部署別 / 産業振興課
産業振興課から民間に移ると働き方と評価はどう変わるか
産業振興課の働き方には、他の部署と違う特徴が1つあります。
自分の暦で動けません。
予算の年度は、確かに自分の暦です。ところが、実際に何かが動く日程は、ほとんど相手が決めています。
合同説明会の時期は学校が決め、共同研究の申請の時期は大学と国が決め、見本市の時期は主催者が決め、訪問しやすい時期は企業の決算期が決めます。
「忙しい時期はいつですか」と聞かれて答えにくいのは、このためです。
この記事では、一年の波、評価が見えにくくなる構造、民間に移って変わる4点を整理します。
書き方は産業振興課の職務経歴書、面接での答え方は産業振興課出身者が面接で必ず聞かれることに書いています。
相手が持っている事業の幅を、条文で見ると分かります
なぜ相手の暦に合わせることになるのか。連携先の一つである商工会議所の事業を、条文で見てみます。
商工会議所法第9条は、事業の種類をこう列挙しています。
一 商工会議所としての意見を公表し、これを国会、行政庁等に具申し、又は建議すること。/三 商工業に関する調査研究を行うこと。/五 商品の品質又は数量、商工業者の事業の内容その他商工業に係る事項に関する証明、鑑定又は検査を行うこと。/六 輸出品の原産地証明を行うこと。/八 商工業に関する講演会又は講習会を開催すること。/九 商工業に関する技術又は技能の普及又は検定を行うこと。/十 博覧会、見本市等を開催し、又はこれらの開催のあつ旋を行うこと。/十三 商工業に関して、相談に応じ、又は指導を行うこと。/十五 商工業に関して、観光事業の改善発達を図ること。
(このほかにも列挙が続き、全部で18号あります。)
意見の具申、調査研究、証明と検査、検定、見本市、相談と指導、観光。
まったく性質の違う事業が、一つの団体に並んでいます。
そして、それぞれに独自の時期があります。検定には試験日があり、見本市には開催日があり、講習会には募集の期間があります。
産業振興課は、この団体と組んで仕事をします。
大学、学校、金融機関、国、県についても同じです。それぞれが、自分の暦を持っています。
つまり、この部署の一年は、「自分の予算の暦」と「相手の事業の暦」をすり合わせ続けることで埋まります。
説明するときは、この形で話してください。
> 予算の年度と、連携先の予定の両方で動いていました。学校の説明会、大学の申請の時期、見本市の開催、国の公募。どれもこちらでは動かせないので、年度の初めに一年分の日程を並べて、そこから逆算して準備の時期を決めていました。
「日程を先に並べて逆算していた」は、民間の事業の運営でそのまま評価されます。
一年の波
自治体によって違いますが、おおまかにはこの形になります。
| 時期 | 中身 | 重さ |
|---|---|---|
| 4月 | 新年度の制度の告示、人事異動後の企業への挨拶回り、国・県の公募の開始 | 重い |
| 5〜6月 | 訪問の本格化、合同説明会(春)、公募の申請の支援 | 中 |
| 7〜8月 | インターンの受け入れの調整、夏の訪問(企業の休業期に注意) | 中 |
| 9〜10月 | 次年度の予算要求、展示会・商談会の季節、補正の公募 | 最も重い |
| 11〜12月 | 予算の査定への対応、決算期の企業は訪問を避ける | 中 |
| 1〜3月 | 実績の取りまとめ、合同説明会(春の採用に向けて)、年度末の精算、次年度の計画 | 重い |
山は2つです。
9〜10月(予算要求と、展示会・商談会が重なる)と、1〜3月(精算と、次年度の準備と、説明会)。
そして、4月が意外に重い部分です。人事異動の直後に、担当先へ挨拶に回る必要があるためです。訪問の仕事は、担当が代わると関係が一度切れます。そこを繋ぎ直すのに、毎年1か月近くかかります。
この「4月の作り直し」は、民間の営業でも同じことが起きます。担当の引き継ぎがある職場なら、そのまま同じ話が通じます。
評価が見えにくくなる3つの構造
この部署で「何をやったのか分からなくなる」のには、理由があります。
1. 訪問しても、何も起きない日が多い
話を聞いて、制度の案内をして、終わる。これが大半です。接続に至るのは、訪問の一部でしかありません。活動の量と、成果の量が、直接つながっていません。
2. 成果が出るのは、担当が代わった後になる
創業の支援も、産学連携も、設備投資も、実際に形になるのは1〜3年後です。自治体の異動の周期を考えると、多くの場合、成果が出たときの担当者は別の人になっています。種をまいた人と、刈り取る人が違う——この構造が、手応えのなさを作ります。
3. 相手の暦で動くので、早めることができない
大学の申請の時期も、見本市の開催日も、学校の説明会も、こちらでは動かせません。だから、急いでも前倒しできません。努力が時間の短縮に結びつかない——これは、自分の仕事の成果を実感しにくくします。
この3つのために、「やったこと」が自分の中にも残りにくくなります。
民間に移って変わる4点
1. 自分の暦を、ある程度は持てるようになる
相手の予定に合わせる部分は残りますが、「いつ、どこに、何回行くか」は自分で組めるようになります。行政では、国や県の公募、庁内の予算の日程が先にあって、そこに自分を合わせていました。
この変化は、働きやすさの面では大きいと言われます。
2. 活動が、数字として管理されるようになる
訪問件数、商談の件数、提案の件数。民間では、これが記録され、見られます。
行政では、訪問の記録は残っても、評価には直結していませんでした。
ただし、これは悪いことばかりではありません。「何も起きない訪問」も、活動として数えられるようになります。
3. 成果が、自分の側に残る
支援した企業が伸びても、記録に残るのは件数だけでした。民間では、動かした結果が契約や売上として自分の側に返ってきます。
4. 相手を選べるようになる
行政では、どの事業者も同じように扱う必要がありました。民間では、成果が見込める相手に時間を寄せます。
この判断は、実は行政でもしていたはずです。「いま動く先」と「当面動かない先」を分けていたなら、同じことをしていたと説明できます。
変わらないのは、売るものを持たずに関係を作る最初の段階です。新しい担当先を持ったときの動き方は、行政でも民間でも同じことをします。
どの方向なら自分の経験が効くかは、話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
在職中に残しておくべき記録
辞めた後では、二度と取れません。
| 残すもの | なぜ必要か | どこから取れるか |
|---|---|---|
| 担当していた業種と社数(年度別) | 担当セグメント。最初に見られる | 訪問の記録 |
| 年間の訪問社数(年度別) | 活動量を示す中心の数字 | 訪問の記録 |
| 接続した件数と、進んだ件数 | 歩留まり。評価が変わる | 訪問の記録、再訪の記録 |
| 訪問の内訳(新規・継続・公募前) | 活動を設計していた証明 | 記録から分類できる |
| 合同説明会の参加企業数と学生数 | 人材の方向に出すなら必須 | 事業報告 |
| 産学連携・商談会の件数 | 需要の側を示す | 事業報告 |
| 計画で担当した章 | 中期の計画の策定にあたる | 計画そのもの |
| 自分が変えたこと(年度別に3つ) | 実績欄の芯になる | 自分でメモするしかない |
3行目と4行目が、後から作れないものです。
接続した先がその後どうなったかは、次の訪問で聞いているはずです。そこを、件数だけでも控えておいてください。
つまずきやすい点
1. 「忙しい時期は特にない」と説明する
予算の暦と、相手の暦の両方で動いていたと言ってください。
2. 4月の挨拶回りを、仕事として数えない
担当が代わると関係は切れます。そこを繋ぎ直す作業は、民間の営業でも同じです。
3. 「何も起きなかった訪問」を成果ゼロとして数える
関係の維持として書いてください。それ自体が実績です。
4. 成果が担当交代後に出ることを、手応えのなさとして話す
種をまく側の仕事だったと、構造で説明してください。
5. 訪問の内訳を記録していない
新規・継続・公募前。分類しておくと、活動を設計していた証明になります。
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
まとめ
- 商工会議所法第9条は、意見の具申、調査研究、証明と検査、検定、見本市、相談と指導、観光など18号の事業を列挙しています
- 連携先はそれぞれ自分の暦を持っています。だからこの部署の一年は、予算の暦と相手の暦のすり合わせで埋まります
- 山は9〜10月(予算要求と展示会)と1〜3月(精算と説明会)。加えて、4月の挨拶回りが意外に重くなります
- 評価が見えにくいのは、①訪問しても何も起きない日が多い ②成果は担当が代わった後に出る ③相手の暦なので前倒しできないためです
- 民間に移ると、①自分の暦を持てる ②活動が数字で管理される ③成果が自分の側に残る ④相手を選べるの4点が変わります
- 接続の歩留まりと、訪問の内訳。この2つは、在職中にしか作れません
よくある質問
残業は多いほうですか、と聞かれたらどう答えますか
波があることを、そのまま言って構いません。山は9〜10月と1〜3月で、そこは予算の作業と催事が重なります。ただし、「大変でした」で終えないでください。続けて、どう捌いていたかを話します。たとえば、「連携先の日程は年度の初めに出そろうので、一年分を並べて、準備の着手日を先に決めていた」という形です。波があること自体は、どの会社にもあります。見られているのは、その波を見越して段取りを組めるかどうかです。
内勤が多い職場に移りたいのですが、この経歴は不利になりますか
不利にはなりません。訪問が中心だったからといって、外勤の職種しか選べないということはありません。この経歴には、内勤で使える部分があります。統計と現場の聞き取りから現状を整理した経験、計画を作った経験、記録の様式を設計した経験、制度の要件を組んだ経験。どれも、企画や管理の職種で必要とされるものです。書類でも、訪問の話を前に出さずに、整理と設計の話を前に出すことで、内勤の求人に合う形に組み替えられます。方向の選び方は産業振興課から転職しやすい業界と職種に整理しました。
異動でこの部署を離れることになりそうです。どうすればよいですか
記録を先に取ってください。優先順位は、①担当していた業種と社数 ②年間の訪問社数 ③接続した件数と進んだ件数 ④訪問の内訳(新規・継続・公募前)の順です。この4つがあれば、数年後に動くことになっても、そのまま書類が書けます。逆に、これを取らずに異動すると、この部署での経験は「産業振興課に◯年」という1行に縮みます。そして、担当先の企業との関係は、異動の後も個人としては残りますが、会う理由がなくなります。動くかどうかの判断は、その後で構いません。まず記録です。