部署別 / 用地課
用地課から民間に移ると働き方と評価はどう変わるか
用地課の働き方には、2つの時間が同時に流れています。
1件の案件にかかる、数年という時間。
そして、年度という、動かせない区切り。
この2つが合わないところに、この仕事の難しさがあります。
この記事では、一年の波、評価が見えにくくなる構造、民間に移って変わる4点を整理します。
書き方は用地課の職務経歴書、面接での答え方は用地課出身者が面接で必ず聞かれることに書いています。
最後の手段にも、期限が設けられています
まず、この仕事に流れる時間の性質を条文で押さえます。
土地収用法第29条は、事業の認定の失効についてこう定めています。
起業者が……事業の認定の告示があつた日から一年以内に……収用又は使用の裁決の申請をしないときは、事業の認定は、期間満了の日の翌日から将来に向つて、その効力……
を失うことになっています。
「一年以内に」。
ここが要点です。
任意の交渉がまとまらないとき、最後の手段として収用の手続があります。
ところが、その手続にすら、期限が切られています。
つまり、この仕事は、どの段階にも時間の制約がかかっています。
そして、日常の仕事では、もっと短い期限が効いています。
- 工事の着手の時期——ここまでに取得できなければ、工事が始められません
- 年度の区切り——補償金の支払いは、年度をまたげません
- 測量や調査の発注——年度内に成果を受け取るには、早く出す必要があります
一方で、交渉そのものは、相手の都合で進みます。
こちらが急いでも、相手の家族が決められなければ、話は進みません。
説明するときは、この形で話してください。
> 事業の着手の時期から逆算して、いつまでに取得するかが決まります。ただ、交渉は相手の都合で進むので、こちらの日程どおりにはいきません。なので、動く案件と、時間がかかる案件を分けて、動くものから先に固めていました。
「期限が決まっている中で、相手の都合に合わせる」——これは、民間の用地でも、まったく同じ形です。
一年の波
工事の着手と、年度末が、山を作ります。
| 時期 | 中身 | 重さ |
|---|---|---|
| 4月 | 年度の取得の目標の確認、前年度からの繰越の整理、体制の切り替え | 重い |
| 5〜6月 | 調査と測量の発注(年度内に成果を受け取るため早めに出す)、交渉の再開 | 中 |
| 7〜8月 | 交渉の本格化、境界の立会い(草が伸びる時期は現地が見にくい) | 中 |
| 9〜10月 | 次年度の予算要求、契約の第1波 | 中 |
| 11〜12月 | 年内に決めたい案件の追い込み、契約と支払いの準備 | 重い |
| 1〜3月 | 契約・支払い・登記・引渡しの集中、繰越の判断 | 最も重い |
山は2つです。
11〜12月(年内の追い込み)と、1〜3月(契約と支払いの集中)。
このうち、1〜3月にこの部署に固有の事情があります。
補償金の支払いは、年度をまたげません。
つまり、「年度内に契約して、年度内に支払う」必要があります。そして、支払いの前には、登記や建物の除却の確認が入ることもあります。
だから、3月に契約しようとしても、間に合いません。
逆算すると、「◯月までに合意していなければ、その年度の予算では払えない」という線が引けます。
この線を、地権者にも説明します。「この時期までにお返事をいただければ、今年度中にお支払いできます」。
つまり、年度の区切りが、交渉の材料にもなります。
これは、民間でいう「期末までに決済する」という話と、まったく同じ構造です。決算の期に合わせて契約を急ぐ場面は、不動産の会社でも普通にあります。
評価が見えにくくなる3つの構造
1. 1件が数年かかり、着手した人と契約した人が別になる
用地の取得は、1件に数年かかることがあります。
その間に、担当が異動します。
つまり、調査と最初の交渉をした人と、契約した人が、別の人になります。
そして、記録に残るのは、契約した人の名前です。
この点には、固有の事情もあります。引き継ぎのときに渡されるのは、書類の束と、進捗の表です。そこに書かれているのは、事実の経過だけで、相手がどういう人で、何を気にしていて、どこまでなら受け入れそうか——交渉でいちばん大事な部分は、書かれていません。だから、引き継いだ側は、もう一度信頼を作り直すところから始めます。この手間を知っているかどうかで、民間でも案件の渡し方が変わります。
2. 止まっている案件は、「進んでいない」としか見えない
相続人を追い、連絡を取り、説明を重ねている。
しかし、契約に至っていなければ、進捗の表では「未取得」のままです。
積み上げている途中なのか、本当に止まっているのか。表からは区別が付きません。
そして、この区別は、上司にも説明しにくい部分です。「あと少しです」と言い続けることになり、本人がいちばん苦しくなります。だから、段階を分けて記録しておくことが、自分を守ることにもなります。「今月は相続人の範囲が確定した」「先月は初回の説明ができた」。進んだ部分を言葉にできれば、説明の材料になります。
3. 断られた案件の努力は、記録に残らない
何度も訪問し、条件を整え、移転先も探した。それでも合意に至らなかった。
この場合、残るのは「未取得」という結果だけです。
この3つのために、「やったこと」が数字として残りにくくなります。
民間に移って変わる4点
1. 「諦める」という選択が増える
行政では、その土地を取得しなければ事業が成立しませんでした。民間では、買えないと判断したら、別の候補地に移ります。
そして、その判断を早くすることが評価されます。
これは、いちばん大きい変化です。ただし、粘り強さは前提として持っているので、見切りの基準さえ覚えれば戦力になります。
2. 相手が「売りたい人」であることもある
行政の用地では、相手は売りたくない人でした。民間では、売りたい人が持ち込んでくる案件もあります。
その場合、交渉の中身がまったく変わります。買う側が条件を選べるからです。
この違いは、入ってから戸惑う部分です。
3. 成果が金額で見える
取得できた面積と、かかった費用と、事業の採算。自分の仕事が、金額として評価されるようになります。
行政では、「取得できたかどうか」だけでした。
4. 年度ではなく、期で区切られる
年度の区切りがなくなり、四半期や期で見られます。
ただし、「期末までに決済する」という構造は同じです。逆算の技術は、そのまま使えます。
変わらないのは、相手の都合で進むことです。これは、どこに行っても同じです。
どの方向なら自分の経験が効くかは、話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
在職中に残しておくべき記録
辞めた後では、二度と取れません。
| 残すもの | なぜ必要か | どこから取れるか |
|---|---|---|
| 担当した件数・筆数・面積 | 扱った量を示す中心の数字 | 事務の記録 |
| 地権者の人数(累計) | 1件でも、人数で交渉の量が伝わる | 事務の記録 |
| 段階ごとの進捗(調査・説明・協議・契約) | 契約に至らない案件も実績にできる | 自分で書き出すしかない |
| 相続・共有が絡んだ案件の件数 | 民間がいちばん知りたい部分 | 事務の記録 |
| 借家人の補償の件数 | 扱える案件の幅 | 事務の記録 |
| 担当した事業の種類(線的・面的) | 応募先の形と合わせるため | 事業の記録 |
| 断られた理由の分類と件数 | 交渉の技術の証明 | 自分で分類するしかない |
| 自分が変えたこと(年度別に3つ) | 実績欄の芯になる | 自分でメモするしかない |
3行目、7行目、最後の行が、後から作れないものです。
とくに段階ごとの進捗は、引き継ぎの資料には残っていません。
つまずきやすい点
1. 「年度末が忙しい」で終える
支払いが年度をまたげないので、逆算すると合意の期限が決まる——この構造を話してください。
2. 段階ごとの進捗を記録していない
契約に至らない案件も、実績として書けます。
3. 断られた理由を分類していない
交渉の技術の証明です。在職中に分類してください。
4. 担当した事業の種類を書かない
線的な取得か、面的な取得か。応募先の形と合わせてください。
5. 1件が長いことを、実績の少なさとして話す
件数ではなく、通した工程と類型で読まれます。
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
まとめ
- 土地収用法第29条は、事業の認定が「一年以内」に裁決の申請をしなければ失効すると定めています
- つまり、最後の手段にすら期限があります。日常では、工事の着手と年度の区切りが効いています
- 山は、11〜12月(年内の追い込み)と、1〜3月(契約と支払いの集中)の2つです
- 補償金は年度をまたげません。だから、「◯月までに合意していなければ今年度は払えない」という線が引けます
- 評価が見えにくいのは、①着手した人と契約した人が別 ②止まっている案件が進捗の表では区別できない ③断られた努力が残らないためです
- 段階ごとの進捗を書き出せば、契約に至らない案件も実績にできます
よくある質問
夜間や休日の訪問が多く、負担に感じています
この点は、移った先でも変わらない可能性が高いです。用地の交渉は、相手が家にいる時間に訪問するのが基本なので、民間でも夜や休日の訪問はあります。むしろ、件数が多いぶん、頻度が上がることもあります。確かめてほしいのは、「訪問そのもの」が負担なのか、「振替が取れないこと」が負担なのかです。後者であれば、制度の問題なので、移った先で解決する可能性があります。面接で、「夜間や休日の訪問がある場合の勤務の扱い」を確認してください。前者であれば、調査や算定に寄せた職種——補償のコンサルタントや、不動産の調査——を選ぶほうが確実です。
契約まで至らずに異動しました。実績として書けますか
書けます。書き方は、「◯◯事業の用地の取得について、権利関係の調査、境界の確定、地権者◯人への説明と条件の協議までを担当。異動により後任へ引き継ぎ」という形です。「契約まで行かなかった」ことを隠す必要はありません。この仕事は、1件に数年かかることを、同業の人はよく知っています。むしろ、どの段階まで進めたかを正確に書ける人のほうが、実務を分かっている人として読まれます。
異動が近いのですが、何をしておくべきですか
3つあります。1つ目は、段階ごとの進捗を書き出すこと。「調査完了◯件、初回の説明◯件、条件の協議◯件、契約◯件」。これは引き継ぎの資料には残りません。2つ目は、断られた理由を分類して数えること。金額、移転先、心情、家族の意見、事業への反対。この分類が、交渉の技術の証明になります。3つ目は、担当した事業の種類を整理すること。線的な取得か、面的な取得か。応募先の形と合わせるために使います。この3つがあれば、数年後に動く場合でも、そのまま書類が作れます。