部署別 / 広報広聴課
広報広聴課の経験は民間で何と呼ばれるか|訳し方と工程
広報広聴課からの転職でいちばん多い誤解は、「広報紙を作っていた人」と読まれることです。
編集はたしかに仕事の一部ですが、中身は「制度を、使う人に届く形に直す」作業です。そして、届いたかどうかを確かめて次に返すところまでが範囲に入ります。
この記事では、その仕事が民間で何と呼ばれるかを整理します。訳語の対応表、中核スキルの工程分解、そして民間の広報とどこが同じでどこが違うかまで扱います。
行き先や職務経歴書の書き方は、別の記事に分けて書きます。ここでは、まず言葉の対応と工程を押さえます。
「ひとしく受ける権利」を実質化する仕事です
まず、この部署の立ち位置を条文で確認します。
地方自治法第10条第2項は、こう定めています。
住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。
「ひとしく受ける権利」という部分が要点です。
制度は、知られていなければ使われません。手当があっても、申請できることを知らなければ受け取れません。知っている人だけが使える状態は、「ひとしく」からずれます。
つまり、広報の目的は宣伝ではなく、到達の設計です。誰に届いていないかを把握し、そこに届く経路を選ぶのが中身になります。
そして、もう一方の「広聴」にも制度上の裏づけがあります。
地方自治法第74条第1項は、選挙権を有する者は、その総数の五十分の一以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、条例の制定又は改廃の請求をすることができると定めています。
住民が、制度そのものを変えるよう求められるわけです。広聴は、この請求にまで至る前の段階で、声を集めて政策側に返す経路として置かれています。
発信して終わりではなく、返ってきたものを政策に戻す。この往復が、広報広聴課の仕事の形です。
民間での訳語
履歴書や職務経歴書では、自治体の中でしか通じない言葉を、募集要項に出てくる言葉に置き換えます。
| 自治体での呼び方 | 民間での呼ばれ方 |
|---|---|
| 広報紙の編集・発行 | オウンドメディアの編集、社内報・会報誌の制作 |
| 報道発表・記者クラブ対応 | プレスリリース配信、メディアリレーション |
| ホームページの運用・改修 | コーポレートサイトの運用、CMS運用 |
| SNSの運用 | ソーシャルメディア運用、アカウント運営 |
| 広聴・市民の声の集約 | VOC(顧客の声)の収集と分析 |
| パブリックコメントの実施 | 意見募集、ステークホルダー調整 |
| シティプロモーション | ブランディング、地域マーケティング |
| 移住定住のプロモーション | 獲得施策、リードの獲得 |
| 情報発信の全体設計 | コミュニケーション設計、広報戦略 |
| 各課からの原稿の取りまとめ | 編集ディレクション、進行管理 |
| 撮影・写真の管理 | クリエイティブ管理、アセット管理 |
| 危機管理時の情報発信 | クライシスコミュニケーション |
「広報紙」を「オウンドメディア」と言い換えるだけで、読まれ方が変わります。発行部数、発行回数、ページ数を添えると、規模がそのまま伝わります。
中核スキルを5つの工程に分ける
この部署の仕事は、5つの工程に分解できます。企業の広報・マーケティング部門の工程と、ほぼ同じ形です。
① 誰に届けるかを決める
全住民に一律に出すのではなく、制度ごとに届けたい相手が違います。児童手当は子育て世帯、介護の制度は高齢者とその家族、創業の支援は事業者。
対象が決まると、経路が決まります。ここを飛ばすと、広報紙に全部載せるだけの作業になります。
② 何を伝えるかを削る
ここが、この部署のいちばん難しい工程です。
各課から上がってくる原稿は、制度をそのまま説明した文章になっています。要件、期限、例外、根拠条文。正確ですが、そのままでは読まれません。
そこで、「対象は誰か」「いつまでに」「どこへ」の3つを先に立て、残りを削る作業をします。削ったことで不正確になっていないかを、所管課と突き合わせるところまでが工程です。
③ 経路を選ぶ
広報紙、ホームページ、SNS、報道発表、回覧、ポスター、窓口での案内。それぞれ届く相手が違います。
高齢者に届けたいのに、SNSだけで出しても届きません。逆に、期限が近い情報を月1回の広報紙に載せても間に合いません。
④ 出す
校正、写真の確認、掲載日の調整、印刷の入稿。期限が固定されている工程です。広報紙は発行日が決まっており、遅れは選択肢になりません。
⑤ 届いたかを確かめ、次に返す
問い合わせの件数、申請の件数、ページの閲覧数、窓口での反応。「出した」ではなく「使われた」で確かめます。
そして、広聴で集まった声を所管課に返します。ここが、民間の広報部門にはあまりない工程です。
民間の広報と、どこが同じでどこが違うか
同じところ
1. 原稿が自分のところに集まってくる構造
企業の広報も、各事業部から情報を集め、編集して出します。自分でネタを作るのではなく、集めて整える立場であることは共通です。
2. 期限が動かない
広報紙の発行日と、企業のリリース配信日。どちらも後ろにずらせません。
3. 「正確さ」と「読まれること」が引っ張り合う
所管課は正確さを求め、読者は短さを求めます。この調整が仕事の本体である点も同じです。
違うところ
1. 目的が「売る」か「届ける」か
企業の広報は、最終的に売上や採用や企業価値につながることを求められます。自治体の広報は、制度が使われることが目的です。
この違いは、指標の置き方に出ます。企業では、問い合わせ数や採用応募数のような獲得の数字が問われます。自治体では、届いていない層に届いたかが問われます。
移った直後に戸惑うのは、ここです。ただし、「届いていない層に届ける」という発想は、企業でも弱い部分なので、持ち込む価値があります。
2. 出せない情報の性質が違う
企業では、未発表の業績や新製品が出せません。自治体では、個人が特定される情報と、意思決定前の情報が出せません。
どちらも「出せないものを扱う訓練」を受けている点は同じですが、線の引き方が違うので、移った先で覚え直す必要があります。
3. 広聴に相当する機能が薄い
企業にも顧客の声を集める仕組みはありますが、広報部門が担っているとは限りません。カスタマーサポートやマーケティングに分かれていることが多くなります。
だから、広聴の経験は「広報の枠を超えた経験」として説明したほうが伝わります。
評価が高くなりやすい4つの方向
1. 企業の広報・コーポレートコミュニケーション
報道発表の経験がそのまま効きます。記者からの問い合わせに答え、事実関係を確認し、出せる範囲を決める。この判断の型は企業でも同じです。
特に、危機管理時の情報発信を経験している方は評価されます。災害、事故、不祥事。事実が固まる前に、何を出し何を出さないかを決めた経験は、企業の広報でそのまま求められます。
2. オウンドメディア・コンテンツ編集
定期刊行物を、期限どおりに、一定の品質で出し続けた経験が効きます。企業のメディア運営でも、続けられるかどうかが最大の課題です。
発行回数、部数、ページ数、継続年数を必ず書いてください。
3. 自治体を顧客にする企業
広告代理店、印刷会社、シティプロモーションの支援会社、自治体向けのウェブ制作会社。発注する側にいた経験が、そのまま提案に使えます。
入札・プロポーザルの実際を知っていることも大きな材料になります。どういう提案が通り、どこで落ちるかを、審査する側から見てきています。
4. マーケティング・ユーザーコミュニケーション
VOCの収集と分析という形で効きます。広聴で集まった声を分類し、所管課に返してきた経験は、顧客の声を製品側に返す仕事と同じ構造です。
つまずきやすい点
1. 「広報紙を作っていた」で説明を終える
編集・報道対応・ウェブ・広聴の4つに分けて、それぞれ何をどこまでやったかを書いてください。
2. 「削る」工程を書かない
いちばん手間がかかっている部分です。工程として書いてください。
3. 数字を持っていない
発行部数、発行回数、ページ数、報道発表の件数、ホームページの月間閲覧数、SNSのフォロワー数、広聴で受けた件数。公表されている範囲で控えておいてください。
4. 広聴の経験を落とす
民間の広報部門にはあまりない工程です。VOCの収集と分析として書けば、価値が伝わります。
5. 作った現物を手元に残していない
広報紙や制作物は、公表されているものであれば、実物が最も強い材料になります。在職中に、自分が担当した号を控えておいてください。未公表のものや、個人が写り込んでいるものは使えません。
どの経験がどの方向で値が付くかは、募集の出方で変わります。経歴を見ながらの相談もできます。ご利用は無料です(紹介手数料は採用企業の負担です)。
まとめ
- 地方自治法第10条第2項は、住民が役務の提供をひとしく受ける権利を有すると定めています。知られていない制度は使われないため、広報は到達の設計の仕事です
- 第74条の直接請求に至る手前で、声を集めて政策に返すのが広聴の位置づけです
- 民間での訳語は、オウンドメディアの編集/メディアリレーション/VOCの収集と分析/コミュニケーション設計が中心になります
- 中核スキルは①誰に届けるかを決める ②何を伝えるかを削る ③経路を選ぶ ④出す ⑤届いたかを確かめ、次に返すの5工程です
- 民間の広報と同じなのは、原稿が集まる構造・期限が動かないこと・正確さと読みやすさの調整。違うのは、目的が「売る」か「届ける」か、出せない情報の性質、広聴機能の有無です
- 評価が高くなりやすいのは、企業広報/オウンドメディア編集/自治体を顧客にする企業/マーケティングの4方向です
よくある質問
デザインができないのですが、編集の経験として通用しますか
編集と制作は別の仕事として扱われます。自治体の広報紙も、レイアウトや印刷は委託していることが多く、職員は企画・原稿・校正・進行を担っているのが普通です。募集要項でも、編集ディレクションと制作は分けて書かれていることがほとんどなので、「デザインは委託先が担い、自分は企画と進行と校正を担当した」と正確に書いてください。できないことを書かないほうが、書類は強くなります。
SNSのフォロワー数が少ないのですが、書かないほうがよいですか
数字の大小より、運用の中身のほうが読まれます。自治体のアカウントは、母数が人口に制約されるため、企業と単純には比べられません。書くなら、投稿頻度、運用体制(何人で回していたか)、災害時の運用の切り替え、炎上を避けるための確認手順のほうが効きます。災害時に運用を切り替えた経験があれば、それが最も評価される材料です。
報道対応の経験は、どこまで書いてよいですか
公表済みの案件について、対応の型を書く範囲にとどめてください。取材の相手方、未公表の案件、個別の記者とのやりとりは書けません。書けるのは、「年間◯件の報道発表を行い、事実関係の確認手順と、出せる範囲の判断を所管課と整理していた」といった形です。判断の構造だけを書くのが原則になります。