部署別 / 住宅課
住宅課から民間に移ると働き方と評価はどう変わるか
住宅課の働き方には、他の部署と違う点が1つあります。
扱っているものが、相手の生活そのものだということです。
水が漏れれば、その日のうちに動きます。鍵が開かなくなれば、夜でも動きます。連絡が取れない世帯があれば、様子を確かめに行きます。窓口の時間が終わっても、住まいは続いています。
この記事では、一年の波、評価が見えにくくなる構造、民間に移ると変わる4点、在職中に残しておくべき記録の順に整理します。
言い換えは住宅課の経験は民間で何と呼ばれるか、書類の書き方は住宅課の職務経歴書|書き出しから実績の出し方までに書いています。
「国民生活の安定と社会福祉の増進」が目的です
働き方の話を、条文から始めます。公営住宅法第1条です。
> この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。
目的が、住宅の供給で終わっていません。
「国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与すること」まで書かれています。つまり、建物を貸すことは手段で、目的は生活の側にあるということです。
この一文が、働き方の性格を決めています。
民間の賃貸の管理であれば、扱う範囲は契約の中です。家賃、修繕、退去。入居者の生活の中身は、原則として扱いません。ところが、公営住宅では、生活の側の事情が、そのまま業務に入ってきます。滞納の背景、高齢の単身の世帯の見守り、近隣との関係、福祉の窓口との連携。
扱う範囲が広い。これが、負荷の正体でもあり、経験の厚みの正体でもあります。
一年の波
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 4〜5月 | 年度当初の入居と退去の山、新年度の委託の開始、名義や世帯の変更の処理 |
| 6〜8月 | 収入の申告の受付と審査。未申告の督促。設備の故障の相談が増える時期 |
| 9〜11月 | 家賃の決定の準備、募集、選考、修繕の工事の発注 |
| 12〜1月 | 翌年度の家賃の通知、滞納の年度内の整理 |
| 2〜3月 | 年度末の退去、次年度の予算と計画、建替えや移転の工程の確認 |
平らな月がありません。
しかも、この表に書けない仕事が、毎日入ります。水漏れ、鍵、設備の故障、近隣との行き違い、連絡が取れない世帯。予定に組み込めない仕事が、常に一定量あるということです。
面接でこの波を説明するときは、「定型の年間の業務と、随時の対応が、同じ担当に載っている」と言うと伝わります。
評価が見えにくくなる3つの構造
1. 成果が「住み続けられていること」として現れます
滞りなく回った年は、何も起きません。家賃が決まり、収納が進み、修繕が終わる。それは、報告に書きにくい。
この構造に固有の事情もあります。住まいの仕事は、うまくいっている世帯ほど、接点が減ります。困っている世帯とだけ、やり取りが増える。だから、担当の記憶にも、困難な事例ばかりが残ります。実際には、その何十倍もの世帯が、問題なく住み続けていた。その部分が、自分の中でも実績として数えられていない——ここが、この経歴の方が実績欄で損をする原因です。
2. 記録に残るのは、苦情と事故です
近隣との行き違い、設備の事故、孤独死。こうした出来事は、記録に残り、報告にも上がります。日々の処理は、残りません。
この構造に固有の事情もあります。住宅の仕事は、起きた出来事の重さが、他の部署より大きいという点です。だから、1件の出来事が、その年の記憶を占めてしまう。ところが、面接で話すべきなのは、出来事ではなく、そこから変えた手順です。「連絡が取れない世帯への確認の手順を作った」「緊急の連絡先の把握の方法を変えた」——この形にすると、経験として受け取られます。
3. 判断が、制度の名前で出ます
家賃は制度で決まり、選考は基準で決まります。担当の名前は、どこにも出ません。
この構造に固有の事情もあります。制度の名前で出るということは、苦情も制度に向くということです。「なぜこの家賃なのか」は、担当ではなく制度への問いになります。これは、担当を守る仕組みでもあります。ただし、この形に長くいると、「自分が決めた」と言うことに抵抗が出ます。面接では、判断の余地を使った場面を1つ言えるようにしておいてください。
民間に移って変わる4点
1. 扱う範囲が、契約の中に収まります
これが、いちばん大きい変化です。生活の事情に踏み込む場面が減ります。楽になる方向に効く方が多い一方で、「そこまでしか関われないのか」と感じる方もいます。どちらに転ぶかは、人によります。
この変化には、注意点が1つあります。範囲が狭まるといっても、生活の事情が消えるわけではありません。民間の賃貸でも、高齢の入居者は増えていて、契約の外の相談が持ち込まれます。違うのは、そこを扱うかどうかを、会社として決めているという点です。扱わない方針の会社もあれば、そこを強みにしている会社もある。どちらなのかは、面接で確かめておいたほうがよい部分です。在職中と同じ関わり方を期待して入ると、食い違いが出ます。
2. 数字で測られるようになります
入居率、滞納率、更新率、対応までの時間。測られる項目が増えます。ただし、住宅課でも、収納率と未申告の件数は見られていました。まったく初めての感覚ではありません。
3. 速度が上がります
民間の管理では、修繕の依頼への返答も、滞納への対応も、行政より短い期間で動きます。決裁の段階が少ないからです。在職中に、決裁を待つ時間の長さを感じていた方ほど、この変化は歓迎される部分です。
ただし、速度が上がる分、記録の重みは変わりません。むしろ、その場で決める場面が増えるほど、後から説明できる記録が要ります。行政では、決裁の過程そのものが記録になっていました。民間では、自分で残さないと何も残りません。「聞く場と決める場を分ける」「口頭で答えずに文書で返す」——在職中に身に付けた作法は、速度が上がった環境でこそ効きます。
4. 相手が、選べる相手になります
行政では、区域の中で資格のある方は、全員が相手でした。民間では、契約している相手が中心になります。ただし、居住の支援の事業に移る場合は、相手の層はあまり変わりません。行き先によって、この点は大きく違います。
ここは、行き先を選ぶときの分かれ目になります。相手が変わることを求めて動くのか、同じ相手を、別の手段で支える側に回りたいのか。前者なら賃貸の管理や開発、後者なら居住の支援や高齢者向け住宅です。どちらが正しいということはありません。ただ、自分がどちらを求めているかを先に決めておかないと、面接の答えが揺れます。
在職中に残しておくべき記録
| 残すもの | 使い道 | 注意 |
|---|---|---|
| 管理の戸数・入居の世帯数 | 職務要約の冒頭に入れる | 公表されている数字を使う |
| 年間の募集の回数と応募の件数 | 審査と選考の経験の証明 | 倍率は書かなくてよい |
| 滞納の整理の件数 | いちばん評価される部分 | 個別の事情は書かない |
| 自分が作った手順の名前 | 実績欄の芯になる | 出来事ではなく、手順を残す |
| 連携した他の部署と、そのきっかけ | 支援の事業で直接に効く | 世帯が特定される記述は避ける |
数字は、異動すると取りにくくなります。在職中に、桁だけでも控えておいてください。
つまずきやすい点
1. 困難な事例ばかりを思い出して、実績欄を薄くする
その隣に、変えた手順があります。
2. 滞納の件数を控えずに異動する
この経歴でいちばん評価される数字です。
3. 随時の対応を、苦労話にする
予定に組み込めない仕事を、定型の業務と同じ担当で回していたと書いてください。
4. 連携の経験を書き落とす
福祉、生活の支援、社会福祉協議会。つなぎ方を知っていることは、民間では希少です。
5. 生活の事情を、面接で具体的に話す
類型に置き換えてください。守秘の線を引けることは、それ自体が評価されます。
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
まとめ
- 公営住宅法第1条は、住宅を低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的としています
- つまり、建物を貸すことは手段で、目的は生活の側にあります。扱う範囲が広いのは、そのためです
- 一年は、定型の年間の業務と、予定に組み込めない随時の対応が、同じ担当に載っています
- 評価が見えにくいのは、①住み続けられていることは残らない ②苦情と事故だけが記録される ③判断が制度の名前で出るの3つの構造によります
- 民間に移ると、扱う範囲が契約の中に収まり、数字で測られ、速度が上がり、相手が変わります
- 在職中に、戸数・世帯数・募集の件数・滞納の件数を控えておいてください
よくある質問
随時の対応が多く、定型の業務が進みません
それは、体制の問題であって、能力の問題ではありません。面接でこの話をするときは、「随時の対応が入る前提で、定型の業務の工程を前倒ししていました」という形にしてください。収入の申告の受付を早めに開始する、繁忙の時期の前に未申告の督促を済ませる。予定できない仕事があることを前提に、予定できる仕事を先に片付ける。この段取りは、民間の管理の現場でもそのまま求められます。むしろ、随時の対応が多い環境を回してきたこと自体が、評価される場面があります。
孤独死や事故の対応を経験しました。書いてよいですか
出来事そのものは書かないでください。書けるのは、その後に変えた手順です。「連絡が取れない世帯への確認の手順を整備した」「緊急の連絡先の把握の方法を見直した」「自治会や民生委員との連絡の経路を作った」という形です。民間の管理の会社でも、高齢の入居者の見守りは、今いちばんの課題になっています。手順を作った経験は、直接に効きます。一方で、個別の事例は、面接でも書類でも話せません。この線を守ることが、信頼の材料になります。
この部署が長く、他の経験がありません
この分野では、それが不利になりにくいという特徴があります。理由は、賃貸の管理、居住の支援、家賃債務の保証という行き先が、いずれも住宅課の経験とそのまま重なるからです。幅の広さより、同じ分野を続けてきたことのほうが、読まれやすい経歴です。書くときは、年数で区切って、担当の変化を見せてください。「入居と家賃の担当◯年、その後、滞納と退去の担当◯年、直近は建替えの移転を担当」という形です。同じ分野の中で、扱う工程が変わってきたことが、幅として読まれます。行き先の選び方は住宅課から転職しやすい業界と職種に並べています。