部署別 / 建築指導課
建築指導課の経験は民間で何と呼ばれるか
建築指導課の経験は、求人票の言葉に直すとまったく別の名前で呼ばれています。
「建築確認、建築指導に関する業務」
この書き方では、民間の採用担当には何も伝わりません。
実際にやっていたのは、図面と条文を突き合わせて、建てられるかどうかを判定し、建った後も基準を満たしているかを確かめるという仕事です。
そして、この判定ができる人は、民間の側にも多くありません。
この記事では、庁内の呼び名を民間の言葉に置き換え、中核スキルを5つの工程に分けて整理します。
「最低の基準を定めて」
最初に、この仕事の立ち位置を条文で押さえます。経験の値を決める部分です。
建築基準法第1条は、目的をこう定めています。
この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
「最低の基準を定めて」。
ここが要点です。
この法律は、「良い建物」を定めているのではありません。ここから下は許さない、という線を定めています。
つまり、扱ってきたのは、「最低限を満たしているかどうか」の判定です。
これは、民間でいえば、品質の基準の適合性の確認にあたります。
そして、この構造には、2つの意味があります。
1つ目は、基準を満たしていれば、原則として認めなければならないということです。気に入らないから通さない、ということができません。
2つ目は、基準を満たしていなければ、どんな事情があっても通せないということです。期限が迫っていても、費用がかかっていても、変わりません。
この「裁量のない判定」を、毎日やってきた——それが、この経歴の値です。
民間では、この判定を外部に頼っています。そして、頼る前に社内で見当を付けられる人がいれば、手戻りが減ります。
民間での訳語
| 庁内での呼び名 | 民間での呼ばれ方 |
|---|---|
| 建築確認の審査 | 法令適合性の確認・法規のチェック |
| 構造の審査 | 構造の安全性の確認 |
| 中間検査・完了検査 | 工程の検査・竣工の検査 |
| 建築の相談 | 計画の初期段階の法規の相談 |
| 定期報告の受理と確認 | 設備・建物の維持の管理の確認 |
| 違反の建築物への対応 | 是正の指導・不適合への対応 |
| 特定行政庁としての事務 | 許認可の実務 |
| 道路の位置の指定 | 接道の要件の整理 |
| 用途の変更の審査 | 用途の適合性の判定 |
| 既存不適格の判断 | 既存の建物の法令上の扱いの整理 |
| 建築計画概要書の閲覧 | 建物の履歴の情報の管理 |
| 耐震改修の促進 | 既存の建物の安全性の向上の支援 |
上から4行目までが、いちばん値の付く並びです。図面と条文を突き合わせて可否を判定し、現地で確かめる——これは、設計でも施工でも、必ず必要になる機能です。
中核スキルを5つの工程に分ける
この部署の中核は、「図面と現物が、基準に適合しているかを判定すること」です。
工程1:読む(図面と条文を突き合わせる)
配置図、平面図、立面図、断面図、構造の計算書。それに対して、用途、建ぺい率、容積率、高さ、斜線、日影、採光、換気、防火、避難、構造。
この工程に固有の制約があります。確認すべき項目が、非常に多い。そして、そのうち1つでも見落とすと、建った後に問題になります。
だから、順番と、チェックの形が決まっていきます。どの図面から見るか、どの数字を先に確かめるか。
これは、民間の品質の確認でも同じです。項目が多い検査を、漏れなく、同じ品質で繰り返す——その技術が問われます。
工程2:確かめる(現地と、実物を見る)
中間の検査、完了の検査、違反の疑いがある建物の現地の確認。
この工程に固有の制約があります。図面どおりに建っているとは限りません。そして、完成してからでは見えない部分があります。だから、中間の検査は、隠れてしまう前に見ます。
「見えなくなる前に確かめる」——これは、民間の施工の管理や、設備の検査と、まったく同じ考え方です。
工程3:相談に応じる(申請の前に、見当を付ける)
計画の初期段階での相談、他法令との関係の整理、必要な手続の案内。
この工程に固有の制約があります。この段階では、まだ図面が固まっていません。だから、確定的なことは言えません。しかし、方向が違っていれば、早く言わなければ相手が損をします。
つまり、「断定はできないが、方向は示す」という話し方が必要になります。
これは、民間の相談の場面でも、そのまま求められる技術です。
工程4:直させる(違反と、不適合への対応)
違反の建築物への指導、是正の計画の確認、経過の記録。
この工程に固有の制約があります。すでに建っているものを直すのは、造るより難しい。費用も、時間も、居住している人の事情もあります。そして、相手は納得していないことが多い。
だから、「何がどう基準に合っていないか」を、書面で正確に示すところから始まります。感情ではなく、条文と数字で話す。
この経験は、民間の不適合への対応や、品質の問題の処理で、そのまま同じ形をしています。
工程5:記録する(情報を残し、公開する)
建築計画概要書の管理と閲覧、台帳の整備、定期報告の受理。
この工程に固有の制約があります。建物は数十年残るので、記録も数十年必要です。そして、後から「この建物は適法か」を問われます。増築のとき、売買のとき、相続のとき。
つまり、この記録は、将来の取引の前提になります。
民間の法規の確認・品質の管理と、どこが同じでどこが違うか
同じところ
- 項目が多い確認を、漏れなく繰り返す。チェックの形を作ることが技術になります
- 図面と現物を突き合わせる。図面どおりとは限りません
- 不適合を、書面で正確に示す。感情ではなく、条文と数字で
違うところ
- 裁量がない。基準を満たせば認め、満たさなければ通しません
- 相手を選べない。申請してきた人は、すべて対象です
- 納期を動かせない。審査には期間の定めがあります
- 見落としの責任が、行政に及ぶ。確認した以上、そこに責任が生じます
1番目が、民間との最大の違いです。
民間の側では、「どうすれば通るか」を考えます。行政では、「通るか通らないか」だけを判定します。
この違いを理解していることが、民間に移ったときにそのまま効きます。
なぜなら、「通らないもの」を早く見分けられるからです。
評価が高くなりやすい4つの方向
1. 設計事務所・組織設計(法規の担当)
法規の確認を専門に担う役割があります。確認申請の前に、社内で適合を見る仕事です。審査する側にいた人は、この役割でそのまま通用します。
2. 指定確認検査機関
建築確認と検査を、民間で行う機関です。業務の中身が、行政でやっていたこととほぼ同じになります。この経歴の、いちばん直接的な行き先です。
3. ハウスメーカー・建設会社(技術の管理・品質の管理)
現場が基準に適合しているかを確認する役割です。検査の経験と、違反への対応の経験が効きます。
4. 不動産(デューデリジェンス・既存の建物の調査)
既存の建物が適法かどうかを調べる仕事です。既存不適格の判断や、建築計画概要書の読み方を知っている人は、この分野では希少です。
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
つまずきやすい点
1. 「建築確認の事務」と書く
「図面と条文を突き合わせた適合の判定」です。そう書いてください。
2. 件数を書かない
民間では、何件見たかが経験の量として読まれます。
3. 検査の経験を埋もれさせる
「見えなくなる前に確かめる」——施工の管理と同じ考え方です。
4. 違反への対応を、揉め事として扱う
条文と数字で不適合を示した——品質の問題の処理と同じ形です。
5. 裁量がなかったことを、弱みとして話す
裁量がないからこそ、通らないものを早く見分けられます。
自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
まとめ
- 建築基準法第1条は、「最低の基準を定めて」と定めています。良い建物ではなく、ここから下は許さないという線です
- つまり、扱ってきたのは、「最低限を満たしているかどうか」の判定——民間でいう適合性の確認です
- 基準を満たせば認め、満たさなければ通さない。この裁量のない判定を、毎日やってきました
- 中核スキルは、①読む ②確かめる ③相談に応じる ④直させる ⑤記録するの5工程に分かれます
- 違うのは、①裁量がない ②相手を選べない ③納期を動かせない ④見落としの責任が及ぶの4点です
- 審査と検査の件数は、民間では経験の量として読まれます。必ず書いてください
よくある質問
事務職で、図面の審査はしていません。書けることはありますか
十分に書けます。建築指導課の事務は、申請の受付、手数料、台帳の管理、建築計画概要書の閲覧、定期報告の受理、統計の報告など、判定以外の実務が広くあります。とくに、建築計画概要書の閲覧は、不動産の取引で必ず使われる情報です。誰が、何のために閲覧に来るかを知っていることは、不動産の調査の分野でそのまま役に立ちます。書くなら、「建築確認に係る申請の受付と台帳の管理、建築計画概要書の閲覧の対応を年間◯件担当」という形です。
違反の建築物への対応が中心でした。どう書けばよいですか
「不適合への対応と、是正の管理」として書いてください。中身は、①通報や発見の端緒 ②現地の確認と記録 ③何がどう基準に合っていないかの特定 ④文書での通知 ⑤是正の計画の確認 ⑥経過の記録の6つです。これは、民間の品質の問題への対応と、まったく同じ工程です。とくに、「相手が納得していない状態で、条文と数字で話を進める」という部分は、経験がないとできません。書くなら、「違反の疑いのある建築物について、年間◯件の現地の確認と記録、文書による通知、是正の経過の管理を担当」という形です。個別の案件や、所有者が特定できる書き方は避けてください。
建築士の資格を持っていません。不利になりますか
方向によります。指定確認検査機関の確認検査員や、設計の実務は、資格が要件です。一方、不動産の調査、建物の管理、自治体を顧客とする企業、建築計画概要書を扱う業務では、資格がなくても、制度と実務を知っていることが評価されます。また、建設会社の技術の管理の部門では、現場の経験と組み合わせて見られるため、資格が必須の条件ではないこともあります。まず、資格がなくても入れる方向を確かめて、必要であれば働きながら取る——この順番も現実的です。行き先の絞り方は建築指導課から転職しやすい業界と職種に整理しました。