業界研究 / 観光・地域振興
未経験から観光・地域振興に入るには|公務員経験の使い方
観光や地域振興に関わりたい、というご相談は、公務員の方から繰り返し伺います。
「観光協会や、地域の事業に関わる仕事を探しています」
この探し方には、一つ落とし穴があります。
「観光」という言葉で探すと、候補が狭くなるのです。この分野は、法令の区分でいくつもの事業に分かれていて、それぞれに別の職種があります。
この記事では、法令の区分から業界の構造を整理し、未経験から入る道筋を扱います。
旅行を手配する事業には、登録が要ります
旅行業法第3条です。
> (登録)第三条 旅行業又は旅行業者代理業を営もうとする者は、観光庁長官の行う登録を受けなければならない。
短い条文ですが、この分野の性格を示しています。
旅行の手配を業として行うには、登録が要る。誰でも始められる事業ではありません。
登録の制度があるということは、要件があり、それを満たし続ける義務があり、行政の確認があるということです。
泊める事業には、許可が要ります
旅館業法第3条第1項です。
> 旅館業を営もうとする者は、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長。第四項を除き、以下同じ。)の許可を受けなければならない。ただし、旅館・ホテル営業又は簡易宿所営業の(後略)
こちらは許可で、相手は都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)です。
つまり、保健所で旅館業の許可を扱っていた方は、この事業の手続きを、すでに知っています。
「手配する」と「泊める」で、制度も所管も違う——ここが、この分野を理解する最初の区切りです。
業界は、6つに分かれます
| 区分 | 何をするか | 公務員からの入りやすさ |
|---|---|---|
| 観光協会・観光地域づくり法人 | 地域の観光の企画、情報の発信、受入れの整備 | 経験が直結する |
| まちづくり会社・地域商社 | 特産品の開発と販売、施設の運営 | 入りやすい |
| 宿泊事業者 | 宿の運営、予約の管理、施設の管理 | 管理部門なら入りやすい |
| 旅行事業者 | 旅行の企画と手配、法人の取引 | 分野による |
| 交通・体験の事業者 | 二次交通、体験の提供 | 入りやすい |
| 観光のコンサルタント | 計画の策定の支援、調査、事業の設計 | 経験が直結する |
上の2つと、いちばん下が、公務員からいちばん自然に移れる領域です。
理由は、仕事の相手が行政と地域の事業者だからです。
⚠ 呼び方について一つ。地域の観光を推進する法人は、「観光協会」のほか「観光地域づくり法人」という呼び方でも募集が出ます。英字の略称で書かれることもあります。候補を探すときは、複数の呼び方で検索してください。一つの言葉だけで探すと、募集を見落とします。
観光協会と地域の法人という選択肢
この領域の仕事は、公務員の方に馴染みがあります。
| 仕事の中身 | 役所での対応する経験 |
|---|---|
| 地域の関係者との調整 | 商工会、事業者、住民との調整 |
| 計画の策定 | 観光の計画、総合計画の策定 |
| 補助金の申請と実績の報告 | 交付する側にいた |
| 情報の発信 | 広報の経験 |
| イベントの企画と運営 | 行事の実施、許可の取りまとめ |
| 統計の取りまとめ | 調査、統計の事務 |
| 会議体の運営 | 審議会・委員会の事務 |
右の列が、そのまま左の列に対応します。
⚠ ただし、収入の作り方が変わります。
役所では、予算が先にありました。この領域では、会費、受託、補助、自主事業の組み合わせで運営されています。予算を使う仕事から、原資を確保する仕事に近づきます。
許可・登録を出す側から、受ける側へ
この移り方も、実務として自然です。
| 役所の側 | 事業者の側 |
|---|---|
| 旅館業の許可の申請を審査する | 申請の書類を作り、提出する |
| 施設の基準を確認する | 基準を満たす状態を維持する |
| 立入検査を行う | 検査を受け、指摘に対応する |
| 変更の届出を受ける | 変更のたびに手続きを取る |
| 補助金を交付する | 申請し、実績を報告する |
保健所、商工、観光、文化の部署にいた方は、左の列をやってきています。
とくに、補助金の交付の経験です。この分野の事業者は、国や自治体の補助の制度を使うことが多く、申請書を作れる人が要ります。
交付する側の観点を知っているのは、大きな差になります。
公務員の経験が効く場所・効きにくい場所
効く場所
| 場面 | 効く理由 |
|---|---|
| 補助金の申請と実績の報告 | 交付する側の観点を知っている |
| 行政との協議 | 相手の意思決定の流れと時期が読める |
| 地域の関係者との調整 | 商工会・事業者・住民との調整の経験 |
| 計画の策定 | 策定の手順を知っている |
| 会議体の運営 | 審議会・委員会の事務 |
| 統計・調査の取りまとめ | 調査の設計と集計の経験 |
| 許認可の手続き | 申請する側に回れる |
効きにくい場所
| 場面 | 効きにくい理由 |
|---|---|
| 売上を作る | 予算を使う仕事とは方向が逆 |
| 価格の設定 | 値決めの判断を自分でする |
| 繁忙期の現場の対応 | 土日・連休が忙しい |
| 情報の発信で人を動かす | 知らせることと動いてもらうことは別 |
| 少人数での兼務 | 分掌の外を自分で拾う |
3つ目が、この分野の大きな特徴です。
観光は、土日、連休、長期の休暇に繁忙期が来ます。役所の暦とは、逆の動き方になります。
入り方の手順
| 順 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 自分の機能を3つ書き出す(計画、補助、調整、広報など) | 30分 |
| 2 | 職種名で求人を検索する(観光、地域、企画、事業推進) | 1時間 |
| 3 | 地域の法人の求人を、自治体の公表や関係団体の情報から探す | 1時間 |
| 4 | 出てきた組織の収入の構成を調べる | 1時間 |
| 5 | 求人票の勤務の曜日と時間帯を確認する | 20分 |
| 6 | 応募条件を5件読み比べる | 1時間 |
3つ目が、この分野では効きます。
観光協会や地域の法人の募集は、一般の求人サイトに出ないことがあります。自治体の公表、関係団体の情報、法人の公式サイトに直接出ることが多い。定期的に見ておいてください。
4つ目も重要です。NPO・公益法人の年収と働き方でも扱いましたが、収入の種類で財源が切れる時期が違います。会費、補助、受託、自主事業。自分の職がどの収入に紐づくかを確認してください。
経験の言い換えから相談することもできます。ご利用は無料です(紹介手数料は採用企業の負担です)。
面接で聞かれやすいこと
| 聞かれること | 何を見られているか |
|---|---|
| 土日や連休の勤務は可能ですか | 前提の確認 |
| 補助金の申請をした経験はありますか | この分野の実務 |
| 地域の事業者と話した経験はありますか | 調整の経験 |
| 売上や集客の数字に関わることをどう考えますか | 予算を使う仕事との違い |
| 行政との協議で、どちらの立場に立ちますか | 元の所属に引きずられないか |
2つ目は、交付する側にいた方には、語れる質問です。
答え方は、審査の観点にしてください。「交付する側として、事業の目的と実施の内容が対応しているか、経費の区分が適切か、成果をどう測るかを見ていました。申請する側でも、その観点で組み立てられます」。
4つ目は、構造の理解で答えます。「予算は使い切ってよい上限として管理されますが、事業の収支は収入を作る方向です。方向が違うと理解しています」と言えると、覚悟の表明より説得力があります。
まとめ
- 「観光」という言葉だけで探すと、候補が狭くなります。法令の区分でいくつもの事業に分かれています
- 旅行業法第3条は、旅行業又は旅行業者代理業を営もうとする者に、観光庁長官の行う登録を義務づけています
- 旅館業法第3条第1項は、旅館業を営もうとする者に、都道府県知事(保健所設置市・特別区では市長・区長)の許可を義務づけています
- 業界は、観光協会・地域の法人/まちづくり会社・地域商社/宿泊/旅行/交通・体験/コンサルタントに分かれます
- 公務員から入りやすいのは、観光協会・地域の法人、まちづくり会社、観光のコンサルタントです
- ⚠ 予算を使う仕事から、原資を確保する仕事に近づきます。会費・補助・受託・自主事業の組み合わせです
- ⚠ 土日・連休が繁忙期になります。役所の暦とは逆の動き方です。ご家族と先に話しておいてください
- ⚠ 観光協会等の募集は、一般の求人サイトに出ないことがあります。自治体の公表や法人のサイトを定期的に見てください
- ⚠ 雇用の期間の定めと、再就職に関する規程を、応募の前に確認してください
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
よくある質問
観光の部署にいたことがありません
移れる場合があります。この分野で効くのは、観光の知識そのものより、補助の制度・計画の策定・地域の調整の経験です。商工、農林、文化、生涯学習、企画の部署にいた方は、材料を持っています。とくに、補助金の交付事務は、部署を問わず評価されます。また、保健所で旅館業や食品営業の許可を扱っていた方は、宿泊や飲食の事業者側の手続きに直接つながります。書き方は、「観光の経験はありませんが、◯件の補助の申請を審査し、地域の事業者◯者と調整してきました」という形です。制度の名前ではなく、動作で書いてください。
収入を作る仕事が不安です
不安に感じるのは自然です。ただし、いきなり売上の責任を負う職ばかりではありません。観光協会や地域の法人では、補助金の申請、受託事業の管理、会員の対応といった、原資を確保する仕事の中でも行政寄りの部分があります。ここは、交付する側にいた経験がそのまま効きます。そのうえで、自主事業や物販に関わる場面が出てきたときに、値付けや採算を学んでいくという順番で構いません。面接では、「収入を作る経験はありませんが、補助の申請と実績の管理はできます」と、できる範囲を具体的に伝えてください。盛らないほうが、入ったあとが楽です。
地元に戻って働きたいのですが、求人がありません
探し方を変えてみてください。この分野の募集は、一般の求人サイトに出ないことがあります。自治体の公表、観光協会や地域の法人の公式サイト、関係する団体の案内。直接見に行くほうが、見つかることがあります。また、募集が出ていない時期でも、問い合わせから始める方法があります。「採用の予定があれば教えてほしい」という短い連絡で足ります。⚠ ただし、すぐに動く前提で問い合わせないでください。半年後に欠員が出たときに連絡が来た、という例もあります。急いで結論を求めない形の接点の作り方として、覚えておいてください。なお、⚠ 移住や住まいの条件も、先に確認しておくほうが判断が早くなります。