部署別 / 監査委員事務局
監査委員事務局からの転職先|向いている5方向と、合いにくい方向
監査委員事務局からの転職は、行き先がはっきりしているほうです。
理由は単純で、企業の内部監査が、慢性的に人手不足だからです。
内部監査は、経験者を採りたいが、経験者の母数が小さいという職種です。そのため、公的機関で監査の実務を回してきた人には、一定の需要があります。
ただし、方向によって求められるものが変わります。そこを整理しないまま「監査」で検索すると、会計監査人(公認会計士)の求人ばかり見ることになります。
この記事では、向いている5方向と、合いにくい方向、それに資格と検索語を並べます。
仕事の言い換えは監査委員事務局の経験は民間で何と呼ばれるかに書いています。
「財務」だけでなく「事業の管理」まで見てきました
方向の話に入る前に、この部署が何を見てきたかを条文で確認します。行き先の幅を決める部分です。
地方自治法第199条第1項は、こう定めています。
監査委員は、普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び普通地方公共団体の経営に係る事業の管理を監査する。
財務に関する事務の執行と、経営に係る事業の管理。2つ書かれています。
そして第2項では、こう続きます。
監査委員は、前項に定めるもののほか、必要があると認めるときは、普通地方公共団体の事務の執行について監査をすることができる。
つまり、財務だけを見てきたわけではありません。
- 財務(予算の執行、契約、収入と支出、財産の管理)
- 事業の管理(水道、病院、交通などの経営)
- 必要があれば、事務の執行全般
この3層を扱ってきたというのが、この経歴の幅です。
企業の内部監査でいえば、財務監査と業務監査の両方を回してきたということになります。どちらか一方しか経験がない人は、民間にも多くいます。
面接では、この2つを分けて話してください。「監査をしていました」ではなく、「財務の監査と、事業の管理の監査の両方を扱っていました」と言えます。
向いている5つの方向
1. 企業の内部監査部門
いちばん直線的につながる方向です。
年間計画、往査、報告、フォローアップ。工程が同じなので、説明がそのまま通ります。
そして、内部監査は経験者が不足しています。上場企業では内部統制の評価が毎年必要で、担当者の需要が続く一方、育成に時間がかかる職種だからです。
| 見るべき求人 | 前に出す経験 |
|---|---|
| 内部監査室の中途採用 | 年間監査計画、往査、報告書、是正の確認 |
| 内部統制(財務報告)の評価担当 | 規程と実態の突合、証憑の徴求 |
| グループ会社・海外拠点の監査 | 複数部署を計画的に回した経験 |
「何部署を、年間何件、どういう観点で見たか」を書けば、規模感が伝わります。
もう一点、上場企業の内部監査は、監査等委員会や監査役会への報告まで含むことがあります。合議体に対して監査の結果を説明するという場面は、監査委員に報告してきた経験とそのまま重なります。報告の相手が合議体であることに慣れている、というのは書いておく価値があります。
2. 経理・財務、決算の実務
決算審査と例月出納検査の経験が効きます。
現金や預金の残高を、帳簿と証憑で毎月検証するという作業は、企業の月次決算の統制とそのまま重なります。
ただし、公会計と企業会計は体系が違います。そのままでは置き換わらないので、「数字の裏づけを帳票までたどる習慣」という形で説明してください。日商簿記2級があると、この方向の書類は明確に通りやすくなります。
3. リスク管理・コンプライアンス・内部統制
住民監査請求の処理の経験が、ここで効きます。
外部から申立てを受け、事実関係を調べ、結論を出し、公表する。企業の内部通報対応と構造が同じです。
しかも、申立てを受ける側の手続を経験している人は多くありません。受理するかどうかの判断、調査の範囲の決め方、結論の書き方、公表の仕方。これらを一度でも通していれば、強い材料になります。
さらに、指定管理者や補助金の交付先に対する監査を担当していた方は、この方向が広がります。組織の外にある相手を、契約や交付要綱を根拠に監査するという構造が、企業の委託先監査や関係会社監査とそのまま同じだからです。件数と、対象の種類を書いてください。
4. 監査法人・コンサルティング会社の公会計部門
包括外部監査の支援、公会計の整備支援、自治体向けの内部統制の導入支援、財政の分析。
自治体の監査の実際を内側から知っていることが、そのまま提案の材料になります。
健全化判断比率の審査に関わっていた方は、この方向で特に強くなります。財政指標の読み方と、その裏にある数字の作られ方の両方を知っているためです。
5. 独立行政法人・学校法人・社会福祉法人などの法人監査
監事の補助、法人内部の監査部門、内部統制の担当。
これらの法人は、公的な性格を持ちながら、企業会計に近い会計を採用しています。自治体の監査の経験と、法人監査の実務が、ちょうど中間で重なります。
規模が小さい法人では、監査と総務・経理を兼務することが多いのですが、監査委員事務局も少人数で複数の監査を回しているので、この点は合います。
合いにくい方向
正直に書いておきます。
1. 会計監査人・監査法人の法定監査
公認会計士の資格が前提になります。監査委員事務局の経験があっても、資格がなければこの業務には就けません。同じ「監査」でも別の職業だと考えてください。
2. 税務・税理士業務
税務は、監査とは別の専門領域です。税務課での経験がある方なら別ですが、監査委員事務局の経験だけでは接続しません。
3. 営業職
監査は、正確さと独立性で成り立つ仕事です。目標を持って新規に働きかける仕事とは、求められるものが変わります。自治体向け企業でも、提案・支援側のポジションかどうかを確認してください。
4. 立ち上げ期の会社の管理部門一人目
すでにある規程や帳票を前提に、そのとおり行われているかを見るのが監査の仕事です。規程そのものを一から作る場面では、前提が変わります。規程の整備まで担当した経験がある方なら別ですが、そうでなければ体制ができている組織のほうが合います。
5. 短期の数字で評価される職種
監査の成果は、年度単位のサイクルで出ます。月次の目標を積み上げる形で評価される職種では、働き方の前提が変わります。
役に立つ資格
必須の資格はありません。ただし、方向によっては書類の通りやすさが大きく変わります。
| 資格 | 効く方向 | 補足 |
|---|---|---|
| 日商簿記2級 | 内部監査、経理、法人監査 | 優先度が最も高い。企業会計の側を通せる |
| 公認内部監査人 | 内部監査 | 取得に時間はかかるが、方向が定まる |
| ビジネス実務法務検定2級 | コンプライアンス、内部統制 | 会社法の基礎が入る |
| 公認不正検査士 | 不正調査、コンプライアンス | 住民監査請求の経験と組み合わせると効く |
| 情報処理の基本情報など | 情報システム監査 | 監査対象が広がる |
優先順位をつけるなら、日商簿記2級です。公会計しか経験がないという不安を、いちばん短い時間で埋められます。
求人を探すときの検索語
「監査」だけで探さないでください。
| 見たい方向 | 検索語 |
|---|---|
| 内部監査 | 内部監査/監査室/往査/監査計画 |
| 内部統制 | 内部統制/財務報告に係る内部統制/統制評価 |
| コンプライアンス | コンプライアンス/内部通報/不正調査/リスク管理 |
| 経理 | 月次決算/証憑/原価/決算業務 |
| 自治体向け・公会計 | 公会計/地方公共団体/パブリックセクター/包括外部監査 |
| 法人監査 | 監事補助/法人監査/学校法人/社会福祉法人 |
「内部監査」と「内部統制」は、必ず両方回してください。同じ部署の求人が、会社によって違う語で出ています。
つまずきやすい点
1. 「監査」で検索して、会計監査人の求人を見る
必須要件の欄に「公認会計士」と書かれているかどうかで切り分けてください。
2. 財務と事業の管理を分けて話さない
第199条は2つを並べています。両方扱ってきたことが、この経歴の幅です。
3. 住民監査請求の経験を落とす
外部から申立てを受ける側の手続を経験している人は多くありません。
4. 公会計の経験をそのまま企業会計に置き換える
体系が違います。「数字の裏づけを帳票までたどる習慣」として説明してください。
5. 方向を1つに絞りすぎる
内部監査と内部統制は、説明の型が近いので並行して見られます。書類の作り直しが少なく済みます。
どの方向で値が付くかは、募集の出方で変わります。どの経験に値が付くのかから相談できます。
まとめ
- 地方自治法第199条は、監査委員が財務に関する事務の執行と経営に係る事業の管理を監査し、必要があれば事務の執行全般も監査できると定めています。3層を扱ってきたことが幅です
- 向いているのは、①企業の内部監査 ②経理・財務 ③リスク管理とコンプライアンス ④監査法人・コンサルの公会計部門 ⑤法人監査(独法・学校法人・社会福祉法人)の5方向です
- 合いにくいのは、会計監査人の法定監査/税務/営業職/立ち上げ期の一人目/短期の数字で評価される職種です
- 資格を1つ選ぶなら日商簿記2級。公会計しか経験がないという不安を、いちばん短い時間で埋められます
- 検索は「内部監査」と「内部統制」を必ず両方回してください。会社によって語が違います
よくある質問
公認会計士の資格がないと、監査の仕事は続けられませんか
続けられます。企業の内部監査は、資格を前提としない職種です。求められるのは、計画を立て、証憑を求め、突合し、報告を書き、是正を追跡する実務のほうです。資格が前提になるのは、会計監査人としての法定監査に限られます。求人票の必須要件を見れば区別できるので、「監査」という語だけで諦めないでください。
監査委員事務局にいた年数が短いのですが、応募できますか
一巡していれば応募できます。目安は、定期監査を一通り回し、例月出納検査を12回、決算審査を一度経験していることです。この状態なら、年間のサイクルを説明できます。逆に、まだ半年程度で例月出納検査しか経験していない場合は、書類に書ける件数が足りないので、一年通してからのほうが説明が楽になります。
前の部署が財政や会計だと、有利になりますか
明確に有利です。とくに、財政課で予算の査定をしていた方や、会計課で支出の審査をしていた方は、監査で見る側と、見られる側の両方を知っていることになります。企業の内部監査でも、経理の実務経験がある監査担当は重宝されます。書類では、前の部署の経験を「監査で何を見るべきかが分かる根拠」として書いてください。時系列で並べるだけでは、この接続が伝わりません。