部署別 / 財政課
財政課からの転職先|経験が値になる5つの方向
財政課から動こうと考えたとき、いちばん困るのは「どこを受ければいいのか」が分からないことです。
営業職なら同業他社があります。技術職なら資格で入口が決まります。財政課には、そのまま対応する会社がありません。だから求人サイトを開いても、何で絞ればいいのか分からないまま時間が過ぎます。
この記事では、財政課の経験が値になる方向を5つに分けて並べます。あわせて、合いにくい方向も同じだけ書きます。向いている先だけを並べた記事は、選ぶ材料になりません。
なお、庁内の仕事が求人票でどの言葉に置き換わるかは財政課の経験は民間で何と呼ばれるかに整理しています。この記事は、その先の「どこへ出すか」の話です。
財政課の仕事のうち、持ち出せるのはどこか
まず、何が持ち出せるのかをはっきりさせます。財政課の担当が手を動かしているのは、おおむね次の仕事です。
- 予算編成方針を作り、各部署へ示達する
- 上がってきた要求を査定し、ヒアリングで詰める
- 中長期の財政計画を引き、地方債の発行と償還を管理する
- 地方交付税の算定基礎をそろえる
- 予算案を議会に提出し、質疑に答える
- 決算を取りまとめ、監査委員の審査と議会の認定を通す
- 財政指標を管理する
このうち、制度の知識そのものが値になるものと、判断の型が値になるものの2種類があります。
交付税の算定や起債の手続きは、前者です。自治体を相手にする企業でしか使えませんが、その世界では希少です。
一方、査定・計画・議会対応は後者です。相手が誰であっても、限られた原資をどこに配るかを決め、決めた理由を説明するという形は変わりません。
どちらを持ち出すかで、行き先が分かれます。
財政課が扱っている「縛られない財源」という考え方
もう一つ、財政課の人が自然に持っている感覚があります。お金には使い道を縛られたものと、縛られていないものがある、という区別です。
地方交付税法第1条は、この法律が、地方団体が自主的にその財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能をそこなわずに、その財源の均衡化を図り、交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障することによって、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することを目的とすると定めています。
そして第3条第2項は、国は交付税の交付にあたって条件をつけ、又はその使途を制限してはならないとしています。
お金を出すのに、使い道を縛らない。
補助金とは、ここが決定的に違います。補助金は目的に沿って使わなければならず、目的外に使えば返還の対象になります。交付税はそうではありません。
財政課にいると、この違いを毎年扱うことになります。どの財源で何ができて、何ができないのか。一般財源をどれだけ確保できるかが、政策の自由度をそのまま決めます。
この感覚は、企業に移っても効きます。全社の共通費と事業部の予算、本社からの配賦と自部門の裁量、ひもつきの資金と自由に使える資金。構造が同じだからです。
方向1:自治体を顧客にしている企業
自治体向けのシステムやクラウドサービス、建設コンサルタント、シンクタンク、印刷・帳票、公共向けの人材サービスなど、顧客が行政である企業です。
ここでは、制度の知識がそのまま値になります。理由は単純で、売る側に「役所の予算がどう決まるか」を知っている人がほとんどいないからです。
- いつ予算要求が始まり、いつ査定が終わるのか
- どの段階なら提案が間に合い、どの段階では手遅れなのか
- 当初予算に載る案件と、補正予算で対応される案件の違い
- 単年度の予算と債務負担行為の使い分け
- 交付税措置のある事業と、一般財源を持ち出す事業の通りやすさの差
庁内にいれば当たり前のこれらが、外からはまったく見えません。提案の時期を外して失注している会社は珍しくありません。
職種としては、営業そのものより提案企画・事業企画・公共渉外あたりに置かれることが多く、営業担当に同行して制度面を説明する役回りになる場合もあります。
方向2:事業会社の経営企画・財務企画
事業会社の経営企画、財務企画、予算管理の部署です。
全部署の要求が一度は手元を通り、全体を見たうえで配分を決める。この構造がそのまま重なります。
ここで効くのは、査定の技術より断る技術のほうです。感情ではなく、制度と数字で、相手が納得しないまでも反論できない形に落とす。財政課では毎年これをやっています。
もう一つ効くのが、期限が動かせない前提で作業を組む習慣です。予算は年度開始前に議決を得なければならず、遅れるという選択肢がありません。決算も同じです。期限が先に決まっている中で、材料が揃わないまま判断を重ねていく進め方は、慣れていない人にはかなり難しい仕事です。
方向3:公共インフラ・PFI・指定管理
上下水道、道路、公共施設の運営、PFIや指定管理に関わる企業です。
事業の相手方が自治体なので、財政の制約がそのまま案件の条件になります。債務負担行為の年限、起債の充当率、施設の更新時期。財政課で地方債や財政指標を見ていた人は、この前提を説明されなくても理解できます。
この方向は、方向1と重なる部分がありますが、違いは事業期間の長さです。数十年単位の契約になるため、単年度の予算の話より、長期の収支の見立てのほうが中心になります。中長期の財政計画を引いた経験があるなら、そちらを前に出してください。
方向4:金融
地方銀行、信用金庫、政策金融機関、証券会社の公共部門などです。
地方債の発行と償還を扱った経験は、この方向では直接的な実務経験として読まれます。加えて、自治体の財政状況を読める人は、取引先としての自治体を評価できる人でもあります。
ただし、この方向は求人の数が多くありません。募集が出るタイミングも限られます。ここだけを狙うと活動が長引きやすいので、方向2と並行して見ておくほうが現実的です。
方向5:会計・監査・コンサルティング
監査法人の公会計部門、公共分野のコンサルティングファーム、自治体の業務改善を支援する会社などです。
決算の取りまとめや財政指標の管理をしていた人は、この方向に接続できます。公会計の財務書類を作っていた経験があれば、発生主義の考え方を一度通っているので、説明がしやすくなります。
一方で、この方向は働き方の変化が大きい方向でもあります。案件ごとに常駐先が変わる、繁忙の波が予算年度とは別の周期で来る、といった違いがあります。仕事の中身だけでなく、生活の形が変わることを織り込んでおいてください。
合いにくい方向も書いておきます
向いている先だけを並べても、選ぶ材料になりません。合いにくい方向も挙げます。
個人の売上目標が明確に立つ職種
査定は「使わない判断」に価値がある仕事です。営業は「取ってくる判断」に価値がある仕事です。どちらが上ということではなく、評価される行動が逆を向いています。ここは面接でも正面から問われます。合わないという意味ではなく、切り替えが要ることを自覚しているかどうかが見られます。
意思決定の単位が週や日の職場
予算は年に一度確定させるものです。事業会社でも、月次で締めて方針を変える程度なら適応できますが、日単位で方針が変わる環境では、前提が違いすぎます。スタートアップを検討する場合は、この点を面接で確かめてください。
制度の知識が使えない領域
交付税や起債の知識は、自治体を相手にしない企業ではまったく使えません。方向2や方向5を狙うなら、制度の知識ではなく判断の型を前に出す必要があります。ここを間違えると、職務経歴書が「役所の説明書」になってしまいます。
探すときに使う言葉
求人を探すときは、庁内の言葉では出てきません。次の言葉に置き換えてください。
| 持ち出すもの | 検索に使う言葉 |
|---|---|
| 予算編成・査定 | 予実管理、予算管理、経営企画、財務企画 |
| 中長期の財政計画 | 財務モデリング、中期経営計画、資金計画 |
| 地方債の発行と償還 | 資金調達、財務、デットファイナンス |
| 交付税・国庫補助の実務 | 公共営業、渉外、制度対応、パブリックセクター |
| 議会答弁・議案説明 | ステークホルダー対応、渉外、広報 |
| 全庁横断の調整 | プロジェクト推進、事業企画、業務改革 |
部署ごとの対応は自治体の部署別 仕事ガイドにもまとめています。
つまずきやすい点
1. 「行政向けの会社なら安心」と考えて入る
いちばん多い失敗です。自治体向けの事業を持っている会社でも、部門によっては民間顧客が中心のことがあります。入ってから民間営業の担当になり、想定していた経験が使えない、という例があります。面接で「配属予定の顧客セグメント」を必ず確認してください。「行政向けの事業もやっています」という説明と、「あなたが担当するのは行政です」は別の話です。
2. 制度の知識だけで勝負しようとする
方向1では制度の知識が効きますが、それだけでは入社後に行き詰まります。制度を知っている人として採られたあと、提案そのものを組み立てる場面が必ず来ます。判断の型のほうも一緒に持ち出しておいてください。
3. 規模の大きい自治体の出身であることを強みにしてしまう
予算規模は自治体の大きさで決まるもので、担当者の裁量とは比例しません。読む側もそれを知っています。規模より、何件の要求を、どういう基準で、誰と詰めたかのほうが情報量があります。
4. 応募先を1方向に絞りすぎる
方向4(金融)や方向5(コンサルティング)は求人の数が限られます。ここだけに絞ると、活動が長引きます。方向2を並行して見ておくと、選択肢が減りません。
自分の経歴がどの方向に向いているかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
まとめ
- 財政課から持ち出せるものは2種類あります。制度の知識(交付税・起債)と、判断の型(査定・計画・説明)。どちらを出すかで行き先が分かれます
- 制度の知識が効くのは、自治体を顧客にしている企業、公共インフラ・PFI、金融の3方向です
- 判断の型が効くのは、事業会社の経営企画・財務企画、会計・監査・コンサルティングの2方向です
- 合いにくいのは、個人の売上目標が立つ職種、意思決定の単位が日単位の職場、制度の知識が使えない領域です
- いちばん多い失敗は「行政向けの会社なら安心」と考えて入ること。配属予定の顧客セグメントを面接で必ず確認してください
- 方向1と方向2は併願しやすく、方向1と方向5は職務経歴書を分けたほうが早く終わります
在職中でも、情報収集だけでも構いません。ご利用は無料です(紹介手数料は採用企業の負担です)。
よくある質問
小さい自治体の財政課でも評価されますか
されます。むしろ、小規模な団体のほうが一人が見る範囲が広いため、編成から決算、起債まで通して経験している場合があります。大きい自治体では担当が細かく分かれ、査定だけ、起債だけを数年やるという形になりがちです。職務経歴書では規模ではなく、自分が通しで見た範囲を書いてください。
財政課に何年いれば動けますか
年数より、一年のサイクルを何回通ったかで見てください。編成方針の作成、要求の査定、議会の議決、執行、決算の認定。この一巡を経験しているかどうかが、書ける内容の厚みを決めます。1回通っていれば話は組めますし、3回通っていればパターンの違いも語れます。年数そのものを問われる場面は多くありません。
公務員から民間に移ると、年度途中の退職は迷惑になりませんか
制度上、退職の申出に年度の縛りはありません。ただし予算編成の山(おおむね11月から1月)と決算の取りまとめ期は、引継ぎの負担が大きくなります。引継ぎのしやすさで時期を選ぶなら、決算が議会の認定を通ったあとから、次の編成方針を作るまでの間が比較的まとまった時間を作りやすい期間です。退職金や共済の扱いは在職期間で変わる部分があるので、手続きの前に必ず所属の人事担当課と共済組合で確認してください。なお、公務員には雇用保険が適用されません(公務員に雇用保険がない理由)。