がった年ほど負担感が大きくなります。
給与から天引きされていたものが、退職後にどう変わるかを並べると次のようになります。
| 項目 | 在職中 | 退職後(次の勤務先に入るまで) |
|---|---|---|
| 健康保険 | 共済組合の短期給付 | 任意継続組合員/国民健康保険/家族の扶養のいずれかを選ぶ |
| 年金 | 厚生年金(共済) | 国民年金に切り替える |
| 住民税 | 給与から特別徴収 | 一括徴収または普通徴収で自分で納める |
| 所得税 | 源泉徴収・年末調整 | 退職した年は自分で確定申告する場合がある |
住民税は前年の所得に対して課されるという点だけは、先に頭に入れておいてください。収入が下がった年に、前年の水準で請求が来ます。ここを見落として資金繰りが苦しくなる例が、いちばん多く見られます。
3. ハローワークは使える
失業給付は受けられませんが、求職の申込みそのものはできます。職業紹介を受けることも、公的職業訓練の相談をすることもできます。「給付がないから行っても意味がない」というのは誤解です。
誤解されやすいこと
「退職手当が失業給付の代わり」という説明の不正確さ
よく聞く言い方ですが、正確ではありません。退職手当は勤続期間に対する給付で、失業していることを条件にしていません。失業を条件にした給付は、上で見た「失業者の退職手当」のほうです。性質の違う2つを混ぜて理解すると、判断を誤ります。
「公務員は失業給付がないから転職は不利」という思い込み
不利かどうかは、空白期間を作るかどうかで決まります。在職中に活動を進めて、内定を得てから退職日を決めれば、給付の有無はほとんど影響しません。実際、公務員の方の転職は在職中に進めるケースが大半です。
在職中の活動が制限されると思い込む
職務専念義務は勤務時間中の話です。勤務時間外の活動そのものを禁じる規定ではありません。ただし年次有給休暇の取り方や面接の日程の組み方には工夫が要ります。
まとめ
- 雇用保険法第6条第6号は「公務員だから除外」とは書いていません。退職手当などの給付内容が求職者給付を超えると認められるから除外するという構造です
- 除外されるのは「厚生労働省令で定めるもの」。非常勤・会計年度任用職員は雇用保険が適用されている場合があります。給与明細の控除欄で確認できます
- 国家公務員退職手当法第10条に「失業者の退職手当」があります。退職手当が基本手当相当額に満たない場合の差額を支給する制度で、勤続年数が短い方ほど関係します
- 地方公務員は条例次第なので、自分の自治体の退職手当条例を確認してください(地方自治法第204条第3項)
- 失業給付は受けられませんが、ハローワークでの求職申込みと職業紹介は受けられます
退職手当そのものの計算方法は退職手当の仕組み|何で金額が決まるのかで扱っています。
よくある質問
退職したあと、ハローワークには行く意味がありますか
あります。失業給付は受けられませんが、求職の申込み、職業紹介、公的職業訓練の相談は利用できます。とくに職種を変える転職を考えている場合、訓練の選択肢を知っておく価値はあります。なお、「失業者の退職手当」の手続きでは公共職業安定所が関わるため、その意味でも窓口とのやり取りが発生することがあります。
会計年度任用職員ですが、失業給付は受けられますか
給与明細を確認してください。雇用保険料が控除されていれば被保険者なので、離職理由や被保険者期間などの要件を満たせば給付の対象になります。控除がなければ被保険者ではありません。雇用保険法第6条第6号は除外される者を厚生労働省令に委ねており、勤務時間や任用の状況によって扱いが変わります。人事担当課に確認するのが確実です。
在職中に転職活動をしても問題ありませんか
勤務時間外の活動そのものを禁じる規定はありません。ただし、勤務時間中に面接へ行くことはできません。年次有給休暇を使う、時間単位で取得できる制度があれば活用する、といった調整が必要です。また、在職中に得た情報を応募先に持ち出すことは、守秘義務の観点から避けてください。日程調整の実務については、選考対策の記事であらためて扱います。