部署別 / 交通・公営企業
交通・公営企業から民間に移ると働き方と評価はどう変わるか
交通局や公営企業の働き方には、他の部署と違う点が1つあります。
経営の数字が、自分の給与に関わる仕組みの中にいるということです。
一般の行政の部署では、自治体の財政が厳しくても、給与の決め方は同じです。公営企業の職員は、違います。事業の経営の状況を考慮して給与を定めると、法律に書かれています。赤字の路線を回している自分の仕事が、自分の処遇につながっている。
この記事では、一年の波、評価が見えにくくなる構造、民間に移ると変わる4点、在職中に残しておくべき記録の順に整理します。
言い換えは交通・公営企業の経験は民間で何と呼ばれるか、書類の書き方は交通・公営企業の職務経歴書|書き出しから実績の出し方までに書いています。
「経営の状況その他の事情を考慮して」と書かれています
働き方の話を、条文から始めます。地方公営企業法第38条です。
> 企業職員の給与は、その職務に必要とされる技能、職務遂行の困難度等職務の内容と責任に応ずるものであり、かつ、職員の発揮した能率が充分に考慮されるものでなければならない。> 3 企業職員の給与は、生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与、当該地方公営企業の経営の状況その他の事情を考慮して定めなければならない。
「職員の発揮した能率」と「経営の状況」です。
一般の地方公務員の給与の決め方には、「経営の状況」という言葉は出てきません。公営企業の職員にだけ、それが書かれている。しかも、比較の相手として「民間事業の従事者の給与」が明記されている。
ここが、働き方の性格を決めています。
つまり、この経歴の方は、行政の中で唯一、「事業の数字と自分の処遇がつながっている」環境にいたことになります。民間の会社では当たり前のことですが、行政の中では、この部署だけです。
この構造が、負荷の正体でもあり、民間との距離の近さの正体でもあります。
一年の波
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 4〜5月 | 新年度のダイヤの開始、乗務員の配置の確定、新年度の委託と工事の契約、定期券の更新の集中 |
| 6〜8月 | 前年度の決算の調製と監査、夏の輸送の需要の対応、車両の冷房の保守 |
| 9〜11月 | 決算の認定に向けた議会への説明、翌年度の予算の要求、路線の再編の検討、秋の行事の輸送 |
| 12〜1月 | 年末年始の特別のダイヤ、寒冷地では雪への対応、翌年度の予算の確定 |
| 2〜3月 | 春のダイヤ改正の準備、年度末の工事の完成、乗務員の採用と研修、運賃の改定があれば認可の手続き |
平らな月がありません。
しかも、この表に書けない仕事が、毎日入ります。車両の故障、乗務員の急な欠勤、事故、大雨や雪、道路の通行止め。その日のダイヤを、その日の朝に組み替える仕事が、常に一定量あるということです。
面接でこの波を説明するときは、「年度と季節で回る定型の業務と、その日の朝に組み替える運用が、同じ体制に載っている」と言うと伝わります。
評価が見えにくくなる3つの構造
1. 成果が「毎日走ったこと」として現れます
一年間、大きな事故がなく、ダイヤどおりに走った。それは、報告書に一行も書かれません。乗務員が欠けた日に、便を減らさずに回した。それも、書かれません。
この構造に固有の事情もあります。交通の成果は、「時刻表どおり」が当たり前の側にあるということです。5分遅れれば苦情が来ますが、定時に来ても誰も何も言いません。だから、事故がなかった年ほど、記録が薄い。在職中に何年も担当して、思い出せるのは事故と大雪の年だけという方が多いのは、この構造のせいです。実際には、その間ずっと、毎朝の組み替えで便を守っていた。その部分が、自分の中でも実績として数えられていない——ここが、この経歴の方が実績欄で損をする原因です。
2. 記録に残るのは、事故と遅延と苦情です
事故は、公表され、報道されます。遅延は、苦情として残ります。日々の運行は、便数として残るだけです。
この構造に固有の事情もあります。交通の事故は、その日のうちに、名前の付いた事業者の事故として出るという点です。だから、1件の事故が、その年の記憶を占めてしまう。ところが、面接で話すべきなのは、事故ではなく、そこから変えた手順です。「異常時の判断の区分を作り直した」「点呼の項目を見直した」「予備の車両の台数を変えた」——この形にすると、経験として受け取られます。
3. 判断が、ダイヤと規程の名前で出ます
便数はダイヤで決まり、安全の手順は規程で決まります。担当の名前は、どこにも出ません。
この構造に固有の事情もあります。ダイヤは公表されるので、「ダイヤどおりに走ったか」は見えます。ところが、そのダイヤを、どの需要の読みで、どの乗務員の数で、どう組んだか——その判断は、表に出ません。制度の名前で出るということは、苦情も制度に向くということで、担当を守る仕組みでもあります。ただし、この形に長くいると、「自分が決めた」と言うことに抵抗が出ます。面接では、ダイヤと規程の内側で、自分が判断した場面を1つ言えるようにしておいてください。
民間に移って変わる4点
1. 切れるようになります
これが、いちばん大きい変化です。民間の交通や物流では、不採算の路線や便を、採算の判断で切ることができます。住民の足として残す判断が先に来る環境から移ると、楽に感じる方が多い部分です。
この変化には、注意点が1つあります。切れる環境では、「切らずに減らす」工夫が、評価されにくい場合があるということです。公営で重ねてきた、経路を変える、別の手段に置き換える、という選択肢は、民間では「なぜ切らないのか」と問われることがあります。その工夫を出せる場が、民間の交通の会社の中にあるか、自治体向けの事業者にあるか。行き先によって、この工夫の値の付き方が変わります。
2. 「利益」の項目が足されます
公営企業は、経済性の発揮を法律で求められ、給与も経営の状況を考慮して定められていました。ここは、行政の他の部署より、民間にずっと近い。民間では、それに「利益」が足されます。受注の額、原価、粗利。
ただし、足されるだけです。費用を積み上げて、収入と突き合わせて、資金の残高を見る。その作業は、公営企業会計でやってきたことと同じです。一般会計しか知らない行政の職員より、この移行はずっと小さい。先に知っておくと、構えずに済む部分です。
3. 速度が上がります
民間では、ダイヤの見直しも、車両の更新の決定も、行政より短い期間で動きます。議会と住民への説明の段階が少ないからです。
ただし、速度が上がる分、記録の重みは変わりません。交通局では、点呼の記録も、運行の記録も、法令で残すことが決まっていました。民間でも、同じ法令のもとで同じ記録を残します。ここは変わらない。変わるのは、経営の判断の記録です。公営では、議会への説明の資料が判断の記録になっていました。民間では、自分で残さないと何も残りません。「なぜその便を減らしたか」を、後から説明できる形で残す——在職中に身に付けた作法は、速度が上がった環境でこそ効きます。
4. 選ぶ側から、選ばれる側になります
行政では、区域の中で、事業者は自分たちでした。委託の会社、車両のメーカー、工事の会社は、こちらが選ぶ相手でした。民間に移ると、自分が選ばれる側に回ります。自治体の委託や移管の公募に、応募する側になる。
ここは、行き先を選ぶときの分かれ目になります。この変化を、「公営の側の事情を知っている自分が、いちばん通る提案を作れる」と受け取れるか。民間の交通の会社や自治体向けの事業者は、まさにそこを期待して採ります。逆に、選ばれる側に回ること自体に抵抗があるなら、コンサルタントや施設の運営のほうが近い方向です。どちらが正しいということはありません。ただ、自分がどちらかを先に決めておかないと、面接の答えが揺れます。
自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。応募先が決まっていない段階のほうが、整理する意味があります。
在職中に残しておくべき記録
| 残すもの | 使い道 | 注意 |
|---|---|---|
| 路線数・車両数・乗務員の数・年間の輸送人員 | 職務要約の冒頭に入れる | 決算の資料の数字を使う |
| 担当した営業所や路線の規模 | 運行の管理の経験の証明 | 施設の守りに関わる情報は書かない |
| 再編や改定で動かした数字 | 実績欄の芯になる | 路線名は書かなくてよい |
| 事故の件数の推移と、その後に変えた手順 | 安全の管理の証明 | 当事者に関わる情報は書かない |
| 繰入れの額と根拠の区分 | 採算の説明の証明 | 未公表の数値は書かない |
数字は、異動すると取りにくくなります。在職中に、桁だけでも控えておいてください。
つまずきやすい点
1. 事故と大雪の年だけを思い出して、実績欄を薄くする
守っていた年数と、決算の数字が、実績です。
2. 再編で動かした数字を控えずに異動する
この経歴でいちばん評価される数字です。
3. 毎朝の組み替えを、苦労話にする
その日の朝に組み替える運用を、定型の業務と同じ体制で回していたと書いてください。
4. 給与に経営の状況が反映される仕組みにいたことを、書き落とす
行政の中で唯一、事業の数字と処遇がつながっていた部署です。民間との距離の近さの証明になります。
5. 事故の当事者や労使の経緯を、面接で話す
事象の区分と、変えた手順に置き換えてください。守秘の線を引けることは、それ自体が評価されます。
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
まとめ
- 地方公営企業法第38条は、企業職員の給与について、職員の発揮した能率を考慮し、民間事業の従事者の給与と当該企業の経営の状況を考慮して定めると定めています
- つまり、行政の中で唯一、事業の数字と自分の処遇がつながっている環境です。民間との距離が、いちばん近い部署です
- 一年は、年度と季節で回る定型の業務と、その日の朝に組み替える運用が、同じ体制に載っています
- 評価が見えにくいのは、①毎日走ったことは残らない ②事故と遅延だけが記録される ③判断がダイヤと規程の名前で出るの3つの構造によります
- 民間に移ると、切れるようになり、利益の項目が足され、速度が上がり、選ばれる側になります
- 在職中に、路線数・車両数・輸送人員・経常収支・再編で動かした数字を控えておいてください
よくある質問
早朝と深夜に寄る勤務を、この先も続けられるか不安です
それは、体制の問題であって、能力の問題ではありません。ただし、行き先によって、この点は大きく違います。民間の交通や物流の営業所に移れば、始発と最終に合わせた勤務は同じです。変わるのは経営の主体だけ。コンサルタントやメーカー、施設の運営に移れば、時刻に縛られた勤務は原則としてなくなります。面接でこの話をするときは、「営業所の当番を、どういう人数と周期で回していたか」を答えられるようにしてください。時刻に縛られた体制を設計して回してきたこと自体が、民間の交通と物流では評価される場面があります。「時刻の勤務から離れたい」のか「体制を作る側に回りたい」のかを、先に決めておくと、行き先が絞れます。
事故を経験しました。書いてよいですか
公表された範囲の概要までは書けます。「◯年に発生した事故について、対応と再発の防止の手順の整備を担当」という形です。書けないのは、当事者に関わる情報、乗務員の処分、原因の詳細です。そのうえで、書くべきなのは、事故そのものではなく、その後に変えた手順です。「異常時の判断の区分を作り直した」「点呼の項目を見直した」「安全の会議の持ち方を変えた」。民間の交通と物流でも、事故の後に手順を変えた経験は、直接に効きます。一方で、当事者に関わる情報は、面接でも書類でも話せません。この線を守ることが、信頼の材料になります。
交通局が長く、他の部署の経験がありません
この分野では、それが不利になりにくいという特徴があります。理由は、民間の交通、物流、交通の計画のコンサルタント、車両のメーカーという行き先が、いずれも交通局の経験とそのまま重なるからです。幅の広さより、同じ分野を続けてきたことのほうが、読まれやすい経歴です。書くときは、年数で区切って、工程の変化を見せてください。「営業所の運行管理◯年、その後、車両の保守の担当◯年、直近は路線の再編と経営の企画を担当」という形です。同じ分野の中で、扱う工程が変わってきたことが、幅として読まれます。行き先の選び方は交通・公営企業から転職しやすい業界と職種に並べています。