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業界研究 / 医療・ヘルスケア

医療・ヘルスケアは公務員のどの経験を評価するか

医療・ヘルスケアは、財政課の方が「医師や看護師の資格がなければ関係のない世界」と感じて候補から外しがちな業界です。この感覚は、診療そのものについては正しく、業界全体については違います。病院と診療所には経営企画、経理、医事、施設管理といった事務の領域があり、医療機器と医薬品の会社には公立病院と自治体を相手にする営業と企画の領域があり、介護事業者には保険者である市町村と向き合う経営管理の領域があります。そのうち自治体と接点を持つ領域では、財政課の経験が直接効きます。

自治体の側から見ると、財政課は公立病院の病院事業会計への繰出金を査定し、国民健康保険と介護保険の特別会計への繰出を査定し、健全化判断比率と資金不足比率を算定し、公立病院の経営形態(地方独立行政法人化や指定管理)の検討に財政面から関わってきた部署です。病院事業には地方公営企業法の財務規定等が適用され(地方公営企業法第2条第2項)、公営企業の経費は独立採算を原則としつつ、性質上企業の収入をもって充てることが適当でない経費などは自治体の一般会計が負担します(地方財政法第6条、地方公営企業法第17条の2)。国民健康保険は都道府県が市町村とともに行い(国民健康保険法第3条第1項)、介護保険は市町村と特別区が保険者で、特別会計を設けます(介護保険法第3条)。病院の経営を「繰出金を出す側」から見て、保険の財政を「保険者の側」から見てきた人は、医療・ヘルスケアの会社の側では少数です。

この記事では、医療・ヘルスケアの業界構造(病院と診療所の制度、公立病院の経営形態、自治体との接点)を法律で押さえたうえで、財政課の経験のうちどこが評価され、どこが評価されないかを、職種ごとに整理します。自治体向けの事業を持つ会社という観点では、自治体向けSaaS・GovTechは公務員のどの経験を評価するかとあわせて読むと、共通する構造が見えます。

業界構造——病院・診療所の制度と、自治体との接点

病院は医師または歯科医師が医業を行う場所で20人以上の患者を入院させる施設を持つもの、診療所はそれ以外のものです(医療法第1条の5)。病院の開設には都道府県知事の許可が要り(第7条)、都道府県は医療提供体制の確保を図る医療計画を定めます(第30条の4)。公立病院は、自治体が地方公営企業として経営する形(地方公営企業法第2条第2項で財務規定等を適用、条例で全部適用も可)、地方独立行政法人として運営する形(地方独立行政法人法第21条の業務)、公の施設として指定管理者に管理を委ねる形(地方自治法第244条の2)があり、それぞれ会計と人事の仕組みが違います。

自治体との接点は、次の形で現れます。

接点の形内容法律上の前提財政課の関わり
公立病院の経営病院事業会計、繰出金、経営強化、経営形態の見直し地方公営企業法第2条第2項、第17条の2、地方財政法第6条、資金不足比率の公表(健全化法第22条)繰出金の査定、資金不足比率の算定、経営形態の検討の財政面
国保と介護保険の財政保険料、給付費、一般会計からの繰出、財政運営国民健康保険法第3条、介護保険法第3条特別会計への繰出の査定、保険料の改定への財政面の関与
地域医療の計画医療計画、地域医療構想、公立病院の役割の整理医療法第30条の4公立病院の役割と投資の財政面の確認
医療機器・医薬品・医療情報システムの調達公立病院と自治体の調達、入札、リース地方自治法第234条の契約方法、病院事業会計の予算病院の投資の査定、リースと起債の比較
介護・健診・保健事業の委託介護予防、健診、データヘルス、保健事業の委託介護保険法、国民健康保険法に基づく事業の委託委託料の査定、実績報告の審査

財政課は、医療・ヘルスケアの会社が「外から提案する」案件のほとんどで、内側にいた部署です。この位置が評価の土台になります。

財政課の経験が効く領域——4つ

1. 病院事業会計の読み方。公営企業会計の損益と資本、繰出金の基準、資金不足比率、起債と減価償却の関係——財政課は繰出金を査定する側として、病院事業会計を毎年読んできました。病院の経営企画や、公立病院の経営を支援するコンサルにとって、「繰出金を出す側が何を見て、どこで渋るか」を知っている人は、事務所と会社の側にいません。

2. 保険者の財政の見え方。国保と介護保険の特別会計で、給付費がどう見込まれ、保険料がどう改定され、一般会計からの繰出がどう決まるか——財政課は繰出を査定する側として、保険者の財政を見てきました。介護事業者と保健事業の会社にとって、保険者である市町村が何を見て委託と給付を判断するかは、外から学びにくい情報です。

3. 経営形態の検討の経緯。公立病院の地方独立行政法人化、指定管理、統合や再編の検討で、財政面から何が論点になり、どう決まったか——財政課はこの検討に関わってきました。病院の経営企画と経営支援のコンサルにとって、「自治体の内側で経営形態がどう議論されるか」は、提案を組むうえで欲しい情報です。

4. 調達と委託の審査の視点。医療機器と情報システムの投資、リースと起債の比較、委託料の積算と実績報告の審査——財政課は病院と保健事業の調達を財政面から審査してきました。医療機器・医薬品・医療情報の会社の官公庁・公立病院向け営業にとって、自治体の側で投資がどう審査されるかは、提案の順序を組むうえで効きます。

職種ごとの評価——財政課の経験はどこで効くか

職種業務財政課の経験の評価評価される部分評価されない部分
病院の経営企画・経理(医療法人・公的病院)経営計画、予算、資金繰り、病院事業会計、自治体との調整高い病院事業会計と繰出金の読み方、経営形態の検討の経緯、予算の作り方診療報酬の請求(医事)の実務は別の経験
公立病院の経営支援(コンサル・監査法人系)経営強化、経営形態の見直し、再編の支援高い自治体の内側で経営形態がどう議論されるか、繰出金の基準、資金不足比率医療の現場の運営は別の経験
医療機器・医薬品・医療情報の官公庁・公立病院営業公立病院と自治体への提案、入札、リース中〜高病院の投資の審査の視点、契約の方法、年度の周期製品と診療の知識、営業の目標への姿勢
介護事業者・保健事業の会社の経営管理保険者との調整、委託の受注、実績報告、経営管理中保険者の財政の見え方、委託料の審査の視点介護の現場の運営、人員の配置の基準
医師・看護師・薬剤師などの医療職診療、看護、調剤低い—国家資格が前提

財政課の経験が最も評価されるのは、病院の経営企画・経理と、公立病院の経営を支援する領域です。医療職の資格は要らず、「繰出金を出す側にいた」ことが価値になります。

評価されない経験——3つの落とし穴

1つ目は、「病院事業会計を読んでいたから病院経営が分かる」の一般化。財政課が読んでいたのは公営企業会計の数字で、病院の経営は診療報酬の仕組み、病床の機能、医師の確保、看護の配置と結びついています。「会計が分かる」と言うより、「繰出金を出す側で何を見ていたか」と言うほうが、病院と会社には伝わります。診療報酬の実務は別の経験として学ぶ前提です。

2つ目は、自分の自治体の運用の一般化。繰出金の基準の運用、経営形態の検討の進め方、保険者の財政の考え方は自治体で違います。「うちの市ではこうだった」を「自治体はこうだ」と言うと、複数の自治体を相手にしてきた病院の経営企画やコンサルには浅く見えます。「自治体の内側では、この判断をこう見る」と、判断の型で語ってください。

3つ目は、医療の現場への敬意を欠く言い方。「病院は赤字だから経営を直す」といった言い方は、医療の現場を知る面接官には、公立病院が担う不採算の医療(地方公営企業法第17条の2で一般会計が負担する経費の性質)を理解していないと見られます。財政課の経験は「不採算の医療をどう財政で支えるかを内側で見てきた」ことで効き、「赤字を減らす」ことで効くのではありません。

自分の経歴が、病院の経営企画と経営支援のコンサルと会社の営業のどこで、どの職種として通るかは、一人で判断するより話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

入り方——職種の選び方と、準備

職種は「自治体との接点」で選びます。財政課の経験が直接効くのは、病院の経営企画・経理と、公立病院の経営支援です。求人票に「公立病院」「自治体」「公営企業」「経営強化」「地域医療」の語があるかを確かめ、なければ「会計が分かる」だけの応募になり、評価は下がります。

準備は、財政課の業務を「病院事業会計」「保険者の財政」「調達と委託」の3つに分けて棚卸しすることから始めます。繰出金の査定で何を見て、どこで戻したか。国保と介護保険の特別会計への繰出で何を見たか。病院の投資と保健事業の委託で何を審査したか。それぞれについて、「法律上の根拠」「自分が見た箇所」「直した経験」を並べます。

経営形態の検討に関わった経験は、別に取り出してください。地方独立行政法人化、指定管理、再編の検討で、財政面から何が論点になり、どう決まったかを、個別の内容ではなく型として整理します。地方公務員法第34条の秘密を守る義務は退職後も続くので、未公表の検討の内容は型にとどめます。

自分の自治体の病院や、契約している会社に応募する場合は、接点を隠さないでください。退職後に元の職場へ職務上の依頼をすることには規制があり(地方公務員法第38条の2)、在職中に応募先とやり取りする場合は勤務時間外に行います。接点があること自体は問題ではなく、応募先にも伝えるほうが安全です。

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まとめ

よくある質問

医療の資格も知識もありませんが、病院や医療の会社に入れますか

入れる領域があります。病院と診療所の事務部門(経営企画、経理、医事、施設管理)、医療機器・医薬品・医療情報の会社の営業と企画、介護事業者と保健事業の会社の経営管理は、医療職の資格を前提としません。財政課の経験が効くのは、公立病院の繰出金を出す側、国保と介護保険の保険者の側、病院の投資と保健事業の委託を審査する側にいた経験で、それは病院と会社の側にはない視点です。ただし、診療報酬の仕組み、病床の機能、介護の人員基準は入った後に学ぶ前提で、「会計が分かる」を売りにするのは避けてください。

財政課で公立病院の繰出金に直接関わったことがありません。素材はありますか

あります。国保と介護保険の特別会計への繰出の査定、健診や介護予防の委託料の査定と実績報告の審査、健全化判断比率と資金不足比率の算定、公の施設の指定管理の審査に関わっていれば、それが「保険者の財政」「調達と委託」の素材です。病院の繰出金に関わっていなくても、「保険者である市町村が給付と委託をどう見るか」「実績報告のどこで戻すか」を知っている人は、介護事業者と保健事業の会社にいません。棚卸しは「病院事業会計」「保険者の財政」「調達と委託」の3つに分け、自分が見た箇所と直した経験を並べてください。

自分の自治体の公立病院の経営を支援しているコンサルに応募したいのですが、問題になりますか

応募すること自体は問題ありませんが、線があります。退職後に、再就職者が元の職場に職務上の依頼をすることには規制があり(地方公務員法第38条の2)、在職中に応募先とやり取りする場合は勤務時間外に行います。また、そのコンサルは自分の自治体の病院の経営形態の検討や再編に関わっているので、面接でその検討の個別の内容——未公表の再編の方向、繰出金の交渉の経緯、病院側の内部の事情——を話すことは、秘密を守る義務(第34条)に触れます。話してよいのは「自治体の内側では繰出金と経営形態をこう見る」という型です。接点があることは隠さず、応募先にも伝えておくと、会社の側も案件の切り分けを考えられます。

出典

  1. 医療法 第1条の5(病院・診療所の定義)/第7条(開設の許可)/第30条の4(医療計画)|e-Gov法令検索
  2. 地方公営企業法 第2条(この法律の適用を受ける企業の範囲)/第17条の2(経費の負担の原則)|e-Gov法令検索
  3. 地方財政法 第6条(公営企業の経営)|e-Gov法令検索
  4. 地方公共団体の財政の健全化に関する法律 第22条(資金不足比率の公表等)|e-Gov法令検索
  5. 国民健康保険法 第3条(保険者)|e-Gov法令検索
  6. 介護保険法 第3条(保険者)|e-Gov法令検索
  7. 地方独立行政法人法 第21条(業務の範囲)|e-Gov法令検索
  8. 地方自治法 第244条の2(公の施設の設置、管理及び廃止)|e-Gov法令検索
  9. 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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