部署別 / 保健所・衛生課
保健所・衛生課から民間に移ると働き方と評価はどう変わるか
保健所や衛生課の働き方には、他の部署と違う点が1つあります。
平時と有事で、仕事の形がまるごと変わるということです。
平時は、計画に沿って施設を回り、相談を受け、統計を取ります。食中毒の疑いや感染症の発生が入った瞬間、その全部が止まります。聞き取り、立入、検体、接触者の追跡。終わるまで、平時の仕事は戻ってきません。
この記事では、一年の波、評価が見えにくくなる構造、民間に移ると変わる4点、在職中に残しておくべき記録の順に整理します。
言い換えは保健所・衛生課の経験は民間で何と呼ばれるか、書類の書き方は保健所・衛生課の職務経歴書|書き出しから実績の出し方までに書いています。
「毎年度、翌年度の計画を定めなければならない」と書かれています
働き方の話を、条文から始めます。食品衛生法第24条です。
> 都道府県知事等は、指針に基づき、毎年度、翌年度の当該都道府県等が行う監視指導の実施に関する計画(以下「都道府県等食品衛生監視指導計画」という。)を定めなければならない。> 都道府県等食品衛生監視指導計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。> 一 重点的に監視指導を実施すべき項目に関する事項> 二 食品等事業者に対する自主的な衛生管理の実施に係る指導に関する事項> 三 監視指導の実施に当たつての国、他の都道府県等その他関係機関との連携協力の確保に関する事項
「毎年度、翌年度の計画」です。
しかも、重点の項目、事業者への指導、関係機関との連携まで、計画に書く。この計画は公表され、年度が終われば、実施の状況も公表されます。
ここが、働き方の性格を決めています。
平時の仕事は、計画で回ります。どの業種を、何件、いつ回るか。年度の初めに決まっている。ところが、有事は計画に書けません。食中毒も感染症も、いつ来るかは分からない。計画で回る仕事と、計画に書けない仕事が、同じ人に載っている。
この二重の構造が、負荷の正体でもあり、経験の厚みの正体でもあります。
一年の波
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 4〜5月 | 新年度の監視指導計画の開始、営業許可の更新の集中、人事異動に伴う担当施設の引き継ぎ |
| 6〜9月 | 食中毒の多い時期。立入の重点化、営業者への注意喚起、発生時の調査が平時の仕事に割り込む |
| 10〜12月 | 前年度の実施の状況の整理、感染症の流行期への備え、翌年度の計画の案の作成 |
| 1〜2月 | 感染症の流行期。翌年度の計画の意見の募集、予算の要求 |
| 3月 | 年度末の実施の状況の集計、計画の確定と公表、統計の締め |
平らな月がありません。
しかも、この表に書けない仕事が、いつでも入ります。食中毒の疑いの通報、感染症の届出、施設からの事故の報告、住民からの苦情。発生した瞬間から、平時の予定は後ろに送られるということです。
面接でこの波を説明するときは、「年度の計画で回る定型の業務と、発生した瞬間に切り替わる有事の対応が、同じ担当に載っている」と言うと伝わります。
評価が見えにくくなる3つの構造
1. 成果が「起きなかったこと」として現れます
一年間、管内で大きな食中毒がなかった。それは、報告書に一行も書かれません。感染症が広がらなかった。それも、書かれません。
この構造に固有の事情もあります。保健所の成果は、防いだ結果が、防いだ側にも見えないということです。立入で指摘して直させた施設で、もし直さなかったら何が起きていたか。それは、誰にも分かりません。だから、事故がなかった年ほど、記録が薄い。在職中に何年も担当して、思い出せるのは大きな事案の年だけという方が多いのは、この構造のせいです。実際には、その間ずっと、計画どおりに回って、指摘して、直させていた。その部分が、自分の中でも実績として数えられていない——ここが、この経歴の方が実績欄で損をする原因です。
2. 記録に残るのは、食中毒と感染症の発生です
発生は、公表され、報道されることもあります。苦情は、記録に残ります。日々の立入は、件数として残るだけです。
この構造に固有の事情もあります。保健所の事案は、発生すると、保健所が「対応した側」として名前が出るという点です。防いだときは出ず、起きたときだけ出る。だから、1件の事案が、その年の記憶を占めてしまう。ところが、面接で話すべきなのは、事案ではなく、そこから変えた手順です。「調査の聞き取りの様式を作り直した」「発生時の連絡の経路を整備した」「重点の業種の選び方を変えた」——この形にすると、経験として受け取られます。
3. 判断が、基準と計画の名前で出ます
指摘は基準で決まり、立入の件数は計画で決まります。担当の名前は、どこにも出ません。
この構造に固有の事情もあります。計画の実施率は公表されるので、「計画どおりに回ったか」は見えます。ところが、どの施設を先に回ったか、どの指摘を文書にしたか、どの段階で停止を検討したか——その判断は、表に出ません。制度の名前で出るということは、苦情も制度に向くということで、担当を守る仕組みでもあります。ただし、この形に長くいると、「自分が決めた」と言うことに抵抗が出ます。面接では、計画の内側で、自分が判断した場面を1つ言えるようにしておいてください。
民間に移って変わる4点
1. 有事が減ります
これが、いちばん大きい変化です。民間の品質保証では、自社の製品と工場だけが対象です。管内の全施設から、いつ何が来るか分からない環境から移ると、楽に感じる方が多い部分です。
この変化には、注意点が1つあります。行き先によって、有事の性質が変わるだけで、無くならない場合があるということです。食品メーカーの品質保証に移れば、自社の製品で事故が起きれば、回収の判断と行政への報告が来ます。相手が管内の全施設から自社の製品に変わっただけで、発生した瞬間に切り替わる構造は同じです。「有事から離れたい」のか、「有事の範囲を自社に絞りたい」のか。どちらを求めているかで、行き先が変わります。
2. 損益の項目が足されます
保健所では、相手の側の負担は計算していましたが、自分の組織の損益は見ていませんでした。民間では、それが足されます。品質のためにかける費用と、止めたときの損失。
ただし、足されるだけです。基準を外さずに、相手の負担がいちばん小さい直し方を探す。その作業は、指導でやってきたことと同じです。相手が「営業者」から「自社の製造の部門」に変わるだけ。先に知っておくと、構えずに済む部分です。
3. 速度が上がります
民間では、指摘への対応も、手順の変更も、行政より短い期間で動きます。決裁の段階が少ないからです。
ただし、速度が上がる分、記録の重みは変わりません。保健所では、立入の記録も、指導の文書も、残すこと自体が仕事の一部でした。民間では、自分で残さないと何も残りません。「指摘を文書にして、根拠と一緒に渡す」——在職中に身に付けた作法は、速度が上がった環境でこそ効きます。
4. 規制する側から、される側になります
行政では、立ち入る側でした。民間に移ると、立ち入られる側になります。
ここは、行き先を選ぶときの分かれ目になります。この変化を、「行政が何をどの順で見るかを知っている自分が、いちばん先に直しておける」と受け取れるか。食品の品質保証も、製薬の薬事も、まさにそこを期待して採ります。逆に、規制される側に回ること自体に抵抗があるなら、衛生管理のコンサルティングや検査機関のほうが近い方向です。指導する側のまま、相手が顧客に変わる。どちらが正しいということはありません。ただ、自分がどちらかを先に決めておかないと、面接の答えが揺れます。
自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。応募先が決まっていない段階のほうが、整理する意味があります。
在職中に残しておくべき記録
| 残すもの | 使い道 | 注意 |
|---|---|---|
| 管内の人口・施設数・年間の立入の件数 | 職務要約の冒頭に入れる | 公表されている数字を使う |
| 担当した業種の内訳 | 品質保証の配属の判断に使われる | 施設の名前は書かない |
| 改善の指摘の件数と、期限内に直った割合 | 実績欄の芯になる | 所内の統計から控える |
| 調査した事案の数と、その後に変えた手順 | 原因の究明の証明 | 事案ではなく、手順を残す |
| 相談の件数と、つないだ機関の数 | 産業保健と調整の証明 | 相談者が特定される記述は避ける |
数字は、異動すると取りにくくなります。在職中に、桁だけでも控えておいてください。
つまずきやすい点
1. 大きな事案の年だけを思い出して、実績欄を薄くする
防いでいた年数が、実績です。
2. 改善が直った割合を控えずに異動する
この経歴でいちばん評価される数字です。
3. 有事の対応を、苦労話にする
発生した瞬間に切り替わる体制を、平時の担当と同じ人員で回していたと書いてください。
4. 立入の件数だけを書く
件数の隣に、指摘の件数と直った割合を置いてください。
5. 施設の名前や事案の詳細を、面接で話す
「どこで」ではなく「どうやって」に置き換えてください。守秘の線を引けることは、それ自体が評価されます。
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
まとめ
- 食品衛生法第24条は、毎年度、翌年度の監視指導計画を定め、重点の項目、事業者への指導、関係機関との連携を書くことを求めています
- つまり、平時は計画で回り、有事は計画に書けない。その両方が同じ担当に載っています
- 一年は、年度の計画で回る定型の業務と、発生した瞬間に切り替わる有事の対応が、同じ担当に載っています
- 評価が見えにくいのは、①起きなかったことは残らない ②発生だけが記録される ③判断が基準と計画の名前で出るの3つの構造によります
- 民間に移ると、有事の範囲が自社に絞られ、損益の項目が足され、速度が上がり、規制される側になります
- 在職中に、施設数・立入の件数・改善が直った割合・調査した事案の数・相談の件数を控えておいてください
よくある質問
有事のたびに全部が止まる働き方を、続けられるか不安です
それは、体制の問題であって、能力の問題ではありません。ただし、行き先によって、この点は大きく違います。食品メーカーの品質保証に移れば、自社の製品の事故が起きれば、同じ形で全部が止まります。範囲が自社に絞られるだけ。コンサルティングや検査機関、産業保健に移れば、発生した瞬間に切り替わる体制は原則としてなくなります。面接でこの話をするときは、「発生時に、誰が何を担うかを平時にどう決めていたか」を答えられるようにしてください。有事の体制を設計して回してきたこと自体が、品質保証の部門では評価される場面があります。「有事から離れたい」のか「有事の体制を作る側に回りたい」のかを、先に決めておくと、行き先が絞れます。
大きな食中毒の事案を担当しました。書いてよいですか
公表された範囲の概要までは書けます。「◯年に管内で発生した食中毒の事案について、調査と原因の特定、営業の停止と再開の判断を担当」という形です。書けないのは、施設の名前、患者に関わる情報、処分の内部の経緯です。そのうえで、書くべきなのは、事案そのものではなく、その後に変えた手順です。「聞き取りの様式を作り直した」「発生時の連絡の経路を整備した」「重点の業種の選び方を変えた」。民間の品質保証でも、事故の後に手順を変えた経験は、直接に効きます。一方で、施設の名前と人の情報は、面接でも書類でも話せません。この線を守ることが、信頼の材料になります。
保健所が長く、他の部署の経験がありません
この分野では、それが不利になりにくいという特徴があります。理由は、食品の品質保証、薬事、産業保健、衛生管理のコンサルティングという行き先が、いずれも保健所の経験とそのまま重なるからです。幅の広さより、同じ分野を続けてきたことのほうが、読まれやすい経歴です。書くときは、年数で区切って、担当の変化を見せてください。「食品衛生の監視◯年、その後、感染症の担当◯年、直近は監視指導計画の策定を担当」という形です。同じ分野の中で、扱う工程が変わってきたことが、幅として読まれます。行き先の選び方は保健所・衛生課から転職しやすい業界と職種に並べています。