部署別 / 農政課
農政課から転職しやすい業界と職種
農政課からの転職では、自分がどちら側の仕事をしてきたかで行き先が変わります。
止める側か、進める側か。
そして、多くの方が両方をやっているのに、書類では片方しか書いていません。
この記事では、向いている5つの方向と、合いにくい方向を並べます。
言い換えは農政課の経験は民間で何と呼ばれるかに書いています。
「規制するとともに」「効率的に利用する」
行き先を考える前に、この分かれ方の根拠を条文で押さえます。
農地法第1条は、目的をこう定めています。
この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した権利の取得を促進し……
「規制するとともに」、そして「権利の取得を促進し」。
1つの条文に、止める機能と進める機能が両方入っています。
これが、この仕事の構造です。
| 側 | 庁内でやっていたこと | 行き先の系統 |
|---|---|---|
| 止める側(規制) | 農地転用の審査と進達、区域の設定、違反への対応 | 不動産・開発・法務のほう |
| 進める側(促進) | 利用の集積、担い手の支援、補助事業、土地改良 | 事業・インフラ・金融のほう |
どちらを長くやってきたかで、書類の作り方が変わります。
そして、両方を経験しているなら、それは強みです。民間では、規制を読む人と、事業を進める人は、別の部署にいることがほとんどだからです。
向いている5つの方向
1. 不動産・用地の取得(開発、物流施設、再生可能エネルギー)
止める側の知識が、そのまま値になる方向です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 農地転用の可否の判断、区域の区分、相続未登記への対応、県への進達の手順 |
| 求められる形 | 候補地の調査、権利関係の確認、許認可の見通しの提示、地権者との交渉 |
| 入りやすさ | 高い。農地が絡む案件を扱う会社では、判断できる人がいない |
書くときの注意。「転用の事務」ではなく、「可否の見通しを、申請の前に判断していた」と書いてください。開発の会社がいちばん困るのは、時間を使ってから転用できないと分かることです。先に見通しを言える人は、そこで評価されます。
この方向に固有の制約もあります。民間に移ると、行政の窓口に照会する側に回ります。これまでは聞かれる側でしたが、今度は聞く側です。どの資料を持っていけば話が早いか、どの段階で相談すべきかを知っているぶん、有利には立てます。ただし、行政が出せる情報には限界があることも分かっているはずなので、「調べてもらう」前提の進め方はしないでください。自分で調べたうえで、確認だけを取りに行く形が、いちばん速く進みます。
2. 建設コンサルタント・測量・土地改良
進める側、とくに工事と合意形成の経験が効きます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 受益者の同意の取りまとめ、工事の発注と進行の管理、国・県の補助事業の手続 |
| 求められる形 | 事業計画の作成、地元の説明会の運営、自治体への提案、工事の管理 |
| 入りやすさ | 高い。発注する側にいた経験が直接効く |
書くときの注意。同意の取りまとめを、必ず数字で書いてください。「受益者◯人の同意を取りまとめ、着工まで◯か月」という形です。この分野では、合意形成の実績が、技術と同じくらい見られます。
3. 農業法人・食品・流通・農業資材
事業の側に回る方向です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 補助事業の活用、用地の確保、生産者との関係、制度の知識 |
| 求められる形 | 経営管理、補助金の申請、産地との仕入れの交渉、新規就農の受け入れ |
| 入りやすさ | 中〜高。補助事業を扱える人は、どの会社でも足りていない |
書くときの注意。生産の技術で勝負しないでください。求められているのは、制度と管理の側です。「国・県の補助事業について、要件の確認から申請、実績報告、検査までを年間◯件担当」と書けば、それだけで話が進みます。
この方向に固有の制約もあります。事業の側に入ると、生産者と価格や納期の話をする場面が出てきます。行政の立場では、制度を通した関係でしたが、事業では取引の相手になります。同じ人が相手でも、話す中身がまったく変わります。ここは入ってから覚える部分だと、面接で先に言っておいたほうが通ります。
4. 金融機関・農業関連の融資・地域商社
制度と、生産者の両方が分かることが効きます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 担い手の経営状況の把握、補助事業と融資の組み合わせ、集落の事情 |
| 求められる形 | 農業者への融資の相談、事業計画の確認、補助事業との調整 |
| 入りやすさ | 中。農業に力を入れている金融機関では、需要が明確にある |
書くときの注意。認定農業者や、経営改善の計画に関わっていたなら、必ず書いてください。経営の数字を見た経験として読まれます。ただし、個別の経営体の数字は書けません。「◯件の経営改善計画の認定に係る事務を担当」という形までです。
5. 自治体を顧客とする企業(農業・環境・地理情報)
計画と統計の側を担当していた場合の方向です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効く経験 | 農業振興地域整備計画、農地台帳の管理、統計、国・県への報告 |
| 求められる形 | 計画の策定の受託、システムの導入の支援、調査の実施 |
| 入りやすさ | 中〜高。農地の制度を理解している人は少ない |
書くときの注意。農地台帳の管理は、「データの整備」として書いてください。筆ごとの情報を、現況と突き合わせて更新していたなら、それは地理情報の実務です。
合いにくい方向
1. 都市部の個人向け営業
相手が地権者や事業者でなくなると、この経歴の技術が使えません。権利関係を読む力が、そのまま余ります。
2. 短期の数字で評価される職種
月次の目標で動く職種は、年単位・数十年単位で考えてきた感覚と合いません。
3. 立ち上げ期の一人目
手続も前例もない環境で、全部を自分で作る役割です。この経歴は、制度と権利を読み解くことに強いため、読み解く対象がない環境では、力が出るまでに時間がかかります。
4. 農作業そのものを担う職
農政に関わっていたことと、生産ができることは別です。就農を考えるなら、それは転職とは別の検討になります。
5. 研究職・技術の専門職
農業試験場や研究機関の専門職は、研究の実績が前提です。行政の経験だけでは届きません。
役に立つ資格
取ってから動く必要はありません。応募しながらで構いません。
| 資格 | 効く方向 | 実際のところ |
|---|---|---|
| 宅地建物取引士 | 不動産、開発、用地 | この経歴といちばん相性がよい。権利関係の知識が既にあるので、学習の負担が小さい |
| 行政書士 | 不動産、独立、コンサル | 農地転用の申請は、行政書士の実務の一つ。審査する側にいた経験が直接つながる |
| 測量士補 | 建設コンサル、土地改良 | 技術職として出すなら効く。事務職なら必須ではない |
| 日商簿記3級 | 農業法人、金融機関、地域商社 | 経営の数字を見る方向では、懸念を先に消せる |
| 2級ファイナンシャル・プランニング技能士 | 金融機関 | あれば読まれる程度 |
いちばん効くのは、宅地建物取引士です。すでに権利関係と法令の読み方に慣れているので、他の職種の人より学習の負担が小さいという利点もあります。
求人を探すときの検索語
庁内の言葉で検索すると、求人が出てきません。
| 探している仕事 | 検索語 |
|---|---|
| 不動産・用地 | 用地 取得/用地 買収/開発 許認可/地権者 交渉 |
| 建設コンサル | 土地改良/農業土木/補償 コンサルタント/地元 説明会 |
| 農業法人・食品 | 農業法人 管理/産地 仕入/6次産業化/農業 経営管理 |
| 金融 | 農業 融資/アグリ ビジネス/法人 渉外 |
| 自治体向け | 公共 コンサルタント/GIS/台帳 システム 導入支援 |
「農政」「農業振興」で検索しても、ほとんど出てきません。上の言葉に置き換えてください。
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
つまずきやすい点
1. 止める側と進める側を、分けずに書く
どちらを長くやってきたかを決めてください。両方なら、それは強みです。
2. 相続未登記の経験を書かない
不動産方向では、ここがいちばん効きます。
3. 「農業の知識がない」と考えて事業側を外す
求められているのは制度と管理の側です。生産の技術ではありません。
4. 合意形成を数字で書かない
同意した人数と、要した期間。この2つで書いてください。
5. 地元を離れる前提で書類を作る
この経歴は、地元のほうが値が高くなることがあります。先に地元で探してください。
まとめ
- 農地法第1条は、「農地を農地以外のものにすることを規制するとともに」「権利の取得を促進し」と、止める機能と進める機能の両方を定めています
- だから行き先も、規制の側(不動産・開発)と促進の側(事業・インフラ・金融)に分かれます
- 向いているのは、①不動産・用地 ②建設コンサル・土地改良 ③農業法人・食品・流通 ④金融機関 ⑤自治体を顧客とする企業の5方向です
- 相続の登記が未了の農地を扱ってきた経験は、不動産方向でいちばん効く一行になります
- 資格は、宅地建物取引士がこの経歴といちばん相性がよく、学習の負担も小さくなります
- 「農政」では求人が出てきません。検索語を置き換えてください
よくある質問
農地転用は「進達」までで、許可は県がしていました。それでも書けますか
書けます。むしろ、進達までを担当していたことは、正確に書いてください。書き方は、「農地転用の許可申請について、受付、要件と現況の確認、書類の審査、県への進達を年間◯件担当。許可権者は県のため、申請者には標準的な処理期間を先に示して計画を立てられるようにした」という形です。「許可を出していた」と書くと、面接で崩れます。逆に、線を引いて正確に書くと、制度を理解している人として読まれます。そして、民間が求めているのは「許可が出るかどうかを、事前に読める人」です。その役割は、進達を担当していた人が、いちばん正確にできます。
農政課での経験が3年で、それ以外は別の分野です。どう書けばよいですか
3年でも、農地の実務を通したなら十分に書けます。この分野は、経験者の数そのものが少ないので、年数より「何を通したか」が見られます。書くなら、「農地の権利関係の調査、転用の審査と進達、利用の集積、土地改良の合意形成を3年間担当」と、通した工程を並べてください。そのうえで、他の分野の経験があるなら、それも強みになります。とくに、税務、都市計画、建築、財政を経験している場合、土地を扱う会社では、その組み合わせが評価されます。
何社くらい受けるものですか
決まった数はありません。ただ、この経歴は、規制の側と促進の側で書類が変わります。1通で両方を狙うと、どちらにも寄り切らない書類になります。現実的なのは、主にするほうで1通作り、説明の型が近い2方向を並行して見る形です。たとえば、不動産・用地と、建設コンサルタントは、どちらも「地権者との合意」と「許認可の見通し」を見るので、書類の作り直しが少なく済みます。書き方は農政課の職務経歴書に整理しています。