部署別 / 商工観光課
商工観光課から民間に移ると働き方と評価はどう変わるか
商工観光課の働き方を説明するとき、多くの方がこう言います。
「年度末と、イベントのときが忙しいです」
これだと、構造が伝わりません。
この部署が特殊なのは、性質の違う2つのカレンダーが、同時に動いていることです。
商工の仕事は、予算の年度で動きます。公募、審査、交付、実績報告、精算。日付は、年度の区切りで決まります。
観光の仕事は、資源の季節で動きます。桜、夏、紅葉、雪、祭り。日付は、自然と行事で決まります。
この2つは、まったく別の暦です。そして、重なる時期があります。
この記事では、一年の波、評価が見えにくくなる構造、民間に移って変わる4点を整理します。
書き方は商工観光課の職務経歴書、面接での答え方は商工観光課出身者が面接で必ず聞かれることに書いています。
観光資源は、すでにそこにあるものです
観光側の暦が動かせない理由を、条文で押さえます。
観光立国推進基本法第13条は、こう定めています。
国は、観光資源の活用による地域の特性を生かした魅力ある観光地の形成を図るため、史跡、名勝、天然記念物等の文化財、歴史的風土、優れた自然の風景地、良好な景観、温泉その他文化、産業等に関する観光資源の保護、育成及び開発に必要な施策を講ずるものとする。
並んでいるのは、文化財、歴史的風土、風景地、景観、温泉、文化、産業。
どれも、行政が作ったものではありません。
すでにそこにあるものです。条文が求めているのは、「保護、育成及び開発」——新しく作れとは書いていません。
ここが、観光の仕事の構造です。
手元にある資源は、選べません。そして、資源には季節があります。桜は春にしか咲かず、紅葉は秋にしかありません。温泉は冬に強く、海は夏に寄ります。
つまり、誘客の時期は、資源の側が決めます。
行政の予算の暦とは、まったく関係のないところで決まります。
この二重の暦が、この部署の働き方の正体です。
一年の波
自治体によって行事の時期は違いますが、おおまかにはこの形になります。
| 時期 | 商工の暦 | 観光の暦 | 重さ |
|---|---|---|---|
| 4月 | 新年度の制度の告示、公募の準備 | 春の行事、桜の時期の対応 | 重い |
| 5〜6月 | 公募、受付、審査、交付決定 | 初夏の誘客の準備 | 中 |
| 7〜8月 | 交付済み事業の進捗確認 | 夏の行事と、繁忙期の対応 | 重い |
| 9〜10月 | 次年度の予算要求 | 秋の行事と紅葉の誘客 | 最も重い |
| 11〜12月 | 予算の査定への対応 | 冬の誘客の準備 | 中 |
| 1〜3月 | 実績報告の確認、額の確定、支払 | 冬の行事、繁忙期の対応 | 最も重い |
山は3つあります。
4月(制度の立ち上げ)、9〜10月(予算要求と秋の行事)、1〜3月(精算)。
とくに9〜10月と1〜3月は、商工と観光の両方の山が重なります。
9〜10月は、次年度の予算要求をしながら、秋の行事を回す。1〜3月は、精算で支出を締めながら、冬の誘客を動かす。
この「別々の理由で忙しくなる2つが重なる」という説明ができると、働き方の話が具体になります。
そして、精算の山は動かせません。年度内に事業が完了しないと支出ができないため、完了していない事業者を追いかける作業が、毎年2〜3月に必ず発生します。
評価が見えにくくなる3つの構造
この部署で「成果が自分のものにならない」と感じるのには、理由があります。
1. 成果は、事業者のものになる
補助を受けた事業者が売上を伸ばしても、それはその事業者の成果です。行政の側に残るのは、「何件に交付したか」という数字だけです。当たり前ですが、これが続くと、自分が何をしたのか分からなくなります。
2. 効果が出るのは数年後なのに、評価は単年度
創業支援も、企業誘致も、観光の誘客も、成果が数字になるまでに時間がかかります。創業した事業者が育つのは数年後、誘致した企業が操業するのは1〜3年後。一方、評価は年度ごとに行われます。このずれが、手応えのなさを作ります。
3. 観光の数字は、外部の要因で動く
入込客数は、天候、景気、他地域の動向、交通の状況で大きく変わります。自分の施策の効果だけを切り出すことが、構造的にできません。良い年も悪い年も、「自分がやったこと」との因果が見えにくいままです。
この3つのために、「やったこと」が数字として残りにくくなります。
だから、中間の指標を自分で決めて測るしかありません。
民間に移って変わる4点
1. 相手を選べるようになる
行政では、要件を満たす申請を断れませんでした。民間では、採算が合わない相手、支払いに不安がある相手を、断ります。
これは、大きい変化です。入口で母集団を作るのではなく、個別に判断することになります。最初は迷う部分ですが、要件の設計をしてきた人は、判断の軸を作るのが速いはずです。
2. 価格を動かせるようになる
補助率も上限も、一律でした。相手によって条件を変えることはできません。民間では、価格も条件も動かします。
これも、できることが増える方向の変化です。
3. 成果が、自分の側に残る
補助を受けた事業者の成果は、事業者のものでした。民間では、動かした結果が自分の会社の数字になります。
手応えという点では、この変化がいちばん大きいという声をよく聞きます。
4. やめる判断が速い
効果が薄い事業でも、行政ではすぐには畳めません。予算も、議会も、事業者への影響もあるためです。民間では、数字が出なければ止めます。
ただし、これは「厳しくなる」という意味だけではありません。効かないものを続けなくてよくなる、という意味でもあります。
変わらないのは、外部の相手を動かす仕事だということです。代理店、パートナー、業界団体、顧客。指示系統の外にいる相手に動いてもらう。ここは、行政でも民間でも同じことをします。
どの方向なら自分の経験が効くかは、話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
在職中に残しておくべき記録
辞めた後では、二度と取れません。
| 残すもの | なぜ必要か | どこから取れるか |
|---|---|---|
| 扱った制度の件数と総額(年度別) | 規模を示す中心の数字 | 予算・決算の資料 |
| 執行率(年度別) | この経歴でいちばん効く数字 | 決算資料 |
| 申請・相談の件数(年度別) | 捌いていた量 | 事業報告、受付の記録 |
| 商工団体・金融機関経由の紹介の件数 | 間接の経路を動かした証明 | 受付の記録 |
| 制度融資のあっせん件数 | 金融機関に出すなら必須 | 事務の記録 |
| 誘致の問い合わせ件数 | 法人向けの対応量 | 対応の記録 |
| 入込客数・来場者数(年度別) | 観光側の規模 | 公表統計 |
| 自分が変えたこと(年度別に3つ) | 実績欄の芯になる | 自分でメモするしかない |
4行目と最後の行が、後から拾いにくいものです。
とくに「商工団体・金融機関経由の紹介の件数」は、自分が経路を動かしていたことの、唯一の直接の証拠になります。
つまずきやすい点
1. 「年度末とイベントが忙しい」で終える
2つの別々の暦が動いていて、年に2回重なるという説明をしてください。
2. 最終の成果だけで話す
入込客数は天候でも動きます。中間の指標で話してください。
3. 中間の指標を測っていない
申請件数、相談件数、経由の紹介件数、媒体ごとの反応。1つでも1年分あれば足ります。
4. 成果が事業者のものだったことを、手応えのなさとして話す
構造として説明してください。そのうえで、自分が動かしたのは経路と条件だったと続けます。
5. 繁忙を理由に動く
移った先も、同じ暦で動くことが多いです。繁忙期の人員の考え方を確かめてください。
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
まとめ
- 観光立国推進基本法第13条は、文化財、歴史的風土、風景地、景観、温泉などの「保護、育成及び開発」を挙げています。観光資源は、すでにそこにあるものです
- だから誘客の時期は資源の季節が決め、商工の仕事は予算の年度が決めます。2つの別々の暦が動いています
- 山は4月・9〜10月・1〜3月の3つ。9〜10月と1〜3月は、2つの暦の山が重なります
- 評価が見えにくいのは、①成果が事業者のものになる ②効果は数年後なのに評価は単年度 ③観光の数字は外部の要因で動くためです
- 民間に移ると、①相手を選べる ②価格を動かせる ③成果が自分の側に残る ④やめる判断が速いの4点が変わります
- 中間の指標を自分で決めて測ってください。最終の成果より、面接では強く働きます
よくある質問
商工と観光を1人で持っていたことは、強みになりますか
なります。ただし、書き方に注意が必要です。「両方やっていました」だけでは、どちらも浅いと読まれます。書くなら、「法人向けの支援制度(総額◯万円、執行率◯%)と、観光の誘客(入込客数◯万人)を兼務」という形で、それぞれに数字を付けてください。そのうえで、「年度の暦と季節の暦の2つを同時に回していた」と説明すると、段取りの設計ができる人として読まれます。兼務は、数字が付いて初めて強みになります。
繁忙期の残業について、面接で聞かれたらどう答えますか
波があることは、そのまま言って構いません。「年度末の精算と、秋の行事の時期に集中する」という形です。ただし、「大変でした」で終えないでください。続けて、どう捌いていたかを話します。たとえば、「精算の山が読めているので、実績報告の様式と確認の項目を事前に事業者に渡して、提出の時点で不備が出にくいようにしていた」という形です。波があること自体は、どの会社にもあります。見られているのは、その波を見越して段取りを組めるかどうかです。
異動でこの部署を離れることになりそうですが、何をしておくべきですか
3つあります。1つ目は、数字を年度別に書き出しておくことです。制度の総額、執行率、申請と相談の件数、経由の紹介件数、入込客数。異動後は手元から消えます。2つ目は、自分が変えたことを3つメモしておくことです。要件を足した、周知の経路を変えた、様式を簡素にした。これは、どこにも記録されません。3つ目は、この部署で関わった商工団体や金融機関の担当者との関係です。地域の企業や金融機関に移る場合、この関係がそのまま効きます。異動して数年が経つと、同じ人には会えなくなります。行き先の絞り方は商工観光課から転職しやすい業界と職種に整理しました。