業界研究 / 物流
未経験から物流に入るには|公務員経験の使い方
物流への転職を検討される方から、こう伺うことがあります。
「トラックを運転するわけではないので、何をする仕事か分かりません」
もっともな疑問です。「物流」という言葉が指す範囲が広く、運ぶ仕事だけを指しているわけではないからです。
整理の手がかりは、法令にあります。この業界は、許可や登録で区切られていて、その区切りがそのまま事業の種類になっています。
この記事では、法令の区分から業界の構造を整理し、未経験から入る道筋を扱います。
運ぶ事業には、許可が要ります
貨物自動車運送事業法第3条です。
> (一般貨物自動車運送事業の許可)第三条 一般貨物自動車運送事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない。
短い条文ですが、この業界の性格を決めています。
「許可を受けなければならない」です。誰でも始められる事業ではありません。
許可の制度があるということは、許可の要件があり、その要件を満たし続ける義務があり、行政による監査があるということです。
役所で許認可を扱ってきた方なら、この構造の意味がすぐ分かるはずです。
預かる事業には、登録が要ります
倉庫業法第3条です。
> (登録)第三条 倉庫業を営もうとする者は、国土交通大臣の行う登録を受けなければならない。
こちらは登録です。
「運ぶ」と「預かる」で、別の制度になっている——ここが、物流業界を理解する最初の区切りになります。
| 機能 | 根拠 | 事業の呼ばれ方 |
|---|---|---|
| 運ぶ(自動車) | 貨物自動車運送事業法の許可 | 運送会社、トラック事業者 |
| 預かる | 倉庫業法の登録 | 倉庫会社 |
| 運ぶ+預かる+管理 | 両方 | 総合物流 |
| 荷主に代わって手配する | 事業の形による | 利用運送、物流の企画 |
| 荷主の中で物流を担う | — | 荷主企業の物流部門 |
最後の行を見落とさないでください。
製造業や小売業の中に、物流を担当する部署があります。ここも、物流の仕事です。そして、公務員から入りやすいのは、この領域を含みます。
物流の仕事は、機能で分かれます
| 職種 | 何をするか | 未経験からの入りやすさ |
|---|---|---|
| 運行管理 | 乗務員の勤務・健康の管理、点呼、記録 | 入りやすい |
| 倉庫の運営管理 | 入出庫、在庫、作業の割り当て | 入りやすい |
| 安全・コンプライアンス | 監査への対応、法令の遵守の体制 | 経験が直結する |
| 総務・人事 | 採用、労務、就業規則 | 入りやすい |
| 経理 | 決算、運賃の精算 | 入りやすい |
| 営業・提案 | 荷主への提案、料金の設定 | 経験が要る |
| 物流の企画・改善 | 拠点の配置、輸送の経路、在庫の設計 | 分析の経験が効く |
| 荷主側の物流部門 | 委託先の管理、コストの管理 | 契約の経験が効く |
運行管理と安全の分野は、法令に紐づく仕事です。記録を残し、基準に沿って運用し、監査を受ける。この構造は、役所の仕事と同じです。
許可を出す側から、受ける側へ
この移り方は、実務として自然です。
| 役所の側 | 事業者の側 |
|---|---|
| 許可・登録の申請を審査する | 申請の書類を作り、提出する |
| 要件を満たしているかを確認する | 要件を満たす状態を維持する |
| 監査・立入を行う | 監査を受け、指摘に対応する |
| 報告を求める | 報告を作成する |
| 変更の届出を受ける | 変更のたびに手続きを取る |
左の列をやってきた方は、右の列で何が求められるかが分かります。
とくに、運輸支局や、自治体で道路・交通に関わる事務を担当していた方は、この業界の手続きの構造を、すでに知っています。
⚠ ただし、貨物自動車運送事業の許可は国土交通大臣の権限です。自治体の事務ではありません。ですから、「同じ許認可を扱っていた」という形にはなりません。
書くべきなのは、「許認可という仕組みの中で、審査する側にいた」という点です。制度が違っても、審査と監査の構造は共通しています。
公務員の経験が効く場所・効きにくい場所
効く場所
| 場面 | 効く理由 |
|---|---|
| 監査・立入への対応 | 検査する側にいた |
| 記録の整備と保存 | 後から検証される前提の書類の作り方 |
| 社内の規程・手順の整備 | 要綱を条文の形で書いてきた |
| 労務の管理 | 勤務時間の管理と、規程にもとづく運用 |
| 委託先の管理 | 契約と、履行の確認の経験 |
| 行政への手続き | 様式のどこでつまずくかを知っている |
| 苦情・近隣対応 | 窓口で受けてきた |
効きにくい場所
| 場面 | 効きにくい理由 |
|---|---|
| 料金の設定と交渉 | 値決めの判断を自分でする |
| 荷主への提案 | 売り込む仕事は役所に少ない |
| 現場の作業の段取り | 時間単位で動く現場の感覚 |
| 突発の事態への即応 | 事故・渋滞・天候で計画が崩れる |
| 現場の作業者との距離の取り方 | 相手の職種が違う |
4つ目が、この業界の特徴です。
物流は、計画どおりに進まないことが前提の仕事です。事故、渋滞、天候、設備の故障。そのたびに、手配をやり直します。
役所の仕事は、締切は厳しくても、当日に計画が崩れることは多くありません。ここは、慣れが要る部分です。
ただし、災害対応や、選挙の事務、感染症の対応を経験した方は、「当日に計画が崩れる」状況を知っています。面接で、その経験を出してください。
5つ目も、慣れが要ります。物流の現場では、乗務員や作業者の方と、管理の側が日常的に接します。役所で、出先機関や現業の部署と調整してきた方には、掴みやすい距離感です。一方、本庁の内部の部署だけを経験してきた方は、最初に戸惑うことがあります。構えとしては、「決めたことを伝える」より「先に聞く」ほうが、この業界では早く受け入れられます。
入り方の手順
| 順 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 自分の機能を3つ書き出す(管理、契約、労務、記録など) | 30分 |
| 2 | 職種名で求人を検索する(運行管理、倉庫管理、総務など) | 1時間 |
| 3 | 出てきた会社の事業の種類を確認する(運送か倉庫か両方か) | 1時間 |
| 4 | 荷主側の物流部門の求人も見る | 30分 |
| 5 | 求人票の応募条件を5件読み比べる | 1時間 |
| 6 | 拠点の場所と勤務の時間帯を確認する | 30分 |
4つ目を飛ばさないでください。
製造業や小売業の中にある物流の部署は、物流会社とは働き方が違います。委託先の管理、コストの管理、在庫の設計が中心で、現場の作業からは距離があります。契約や委託の管理をしてきた方には、こちらのほうが合うことがあります。
6つ目も重要です。物流の拠点は、高速道路の出入口や港の近くに置かれることが多く、都市部の中心から離れていることがあります。また、早朝や夜間の勤務がある職種もあります。
経験の言い換えから相談することもできます。ご利用は無料です(紹介手数料は採用企業の負担です)。
面接で聞かれやすいこと
| 聞かれること | 何を見られているか |
|---|---|
| 計画が崩れたときに、どう動きましたか | 突発への対応 |
| 現場の方と話をした経験はありますか | 立ち位置の理解 |
| 早朝や夜間の勤務は可能ですか | 前提の確認 |
| 記録の管理をした経験はありますか | この業界の中核 |
| 物流の経験がないが、大丈夫ですか | 学ぶ構え |
1つ目は、災害・選挙・感染症の対応の経験がある方には、語れる質問です。
答え方は、慌てなかったという話ではなく、何を優先したかにしてください。「まず、動かせない期限を確認しました。次に、人手が足りない部分を洗い出して、応援の要請を出しました」。優先順位の付け方が見られています。
3つ目は、正直に答えてください。職種によって、勤務の時間帯がまったく違います。入ってから困るのはご本人です。
まとめ
- 物流は「運ぶ」だけの業界ではありません。法令の区分が、そのまま事業の種類になっています
- 貨物自動車運送事業法第3条は、一般貨物自動車運送事業を経営しようとする者に、国土交通大臣の許可を義務づけています
- 倉庫業法第3条は、倉庫業を営もうとする者に、国土交通大臣の行う登録を義務づけています
- 「運ぶ」と「預かる」で別の制度です。両方を担う会社、荷主企業の中の物流部門もあります
- 未経験から入りやすいのは、運行管理・倉庫の運営管理・安全・総務・人事・経理です
- 許可を出す側から受ける側へという移り方は自然です。ただし貨物自動車運送事業の許可は国の権限なので、「同じ許認可を扱っていた」とは書けません
- 効きにくいのは、料金の設定、提案、現場の段取り、突発への即応です。災害・選挙・感染症の対応の経験は、突発への対応の材料になります
- ⚠ 荷主側の物流部門も見てください。契約と委託の管理が中心で、働き方が物流会社とは違います
- ⚠ 拠点の場所と勤務の時間帯を、早い段階で確認してください
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よくある質問
運転免許は必要ですか
職種によります。管理や事務の職種では、要件になっていない募集もあります。ただし、拠点が公共交通機関から離れていることが多いため、通勤の手段として必要になる場合があります。また、複数の拠点を回る職種では、要件に挙げられていることがあります。判断の目安は、求人票の応募条件です。書かれていなければ、選考の場で確認すれば足ります。なお、大型の免許や、フォークリフトの資格は、現場の作業をする職種の要件であって、管理や事務の職種では通常求められません。募集の職種を確認してから判断してください。
早朝や夜間の勤務は、必ずありますか
職種と拠点によります。現場の運営に直接関わる職種では、荷物の動く時間帯に合わせる必要があります。一方、総務・人事・経理・企画のような職種では、通常の時間帯であることが多いです。確認のしかたは、面接で「この職種の方の、標準的な勤務の時間帯を教えてください」と聞くことです。あわせて、交替制があるかどうかも確認してください。なお、荷主側の物流部門は、荷主企業の勤務時間に沿うため、この点では負担が軽いことがあります。生活の条件を優先する場合は、そちらも候補に入れてください。
年齢が高めです。未経験の業界に移れますか
職種によります。運行管理、安全・コンプライアンス、総務、経理のような機能の職種では、行政での実務の年数が、そのまま経験として読まれます。とくに、記録の管理と、規程にもとづく運用を長く担当してきた方は、年数が不利になりにくいです。理由は、この業界で事務の経験を持つ人の応募が少ないからです。ただし、役職の名称は、そのままでは評価に結びつきません。「係長を◯年」ではなく、「◯人の勤務時間の管理と、年間◯件の手続きを担当」という形で、担った範囲と件数で書いてください。応募する職種を機能で選ぶと、年齢より経験の中身が見られます。