制度とお金 / 休暇
フレックスタイム・時差出勤
「民間はフレックスで働けると聞いた」「役所は始業と終業が固定で、通勤も送迎も融通が利かない」——転職を考える理由として聞く言葉です。実際、地方公務員の勤務時間は、始業と終業が条例・規則で固定されている形が基本です。
ただし、地方公務員にもフレックスタイムと時差出勤の仕組みはあります。国の一般職には勤務時間法第6条第3項によるフレックスタイム制があり、自治体は条例・規則でこれに準じた制度を設けています。民間のフレックスタイム制(労働基準法第32条の3)とは根拠が違い、制度の形も違うので、その違いを知ると、転職先の制度と比べられます。
この記事では、地方公務員のフレックスタイムと時差出勤の根拠、国の制度の形、自治体での運用、財政課での使い方、転職先のフレックスとの比較を整理します。自治体の制度は条例・規則によるので、自分の自治体に制度があるか、内容はどうかを人事の担当課で確かめてください。
根拠——労働基準法のフレックスは適用されない
| 規定 | 内容 |
|---|---|
| 労働基準法第32条の3 | フレックスタイム制。労使協定で清算期間、総労働時間などを定め、労働者が始業・終業の時刻を自分で決める |
| 地方公務員法第58条第3項 | 労働基準法の第32条の3から第32条の5までは、職員に関して適用しない |
| 地方公務員法第24条第5項 | 勤務時間その他の勤務条件は条例で定める |
| 勤務時間法第6条第3項(国) | 各省各庁の長は、職員の申告を考慮して、週休日のほかに勤務時間を割り振らない日を設け、または勤務時間を割り振ることが公務の運営に支障がないと認める場合には、通常の割振りにかかわらず勤務時間を割り振ることができる |
地方公務員には、労働基準法のフレックスタイム制は適用されません。その代わり、国の勤務時間法第6条第3項が「職員の申告を考慮した勤務時間の割振り」としてフレックスタイム制を定めており、自治体は条例・規則でこれに準じた制度を設けています。「労使協定で始業・終業を自分で決める」民間の形ではなく、「申告に基づいて任命権者が割り振る」形です。
国のフレックスタイム制の形
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 申告 | 職員が、勤務時間の割振りの希望を申告する(一定の期間ごと) |
| 割振り | 各省各庁の長が、申告を考慮して、公務の運営に支障がない範囲で勤務時間を割り振る |
| コアタイム | 必ず勤務する時間帯を設ける形が一般的(人事院規則で定める) |
| フレキシブルタイム | 割振りができる時間帯の範囲 |
| 週休日の追加 | 週休日のほかに勤務時間を割り振らない日を設けることができる(総勤務時間を保ちながら、週に1日多く休む形も可能) |
| 総勤務時間 | 一定の期間の総勤務時間は変わらない |
「職員の申告を考慮して」「公務の運営に支障がないと認める場合」が要件なので、申告が必ず通るわけではなく、任命権者の判断が入ります。民間のフレックスが労働者の裁量であるのに対し、公務員のフレックスは申告と割振りの仕組みです。
時差出勤との違い
| 項目 | フレックスタイム | 時差出勤 |
|---|---|---|
| 仕組み | 職員の申告を考慮して、勤務時間の割振りを変える。日ごとの始業・終業を変え、週休日の追加も可能 | あらかじめ定められた複数の勤務時間の型(早出、遅出など)から選ぶ |
| 柔軟性 | 高い(日ごと、週ごとの変更が可能) | 限定的(型の中から選ぶ) |
| 根拠 | 条例・規則(国の勤務時間法第6条第3項に準じる) | 条例・規則(勤務時間の割振りの一形態) |
| 運用 | 制度を設けている自治体は限られる | 育児・介護などの事情がある職員向けに設けている自治体が多い |
時差出勤は、育児・介護の事情がある職員に、早出・遅出の型を認める形で運用されていることが多く、フレックスタイムより広く設けられています。フレックスタイム制は、国では一般職の職員に広く導入されていますが、自治体では導入の状況が分かれます。
財政課での使い方
| 場面 | フレックス・時差出勤の使い方 | 制約 |
|---|---|---|
| 送迎 | 時差出勤の遅出の型、またはフレックスで始業を遅らせる | 公務の運営に支障がないこと。窓口や会議の時間との調整 |
| 予算編成の繁忙期 | 早出で朝の静かな時間に査定の作業を進め、終業を早める | 繁忙期は割振りの変更が認められにくいことがある |
| 議会の時期 | 議会の日程に合わせて割振りを変える | 議会の日程は他律的なので、制度の恩恵は限定的 |
| 週休日の追加 | 総勤務時間を保ちながら、週に1日多く休む | 制度を設けている自治体に限る。課の体制で吸収できること |
財政課は他律的な業務が多く、フレックスの恩恵が限定的な時期があります。一方で、決算・統計の時期は自分の裁量で進められる業務が多く、フレックスや時差出勤が効きます。制度があるかと、自分の部署で運用されているかは別なので、両方を確かめてください。
転職先のフレックスとの比較
| 項目 | 地方公務員 | 民間(労働基準法第32条の3) |
|---|---|---|
| 根拠 | 条例・規則(申告と割振り) | 労使協定(労働者の裁量) |
| 始業・終業 | 申告を考慮して任命権者が割り振る | 労働者が決める(コアタイムがあればその範囲で) |
| 清算期間 | 一定の期間の総勤務時間を保つ | 最長3か月の清算期間で総労働時間を清算 |
| 導入の状況 | 自治体により分かれる。時差出勤は比較的多い | 企業により分かれる。導入していれば裁量は大きい |
| 確かめること | 制度の有無、コアタイム、週休日の追加の可否、部署での運用 | 制度の有無、コアタイムの有無と時間帯、清算期間、部署での運用の実態、在宅勤務との組合せ |
転職先に「フレックスあり」と書かれていても、コアタイムが長い、部署の慣行で結局は定時に出ている、といった実態があります。内定の段階で、コアタイムの時間帯と、配属される部署での運用の実態を聞いてください。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、フレックス・時差出勤で効いてくる点は3つです。
1. 自分の自治体の制度を先に確かめる
時差出勤は多くの自治体にあり、フレックスも導入が進んでいます。制度で解決すれば転職は要りません。
2. 転職先の「フレックスあり」は、コアタイムと運用の実態で判断
制度の名前ではなく、何時に出て何時に帰れるかで比べてください。
3. 公務員のフレックスは申告と割振り、民間は労働者の裁量
仕組みが違うので、転職先では裁量が大きくなる代わりに、労働時間の管理も自分で担うことになります。
手続きと期限
| 順序 | すること | 時期 | 場所 |
|---|---|---|---|
| 働き方に不満を感じたら | 自治体のフレックスタイム・時差出勤の制度の有無と内容を確かめる | 最初に | 人事の担当課、例規集 |
| 制度があれば | 自分の部署で運用されているかを所属に確かめ、申告する | 制度の定める期限 | 所属、任命権者 |
| 転職を考えたら | 転職先のフレックスの有無、コアタイム、清算期間、部署の運用の実態、在宅勤務との組合せを聞く | 内定の段階 | 転職先 |
| 入社後 | 労働時間を自分で管理する。清算期間の総労働時間を意識する | 継続 | ── |
誤解されやすい点
「公務員にはフレックスも時差出勤もない」と思い込む
国にはフレックスタイム制があり、自治体は条例・規則で時差出勤やフレックスを設けています。自分の自治体の制度を確かめてください。
「公務員のフレックスは民間と同じ仕組み」と思い込む
労働基準法第32条の3は適用されず(第58条第3項)、申告と割振りの仕組みです。
「転職先に『フレックスあり』なら自由に働ける」と思い込む
コアタイムと部署の運用の実態で決まります。内定の段階で聞いてください。
「財政課ではフレックスは使えない」と思い込む
繁忙期は限定的ですが、決算・統計の時期などは使えます。部署での運用を所属に確かめてください。
まとめ
- 地方公務員には労働基準法第32条の3のフレックスタイム制は適用されず(地方公務員法第58条第3項)、勤務時間は条例で定めます(第24条第5項)
- 国の一般職には勤務時間法第6条第3項により、職員の申告を考慮して、公務の運営に支障がない範囲で勤務時間を割り振るフレックスタイム制があり、週休日の追加も可能です。自治体は条例・規則でこれに準じた制度を設けています
- 時差出勤は、早出・遅出の型から選ぶ仕組みで、育児・介護の事情がある職員向けに多くの自治体が設けています。フレックスより広く導入されています
- 公務員のフレックスは申告と割振り、民間は労働者の裁量という仕組みの違いがあります
- 転職先の「フレックスあり」は、コアタイムの時間帯、清算期間、部署の運用の実態、在宅勤務との組合せで判断してください
- 「フレックスがないから転職」は、自分の自治体の制度と転職先の実態の両方を確かめてから。制度の名前ではなく、何時に出て何時に帰れるかで比べます
よくある質問
私の自治体にフレックスタイム制があるか、どう確かめればよいですか
例規集で「勤務時間の割振り」「フレックスタイム」「早出遅出」「時差出勤」を検索するか、人事の担当課に聞いてください。地方公務員の勤務時間は条例で定められ(地方公務員法第24条第5項)、フレックスタイムや時差出勤は、勤務時間条例と規則の中で、勤務時間の割振りの特例として定められています。名称は自治体によって「フレックスタイム制」「勤務時間の割振りの申告」「早出遅出勤務」「時差出勤」などさまざまで、育児・介護の事情がある職員に限る制度と、全職員を対象とする制度があります。国の勤務時間法第6条第3項に準じたフレックスタイム制を導入している自治体は増えていますが、まだ限られ、時差出勤のほうが広く設けられています。人事の担当課に「勤務時間の割振りを変える制度(フレックス、時差出勤)があるか、対象と手続きはどうか」を聞くのが最も確実で、転職の意思を伝える必要はありません。制度があっても、自分の部署で運用されているかは別なので、所属にも確かめてください。
転職先の求人票に「フレックスタイム制」とありました。何を確かめればよいですか
コアタイムの有無と時間帯、清算期間、配属される部署での運用の実態、在宅勤務との組合せの4つです。民間のフレックスタイム制は労働基準法第32条の3に基づき、労使協定で清算期間(最長3か月)と総労働時間を定め、労働者が始業・終業を決める仕組みです。コアタイム(必ず勤務する時間帯)を設けるかどうかは企業の任意で、コアタイムが長ければ裁量は小さく、コアタイムがなければ(スーパーフレックス)裁量は大きくなります。求人票の「フレックスタイム制」だけでは、この違いが分かりません。「コアタイムは何時から何時ですか。配属予定の部署では、実際に何時ごろ出社する方が多いですか」と聞くのが、条件の確認として自然です。部署の慣行で定時に出ることになっている企業もあるので、実態を聞くことが大切です。在宅勤務と組み合わせられるかも、通勤の時間に効きます。清算期間の総労働時間を自分で管理する必要があるので、公務員の固定の勤務時間に慣れている方は、入社後に労働時間の記録を自分で持つ習慣をつけてください。
財政課でフレックスや時差出勤を使うと、周囲に迷惑をかけませんか
要件は「公務の運営に支障がないこと」で、部署で制限する規定はありません。繁忙期と閑散期で使い分けるのが現実的です。フレックスタイムも時差出勤も、任命権者が公務の運営に支障がないと認める範囲で認める仕組みなので、財政課であることが理由で使えないわけではありません。ただし、予算編成の時期や議会の時期は、会議、内示、質問への対応が他律的に入り、割振りの変更が認められにくいことがあります。決算・統計の時期や、年度の前半は、自分の裁量で進められる業務が多く、フレックスや時差出勤が使いやすい時期です。送迎などの事情が年間を通じてある方は、時差出勤の型(遅出など)を通年で申告し、繁忙期の対応は課内で分担を相談する形が、周囲との関係を保ちながら制度を使う形です。育児の事情なら、部分休業や育児短時間勤務(育児部分休業・部分休暇)と組み合わせる道もあります。制度を使ったことを理由とする不利益な取扱いは許されないので、遠慮して使わないより、所属に相談して使い方を決めるほうが、結果として周囲との調整も滑らかです。