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業界研究 / 医療・ヘルスケア

医療・ヘルスケアの年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか

医療・ヘルスケアへの転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、医療・ヘルスケアの年収の相場やレンジは書いていません。病院の規模と開設者(医療法人、公的な病院、公立病院)、会社の規模と職種(経営企画か営業か経営管理か)で差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。

代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、医療・ヘルスケアに固有の働き方の構造(診療報酬で収入が決まる病院の構造、医事と受付の交代制、会社の営業の目標と外回り、公立病院と医療法人の処遇の決まり方の違い)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。

業界の構造と職種ごとの評価は医療・ヘルスケアは公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。

業界構造の要点——処遇に影響する事業の形

病院は20人以上の患者を入院させる施設を持ち(医療法第1条の5)、民間の病院は医療法人(第39条)などが開設します。病院の収入の中心は、保険者が保険医療機関に支払う療養の給付に関する費用で、その額は厚生労働大臣が定めるところにより算定されます(健康保険法第76条第1項、第2項)。病院は値段を自分で決められず、収入の原資は国が定める診療報酬で決まる——これが処遇に影響する最も大きな構造です。公立病院では、地方公営企業法の財務規定等が適用され(地方公営企業法第2条第2項)、不採算の医療の経費は一般会計が負担します(第17条の2)。

医療機器・医薬品・医療情報の会社の収入は製品と提案で決まり、営業には目標が置かれます。介護事業者と保健事業の会社の収入は、介護報酬と自治体からの委託料で決まります。病院と介護事業者は「公的な報酬で収入が決まる」構造、会社は「提案と目標で収入が決まる」構造で、処遇の原資の性質が違います。

公務員と民間で「決まり方」がどう違うか

項目公務員(地方)民間(医療・ヘルスケアを含む)
給与の決まり方条例で定める(地方公務員法第24条第5項)。公立病院の職員も同じ枠組み就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の事業場は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号)
賞与・手当期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項)「定めをする場合」の明示事項(労働基準法施行規則第5条第5号)。職種ごとの手当の設計は病院による
退職金退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項)「定めをする場合」の記載事項。制度がない法人もありうる(労働基準法第89条第3号の2)
時間外の扱い条例・規則で定める法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。医事・受付では1か月単位の変形労働時間制(第32条の2)、営業では事業場外労働のみなし(第38条の2)がありうる
年次有給休暇条例で定める雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条)
身分の保障分限処分の事由は法律で限定解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項)

公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金、手当)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。医療ではもう一つ線があり、公立病院の職員は地方公務員で、処遇は条例と規程で決まるのに対し、医療法人の病院は就業規則と労働契約で決まります。同じ「病院の経営企画」でも、開設者で決まり方が違います。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。

医療・ヘルスケアに固有の働き方——法律の側から読む

医療・ヘルスケアには、他の業界にない働き方の構造が4つあります。

1つ目は、診療報酬で収入が決まる構造です。療養の給付に要する費用の額は厚生労働大臣が定めるところにより算定され(健康保険法第76条第2項)、病院は値段を決められません。処遇の原資は診療報酬の算定と病床の稼働で決まり、経営企画の仕事はこの構造の中で収支を組むことです。財政課の「予算を査定して配分する」働き方と違い、「決まった単価の中で収入を作る」働き方になります。面接では「病院の収入の構造と、事務職の処遇がどう連動しているか」を聞くと、処遇の見通しが見えます。

2つ目は、医事と受付の交代制です。病院は診療の時間に合わせて動くので、医事と受付には早番・遅番や休日の当番があり、1か月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)で所定労働時間を組む病院があります。経営企画と経理は日勤が中心ですが、業務の変更の範囲に医事や受付が含まれていれば、交代制に回る可能性があります。労働条件通知書で業務の変更の範囲を確かめてください。

3つ目は、会社の営業の目標と外回りです。医療機器・医薬品・医療情報の会社の官公庁・公立病院営業は、目標を持って病院と自治体に働きかける仕事で、外回りで労働時間を算定し難いときは事業場外労働のみなし(労働基準法第38条の2)が適用されることがあります。固定と変動(インセンティブ)の割合と、みなしの適用の有無は、通知書で確かめる項目です。

4つ目は、公立病院と医療法人の処遇の決まり方の違いです。公立病院の職員は地方公務員で、処遇は条例と規程で決まり、財政課の方にとっては「今の枠組みの中での異動」に近い形です。医療法人の病院は就業規則と労働契約で決まり、賞与・退職金・手当は「定めがある場合」の項目になります。同じ病院の経営企画でも、開設者で確かめる順序が違います。

労働条件通知書の読み方——確かめる順序

労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。

1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。——担当する業務が経営企画・経理に特定されているか、業務の変更の範囲に医事・受付・施設管理が含まれるか、法人が複数の施設を持つ場合の就業場所の範囲。会社の営業では、担当が公立病院・自治体に特定されているか、一般の医療機関が含まれるかを見ます。

2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。1か月単位の変形労働時間制や交代制が適用される場合は、その旨と勤務の組み方が書かれているかを見ます。営業で事業場外労働のみなしが適用される場合も、ここで確かめます。

3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。——基本給と手当の内訳、事務職に付く手当の有無、営業では固定と変動の割合と変動の指標、時間外の割増賃金の計算の仕方、支払時期。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。

4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。書かれていない場合は、就業規則を見せてもらい、制度の有無を確認してください。

「この条件は妥当か」は、業界のほかの求人と並べないと判断できません。同じ業務で複数の病院・会社の条件を見比べたうえで、条件の読み方から相談できます。

社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの

年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は法人や会社が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。医療の事業を行う事業所は常時5人以上の従業員を使用する場合に適用事業所となり(厚生年金保険法第6条第1項第1号カ)、医療法人などの法人は常時従業員を使用していれば適用事業所です(同項第2号)。医療法人の病院と会社に入れば、自分の年金と医療は共済から厚生年金と健康保険に切り替わります。公立病院の職員として採用される場合は共済のままです。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。

雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。

退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。

掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。病院・会社ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる

まとめ

よくある質問

病院の事務職は給与が低いと聞きました。財政課と比べてどうですか

数字では答えられません。病院の収入は厚生労働大臣が定めるところにより算定される診療報酬で決まり(健康保険法第76条第2項)、事務職の処遇は病院の収支と就業規則で決まるので、病院の開設者と規模、地域、職種で差があり、当社が裏を取った統計はありません。財政課と比べるときは、給料の額だけでなく、賞与と退職金の定めの有無、手当の内訳、業務の変更の範囲(交代制に回る可能性)、昇給の仕組みを通知書と就業規則で確かめ、財政課に残った場合の給料表の先と退職手当、共済の年金と、同じ紙に並べてください。「低い」「高い」は、並べて初めて言えます。

医療機器の会社の官公庁営業は、みなし労働時間と歩合があると言われました。財政課と何が違いますか

2つの点で違います。1つ目は労働時間で、外回りで労働時間を算定し難いときは事業場外労働のみなし(労働基準法第38条の2)が適用され、所定労働時間や労使協定で定めた時間を働いたものとみなされます。財政課の時間外勤務手当のように実際の時間で計算される形とは違うので、みなしの適用の有無と、みなしの時間、それを超える労働の扱いを通知書で確かめます。2つ目は賃金で、固定と変動(インセンティブ)の割合と変動の指標が、賃金の決定・計算の方法として明示されます(労働基準法施行規則第5条第3号)。年俸制でも法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。

公立病院の事務職として採用される場合、処遇は民間と同じですか

違います。公立病院の職員は地方公務員で、給与は条例で定められ(地方公務員法第24条第5項)、年金と医療は共済のまま、退職手当も条例で決まります。地方公営企業法の財務規定等が適用される病院事業(地方公営企業法第2条第2項)でも、職員の処遇の枠組みは自治体の条例と規程です。財政課の方にとっては、転職というより自治体内の異動や他の自治体への採用に近い形で、この記事で書いた「就業規則と労働契約で決まる」構造は当てはまりません。一方、医療法人の病院や地方独立行政法人化した病院では、処遇は就業規則と労働契約(または法人の規程)で決まるので、開設者と運営の形態を先に確かめてから、確かめる順序を選んでください。

出典

  1. 医療法 第1条の5(病院・診療所の定義)/第39条(医療法人)|e-Gov法令検索
  2. 健康保険法 第76条(療養の給付に関する費用)|e-Gov法令検索
  3. 地方公営企業法 第2条(この法律の適用を受ける企業の範囲)/第17条の2(経費の負担の原則)|e-Gov法令検索
  4. 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
  5. 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)|e-Gov法令検索
  6. 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第38条の2(事業場外労働のみなし労働時間)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
  7. 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
  8. 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
  9. 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
  10. 厚生年金保険法 第6条(適用事業所)/第9条(被保険者)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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