業界研究 / 再生可能エネルギー
未経験から再生可能エネルギーに入るには|公務員経験の使い方
「電気のことは分からないし、発電の技術も持っていないので、再生可能エネルギーの会社は自分には無理だと思っていました」——財政課の方から聞く言葉です。この認識は、設備の技術の領域については正しく、業界全体については違います。再生可能エネルギーには、発電事業者の自治体連携と用地の開発、地域の新電力の経営管理、公共施設への導入を提案する会社の営業と企画、再エネのファンドと金融の自治体向けの企画といった、技術の資格を前提としない領域があり、そのうち自治体と接点を持つ領域では、財政課の経験が「未経験」ではなく「経験者」として扱われます。
この記事では、「未経験」を3つに分けて自分がどれに当たるかを確かめ、財政課の経験が効く入り口の枠を順に整理し、資格の位置づけ、在職中にできる準備、公務員が使えない支援制度、服務の線を書きます。業界の構造と職種ごとの評価は再生可能エネルギーは公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に、志望動機の組み立ては志望動機をどう組み立てるかに、処遇の決まり方は年収と働き方に書いています。
業界構造の要点——「技術」と「資格がなくても担う領域」の線
再生可能エネルギー電気は、再生可能エネルギー発電設備を用いて得られる電気で(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法第2条)、発電事業は計画の認定を受け(第9条)、経済産業大臣が定める価格と期間などの条件で電気事業者が調達する仕組みの対象になります(第3条)。電気事業には小売、一般送配電、発電などの区分があり(電気事業法第2条)、地域の新電力は小売電気事業として電気を供給します。自治体は実行計画で促進区域を定めることができ(地球温暖化対策の推進に関する法律第21条)、地域脱炭素化促進事業は計画の認定を受けます(第22条の2)。自治体の土地と建物は公有財産で(地方自治法第238条)、行政財産の貸付には制限があり(第238条の4)、屋根貸しと遊休地の活用はこの枠の中で組まれます。
設備の設計・施工・保守、系統の接続、電力の取引は技術の資格と経験が前提ですが、この線の外側——自治体連携と用地の開発、新電力の経営管理、導入を提案する会社の営業と企画、ファンドと金融の自治体向けの企画——は、技術の資格のない職員が担います。「未経験」かどうかは、この線のどちら側の業務に、自治体との接点があるかどうかで変わります。
「未経験」を3つに分ける
| 未経験の種類 | 財政課の方の実態 | 会社での重み |
|---|---|---|
| 自治体側未経験(出資と貸付の審査、公有財産の貸付の可否、公共施設の電力の調達の査定、促進区域に伴う事業の予算を知らない) | 経験者。地域の再エネの事業と新電力への出資と貸付を審査し、屋根貸しと遊休地の貸付を財政面から見て、電力の調達と導入を査定する側を実務で回している | 自治体連携と新電力の経営管理では最も重い。「外から推し量った」職員が持っていない知識 |
| 民間未経験(会社で働いたことがない) | 未経験。ただし、会社が持ち込んだ出資の話と導入の提案を自治体側で読み、審査している | 中程度。入社後の慣れで補える。選考では「審査する側から提案する側へ」の転換と、目標への姿勢で見られる |
| 技術未経験(発電の技術、系統の制度、電力の取引を知らない) | 未経験 | 自治体連携と経営管理では入社後に学ぶことを求められる。技術者との協働の姿勢は面接で必ず見られる |
財政課の方が「未経験」と感じているのは後ろの2つですが、自治体連携と新電力の経営管理で最も重いのは1つ目で、そこは経験者です。ただし、会社では2つ目のうち「目標への姿勢」と3つ目のうち「技術者との協働の姿勢」を面接で必ず確かめられます。
入り口になる枠——財政課の経験が効く順
未経験からの入り口は、財政課の経験が効く順に並べると次のようになります。
| 枠 | 主な業務 | 財政課の経験の効き方 | 求人の見つけ方 |
|---|---|---|---|
| 発電事業者の自治体連携・用地開発 | 促進区域と用地の開発、自治体との協定、公有財産の活用の提案、地域の合意 | 直接効く。出資と協定を審査し、公有財産の貸付の可否を内側で見た人は会社にいない | 求人票に「自治体」「地域」「協定」「用地」「公共」の語があるか。目標への姿勢を①で示す |
| 地域の新電力の経営管理 | 経営計画、電力の調達と販売、自治体との調整、経営状況の報告 | 直接効く。出資の審査で自治体が経営の見通しのどこを見るかを知っている | 求人票に「新電力」「地域」「自治体」「経営企画」「管理部門」の語があるか |
| 公共施設への導入を提案する会社の営業・企画 | 太陽光と蓄電池の提案、PPAの設計、自治体への提案 | 購入とPPAの比較と電力の調達の査定の視点が効く。設備の技術は未経験として扱われる | 求人票に「自治体」「公共施設」「PPA」「官公庁」の語があるか |
| 再エネのファンド・金融の自治体向け企画 | 地域の再エネの事業への資金の組み立て、自治体との連携 | 出資と貸付の審査の視点が効く。地方銀行・信用金庫に近い評価 | 求人票に「地域」「ファンド」「自治体連携」の語があるか |
| 設備の技術・保守 | 発電設備の設計、施工、保守、系統の接続 | 財政の経験は効きにくい。技術未経験者として扱われる | 資格と経験を前提にする求人が多い |
上の2つは「自治体側の経験者」として応募でき、3つ目と4つ目は「経験者の要素を持つ未経験者」として、5つ目は「未経験者」として応募することになります。同じ会社の中でも、どの枠で入るかで「未経験」の重みが変わるので、応募の前に求人票で業務を特定してください。隣の業界から入る道は未経験から環境・GXに入るにはとエネルギーに未経験から入るにはに書いています。
資格の位置づけ——取るべきか
資格は「入り口の条件」と「入った後の伸び」を分けて考えます。
入り口の条件としては、電気の資格は不要で、自治体連携と経営管理と営業・企画の領域に法律上の資格の要件はありません。発電事業者の自治体連携、新電力の経営管理、導入を提案する会社の営業と企画は、資格ではなく「自治体の側で何を見ていたか」と「技術者との協働の姿勢」と「目標への姿勢」で見られます。
入った後の伸びとしては、発電の技術と系統の制度と電力の取引を学ぶことが会社の中での位置を変えます。自治体連携では設備と系統の基礎、経営管理では需給と取引の仕組みを入社後に学ぶ前提です。
資格の取得を応募の条件にしないでください。自治体連携と新電力の経営管理の枠は求人が少なく、出たときに応募できるかで決まります。技術の学習は在職中に並行して進め、経験者として通る枠は今の経歴で応募します。
自分の経歴が「経験者」として通る枠か「未経験者」として入る枠かは、求人票を一緒に見ると判断しやすくなります。どの枠で応募できるかから相談できます。
在職中にできる準備——順序
在職中の準備は、次の順序で進めると、業務と重なる部分が多く、無理がありません。
1. 出資と貸付の審査の「型」にする。地域の再エネの事業や新電力への出資と貸付で、経営の見通しのどこを疑い、自治体の関与の範囲をどう線引きし、財源(地方財政法第5条)をどう組み、経営状況の報告のどこを確認したかを、個別の事業ではなく型として整理します。
2. 公有財産の貸付の「論点」を型にする。公共施設の屋根貸しと遊休地の貸付で、行政財産の貸付の可否(地方自治法第238条の4)、貸付料の考え方、契約の期間と財政面の何が論点になり、どこで判断が止まったかを型にします。
3. 電力の調達と導入の査定を型にする。公共施設の電力の調達で価格と契約の期間をどう査定し、太陽光と蓄電池の導入で購入とPPAをどう比べ、年度の周期のどこで判断が動いたかを型にします。
4. 認定と調達の仕組み、電気事業の区分の基本を読む。発電事業の認定(再エネ特措法第9条)と調達の仕組み(第3条)、電気事業の区分(電気事業法第2条)、促進区域と地域脱炭素化促進事業(温対法第21条、第22条の2)を、公開されている資料で読んでおきます。庁内研修(地方公務員法第39条)や自治体職員向けの脱炭素と公有財産の活用の研修があれば、今の業務の能率を上げる研修として受けられます。
5. 求人票で「自治体」「地域」「協定」「用地」「新電力」「公共施設」「PPA」の語を探す。自治体との接点がある枠は少ないので、語で絞って探します。
公務員が使えない支援制度と、代わりの機会
雇用保険の教育訓練給付金(雇用保険法第60条の2)は、対象が雇用保険の被保険者または被保険者でなくなってから一定期間内の人で、支給要件期間が3年以上あることが条件です。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外なので(同法第6条第6号)、在職中の公務員はこの給付の対象になりません。電力の制度の講座が指定の教育訓練になっていても、在職中は使えません。
代わりに使えるのは、前述の庁内研修(地方公務員法第39条)と、自治体職員向けに開かれている外部の研修です。「転職の準備」としてではなく「今の業務の能率を上げる研修」として探すと、庁内の手続きも通りやすく、内容も業務に直結します。脱炭素と公有財産の活用に関する研修は自治体職員向けに開かれているものがあります。
服務の線——在職中の準備で触れてはいけないこと
在職中の準備には、地方公務員法の線があります。
営利企業への従事(第38条)。在職中に会社の業務を手伝う、報酬を受けて事業計画や自治体への提案書の作成を請け負う、といったことは、任命権者の許可がなければできません。「実務経験を積むために手伝う」は、この線に触れます。
秘密を守る義務(第34条)。個別の出資の審査の経緯、未公表の屋根貸しと遊休地の活用の検討、電力の調達で他社の提案と比べた内容は、退職後も秘密です。準備で「型」にするのは制度と業務の型で、個別の内容は手元に置かないでください。自治体の未公表の判断は会社の側から見ても価値が高いので、この線は重く見られます。
再就職者による依頼等の規制(第38条の2)。自分の自治体が出資している新電力、屋根貸しと遊休地の貸付の相手方、公共施設への導入を受注している会社、協定を結んでいる発電事業者に移る場合、退職後に元の職場へ職務上の依頼をすることには規制があります。在職中に応募する場合は、勤務時間外に行い、接点があることを応募先にも伝えるほうが安全です。
内定後は、労働基準法第15条により労働条件が書面などで明示されるので、未経験での入社に伴う条件(試用期間、担当する業務が自治体連携・経営管理・企画に特定されているか、業務と就業場所の変更の範囲に技術や需給の管理、用地の現地と発電所が含まれるか——労働基準法施行規則第5条第1号の3、当番と出張の扱い——同条第2号、賃金の内訳と用地の獲得や導入に連動する評価——同条第3号)を通知書で確かめてから承諾してください。
掲載中の求人は、「自治体連携や経営管理の枠があるか」「未経験可の条件」「駐在の有無」が業務内容で見えます。行政が相手の求人を見てみる
まとめ
- 再生可能エネルギーには、技術の外側に、発電事業者の自治体連携と用地開発、地域の新電力の経営管理、導入を提案する会社の営業・企画、ファンドと金融の自治体向け企画といった、資格を前提としない領域がある
- 「未経験」は自治体側未経験・民間未経験・技術未経験の3つに分かれ、財政課の方は1つ目については経験者。自治体連携と新電力の経営管理では最も重い
- 入り口は発電事業者の自治体連携・用地開発→新電力の経営管理→導入を提案する会社の営業・企画→ファンド・金融の自治体向け企画→設備の技術・保守の順に財政課の経験が効く。上の2つは経験者として応募する
- 電気の資格は不要で、自治体連携と経営管理と営業・企画に法律上の資格の要件はない。技術と電力の制度は入社後に学ぶ前提。資格の取得を応募の条件にしない
- 応募先が開発の段階か運転の段階かで、自治体連携の中身と働き方が変わる
- 在職中の準備は、出資と貸付の審査の型→公有財産の貸付の論点の型→電力の調達と導入の査定の型→認定と調達の仕組みの基本→求人票の語の順
- 教育訓練給付金は在職中の公務員は対象外(雇用保険法第6条第6号)。庁内研修と自治体職員向けの脱炭素と公有財産の活用の研修を「業務の能率を上げる研修」として使う
- 在職中に会社の業務を手伝わない(地方公務員法第38条)。未公表の判断は持ち出さない(第34条)。接点のある会社への応募は隠さない(第38条の2)
よくある質問
30代後半で、技術も民間も未経験です。年齢で入り口は狭くなりますか
枠によります。設備の技術と保守は、資格と経験を一から積む前提の枠なので、年齢と経験の組み合わせで見られます。一方、発電事業者の自治体連携と地域の新電力の経営管理では、会社が欲しいのは「出資と貸付を審査する側、公有財産の貸付を判断する側、電力の調達を査定する側にいた人」で、財政課での年数はそのまま経験の厚みとして扱われます。年齢で狭くなるのは技術未経験者として入る枠で、経験者として入る枠では、年数はむしろ材料です。どちらの枠に応募するかを先に決めてください。
電気やエネルギーの資格を取ってから応募したほうが有利ですか
枠で分かれます。設備の技術と保守では、電気主任技術者のように保安のために置くことが前提になる職種があり、取得は入り口の条件になります。自治体連携と経営管理と営業・企画では、資格より「出資と貸付の審査、公有財産の貸付、電力の調達の査定の経験」が先に見られ、技術と電力の制度は入社後に技術者に教わる前提で通ることがあります。求人の少ない枠ほど、出たときに応募できるかで決まるので、資格の取得を応募の条件にせず、技術の基本の学習は在職中に並行して進めてください。
在職中に、発電事業者が主催する自治体向けの促進区域や屋根貸しのセミナーに参加してよいですか
自治体職員向けに公開されているセミナーに、業務の一環として、または自分の時間に参加すること自体は問題ありません。庁内の手続き(研修としての参加か、私的な参加か)に従ってください。線が引かれるのは、参加をきっかけにその会社の業務を報酬を受けて手伝うこと(地方公務員法第38条の営利企業への従事の制限)と、セミナーの場で自分の自治体の未公表の屋根貸しと遊休地の活用の検討、出資の審査の経緯、電力の調達で他社の提案と比べた内容を話すこと(第34条)です。応募する意思がある場合、在職中のやり取りは勤務時間外に行い、自分の自治体との接点があるなら応募先にも伝えておくほうが安全です(第38条の2)。
出典
- 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法 第2条(定義)/第3条(調達価格等)/第9条(再生可能エネルギー発電事業計画の認定)|e-Gov法令検索
- 地球温暖化対策の推進に関する法律 第21条(地方公共団体実行計画等)/第22条の2(地域脱炭素化促進事業計画の認定)|e-Gov法令検索
- 電気事業法 第2条(定義)|e-Gov法令検索
- 地方財政法 第5条(地方債の制限)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第234条(契約の締結)/第238条(公有財産の範囲及び分類)/第238条の4(行政財産の管理及び処分)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条(営利企業への従事等の制限)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)/第39条(研修)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第60条の2(教育訓練給付金)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索