業界研究 / 商社
商社の志望動機|公務員からの転職でどう組み立てるか
商社の志望動機で、いちばん多く見かける書き出しがあります。
「スケールの大きな仕事に関わりたいと考えました」
これは、ほぼ通りません。理由は単純で、その一文が、どの商社にも、どの職種にも当てはまるからです。
そして、もう一つ問題があります。「スケール」は、商社が売っているものではありません。
商社が引き受けているものは、法律の条文に書かれています。この記事では、そこから志望動機を組み立てる手順を扱います。
商社の機能の整理は未経験から商社に入るには、条件の確かめ方は商社の年収と働き方にあります。
商社は、自分の名前で義務を負っています
商法第551条は、問屋を次のように定義しています。
> この章において「問屋」とは、自己の名をもって他人のために物品の販売又は買入れをすることを業とする者をいう。
そして、商法第552条です。
> (問屋の権利義務)第五百五十二条 問屋は、他人のためにした販売又は買入れにより、相手方に対して、自ら権利を取得し、義務を負う。>> 2 問屋と委託者との間の関係については、この章に定めるもののほか、委任及び代理に関する規定を準用する。
第1項が、この業界の性格を決めています。
「自ら権利を取得し、義務を負う」です。他人のために取引をするのに、相手方に対しては自分が当事者になる。
仲介して手数料を取るだけの立場ではありません。代金が回収できなければ、自分が負います。品物が届かなければ、自分が説明する側に立ちます。
つまり、商社が売っているのは「つなぐこと」ではなく「間に立って責任を引き受けること」です。
志望動機は、ここに接続させてください。
3つの層に分けます
| 層 | 問い | 材料の出どころ |
|---|---|---|
| ① 機能 | なぜ、間に立つ仕事なのか | 役所での担当の経験 |
| ② 分野 | なぜ、この分野・この会社なのか | 会社の公表資料 |
| ③ 立場 | なぜ、行政ではなく事業者の側なのか | 自分の考えの変化 |
「スケールの大きな仕事」は、この3つのどこにも入りません。だから通らないのです。
① 間に立つ経験は、役所にあります
ここが、公務員から商社を志望する方の、いちばん強い材料です。
| 役所での経験 | 商社での対応する場面 |
|---|---|
| 用地の折衝 | 利害が対立する相手の間で条件をまとめる |
| 補助金の交付と実績の確認 | 委託元と実施者の間に立つ |
| 工事の発注と監督 | 発注者と施工者の間で工程を調整する |
| 事業者の指導と苦情の対応 | 取引先と社内の間で説明する |
| 庁内の他部署との協議 | 利害の違う部署をまとめる |
| 議会・住民への説明 | 説明の責任を負う |
書き方は、「調整しました」で止めないでください。何を引き受けたかを書きます。
> 道路の事業に係る用地の取得を担当し、相続が進んで権利者が多数にのぼる案件を◯件処理しました。権利者ごとに事情が違うため、事業の工期という動かせない期限と、個別の事情の間に立って、順序と条件を組み立てる仕事でした。
「間に立って、期限を背負った」という形になっています。これが、商法第552条の構造と重なります。
② 分野と会社は、公表資料から取ります
商社の志望動機で、②を書ける人は多くありません。
総合商社でも専門商社でも、公表されている資料があります。
| 資料 | 志望動機に使える材料 |
|---|---|
| 公式サイトの事業の紹介 | どの分野を、どういう機能で扱っているか |
| 会社の沿革 | 何から始まって、どこへ広げたか |
| 決算の説明の資料 | どの事業を伸ばそうとしているか |
| 求人票の仕事内容 | その職種の日々の中身 |
| 採用のページの社員の紹介 | 中途で入った人がどこにいるか |
使い方は、「読みました」ではなく「読んで、自分の経験とどこが重なったか」です。
> 貴社が扱われている分野のうち、廃棄物の処理と資源の循環に関する事業について拝見しました。私は環境部局で、処理業者の許可と立入検査を担当していました。許可の基準と、事業者が実際に苦労している点の両方を見てきたので、この分野の取引では、相手の事情を具体的に読めると考えています。
「読んだ」で終わらず、「だから自分の経験がどこで効くか」まで書くのが型です。
③ 行政ではなく、事業者の側である理由
公務員から応募する場合、必ず問われます。
相手が確かめたいのは2つです。
| 相手の懸念 | 確かめたいこと |
|---|---|
| 数字の責任を負えるのか | 予算の執行との違いを分かっているか |
| 役所の目線のまま来ないか | 取引先の側に立てるか |
答え方の型は、「決める側から、決めた結果を負う側へ」です。
> 補助金を交付する側として、要件を定め、審査し、実績を確認していました。制度を設計する側は、結果が出たあとに検証はしますが、結果そのものを負うわけではありません。自分が決めたことの結果を、自分で負う側に移りたいと考えました。
もう一つの型は、「制度の外側の実務を見たい」です。
> 立入検査で事業者の現場に入る中で、制度に適合させるために事業者が何を組み替えているかを見てきました。指導する側からは、その工夫の部分が見えません。仕組みを作る側で関わりたいと考えました。
⚠ 避けてください——役所の批判から入る書き方です。
「意思決定が遅い」「縦割りで動けない」。この書き出しは、読む側から見ると、次は当社の悪いところを外で言う人に見えます。
役割が違う、という整理にしてください。
公務員の経験が効く場所・効きにくい場所
効く場所
| 経験 | 志望動機での使い方 |
|---|---|
| 契約・入札の事務 | 契約の条件を読み、詰める動作が同じ |
| 許認可の審査 | 輸出管理・与信の審査に直結する |
| 補助金の交付・検査 | 委託元と実施者の間に立つ経験 |
| 用地・滞納などの折衝 | 利害の対立する相手との合意形成 |
| 官公庁が相手の分野 | 相手の意思決定の流れと時期が読める |
| 監査の対応 | 記録を残して説明する習慣 |
効きにくい場所
| 経験の不足 | 面接での扱い方 |
|---|---|
| 新規の取引先の開拓 | 無いことを認めて、近い経験を出す |
| 値決めと採算の判断 | 構造の理解を示す(上の見解のとおり) |
| 相場の変動への対応 | 入ってから学ぶ領域 |
| 海外での商談 | できる範囲を具体的に言う |
効きにくい場所を隠して書かないでください。入ったあとに差が出ます。
「経験はありませんが、◯◯の場面が近いと考えています」という並べ方が、いちばん自然です。
材料を集める順番
| 順 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 間に立った経験を3つ書き出す | 30分 |
| 2 | そのうち、期限や金額を背負ったものに印を付ける | 20分 |
| 3 | 応募する会社の事業の分野を確認する | 1時間 |
| 4 | 自分が関わった分野と重なるものを探す | 30分 |
| 5 | ③の型(結果を負う側へ/制度の外側を見たい)を決める | 20分 |
| 6 | ①②③をつなげて300字にまとめる | 40分 |
2つ目が、この業界では効きます。
期限や金額を背負った経験は、商法第552条の「自ら義務を負う」と構造が重なるからです。背負ったことがある、という事実が材料になります。
経験の言い換えから相談することもできます。ご利用は無料です(紹介手数料は採用企業の負担です)。
面接で聞かれやすいこと
| 聞かれること | 何を確かめられているか |
|---|---|
| なぜ商社なのですか | 機能で答えられるか |
| 数字の責任について、どう考えていますか | 構造を理解しているか |
| 取引先と社内で意見が割れたら | 間に立つ構え |
| 前例の無い案件に、どう向き合いますか | 判断の作り方 |
| 行政が相手の案件で、どちらの立場に立ちますか | 元の所属に引きずられないか |
5つ目は、公務員から移る方に必ず聞かれます。
答え方は、「会社の側に立ちます。ただし、行政の側の制約も分かるので、通らない提案をしないで済みます」という形が自然です。
まとめ
- 「スケールの大きな仕事」は、志望動機になりません。どの商社にも、どの職種にも当てはまるためです
- 商法第551条は、問屋を「自己の名をもって他人のために物品の販売又は買入れをすることを業とする者」と定義しています
- 商法第552条第1項は、問屋が「相手方に対して、自ら権利を取得し、義務を負う」と定めています。商社が売っているのは、間に立って責任を引き受けることです
- 志望動機は、①機能(なぜ間に立つ仕事か) ②分野・会社 ③行政ではない理由の3層に分けます
- ①の材料は、用地の折衝、補助金の交付と検査、工事の発注と監督、事業者の指導などにあります。「調整した」ではなく「何を引き受けたか」で書きます
- ②は公表資料から取り、「読んで、自分の経験とどこが重なったか」まで書きます
- ③は、「決める側から、決めた結果を負う側へ」または「制度の外側の実務を見たい」の型で書きます。役所の批判から入らないでください
- 数字の責任は、覚悟ではなく構造の理解で示してください。予算の管理と損益の管理は、見る方向が逆です
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
よくある質問
語学や海外の経験がないと、志望動機として弱いですか
職種によります。海外との取引を直接担う職種では要件になりますが、国内の取引が中心の専門商社や、経理・法務・輸出管理・与信などの職種では、要件になっていない募集もあります。志望動機の側で無理に海外への関心を書くと、要件を満たしていないことが目立つという逆の効果になることがあります。自分が担える機能を前に出してください。そのうえで、学習中であればそれを書くのは構いません。ただし、「これから勉強します」だけでは材料になりません。いま何をしているかを具体的に書いてください。判断の目安は、求人票の応募条件です。書かれていない要件を、志望動機で先回りして埋める必要はありません。
前職の分野と、商社の扱う分野が重なりません
①の機能の層で勝負してください。②の分野が重ならない場合、間に立つ経験と、審査・契約・折衝の実務が材料になります。書き方は、「分野の知識は入ってから覚えますが、◯◯の動作は担ってきました」という形です。そのうえで、分野の学習を始めておくと説得力が増します。公式サイトの事業の紹介、業界の団体が公表している資料、取り扱う品目の基礎。1〜2週間で、面接で話が通じる程度にはなります。なお、分野が重ならないことを、応募しない理由にしないでください。この業界の中途採用は、機能で募集されることが多いです。分野は、入ってから紐づきます。
志望動機は、何社ぶん書き分ける必要がありますか
①は共通で構いません。②と③は、会社ごとに書き直してください。①は「なぜ間に立つ仕事か」なので、同じ経験が材料になります。②はその会社の資料から取った材料なので、使い回すと読んでいないことが分かります。③も、会社の性格で説得力のある型が変わります。官公庁が相手の事業が多い会社なら「制度を知っている立場で事業者の側に回る」、消費者に近い分野なら「制度の外側の実務を見たい」。同じ言葉でも、置く場所で意味が変わります。なお、応募先を絞りすぎないほうが、③を言葉にする機会が増えます。