部署別 / 下水道課
下水道課から民間に移ると働き方と評価はどう変わるか
下水道課の働き方には、他の部署と違う点が1つあります。
扱っているものの出口が、自分の組織の外にあるということです。
処理した水は、川か海に返します。その先には、下流の自治体の取水口があり、漁場があり、海水浴場があります。うまくいっているかどうかを決めるのは、自分の組織の中ではなく、外の水域です。
この記事では、一年の波、評価が見えにくくなる構造、民間に移ると変わる4点、在職中に残しておくべき記録の順に整理します。
言い換えは下水道課の経験は民間で何と呼ばれるか、書類の書き方は下水道課の職務経歴書|書き出しから実績の出し方までに書いています。
目的が3つ並んでいます
働き方の話を、条文から始めます。下水道法第1条です。
> この法律は、流域別下水道整備総合計画の策定に関する事項並びに公共下水道、流域下水道及び都市下水路の設置その他の管理の基準等を定めて、下水道の整備を図り、もつて都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、あわせて公共用水域の水質の保全に資することを目的とする。
目的が、3つ並んでいます。
「都市の健全な発達」、「公衆衛生の向上」、そして「公共用水域の水質の保全」。
1つ目は、インフラの話です。街が広がるには、下水道が要る。2つ目は、生活の話です。汚水が街に残らないようにする。3つ目は、環境の話です。川と海を汚さない。
この3つが、同じ部署に載っています。
ここが、働き方の性格を決めています。
民間の水処理の会社であれば、扱う目的は1つです。契約した相手の水を、基準まで処理する。ところが、下水道課では、街を広げる側の要望、生活の側の苦情、環境の側の規制が、同じ机に来ます。新しい区域に管を延ばしてほしいという声と、臭気を何とかしてほしいという声と、放流の基準を守れという声。優先順位が、その日の状況で変わる。
扱う目的が3つある。これが、負荷の正体でもあり、経験の厚みの正体でもあります。
一年の波
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 4〜5月 | 供用開始に伴う接続の手続き、受益者負担金の賦課、新年度の委託と工事の契約 |
| 6〜8月 | 梅雨と台風。雨水の対応の最盛期。処理場は水温の上昇と流入の変動への対応 |
| 9〜11月 | 台風の続き、前年度の決算の認定に向けた説明、改築の工事の発注 |
| 12〜1月 | 流量の少ない時期の管きょの調査、翌年度の予算と工事の計画 |
| 2〜3月 | 年度末の工事の完成と検査、次年度の委託の準備、供用開始の公示の準備 |
平らな月がありません。
しかも、この表に書けない仕事が、雨のたびに入ります。大雨の予報が出れば、その時点から体制に入る。降り始めてからでは遅いので、予報の段階で動く仕事が、6月から10月にかけて何度も入るということです。
面接でこの波を説明するときは、「周期で回る定型の業務と、予報の段階から動く雨の対応が、同じ体制に載っている」と言うと伝わります。
評価が見えにくくなる3つの構造
1. 成果が「何も起きなかったこと」として現れます
一年間、浸水がなかった。それは、報告書に一行も書かれません。放流の水質が、毎日基準の内側だった。それも、書かれません。
この構造に固有の事情もあります。下水道の成果は、自分の組織の外に出るということです。川がきれいだった年、その理由を下水道課に結びつける人はいません。うまくいくほど、下水道のことを誰も考えなくなる。だから、事故がなかった年ほど、記録が薄い。在職中に何年も担当して、思い出せるのは大雨の年だけという方が多いのは、この構造のせいです。実際には、その間ずっと、運転と点検で基準の内側に保っていた。その部分が、自分の中でも実績として数えられていない——ここが、この経歴の方が実績欄で損をする原因です。
2. 記録に残るのは、浸水と臭気と陥没です
浸水は、報道され、議会で問われます。臭気は、苦情として残ります。道路の陥没は、事故として記録されます。日々の運転は、残りません。
この構造に固有の事情もあります。下水道の事故は、目に見える形で街に出るという点です。しかも、原因が地下にあるので、説明に時間がかかります。だから、1件の事故が、その年の記憶を占めてしまう。ところが、面接で話すべきなのは、事故ではなく、そこから変えた手順です。「調査の周期を見直した」「雨天時の運転の切り替えの基準を作り直した」「陥没のおそれのある箇所の優先順位を決めた」——この形にすると、経験として受け取られます。
3. 判断が、基準と条例の名前で出ます
放流の水質は基準で決まり、使用料は条例で決まります。担当の名前は、どこにも出ません。
この構造に固有の事情もあります。放流の基準を満たしているのは当然とされ、満たし続けるために現場でしている判断——送る空気の量、返す汚泥の量、雨天時の運転の切り替え——は、表に出ません。制度の名前で出るということは、苦情も制度に向くということで、担当を守る仕組みでもあります。ただし、この形に長くいると、「自分が決めた」と言うことに抵抗が出ます。面接では、基準の内側で、自分が判断した場面を1つ言えるようにしておいてください。
民間に移って変わる4点
1. 入口を選べるようになります
これが、いちばん大きい変化です。民間の工場の排水処理は、自分の工場の排水だけを扱います。何が来るか分かっている。区域の全戸から何が来るか分からない環境から移ると、楽に感じる方が多い部分です。
この変化には、注意点が1つあります。行き先によって、まったく変わらない場合があるということです。処理場の運転を受託する会社に移れば、現場は同じ下水道です。入口は選べません。変わるのは、発注の側から受託の側に回るという立場だけ。「入口を選べない環境から出たい」のか、「入口を選べない環境で、立場を変えたい」のか。どちらを求めているかで、行き先が変わります。
2. 「利益」の項目が足されます
公営企業は独立採算ですが、利益を増やすことは目的ではありませんでした。民間では、それが足されます。受注の額、原価、粗利。
ただし、足されるだけです。費用を積み上げて、収入と突き合わせて、資金の残高を見る。その作業は、公営企業会計でやってきたことと同じです。しかも、下水道課の場合は、接続を増やして収入を増やす仕事まで経験しています。一般会計しか知らない行政の職員より、この移行はずっと小さい。先に知っておくと、構えずに済む部分です。
3. 速度が上がります
民間では、修繕の判断も、設備の更新の決定も、行政より短い期間で動きます。決裁の段階が少ないからです。
ただし、速度が上がる分、記録の重みは変わりません。下水道課では、台帳も、放流水質の測定の記録も、残すこと自体が仕事の一部でした。民間では、自分で残さないと何も残りません。「測った記録を、次の判断の根拠として使う」——在職中に身に付けた作法は、速度が上がった環境でこそ効きます。
4. 目的が1つになります
行政では、インフラ、生活、環境の3つの目的が、同じ机に来ていました。民間に移ると、目的は、契約の中の1つに絞られます。
ここは、行き先を選ぶときの分かれ目になります。3つの目的のうち、自分がどれに近いところで働いていたかで、行き先が変わるからです。街を広げる側の仕事が長かったなら、工事とコンサルティング。生活の側の苦情と接続の仕事が長かったなら、受託の会社と設備の管理。環境の側の水質と規制の仕事が長かったなら、工場の排水処理と環境の分析。どれが正しいということはありません。ただ、自分がどれに近かったかを先に決めておかないと、面接の答えが揺れます。
自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。応募先が決まっていない段階のほうが、整理する意味があります。
在職中に残しておくべき記録
| 残すもの | 使い道 | 注意 |
|---|---|---|
| 処理区域内の人口・管きょの延長・水洗化率 | 職務要約の冒頭に入れる | 公表されている数字を使う |
| 担当した処理場の名前と能力 | 運転と保全の経験の証明 | 施設の弱い部分は書かない |
| 改築した管きょの延長と金額 | 実績欄の芯になる | 桁だけでも控える |
| 大雨の対応の回数と、その後に変えた手順 | 危機の対応の証明 | 出来事ではなく、手順を残す |
| 除害施設の指導の件数と、接続を増やした戸数 | 規制と加入の促進の証明 | 事業者や世帯が特定される記述は避ける |
数字は、異動すると取りにくくなります。在職中に、桁だけでも控えておいてください。
つまずきやすい点
1. 大雨の年だけを思い出して、実績欄を薄くする
基準の内側に保っていた年数が、実績です。
2. 改築した延長と金額を控えずに異動する
この経歴でいちばん評価される数字です。
3. 雨の対応を、苦労話にする
予報の段階から動く体制を、周期の業務と同じ人員で回していたと書いてください。
4. 3つの目的を、全部並べて書く
自分が近かった目的を先に置いてください。行き先が絞れます。
5. 施設の弱い箇所や、事業者の名前が分かることを話す
公表されている範囲と、件数に置き換えてください。守秘の線を引けることは、それ自体が評価されます。
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まとめ
- 下水道法第1条は、都市の健全な発達、公衆衛生の向上、公共用水域の水質の保全の3つを目的に掲げています
- つまり、インフラ、生活、環境の3つの目的が、同じ部署に載っています。扱う目的が3つあるのは、そのためです
- 一年は、周期で回る定型の業務と、予報の段階から動く雨の対応が、同じ体制に載っています
- 評価が見えにくいのは、①何も起きなかったことは残らない ②浸水と臭気と陥没だけが記録される ③判断が基準と条例の名前で出るの3つの構造によります
- 民間に移ると、入口を選べるようになり、利益の項目が足され、速度が上がり、目的が1つになります
- 在職中に、処理区域内の人口・管きょの延長・処理場の能力・改築した延長・除害施設の指導の件数を控えておいてください
よくある質問
大雨の時期の体制が重く、この働き方を続けられるか不安です
それは、体制の問題であって、能力の問題ではありません。ただし、行き先によって、この点は大きく違います。処理場の運転を受託する会社に移れば、雨の体制は同じです。変わるのは立場だけ。コンサルティングやメーカーの設計の部門に移れば、予報の段階から動く体制は原則としてなくなります。面接でこの話をするときは、「警報の段階ごとに、どういう人数で回していたか」を答えられるようにしてください。季節に偏る体制を設計して回してきたこと自体が、受託の会社では評価される場面があります。「雨の体制から離れたい」のか「雨の体制を作る側に回りたい」のかを、先に決めておくと、行き先が絞れます。
浸水の事故を経験しました。書いてよいですか
公表された範囲の概要までは書けます。「◯年の大雨で浸水が発生し、ポンプ場の運転と復旧の対応を担当」という形です。書けないのは、原因の詳細、管きょの弱い箇所、施設の守りに関わる情報です。そのうえで、書くべきなのは、事故そのものではなく、その後に変えた手順です。「ポンプ場の運転の切り替えの基準を見直した」「操作する人を引き揚げる基準を作り直した」「調査の周期を変えた」。民間の設備の会社でも、事故の後に手順を変えた経験は、直接に効きます。一方で、施設の弱い箇所は、面接でも書類でも話せません。この線を守ることが、信頼の材料になります。
下水道課が長く、他の部署の経験がありません
この分野では、それが不利になりにくいという特徴があります。理由は、受託の会社、工事の会社、メーカー、コンサルティング、工場の排水処理という行き先が、いずれも下水道課の経験とそのまま重なるからです。幅の広さより、同じ分野を続けてきたことのほうが、読まれやすい経歴です。書くときは、年数で区切って、目的の変化を見せてください。「使用料と接続の担当◯年、その後、処理場の運転管理◯年、直近は改築の計画を担当」という形です。同じ分野の中で、扱う目的が変わってきたことが、幅として読まれます。行き先の選び方は下水道課から転職しやすい業界と職種に並べています。