業界研究 / 不動産・デベロッパー
未経験から不動産・デベロッパーに入るには|公務員経験の使い方
「不動産の実務がなく、民間で働いたこともなく、宅建の資格もない。それでも不動産・デベロッパーに入れるのか」——財政課の方からこの質問を受けたとき、当社の答えは「住宅や商業の営業・開発の枠では、財政課の経験は直接には効かない。ただし、官公庁向けの公民連携・事業企画の枠なら、『自治体が財産を処分し、PFIを決める理屈の内側』を知っていることが経験者として扱われる」です。
「未経験」と一括りにされているものは、3つの別のものです。不動産の評価・事業収支・開発の実務を知らない(不動産未経験)、民間企業で働いた経験がない(民間未経験)、自治体側の財産の制度と財政の見え方を知らない(発注者側未経験)。デベロッパーの公民連携の枠が重く見るのは3つ目で、財政課の方はここだけは経験者です。前の2つが未経験であることは、枠を選べば入り口を閉じません。
この記事では、「未経験」の3つの分解、財政課の経験が効く入り口の枠、宅地建物取引士の位置づけ、在職中にできる準備の順序、公務員が使えない支援制度と使える機会、服務の線を整理します。業界の構造と職種ごとの評価は不動産・デベロッパーは公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に、志望動機は不動産・デベロッパーの志望動機に書いています。
業界構造の要点——「民間向けの営業・開発」と「公民連携」の線
不動産・デベロッパーの事業の大半は民間の土地と顧客を相手にし、宅地建物取引業には免許(宅地建物取引業法第3条第1項)と事務所等ごとの宅地建物取引士の設置(同法第31条の3第1項)が要ります。自治体と向き合う領域は、公有地の取得(財産の処分は条例または議会の議決——地方自治法第237条第2項、行政財産は原則として処分できず用途廃止と普通財産化が要る——第238条第3〜4項、第238条の4第1項)、公共施設の再編と跡地活用(総務省が2014年に指針を示した総合管理計画)、PPP/PFI(選定事業のための行政財産の貸付け——PFI法第69条)、公民連携の事業企画です。
この構造で押さえるべきことは、「営業・開発は市場の知識、交渉、事業収支が前提で、財政課の経験では代替できない」線と、「公民連携・事業企画は、自治体が決める理屈の内側を知っていることが評価される」枠が、同じ会社の中に並んでいることです。未経験から入る道は後者にあり、その枠がある会社は限られます。
「未経験」を3つに分ける
| 未経験の種類 | 財政課の方の実態 | デベロッパーでの重み |
|---|---|---|
| 発注者側未経験(自治体の財産の制度と財政の見え方を知らない) | 経験者。公有財産の処分の査定(価格、時期、議会説明)、売却収入の歳入計上、PFIの財政負担の比較、再編の財政効果、債務負担行為を実務で回している | 公民連携・事業企画では最も重い。「外から学んだ」事業企画の担当者が持っていない知識 |
| 民間未経験(会社で働いたことがない) | 未経験。ただし、事業者の提案を発注者側で読み、審査している | 中程度。入社後の慣れで補える。選考では「提案して選ばれ、事業のリスクを負う側」への転換の理解で見られる |
| 不動産未経験(評価、事業収支、開発の実務を知らない) | 未経験 | 営業・開発では決定的。公民連携・事業企画では、民間側の採算は入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的 |
財政課の方が「未経験」と感じているのは後ろの2つですが、公民連携の枠で最も重いのは1つ目で、そこは経験者です。この認識を直すことが、応募できる枠を見つける最初の一歩です。
入り口になる枠——財政課の経験が効く順
1. 公民連携・事業企画(官公庁向け)。公有地の取得、PPP/PFIの提案、公共施設の複合化、自治体との協議。財政課の経験が最も直接に効く枠で、民間側の採算は入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的です。求人票に「公民連携」「PPP/PFI」「官公庁」「公有地」の言葉があるかで見分けます。
2. 用地・開発(自治体との調整を含む)。土地の取得、開発許可の手続き、行政協議。自治体の手続きと意思決定の作法を知っていることが効きますが、民有地の交渉と開発の実務は学習が要ります。1を経てから移ることが多い枠です。
3. 資産運用・CRE。保有不動産の運用、自治体や企業の資産の活用提案。公有財産の利活用の視点が効きますが、不動産の評価と金融の知識は別途の学習が要ります。
4. 営業(住宅・商業)、設計・施工管理。未経験からの入り口としては現実的ではありません。前者は営業の型と市場の知識、後者は技術と資格が前提です。財政課の経験だけでこれらの枠に入る道は、当社の見る範囲では一般的ではありません。
入り口は1、次いで2か3、という順序が現実的です。「未経験だから」と営業の枠から入る必要はなく、むしろ効く枠を先に探します。
宅地建物取引士の位置づけ——取るべきか
未経験の方から「宅建を取ってから応募すべきか」と聞かれます。答えは、公民連携・事業企画の枠では応募の前提ではなく、取ることで営業・開発の枠が開くわけでもないです。
宅地建物取引業者は事務所等ごとに宅地建物取引士を置く定めがありますが(宅地建物取引業法第31条の3第1項)、それは会社側の要件で、個々の応募者の要件とは別です。会社によっては入社後の取得を求め、資格手当を設けていることがあるので、その扱いはオファーの段階で確かめます。資格の勉強は、不動産の取引と権利関係の基礎を体系的に押さえる機会にはなるので、入社後に取る動機にはなりますが、応募の前提にするのではなく、勉強の範囲を決める目安として使うのが位置づけです。
一方で、財政課の経験を示す材料として効くのは、資格より「公有財産と財政」の軸で棚卸しした業務の具体です。公有財産の処分の査定、売却収入の歳入計上、貸付料の設定、PFIの財政負担の比較、再編の財政効果、債務負担行為の設定、議会説明——それぞれで自分が何を判断し、何を作ったか。これが職務経歴書の中心です。
自分の業務の棚卸しが、どの会社のどの枠に当たるのかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
在職中にできる準備——順序
1. 業務の棚卸し(不動産の学習より先)。「公有財産と財政」の軸で、自分が判断し、作ったものを書き出す。「自治体側と民間側がずれていた場面」と「直した場面」を中心に。
2. 自分の自治体の公有財産の処分やPFIの事例を、事業者の視点で読み直す。財政課にいた方は、これらの予算と議案を査定しているはずです。「事業者がどう提案したか」「財政課としてどこを査定したか」「議会で何が聞かれたか」の視点で読み直すと、業務のイメージがつかめます。
3. 「自治体が決める理屈」を3分で話す練習。「公有地を売るとき、どこで止まるか」を、制度(用途廃止、普通財産化、議会の議決)・財政(歳入計上の年度と価格の査定)・議会(価格の根拠と跡地の使途)の3つで、公表資料の範囲で話せるようにしておきます。選考フローと面接で見られている観点に、質問の型を整理しています。
4. 不動産の語彙を、必要な分だけ。事業収支の基本(取得費、建設費、賃料、売却価格、利回りの考え方)、開発の流れ(用地取得、許認可、設計、施工、竣工)、権利関係の基礎——事業企画の担当者と会話するための語彙です。宅建の試験の範囲を目安に使えますが、資格の取得を目的にしないでください。
5. 庁内の研修と、業務での機会。地方公務員法第39条は、職員に研修を受ける機会が与えられなければならないと定めています。公共施設マネジメント、PPP/PFI、公有財産の利活用の庁内研修や、他の自治体との研究会は、在職中の正当な学習機会です。また、財政課として公有財産の処分の査定、PFIの財政負担の比較、再編の財政効果の算定に深く関わることは、そのまま経験になります。転職のためではなく、現在の業務としてこれらに関わることが、結果として最も強い準備です。
公務員が使えない支援制度と、代わりの機会
雇用保険の教育訓練給付金(雇用保険法第60条の2)は、対象が雇用保険の被保険者または被保険者でなくなってから一定期間内の人で、支給要件期間が3年以上あることが条件です。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外なので(同法第6条第6号)、在職中の公務員はこの給付の対象になりません。宅建の講座が指定の教育訓練になっていても、在職中は使えないということです。民間に転職した後、被保険者としての期間が要件を満たせば対象になります。
代わりに使えるのは、前述の庁内研修(地方公務員法第39条)と、自治体職員向けに開かれている外部の研修です。「転職の準備」としてではなく「今の業務の能率を上げる研修」として探すと、庁内の手続きも通りやすく、内容も業務に直結します。
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服務の線——在職中の準備で触れてはいけないこと
1つ目は、自治体の内部資料を学習や応募の材料に使うこと。地方公務員法第34条の秘密を守る義務により、未公表の資料(処分を検討中の財産、予定価格、他社の提案、審査の内容、再編の未公表の方針)を持ち出して、勉強や応募の材料にすることはできません。財産の処分は事業者側に直接の利害があるので、この線は特に厳しく見られます。棚卸しは公表資料の範囲で行い、資料を持ち出さないでください。
2つ目は、報酬を得る副業的な準備。地方公務員法第38条は、任命権者の許可なく、報酬を得て事業や事務に従事することを制限しています。デベロッパーから「入社前に公民連携の案件を手伝ってほしい」「有償で助言してほしい」と言われた場合、許可なく報酬を受ければこの条文に触れます。在職中の副業・兼業の許可に、許可の仕組みを整理しています。
3つ目は、在職中に応募先の会社が関わる処分や審査に関わっている場合。公有地の売却の価格の査定、議案の作成、PFIの事業者選定の審査、公民連携の事業の協議に該当する場合は、選考の中で隠さず伝え、応募の時期と入社後の担当の切り分けを会社側と相談してください。退職後に元の職場へ働きかけることは地方公務員法第38条の2で規制されています。再就職者による働きかけの規制に整理しています。
内定後は、労働基準法第15条により労働条件が書面などで明示されるので、未経験での入社に伴う条件(研修期間、試用期間、宅地建物取引士の取得の要否、業務の変更の範囲に営業や開発が含まれるか——労働基準法施行規則第5条第1号の3、休日が土日か平日か——同条第2号)を通知書で確かめてから承諾してください。
まとめ
- 「未経験」は発注者側未経験・民間未経験・不動産未経験の3つに分かれる。公民連携の枠で最も重いのは発注者側未経験で、財政課の方はそこは経験者
- 営業・開発は市場の知識と事業収支が前提。入り口は公民連携・事業企画(官公庁向け)が現実的で、その枠がある会社は限られる
- 宅地建物取引士は応募の前提ではない(事務所等ごとの設置は会社側の要件)。不動産の語彙を押さえる目安として位置づける
- 準備の順序は業務の棚卸し(公有財産と財政の軸)→自分の自治体の処分・PFIの事例を事業者の視点で読む→「自治体が決める理屈」を3分で話す練習→必要な分だけ不動産の語彙→庁内研修と業務での機会
- 在職中の公務員は雇用保険の適用除外で、教育訓練給付金の対象にならない
- 内部資料を持ち出さない(第34条:財産の処分は特に厳しい)。入社前の有償の協力には許可が要る(第38条)。処分や審査に関与しているなら隠さず相談する(第38条の2)
よくある質問
30代後半で、不動産も民間も未経験です。年齢で入り口は狭くなりますか
年齢そのものより、「自治体が財産を処分し、PFIを決める理屈を、複数の自治体を相手にする視点で語れるか」で見られます。財政課の経験が長い方は、公有財産の処分の査定や再編の財政効果の算定を複数年度経験していることが多いので、公民連携の枠で使う材料はむしろ豊富です。避けたほうがよいのは、年齢を理由に「若手向け」と書かれた営業の枠に絞ることで、経験を評価する公民連携の枠のほうが合う可能性が高いです。
宅建を取ってから応募したほうが有利ですか
営業・開発の枠を目指すなら市場の知識と交渉の経験が要り、資格だけでは入り口は開きません。公民連携・事業企画の枠では、資格が選考で有利になる度合いは限られ、それより公有財産の処分とPFIの財政負担の比較を発注者側でどう見ていたかを具体的に説明できることのほうが、面接で重く見られます。資格の範囲を学ぶなら、業務の棚卸しをした後に「この言葉を知らないと事業企画の担当者と話せない」と分かった部分を目安にする程度が、入り口の枠には見合っています。入社後に資格手当の対象になる会社もあるので、取るならその時点でも遅くありません。
在職中に、デベロッパーが主催する公民連携のセミナーに参加してよいですか
自治体の担当者として業務で参加するセミナーは、業務そのものです。転職の準備として個人で参加する場合は、報酬を伴わず、勤務時間外で、内部の資料を持ち出さなければ、参加そのものは服務の線に触れません。ただし、主催する会社が自分の自治体の公有地の取得やPFIに関わっている場合、在職中の関係の持ち方は慎重に扱う必要があるので、参加前に所属の服務担当に確認するのが安全です。財産の処分は議会と住民の関心が高い領域なので、この点は他の業界より慎重に扱われます。在職中の副業・兼業の許可に、許可の要否の考え方を整理しています。
出典
- 地方自治法 第237条(財産の管理及び処分)/第238条(公有財産の範囲及び分類)/第238条の4(行政財産の管理及び処分)|e-Gov法令検索
- 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律 第2条(定義)/第69条(行政財産の貸付け)|e-Gov法令検索
- 宅地建物取引業法 第3条(免許)/第31条の3(宅地建物取引士の設置)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条(営利企業への従事等の制限)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)/第39条(研修)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第60条の2(教育訓練給付金)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
- 公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進|総務省