部署別 / 用地課
用地課の経験は民間で何と呼ばれるか
用地課の経験は、求人票の言葉に直すとそのまま通じる数少ない経歴です。
ところが、書類にはこう書かれます。
「公共事業に係る用地取得、補償に関する業務」
この書き方だと、「書類を作っていた人」に読まれます。
実際にやっていたのは、権利関係を調べ、価格の根拠を作り、所有者と交渉し、契約まで持っていくという仕事です。
そして、これは民間の用地の仕事と、ほぼ同じ工程です。
この記事では、庁内の呼び名を民間の言葉に置き換え、中核スキルを5つの工程に分けて整理します。
「公共の利益の増進と私有財産との調整」
最初に、この仕事の立ち位置を条文で押さえます。経験の値を決める部分です。
土地収用法第1条は、目的をこう定めています。
この法律は、公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し、その要件、手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し、公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もつて国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的とする。
「公共の利益の増進と私有財産との調整を図り」。
ここが要点です。
この仕事は、はじめから2つの利害の間に立つことを前提にしています。
道路を通す。学校を建てる。川を広げる。どれも公共の利益です。しかし、そこには誰かの土地があり、家があり、生活があります。
そして、法律は「調整を図る」と書いています。
どちらかを一方的に優先するのではありません。
これが、この仕事の難しさであり、値でもあります。
民間の用地の取得では、買えなければ別の土地を探せます。
公共事業では、そこを通さなければ道がつながりません。
つまり、「代わりの選択肢がない交渉」を、繰り返してきた——それが、この経歴の中身です。
そして、この経験は、民間でそのまま値が付きます。
民間での訳語
| 庁内での呼び名 | 民間での呼ばれ方 |
|---|---|
| 用地の取得 | 用地の仕入れ・取得 |
| 権利関係の調査 | 権利関係の調査・デューデリジェンス |
| 境界の確認・立会い | 境界の確定・測量の手配 |
| 用地の交渉 | 地権者との交渉 |
| 補償の算定 | 補償額の査定・価格の根拠づくり |
| 物件の調査(建物・工作物) | 物件の調査・移転の費用の算定 |
| 契約と登記の嘱託 | 売買契約と、所有権の移転の手続 |
| 相続人の調査 | 権利者の特定・相続の調査 |
| 移転先のあっせん | 代替地の提案 |
| 収用の手続(事業認定・裁決) | 法的な手続による取得 |
| 残地の補償 | 残った土地の価値の減少への対応 |
| 用地の取得の進捗の管理 | 仕入れの進捗の管理 |
上から4行目までが、いちばん値の付く並びです。調べて、測って、値を付けて、交渉する——これは、民間の用地の仕事の中心そのものです。
中核スキルを5つの工程に分ける
この部署の中核は、「代わりのきかない土地を、納得を得て取得すること」です。
工程1:調べる(権利関係と現況)
登記、公図、測量の図面、現地。誰の土地で、どんな権利が付いていて、実際にどう使われているか。
この工程に固有の制約があります。登記と現況が一致しません。相続の登記がされていない土地、建物が登記されていない土地、借地や賃貸借がある土地。そして、共有で、相続人が何人もいる土地。
つまり、「誰と契約すればよいか」を確定させるところから始まります。
民間の用地の仕事でも、まったく同じ作業をします。
工程2:測る(境界と面積)
境界の立会い、測量、面積の確定、分筆。
この工程に固有の制約があります。境界は、隣の人が立ち会わなければ決まりません。そして、隣の人は、事業とは無関係です。
つまり、事業に協力する義務のない人に、時間を割いてもらう必要があります。しかも、境界が決まらなければ、面積が確定せず、価格も出せません。
ここで止まる案件が、実際に多くあります。
そして、境界の立会いには順番があります。先に隣の人に話を通しておかないと、当日に来てもらえません。つまり、測量の日程は、測量の会社ではなく、隣接する人の都合で決まります。この段取りを組めるかどうかが、そのまま工期に響く——民間の用地の仕事でも、まったく同じことが起きています。
工程3:値を付ける(補償の算定)
土地の価格、建物の移転の費用、工作物、立木、営業の補償、移転に伴う雑費。
この工程に固有の制約があります。価格は、交渉で決めるものではありません。基準に沿って算定し、その根拠を説明できる形にします。
つまり、「高く買う」「安く買う」という交渉の余地が、原則としてありません。
これは、民間とは大きく違う部分です。ただし、「なぜこの金額なのか」を説明する技術は、民間の価格の交渉でも、そのまま必要になります。
工程4:話す(交渉と合意)
説明、協議、条件の調整、移転先の相談。
この工程に固有の制約があります。相手は、売りたいと思っていません。多くの場合、そこに住み続けたいと思っています。そして、代わりの土地を探す、という選択肢が、こちらにありません。
だから、この交渉には「断られて終わり」がありません。
時間をかけて、事情を聞き、条件を整え、移転先を探し、それでも動かないこともあります。
この経験は、民間の用地の取得で、いちばん求められる部分です。
加えて、この交渉には終わりの形が2つしかありません。合意して契約するか、法的な手続に進むかです。そして、後者に進むと、事業の日程が大きく遅れます。だから、現場の担当者は、合意の形を探し続けます。「粘る」のではなく、条件を組み替えて、合意できる形を作る——この違いが、経験の差として出ます。
工程5:締める(契約・登記・引渡し)
契約、補償金の支払い、登記の嘱託、建物の除却の確認、引渡し。
この工程に固有の制約があります。支払いは年度で区切られます。そして、工事の着手の時期が決まっています。つまり、「いつまでに取得できるか」が、事業全体の日程を左右します。
民間の用地の取得・不動産の仕入れと、どこが同じでどこが違うか
同じところ
- 権利関係を確定させることから始まる。誰と契約するかが決まらなければ、何も進みません
- 境界と面積を確定させる。そこが決まらないと、価格も出せません
- 相手は、売りたいと思っていない。こちらから頼む側です
違うところ
- 代わりの土地を探せない。そこを取得しなければ、事業が成立しません
- 価格を交渉で決められない。基準に沿って算定し、根拠を説明します
- 断られて終わり、がない。時間をかけて続けることになります
- 最後の手段として、法的な手続がある。ただし、使うことはまれです
1番目が、民間との最大の違いです。
民間なら、条件が合わなければ別の候補地に移ります。
公共事業では、そこが通らなければ、道がつながりません。
この前提で交渉してきたということは、「逃げ場のない交渉」を経験してきたということです。
民間の用地の担当者でも、この経験を持つ人は多くありません。
評価が高くなりやすい4つの方向
1. 不動産デベロッパー・住宅・物流施設(用地の仕入れ)
権利関係の調査から交渉まで一貫してできる人は、仕入れの部門でそのまま戦力になります。とくに、相続や共有が絡む土地を扱った経験が効きます。
2. 建設コンサルタント・補償のコンサルタント
補償の算定を受託する会社があります。算定の基準を知っていて、実際に説明してきた人は、この分野の中心です。
3. 鉄道・電力・ガス・通信(用地と設備の用地)
線路や管路のために、連続した土地を取得する仕事です。「代わりがきかない土地を取得する」という構造が、公共事業とまったく同じです。
4. 不動産の仲介・買取(相続や権利関係が複雑な案件)
相続人が多数いる土地、共有の土地、登記が古い土地。これを動かせる人は、仲介でも買取でも必要とされます。
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つまずきやすい点
1. 「用地の取得の事務」と書く
調査・測量・算定・交渉・契約に分けてください。
2. 「一貫して」という一語を入れない
民間では工程が分かれています。一人で通していたことが強みです。
3. 件数と面積を書かない
扱った量を示す中心の数字です。
4. 相続や共有の案件を、苦労話にする
手順として整理してください。それが、そのまま値になります。
5. 「価格を交渉できなかった」ことを弱みとして話す
根拠を説明する技術は、民間の価格の交渉でもそのまま必要です。
自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
まとめ
- 土地収用法第1条は、「公共の利益の増進と私有財産との調整を図り」と定めています
- つまり、はじめから2つの利害の間に立つことが前提の仕事です
- 代わりの土地を探せない。そこを取得しなければ事業が成立しない——逃げ場のない交渉を経験してきました
- 中核スキルは、①調べる ②測る ③値を付ける ④話す ⑤締めるの5工程に分かれます
- 民間では工程が分かれています。一人で通していたことが、そのまま強みです
- 違うのは、①代わりがきかない ②価格を交渉で決められない ③断られて終わりがない ④法的な手続があるの4点です
よくある質問
補償の算定は委託していました。それでも書けますか
書けます。算定そのものを外注していても、成果を確認し、金額を決定し、所有者に説明したのは市の担当者です。書くなら、「補償の算定について、委託の仕様の作成と成果の確認を行い、算定の根拠を地権者に説明のうえ、契約を締結」という形です。とくに「説明した」という部分が重要です。金額に納得してもらう場面で矢面に立つのは、算定した人ではなく、担当者だからです。民間でも、査定は外部に頼み、説明は自社がするという形は普通にあります。
収用の手続まで進んだ案件はありません
それで構いません。むしろ、収用まで行かずに合意で取得できたこと自体が成果です。実務では、任意の交渉で解決するのが原則で、収用は最後の手段です。書くなら、「担当した◯件はすべて任意の契約により取得」と書いてください。これは、交渉で解決できたという実績です。なお、収用の手続の流れを説明できるなら、それも書いておいてください。「使わずに済ませたが、使う場合の手続も分かっている」——この2つが揃うと、交渉の厚みとして読まれます。
移転先のあっせんもしていました。民間では何と呼ばれますか
「代替地の提案」として書けます。これは、民間の用地の取得でも重要な技術です。「出ていってください」だけでは、話が進みません。どこに移れるか、条件はどうか、費用はどうなるか——この提案ができると、交渉が動きます。書くなら、「移転先の提案について、候補地の情報の収集と条件の整理を行い、◯件の移転の合意につなげた」という形です。とくに、高齢の所有者や、営業をしている店舗の移転を扱った経験は、民間でもそのまま同じ場面があります。行き先の絞り方は用地課から転職しやすい業界と職種に整理しました。