業界研究 / 教育・EdTech
教育・EdTechの年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか
教育・EdTechへの転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、教育・EdTechの年収の相場やレンジは書いていません。EdTechの会社の規模と成長の段階、学校法人と教育系企業の規模、職種(営業か企画か事務局か)で差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。
代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、教育・EdTechに固有の働き方の構造(自治体の会計年度が作る繁忙、営業の目標と外回り、学校法人の私学共済、会社の規模と成長の段階で条件の書かれ方が変わること)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。
業界の構造と職種ごとの評価は教育・EdTechは公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。
業界構造の要点——処遇に影響する事業の形
学校は国、地方公共団体、学校法人が設置し(学校教育法第2条)、設置者が経費を負担します(第5条)。公立学校向けの事業を持つEdTechの会社の収入は、自治体の予算で決まる調達に依存し、長は教育に関する予算の議案で教育委員会の意見を聴きます(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第29条)。自治体の会計年度は4月1日に始まり翌年3月31日に終わるので(地方自治法第208条第1項)、公立学校向けの事業は、予算編成の秋から冬に提案が集中し、年度末に納品と検収が集中し、4月に導入が集中する——これが処遇に影響する働き方の周期です。学校法人の職員は、学校法人に使用され報酬を受ける者として私立学校教職員共済制度の加入者になります(私立学校教職員共済法第14条)。
EdTechの会社は、大手の教育系企業の一部門から、創業間もない会社まで幅があり、会社の規模と成長の段階で、就業規則の整い方と条件の書かれ方が変わります。学校法人と教育系企業の公共事業は、委託と指定管理の契約の期間が雇用の期間に影響します。
公務員と民間で「決まり方」がどう違うか
| 項目 | 公務員(地方) | 民間(教育・EdTechを含む) |
|---|---|---|
| 給与の決まり方 | 条例で定める(地方公務員法第24条第5項) | 就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の事業場は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号)。創業間もない会社では就業規則が整う途中のことがある |
| 賞与・手当 | 期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の明示事項(労働基準法施行規則第5条第5号)。営業では成果に連動するインセンティブが賃金の決定・計算の方法として明示される(同条第3号) |
| 退職金 | 退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の記載事項。制度がない会社もありうる(労働基準法第89条第3号の2) |
| 時間外の扱い | 条例・規則で定める | 法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。外回りで労働時間を算定し難いときは事業場外労働のみなし(第38条の2)がありうる |
| 年次有給休暇 | 条例で定める | 雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条) |
| 身分の保障 | 分限処分の事由は法律で限定 | 解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項) |
公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金、手当)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。EdTechではもう一つ線があり、創業間もない会社では就業規則と制度が整う途中で、求人票に書かれた条件が通知書でどう確定するかを、一つずつ確かめる必要があります。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。
教育・EdTechに固有の働き方——法律の側から読む
教育・EdTechには、他の業界にない働き方の構造が4つあります。
1つ目は、自治体の会計年度が作る繁忙です。会計年度は4月1日から翌年3月31日で(地方自治法第208条第1項)、公立学校向けの事業は、予算編成の時期に提案が集中し、年度末に納品と検収が集中し、4月に導入が集中します。財政課の予算編成期の繁忙と同じ周期ですが、立場が逆で、「査定を受ける側の繁忙」になります。面接では「年度末と4月の導入の繁忙をどう組んでいるか」を聞くと、働き方の形が見えます。
2つ目は、営業の目標と外回りです。EdTechの会社の自治体向け営業は、目標を持って教育委員会と学校に働きかける仕事で、固定と変動(インセンティブ)の割合が賃金の決定・計算の方法として明示されます(労働基準法施行規則第5条第3号)。外回りで労働時間を算定し難いときは事業場外労働のみなし(労働基準法第38条の2)が適用されることがあります。財政課で目標を持ったことがない方は、変動の指標と計算式を通知書で確かめてください。
3つ目は、学校法人の私学共済です。学校法人に使用され報酬を受ける教職員等は、私立学校教職員共済制度の加入者になります(私立学校教職員共済法第14条)。事務局の職員も対象で、年金と医療の給付を私学共済の制度を通じて受ける形になります。公務員の共済からの切り替え先が、会社なら健康保険、学校法人なら私学共済と、応募先の種類で変わります。
4つ目は、会社の規模と成長の段階で条件の書かれ方が変わることです。大手の教育系企業の一部門なら就業規則と制度が整っていますが、創業間もない会社では、賞与・退職金・手当の定めが整う途中のことがあります。求人票の条件が「予定」なのか「就業規則に定めがある」のかを、労働条件通知書と就業規則で確かめてください。
労働条件通知書の読み方——確かめる順序
労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。
1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。——担当する業務が自治体・教育委員会向けに特定されているか、業務の変更の範囲に一般の学校や塾向けの営業が含まれるか、学校法人の場合は現場の運営が含まれるか。教育系企業の公共事業では、委託や指定管理の契約の期間と自分の契約期間の関係も見ます。
2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。年度末と4月の導入の繁忙の扱い、事業場外労働のみなしが適用される場合はその旨が書かれているかを見ます。
3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。——固定と変動(インセンティブ)の割合、変動の指標と計算式、時間外の割増賃金の計算の仕方、支払時期。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。
4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。創業間もない会社では、就業規則を見せてもらい、定めが整っているかを確かめてください。
「この条件は妥当か」は、業界のほかの求人と並べないと判断できません。同じ業務で複数の会社・法人の条件を見比べたうえで、条件の読み方から相談できます。
社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの
年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は会社が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。EdTechの会社と教育系企業に入れば、自分の年金と医療は共済から厚生年金と健康保険に切り替わります。学校法人に入る場合は、私立学校教職員共済制度の加入者になり(私立学校教職員共済法第14条)、切り替え先が違います。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。
雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。
退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。
掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。会社・法人ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる
まとめ
- この記事に年収の相場やレンジは書いていません。会社の規模と成長の段階、法人の規模、職種で差が大きく、裏を取った統計がないためです
- 公務員の処遇は法律と条例、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる。賞与・退職金・手当は「定めがある場合」の項目。創業間もない会社では制度が整う途中のことがある
- 固有の構造は、自治体の会計年度が作る繁忙(地方自治法第208条:査定を受ける側の繁忙)、営業の目標と外回り(労働基準法第38条の2)、学校法人の私学共済(私立学校教職員共済法第14条)、会社の規模と条件の書かれ方の4つ
- 労働条件通知書は、業務と就業場所の変更の範囲→労働時間と繁忙・みなしの扱い→賃金の固定と変動の割合→退職金・賞与の定めの有無の順で読む
- 年金と医療は共済から厚生年金・健康保険へ(学校法人は私学共済へ)、雇用保険は新しく被保険者に。退職手当は通算されない
- 会社・法人の条件と財政課に残った場合の見込みを、同じ紙に並べて比較する
よくある質問
EdTechの会社は年度末が忙しいと聞きました。財政課の予算編成期と比べてどうですか
周期は同じで、質が違います。自治体の会計年度は4月1日から翌年3月31日で(地方自治法第208条第1項)、公立学校向けの事業は、予算編成の時期に提案が集中し、年度末に納品と検収が集中し、4月に導入が集中します。財政課の繁忙は自治体の内部の日程で決まる「査定する側の繁忙」でしたが、EdTechの繁忙は自治体の検収と導入の日程に合わせる「査定を受ける側の繁忙」で、自分で日程を動かせません。時間外労働の扱い(労働基準法第37条)と、外回りのみなし(第38条の2)の適用の有無を、面接と通知書で確かめてください。多い少ないは会社と担当する自治体の数によります。
学校法人の事務局に入ると、社会保険はどうなりますか
学校法人に使用され報酬を受ける教職員等は、私立学校教職員共済制度の加入者になります(私立学校教職員共済法第14条)。事務局の職員も対象です。年金と医療の給付を私学共済の制度を通じて受ける形になるので、会社に入る場合(厚生年金と、協会けんぽか健康保険組合)とは切り替え先が違います。公務員の共済からの切り替えの手続きと、保険料の負担、給付の内容は、法人の事務局に確かめてください。専任でない者や臨時に使用される者は加入者から除かれる場合があるので、自分の雇用の形が加入者に当たるかも確かめます。
創業間もないEdTechの会社で、「退職金は今後整備する予定」と言われました。どう考えればよいですか
退職手当は労働条件通知書の「定めをする場合」の事項(労働基準法施行規則第5条第4号の2)なので、「予定」の段階では制度がないと理解してください。就業規則の作成と届出の義務は常時10人以上の事業場に課され(労働基準法第89条)、創業間もない会社では就業規則自体が整う途中のことがあります。問題があるかどうかではなく、「今の時点で定めがあるか」「あるなら就業規則のどこに書かれているか」「ないなら通知書にどう書かれるか」を確かめたうえで、財政課に残った場合の退職手当と、制度が整っている会社に入った場合と、同じ紙に並べて比べてください。「予定」を条件に数えると、比較を読み違えます。
出典
- 学校教育法 第2条(学校の設置者)/第5条(設置者の管理と経費負担)|e-Gov法令検索
- 地方教育行政の組織及び運営に関する法律 第29条(教育委員会の意見聴取)|e-Gov法令検索
- 私立学校教職員共済法 第14条(加入者)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)/第208条(会計年度及びその独立の原則)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第38条の2(事業場外労働のみなし労働時間)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
- 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
- 厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索