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部署別 / 農政課

農政課の経験は民間で何と呼ばれるか

農政課の経験は、求人票の言葉に直すとまったく別の名前で呼ばれています。

「農業振興、農地の管理に関する業務」

この書き方では、民間の採用担当には何も伝わりません。

実際にやっていたのは、権利が複雑に絡んだ土地の情報を押さえ、許認可を通し、所有者と利用者の間を調整し、工事を進め、災害の被害を査定するという、用地と資産の管理の仕事です。

この記事では、庁内の呼び名を民間の言葉に置き換え、中核スキルを5つの工程に分けて整理します。

同じ土地に、2つの目的がかかっています

最初に、この仕事の立ち位置を条文で押さえます。経験の値を決める部分です。

食料・農業・農村基本法第4条は、多面的機能についてこう定めています。

国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等農村で農業生産活動が行われることにより生ずる食料その他の農産物の供給の機能以外の多面にわたる機能(以下「多面的機能」という。)については、国民生活及び国民経済の安定に果たす役割に鑑み、将来にわたって、適切かつ十分に発揮されなければならない。

「農産物の供給の機能以外の」——ここが要点です。

農地には、作物を作る以外の役割が、法律で認められています。国土の保全、水源の涵養、自然環境、景観、文化の伝承。

つまり、農政課が扱っている土地には、2つの目的が同時にかかっています。

目的見るもの民間でいえば
産業としての農業収益、担い手、規模、販路事業の収益性
多面的機能の維持荒廃の防止、景観、水系、集落の維持資産の保全

そして、この2つは、しばしば逆を向きます。

収益だけを考えれば、条件の悪い農地は集約から外れます。しかし、外れた農地が荒れると、水路も、景観も、隣の農地も影響を受けます。

「収益を上げる資産」と「維持しなければならない資産」を、同じ対象について同時に見る。

これは、民間でいう資産の管理と、まったく同じ構造です。不動産も、インフラも、設備も、「収益を生む面」と「維持し続けなければならない面」の両方を持っています。

この両方を見てきた、というのが、この仕事の中身です。

民間での訳語

庁内での呼び名民間での呼ばれ方
担い手の支援・認定農業者の事務主要取引先の育成・法人向けの経営支援
農業経営の相談法人顧客への相談対応
補助事業の採択と実績報告制度の設計と執行・補助金の運用
農地の利用の集積・集約用地の集約・権利関係の調整
農地転用の進達許認可の実務・法令の調査
荒廃農地の対策遊休資産の活用・再生
土地改良事業インフラの整備・工事の発注と進行管理
鳥獣被害の対策被害の管理・地域との協働
地産地消・6次産業化の支援商品開発の支援・販路の開拓
災害時の農作物の被害調査損害の査定・被害の算定
集落・生産組合との調整地権者・関係者との合意形成
農業振興地域整備計画土地利用の計画・区域の設定

上から5行目までが、いちばん値の付く並びです。権利関係を整理して、許認可を通し、用地を動かした——これは、不動産や開発の仕事でそのまま求められます。

中核スキルを5つの工程に分ける

この部署の中核は、「一つの土地に複数の権利と複数の目的がかかっている状態を、整理して動かすこと」です。

工程1:押さえる(台帳と現況を突き合わせる)

農地の台帳、登記、課税の情報、現況。これを突き合わせて、実際にどうなっているかを確定させます。

この工程に固有の制約があります。台帳の情報と、登記と、現況が一致しません。相続の登記がされていない農地が多く、名義人がすでに亡くなっていることも珍しくありません。相続人が複数いて、全員の所在を追うところから始まる場合もあります。

だから、「資料上の情報を、そのまま信じない」というのが、この仕事の基本の姿勢になります。必ず現地を見て、関係者に確認する。

これは、民間の不動産や用地の仕事で、最初に求められる姿勢とまったく同じです。

工程2:通す(許認可と計画の手続)

農地転用の受付と進達、農業振興地域の区域の変更、各種の届出。

この工程に固有の制約があります。市で完結しません。農地転用の多くは、県の許可が必要です。つまり、こちらで受け付けて、書類を整えて、進達して、判断を待つという構造になります。

だから、時間が読めることが価値になります。「この案件は、書類が揃ってから何か月かかるか」——これを先に言えるかどうかで、相手の計画が変わります。

民間の開発や出店の仕事では、この時間の読みがそのまま必要とされます。

工程3:組む(担い手への集積と利用の調整)

貸したい人と借りたい人をつなぎ、利用権を設定し、まとまった形に集約する。

この工程に固有の制約があります。所有者が、経済合理性だけでは動きません。多くの場合、農地は「先祖から預かった土地」として見られています。賃料が上がるという説明だけでは、貸してもらえません。

だから、動かすには別の理由が要ります。誰が借りるのか、その人は地域の人か、何を作るのか、周りにどう影響するか。この説明を用意して、初めて話が進みます。

これは、民間の用地の交渉でも同じです。金額だけで決まる取引は、実はそう多くありません。

工程4:直す(土地改良と施設の整備)

水路、農道、ほ場の整備、施設の更新。

この工程に固有の制約があります。受益者の負担があり、地元の同意がないと着工できません。工事の内容そのものより、同意を取る作業のほうが長くかかることが普通です。同意が取れなければ、予算が付いていても着工できません。

つまり、合意形成が、そのまま工期に直結します。

この経験は、民間の開発や、既存の施設の改修で、そのまま必要とされます。

工程5:守る(鳥獣の被害、災害、被害の調査)

被害の防止、柵の設置の支援、捕獲の体制、災害時の農作物と施設の被害の調査。

この工程に固有の制約があります。発生が読めません。そして、発生したら、既存の予定に割り込みます。しかも、現地に行かないと判断できません。台風の後、被害の範囲と程度を確認して、国や県への報告の形式に合わせて数字にまとめる——この作業には期限があります。

これは、民間でいう損害の査定と、災害時の初動の管理にあたります。

民間の用地・資産の管理と、どこが同じでどこが違うか

同じところ

  1. 権利関係を整理してからでないと、何も動かせない
  2. 合意がないと進まない。同意を取る作業が、工期を決めます
  3. 現況を見ないと判断できない。資料だけでは決まりません

違うところ

  1. 相手が経済合理性だけでは動かない。土地への思いが、判断の中心にあります
  2. 対象を減らす判断ができない。採算が合わないから畳む、という選択が取りにくい構造です
  3. 成果が数十年単位。ほ場の整備も、担い手の育成も、効果が出るのは長い先です
  4. 担い手が減ることを前提にしている。増やす前提の計画ではありません

4番目が、民間との最大の違いです。

民間の事業は、基本的に「増やす」ことを前提に組まれます。この仕事は、「減っていく中で、どう維持するか」を考える仕事でした。

縮小を前提にした計画を立てた経験は、実は民間でも必要とされています。人口が減る地域を担当する企業、既存の設備を減らしながら維持する事業、撤退の判断を含む拠点の管理。どれも、同じ考え方を使います。

評価が高くなりやすい4つの方向

1. 不動産・用地の取得と管理

権利関係の調査、相続未登記への対応、許認可の見通し。この3つがそのまま効きます。とくに、相続が絡む土地を扱った経験は、そう多くの人が持っていません。

2. 農業法人・食品・流通

生産の現場の事情と、制度の両方が分かることが評価されます。補助事業の使い方を知っていることも、事業側では直接役に立ちます。

3. 建設コンサルタント・土地改良・インフラ

地元の同意を取りながら工事を進めた経験は、この分野の中心的な仕事です。発注する側にいた経験も効きます。

4. 自治体を顧客とする企業(農業・環境の分野)

計画の作られ方と、国や県の補助の流れを知っていることが、そのまま提案に効きます。

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つまずきやすい点

1. 「農地転用の事務」と書く

「権利関係の調査と審査」と書いてください。相続未登記という言葉を1つ入れると、伝わり方が変わります。

2. 産業としての側面だけを書く

多面的機能の維持も担当していたはずです。資産の保全という言葉で書けます。

3. 合意形成を「調整」で済ませる

同意が工期を決めていたという形で書いてください。

4. 被害調査を、臨時の作業として扱う

損害の査定です。期限のある算定の実務として書いてください。

5. 「縮小の計画」を、後ろ向きなものとして話す

減る前提で維持を設計した——民間でも必要とされている考え方です。

自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

LINEで短く聞くこともできます

まとめ

よくある質問

農業の知識がないと、農業関係の会社には行けませんか

生産の技術そのものは、求められていないことがほとんどです。農業法人や食品の会社が中途で採るのは、経営管理、販路、補助事業の活用、用地の確保を担当できる人です。とくに補助事業は、どの会社も使いたいのに、手続が分かる人がいません。書くなら、「国・県の補助事業について、要件の確認から申請、実績報告、検査までの手順を年間◯件分担当」という形です。採択される書き方を知っている、とは書かないでください。書けるのは、公表されている要領に沿って不備なく整えられるという範囲までです。それでも、事業側では十分に価値があります。

鳥獣被害の対策をしていた経験は、どう書けばよいですか

「被害の管理と、地域との協働」として書いてください。中身は、①被害の状況の把握(発生の場所、時期、作物、金額の推計)②防除の設備の設置の支援 ③捕獲の体制の維持(担い手の高齢化への対応)④住民からの相談への対応の4つに分かれます。とくに③は、報酬で動いていない人(狩猟をする方々)に、体制を維持してもらう仕事です。これは、民間でいうと、外部の協力者を確保して稼働を維持する仕事にあたります。件数と、体制の人数の推移を添えて書いてください。「鳥獣害の担当」だけでは、何をしていたか伝わりません。

農業委員会の事務局を兼ねていた場合は、どう書き分けますか

農業委員会は独立した行政委員会なので、事務局としての仕事は分けて書いてください。具体的には、総会の運営(議案の作成、招集、議事録)、委員の選任に関する事務、許可申請の受付と審査の補助、農地台帳の管理です。これは、民間でいう取締役会や委員会の事務局と同じ構造で、「合議体の運営を回していた」経験として読まれます。書くなら、「委員◯人の合議体について、年◯回の総会の議案の作成と運営、年間◯件の許可申請に係る事前の審査の整理を担当」という形です。行き先の絞り方は農政課から転職しやすい業界と職種に整理しました。

出典

  1. 食料・農業・農村基本法 第4条(多面的機能の発揮)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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