業界研究 / 教育・EdTech
未経験から教育・EdTechに入るには|公務員経験の使い方
「教員免許がないので、教育の会社は無理だと思っていました」——財政課の方からよく聞く言葉です。この認識は、授業そのものについては正しく、業界全体については違います。教育・EdTechには、自治体と学校に教材・ICT・サービスを提供する会社の営業と企画、学校法人の事務局と経営企画、教育系の企業の公共事業といった、教員免許を前提としない領域があり、そのうち自治体と接点を持つ領域では、財政課の経験が「未経験」ではなく「経験者」として扱われます。
この記事では、「未経験」を3つに分けて自分がどれに当たるかを確かめ、財政課の経験が効く入り口の枠を順に整理し、資格の位置づけ、在職中にできる準備、公務員が使えない支援制度、服務の線を書きます。業界の構造と職種ごとの評価は教育・EdTechは公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に、志望動機の組み立ては志望動機をどう組み立てるかに、処遇の決まり方は年収と働き方に書いています。
業界構造の要点——「授業」と「免許がなくても担う領域」の線
学校は国、地方公共団体、学校法人が設置し(学校教育法第2条)、設置者が経費を負担します(第5条)。教育委員会は学校の設置・管理と教材の取扱いの事務を管理し執行し(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第21条)、長は教育に関する予算の議案で教育委員会の意見を聴きます(第29条)。学校法人は私立学校の設置を目的とする法人です(私立学校法第3条)。デジタル教科書などの電磁的記録の教材は、検定教科書の内容を記録したものを使うことができます(学校教育法第34条)。公民連携の事業は委託と指定管理(地方自治法第234条、第244条の2)の形で組まれます。
授業と指導は教員免許が前提ですが、この線の外側——会社の自治体・教育委員会向けの営業と企画、学校法人の事務局と経営企画、教育系企業の公共事業——は、免許のない職員が担います。「未経験」かどうかは、この線のどちら側の業務に、自治体との接点があるかどうかで変わります。
「未経験」を3つに分ける
| 未経験の種類 | 財政課の方の実態 | 会社・法人での重み |
|---|---|---|
| 自治体側未経験(教育委員会と財政課の関係、教育費の査定、調達と委託の審査を知らない) | 経験者。教育費を査定し、教育委員会と調整し、ICTと教材の調達と委託を審査する側を実務で回している | 自治体・教育委員会向けの業務では最も重い。「外から学んだ」職員が持っていない知識 |
| 民間未経験(会社で働いたことがない) | 未経験。ただし、会社が作った提案と見積を自治体側で読み、審査している | 中程度。入社後の慣れで補える。選考では「査定する側から提案する側へ」の転換と、営業の目標への姿勢で見られる |
| 学校現場未経験(授業の実践、教員の働き方、学習の効果の測り方を知らない) | 未経験 | 企画では入社後すぐに学ぶことを求められる。営業でも学校現場への向き合い方は面接で必ず見られる |
財政課の方が「未経験」と感じているのは後ろの2つですが、自治体・教育委員会向けの業務で最も重いのは1つ目で、そこは経験者です。この認識を直すことが、応募できる枠を見つける最初の一歩です。ただし、会社では2つ目のうち「営業の目標への姿勢」を面接で必ず確かめられます。
入り口になる枠——財政課の経験が効く順
未経験からの入り口は、財政課の経験が効く順に並べると次のようになります。
| 枠 | 主な業務 | 財政課の経験の効き方 | 求人の見つけ方 |
|---|---|---|---|
| EdTechの会社の自治体・教育委員会向け営業 | 端末、校務支援、学習支援のサービスの自治体への提案、入札、導入 | 直接効く。教育委員会の要求が財政課でどう査定されるかを知る人は会社にいない | 求人票に「自治体」「教育委員会」「公共」「官公庁」「入札」の語があるか。営業の目標への姿勢を①で示す |
| EdTechの会社の公共・事業企画 | 自治体向けの事業の設計、実証の企画、補助金を使う事業の組み立て | 直接効く。補助と委託の審査の視点、事業計画のどこに予算が付くかを知っている | 求人票に「公共」「事業企画」「実証」「自治体連携」の語があるか |
| 教育系企業の公共事業(放課後・学習支援・指定管理) | 自治体からの受託、指定管理、実績報告 | 委託と指定管理の審査の視点が効く。現場の運営は未経験として扱われる | 求人票に「受託」「指定管理」「自治体」の語があるか |
| 学校法人の事務局・経営企画 | 予算、経理、施設、私学助成の申請、経営計画 | 予算と決算の管理が効く。都道府県で私学助成を査定した方は直接効く | 学校法人の事務職の求人。現場の運営が含まれるかを確かめる |
| 一般の学校・家庭向けの営業、講師 | 塾や家庭向けのサービスの営業、授業 | 財政の経験は効きにくい。未経験者として扱われる | 未経験可の求人。免許や指導の経験を前提にする会社がある |
上の2つは「自治体側の経験者」として応募でき、3つ目と4つ目は「経験者の要素を持つ未経験者」として、5つ目は「未経験者」として応募することになります。同じ会社の中でも、どの枠で入るかで「未経験」の重みが変わるので、応募の前に求人票で業務を特定してください。
資格の位置づけ——取るべきか
資格は「入り口の条件」と「入った後の伸び」を分けて考えます。
入り口の条件としては、教員免許は不要で、営業と企画と事務局の領域に法律上の資格の要件はありません。会社の自治体向けの営業と企画、学校法人の事務局は、資格ではなく「自治体の側で何を見ていたか」と「学校現場への向き合い方」と「営業の目標への姿勢」で見られます。
入った後の伸びとしては、授業の実践と学習の効果の測り方を学ぶことが会社の中での位置を変えます。教育に関わる民間の資格や検定を取る人もいますが、法律上の要件ではなく、会社の考え方によります。営業では製品と授業の知識、企画では効果の測り方を入社後に学ぶ前提です。
資格の取得を応募の条件にしないでください。自治体・教育委員会向けの枠は求人が少なく、出たときに応募できるかで決まります。教育の学習は在職中に並行して進めつつ、経験者として通る枠は今の経歴で応募する、と分けて考えます。
自分の経歴が「経験者」として通る枠か「未経験者」として入る枠かは、求人票を一緒に見ると判断しやすくなります。どの枠で応募できるかから相談できます。
在職中にできる準備——順序
在職中の準備は、次の順序で進めると、業務と重なる部分が多く、無理がありません。
1. 教育費の査定と教育委員会との調整を「型」にする。教育委員会の要求をどう査定し、長の側と教育委員会の意見(地教行法第29条)をどう調整し、どういう形なら通したかを、個別の事業ではなく型として整理します。会社の営業と企画は、この型を知っている人がいると、自治体が通せる提案を組めます。
2. ICTと教材の調達の「審査の順序」を型にする。端末と校務支援システムの調達で、リースと購入の比較、保守の債務負担行為、複数年の契約の設計をどう審査し、どこで戻したかを型にします。自分の担当でなくても、自治体の学校のICTの契約の形を読んでおきます。
3. 委託と指定管理の審査の順序を型にする。放課後の事業、学習支援、図書館などの指定管理で、積算の査定と実績報告の審査で何を見て、どこで戻したかを型にします。教育系企業の公共事業では、この「戻す箇所」が提案の材料になります。
4. 学校現場と授業の基本を読む。教員の働き方と授業の時間の制約、学習者用のデジタル教科書の制度(学校教育法第34条)、教育委員会の職務権限(地教行法第21条)を、公開されている資料で読んでおきます。庁内研修(地方公務員法第39条)や自治体職員向けの教育行政の研修があれば、今の業務の能率を上げる研修として受けられます。
5. 求人票で「自治体」「教育委員会」「公共」「官公庁」「学校向け」「入札」の語を探す。教育・EdTechの求人は一般の学校や家庭向けが多く、自治体向けの枠は少ないので、語で絞って探します。
公務員が使えない支援制度と、代わりの機会
雇用保険の教育訓練給付金(雇用保険法第60条の2)は、対象が雇用保険の被保険者または被保険者でなくなってから一定期間内の人で、支給要件期間が3年以上あることが条件です。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外なので(同法第6条第6号)、在職中の公務員はこの給付の対象になりません。教育や営業の講座が指定の教育訓練になっていても、在職中は使えないということです。民間に転職した後、被保険者としての期間が要件を満たせば対象になります。
代わりに使えるのは、前述の庁内研修(地方公務員法第39条)と、自治体職員向けに開かれている外部の研修です。「転職の準備」としてではなく「今の業務の能率を上げる研修」として探すと、庁内の手続きも通りやすく、内容も業務に直結します。教育行政と学校のICTの研修は自治体職員向けに開かれているものがあり、会社の側から見ても「査定する側の研修を受けた人」として通ります。
服務の線——在職中の準備で触れてはいけないこと
在職中の準備には、地方公務員法の線があります。
営利企業への従事(第38条)。在職中に会社の業務を手伝う、報酬を受けて提案書や事業計画の作成を請け負う、といったことは、任命権者の許可がなければできません。「実務経験を積むために手伝う」は、この線に触れます。
秘密を守る義務(第34条)。個別の調達の評価の経緯、他社の提案との比較、未公表の次の調達の計画、教育委員会との調整の内部の経緯、個別の学校法人の経営状況、児童生徒に関わる情報は、退職後も秘密です。準備で「型」にするのは制度と業務の型で、個別の内容は手元に置かないでください。学校と会社は児童生徒の情報を扱う仕事で、この線は重く見られます。
再就職者による依頼等の規制(第38条の2)。自分の自治体の学校に納入している会社、放課後の事業や指定管理を受託している企業に移る場合、退職後に元の職場へ職務上の依頼をすることには規制があります。在職中に応募する場合は、勤務時間外に行い、接点があることを応募先にも伝えるほうが安全です。
内定後は、労働基準法第15条により労働条件が書面などで明示されるので、未経験での入社に伴う条件(試用期間、担当する業務が自治体・教育委員会向けに特定されているか、業務の変更の範囲に一般の学校や家庭向けの営業が含まれるか——労働基準法施行規則第5条第1号の3、年度末と4月の繁忙の扱い——同条第2号、固定と変動の割合——同条第3号)を通知書で確かめてから承諾してください。
行政が相手の求人は、掲載中のものから「自治体・教育委員会向けの枠があるか」「未経験可の条件」「固定と変動の割合」が業務内容で見えます。行政が相手の求人を見てみる
まとめ
- 教育・EdTechには、授業(教員免許が前提)の外側に、自治体・教育委員会向けの営業と企画、学校法人の事務局、教育系企業の公共事業といった、免許を前提としない領域がある
- 「未経験」は自治体側未経験・民間未経験・学校現場未経験の3つに分かれ、財政課の方は1つ目については経験者。自治体・教育委員会向けの業務では最も重い
- 入り口はEdTechの会社の自治体向け営業→公共・事業企画→教育系企業の公共事業→学校法人の事務局→一般の学校・家庭向けの順に財政課の経験が効く。上の2つは経験者として応募する
- 教員免許は不要で、営業と企画と事務局に法律上の資格の要件はない。授業と学習の効果の測り方は入社後に学ぶ前提。資格の取得を応募の条件にしない
- 在職中の準備は、教育費の査定と教育委員会との調整の型→ICTと教材の調達の審査の型→委託と指定管理の審査の型→学校現場と授業の基本→求人票の語の順
- 教育訓練給付金は在職中の公務員は対象外(雇用保険法第6条第6号)。庁内研修と自治体職員向けの教育行政の研修を「業務の能率を上げる研修」として使う
- 在職中に会社の業務を手伝わない(地方公務員法第38条)。個別の調達や児童生徒の情報は持ち出さない(第34条)。接点のある会社への応募は隠さない(第38条の2)
よくある質問
30代後半で、教育も民間も未経験です。年齢で入り口は狭くなりますか
枠によります。一般の学校や家庭向けの営業と講師は、製品の知識と目標と授業を一から積む前提の枠なので、年齢と経験の組み合わせで見られ、会社の考え方で差があります。一方、EdTechの会社の自治体・教育委員会向けの営業と企画では、会社が欲しいのは「教育費を査定する側、教育委員会と調整する側、調達と委託を審査する側にいた人」で、財政課での年数はそのまま経験の厚みとして扱われます。年齢で狭くなるのは学校現場未経験者として入る枠で、経験者として入る枠では、年数はむしろ材料です。どちらの枠に応募するかを先に決めてください。
教育に関わる民間の資格を取ってから応募したほうが有利ですか
枠で分かれます。一般の学校や家庭向けの営業と講師では、教育に関わる資格や検定が「関心と基礎がある」ことを示す材料になることがあります。自治体・教育委員会向けの営業と企画では、資格より「教育費の査定、教育委員会との調整、調達と委託の審査の経験」が先に見られ、授業と学習の効果の測り方は入社後に学ぶ前提で通ることがあります。求人の少ない枠ほど、出たときに応募できるかで決まるので、資格の取得を応募の条件にせず、学習は在職中に並行して進めてください。いずれの資格も法律上の要件ではなく、会社の考え方によります。
在職中に、EdTechの会社が主催する自治体向けの学校ICTセミナーに参加してよいですか
自治体職員向けに公開されているセミナーに、業務の一環として、または自分の時間に参加すること自体は問題ありません。庁内の手続き(研修としての参加か、私的な参加か)に従ってください。線が引かれるのは、参加をきっかけにその会社の業務を報酬を受けて手伝うこと(地方公務員法第38条の営利企業への従事の制限)と、セミナーの場で自分の自治体の未公表の調達の計画や教育委員会との調整の経緯を話すこと(第34条)です。また、その会社に応募する意思がある場合、在職中のやり取りは勤務時間外に行い、自分の自治体との接点(納入や入札への参加)があるなら応募先にも伝えておくほうが安全です(第38条の2)。
出典
- 学校教育法 第2条(学校の設置者)/第5条(設置者の管理と経費負担)/第34条(教科用図書・教材)|e-Gov法令検索
- 地方教育行政の組織及び運営に関する法律 第21条(教育委員会の職務権限)/第29条(教育委員会の意見聴取)|e-Gov法令検索
- 私立学校法 第3条(学校法人)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第234条(契約の締結)/第244条の2(公の施設の設置、管理及び廃止)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条(営利企業への従事等の制限)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)/第39条(研修)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第60条の2(教育訓練給付金)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索