部署別 / 保健所・衛生課
保健所・衛生課から転職しやすい業界と職種
保健所や衛生課から民間に移るとき、行き先は1つではありません。
むしろ、この経歴は、相手にしてきた業種の数だけ行き先があるという、めずらしい経歴です。食品を見てきたのか、薬事を見てきたのか、相談と保健指導をしてきたのか。どこを長くやってきたかで、通る求人が変わります。
この記事では、向いている5つの方向と、合いにくい方向を並べます。資格と検索語も最後に付けます。
言い換えは保健所・衛生課の経験は民間で何と呼ばれるかに書いています。
「臨検し、検査させ、収去させることができる」と書かれています
行き先の話に入る前に、この分野の構造を条文で押さえます。食品衛生法第28条です。
> 厚生労働大臣、内閣総理大臣又は都道府県知事等は、必要があると認めるときは、営業者その他の関係者から必要な報告を求め、当該職員に営業の場所、事務所、倉庫その他の場所に臨検し、販売の用に供し、若しくは営業上使用する食品、添加物、器具若しくは容器包装、営業の施設、帳簿書類その他の物件を検査させ、又は試験の用に供するのに必要な限度において、販売の用に供し、若しくは営業上使用する食品、添加物、器具若しくは容器包装を無償で収去させることができる。
ここが、行き先を分ける線です。
報告を求め、立ち入り、検査し、収去する。この4つを、営業者の側の都合とは関係なく、行うことができると法律が定めています。
そして、この4つは、民間の側から見ると、「受ける側」の仕事としてそのまま存在しています。
- 報告を求められる側——記録を整え、説明できる状態を保つ
- 立ち入られる側——施設を基準の内側に保ち、案内できる人を置く
- 検査される側——自社で先に検査し、外れる前に直す
- 収去される側——製品の規格と記録を、いつでも出せるようにしておく
つまり、この分野では、規制する側にいた人が、規制される側に回ると、「行政が何をどの順で見るか」を知っている担当になります。それが、行き先の当たりです。
向いている5つの方向
1. 食品メーカー・外食チェーンの品質保証
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 立入検査、施設の基準の確認、衛生管理の記録の確認、食中毒の初動 |
| 求められる形 | 工場や店舗の監査、行政の立入りへの対応、是正措置の設計、研修 |
| 入りやすさ | 高い。規制する側を知っている人は外から採りにくい |
書くときの注意。立入で何を見ていたかを、そのまま書いてください。品質保証の部門がいちばん欲しいのは、「行政が来たとき、どこを指摘されるか」を先に言える人です。指摘してきた側の目が、そのまま自社の監査の目になります。
この方向に固有の制約もあります。規制する側にいたときは、基準を満たすかどうかだけを見ていました。民間の品質保証では、基準を満たしたうえで、製造の現場の都合と折り合いを付けます。「その手順では現場が回らない」と言われる場面が、必ず出てきます。行政では、言われても基準は動きませんでした。民間では、基準を守ったまま手順のほうを変える工夫が求められる。この違いに、最初は戸惑う方がいます。一方で、指導してきた側は「なぜその基準があるか」を知っているので、手順を変えても基準を外さない線を引ける。そこが、慣れた後の強みになります。
2. 製薬・医療機器・薬局チェーンの薬事
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 医事と薬事の監視、許認可の審査、医療機関や薬局との折衝 |
| 求められる形 | 薬事の申請と行政との折衝、法令の遵守の体制、店舗や施設の監査 |
| 入りやすさ | 中〜高。薬剤師の免許があれば高い |
書くときの注意。行政との折衝の経験を書いてください。薬事の部門は、行政に何をどう出せば通るかを知っている人を求めています。受ける側にいた人は、それを知っています。
この方向に固有の制約もあります。この方向は、薬剤師の免許の有無で、入り口が大きく変わります。免許があれば、薬事の担当としてそのまま読まれます。免許がなければ、法令の遵守の体制や、店舗の監査の側から入ることになります。入れないわけではありませんが、求人票の条件に免許が書かれていることが多いので、自分がどちらの入り口から入るかを、先に決めておいてください。
3. 産業保健・健康経営の支援
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 保健指導、健康相談、精神保健の相談、健康課題の分析、関係機関との調整 |
| 求められる形 | 企業の産業保健の担当、健診機関、従業員支援の事業、健康経営の企画 |
| 入りやすさ | 高い。保健師と管理栄養士の免許がそのまま条件に合う |
書くときの注意。相談の件数だけでなく、分析と調整を書いてください。産業保健の担当は、個別の面談に加えて、会社全体の健康課題を数字で示し、人事や経営に提案する仕事です。地域診断で、地域の課題を数字で示してきた経験が、そのまま効きます。
この方向に固有の制約もあります。保健所での相談は、相手が住民で、こちらは行政でした。産業保健では、相手が従業員で、こちらは会社の側です。従業員の側に立つのか、会社の側に立つのかが、場面によって揺れます。健康の情報を、どこまで人事に伝えるか。この線引きは、保健所にはなかった判断です。一方で、守秘の線を引くこと自体は、保健所で毎日やってきたことなので、線をどこに置くかを会社と先に決めれば、迷いは小さくなります。
4. 衛生管理のコンサルティング・検査機関
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 基準の解釈、記録の様式の設計、研修の企画、収去と試験検査 |
| 求められる形 | 食品や施設の衛生管理の支援、監査の受託、検査の受託、研修の講師 |
| 入りやすさ | 中〜高。指導してきた側が、そのまま指導する側に回れる |
書くときの注意。研修や講習を担当したなら、回数と対象を書いてください。この方向では、人に説明して動かしてきた経験が、直接に読まれます。
この方向に固有の制約もあります。受託の側から指導すると、相手は顧客です。行政では、指導に従わなければ処分がありました。受託の側には、それがありません。従ってもらうための説明と、関係の維持を、同時にやる。この違いを、物足りなく感じる方もいます。一方で、複数の会社の現場を見ることになるので、1つの管内の事情しか知らない状態から出られる。その利点を取る方も多い方向です。
5. 環境衛生・施設管理・ホテルや介護の多店舗運営
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 旅館、公衆浴場、理美容、廃棄物、水道の衛生の監視、施設の基準の確認 |
| 求められる形 | 多店舗の衛生管理、施設の運営の基準の設計、行政の立入りへの対応 |
| 入りやすさ | 中。求人は業種が広く、構造の一致度が高い |
書くときの注意。見てきた業種の幅を書いてください。環境衛生の監視員は、旅館も、浴場も、理美容も、廃棄物も見ています。多店舗を運営する会社は、それらの基準を横断して知っている人を求めています。
この方向に固有の制約もあります。環境衛生の監視は、食品に比べて、求人票に名前が出にくい分野です。「衛生管理」「施設管理」「品質管理」といった言葉の中に埋まっています。探すときに、業種の側から入る必要がある。ホテル、介護、フィットネス、温浴。自分が立ち入ってきた業種の側から探すと、求人が見えてきます。
合いにくい方向
次の5つは、この経歴からは遠い方向です。
| 方向 | 理由 |
|---|---|
| 相手を探すところから始まる営業 | 管内の全施設が相手だった経験と、前提が違う |
| 個人の数字で評価される仕事 | 監視も相談も、体制で回してきた。個人の成績の感覚が薄い |
| 短い周期で作り替える仕事 | 基準と記録は、続けることに価値がある。時間の感覚が合わない |
| 基準のない領域で自由に決める仕事 | 法令と基準の内側で判断してきた強みが使われない |
| 現場のない職 | 施設に立ち入って見て判断してきた強みが使われない |
「できない」ということではありません。持っている経験が、使われないということです。
役に立つ資格
| 資格 | 効く方向 |
|---|---|
| 獣医師・薬剤師・保健師・管理栄養士(すでに持っている免許) | 1〜4番のすべて。求人票の条件にそのまま合う |
| 衛生管理者(第一種) | 産業保健、企業の総務・人事 |
| 食品表示検定 | 食品メーカーの品質保証、表示の担当 |
| 環境計量士・公害防止管理者 | 検査機関、工場の環境管理 |
| 産業カウンセラー | 従業員支援、メンタルヘルスの事業 |
| 簿記 | 管理部門、衛生管理の会社の運営の側 |
持っていない資格を、応募のために先に取る必要はありません。この経歴は、すでに持っている免許のほうが重い経歴です。ただし、免許だけで読まれると「行政にいた免許の人」で止まるので、免許の隣に、規制する側で見てきた件数を置いてください。
求人を探すときの検索語
| 検索語 | 出てくる求人 |
|---|---|
| 品質保証 食品 監査 | 食品メーカー、外食チェーン |
| 薬事 申請 行政対応 | 製薬、医療機器、薬局チェーン |
| 産業保健師 健康経営 | 企業の産業保健、健診機関 |
| 衛生管理 コンサルタント 研修 | 衛生管理の支援、検査機関 |
| 施設管理 衛生 多店舗 | ホテル、介護、温浴、フィットネス |
| 従業員支援 メンタルヘルス 相談 | 従業員支援の事業、相談機関 |
「保健所」だけで探すと、求人が出てきません。「品質保証」「薬事」「産業保健」「衛生管理」に言い換えて探してください。
つまずきやすい点
1. 「衛生行政の仕事は役所にしかない」と考える
規制される側に、同じ仕事が「受ける側」として並んでいます。
2. 規制する側の経験を、低く見積もる
行政が何をどの順で見るかを知っている人は、外から採りにくい。
3. 免許だけを前に出す
免許の隣に、件数を置いてください。
4. 相談の仕事を、件数だけで書く
分析と調整の実績を、並べてください。
5. 方向を1つに絞ってしまう
食品寄りと相談寄りで、書類の順番を変えるだけで、両方に出せます。
掲載中の求人も見られます。行政が相手の求人を見てみる。
まとめ
- 食品衛生法第28条は、必要があると認めるときは、営業の場所に臨検し、食品や施設や帳簿を検査し、収去することができると定めています
- つまり、規制する側にいた人は、規制される側に回ると「行政が何をどの順で見るか」を知っている担当になります。それが行き先の当たりです
- 向いているのは、①食品の品質保証 ②製薬・薬事 ③産業保健・健康経営 ④衛生管理のコンサルティング・検査機関 ⑤環境衛生・多店舗の施設管理の5方向です
- 合いにくいのは、相手を探す営業、個人の数字の仕事、短い周期の仕事、基準のない領域、現場のない職です
- 資格は、すでに持っている免許がいちばん重いです。免許の隣に件数を置いてください
- 検索語は、「保健所」ではなく「品質保証」「薬事」「産業保健」「衛生管理」に言い換えてください
よくある質問
事務職で、監視員や保健師の免許はありません
それでも、5つの方向のうち3つは残ります。1番の品質保証、4番のコンサルティング、5番の多店舗の施設管理です。この3つで見られるのは、許可の審査の事務、記録の様式の設計、行政の立入りへの対応の段取り、研修の企画で、いずれも免許が要る判断ではありません。書くなら、「営業許可の申請約◯件の受付と審査の事務、立入検査の計画と記録の管理、食中毒の発生時の事務局を担当。技術上の判断は監視員が実施」と、自分の範囲を明示してください。とくに、行政の側で「何をどの順で見るか」の段取りを組んでいた経験は、免許の有無に関わらず読まれます。
精神保健や難病の相談が中心で、食品のことは分かりません
その場合は、行き先の当たりが少し変わります。5つの方向のうち、3番の産業保健と、従業員支援の事業が中心になります。加えて、福祉や介護の側の行き先が、そのまま重なります。精神保健の相談は、本人と家族と医療機関と福祉をつないで、支援の形を作る仕事です。この形は、従業員支援の事業でも、地域包括の事業でも、そのまま求められます。相談の件数に加えて、つないだ機関の数と、作った支援の形を書くと、読まれ方が変わります。
何社くらい受けるものですか
方向を2つに絞って、各3社から5社が、この経歴では動かしやすい形です。理由は、方向ごとに書類の順番を変える必要があるからです。食品寄りの会社には立入と監査を先に、相談寄りの会社には面談と分析を先に置く。2つまでなら、書類を2通用意すれば足ります。3つ以上に広げると、どれも中途半端な順番になりがちです。なお、受ける数より、順番のほうが結果に効きます。書類の書き方は保健所・衛生課の職務経歴書|書き出しから実績の出し方までに整理しています。