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業界研究 / 不動産・デベロッパー

不動産・デベロッパーは公務員のどの経験を評価するか

不動産・デベロッパーは、財政課の方が「土地と建物を売る民間の世界で、公務員の経験は関係ない」と感じて候補から外しがちな業界です。この感覚は、住宅や商業施設の営業・開発の職種については当たっていますが、この業界には自治体と向き合う領域——公有財産の取得と利活用、公共施設の再編と跡地の開発、PPP/PFIによる公共施設の整備、公民連携の事業企画——があり、そこでは財政課の経験が直接効きます。

自治体の側から見ると、財政課は公有財産の処分と利活用を「歳入と財政負担」の側から見てきた部署です。地方自治法は、公有財産を行政財産と普通財産に分類し(第238条第3〜4項)、行政財産は原則として貸付・売払いなどができず(第238条の4第1項)、財産を適正な対価なくして譲渡・貸付するには条例または議会の議決を要する(第237条第2項)と定めています。デベロッパーが自治体の土地を取得し、公共施設の跡地を開発し、PFIで公共施設を整備するとき、この財産の制度と、財政課の査定と、議会の議決の流れが事業の前提になります。この流れを内側から知っている人は、業界の中では少数です。

この記事では、不動産・デベロッパーの業界構造(開発と運用の事業、規制と免許、自治体との取引の形)を法律で押さえたうえで、財政課の経験のうちどこが評価され、どこが評価されないかを、職種ごとに整理します。建設コンサル(施設の技術側)や総合コンサル(計画・財源・実行の横断)との境目は、それぞれの記事(建設コンサル、総合コンサル)とあわせて読むと見えます。

業界構造——開発・運用の事業と、自治体との取引

不動産・デベロッパーの事業は、土地を取得し、開発し(都市計画区域等での開発行為は都道府県知事等の許可——都市計画法第29条第1項)、建物を建てて売却または賃貸・運用する流れが基本です。宅地建物取引業を営むには免許が要ります(宅地建物取引業法第3条第1項)。

自治体との取引は、次の形で現れます。

取引の形内容法律上の前提財政課の関わり
公有地の取得自治体が売却する普通財産(旧庁舎、廃校、未利用地)を取得して開発財産の処分は条例または議会の議決(地方自治法第237条第2項)。行政財産は用途廃止して普通財産にしてから処分売却収入の歳入計上、処分の時期と価格の査定、議会説明
公共施設の再編と跡地活用総合管理計画(総務省が2014年に指針を示したもの)に基づく再編で生じる跡地の開発、複合施設の整備用途廃止、普通財産化、処分または貸付再編の財政効果(維持費の削減、売却収入)の算定
PPP/PFI民間の資金と経営能力で公共施設等を整備・運営(PFI法第2条第1項が定義する公共施設等)PFI法の手続き、選定事業のための行政財産の貸付け(PFI法第69条)従来方式との財政負担の比較、債務負担行為、議会説明
公民連携の事業企画自治体の土地・施設と民間の事業を組み合わせた開発(駅前再開発、庁舎の複合化など)都市計画法、都市再開発の制度、行政財産の貸付(第238条の4第2項)事業の財源、起債、補助金、税収への影響の見通し
民有地の取得民間から土地を取得して開発一定の土地の有償譲渡には自治体への届出義務(公有地の拡大の推進に関する法律第4条第1項)届出の受理と買取協議は用地・企画部門が担当

この構造で押さえるべきことは、不動産・デベロッパーの事業の大半は民間の土地と顧客を相手にし、自治体と向き合う領域は会社によって規模も内容も大きく違うことです。財政課の経験が効くのは後者で、その領域の有無を先に確かめる必要があります。

財政課の経験が効く領域——4つ

1. 公有財産の処分と利活用の手続きと財政の見え方。自治体が土地を売る、貸す、PFIで整備するとき、行政財産の用途廃止、普通財産化、議会の議決、売却収入の歳入計上、貸付料の設定——この流れを、財政課は査定と議会説明の側で見てきました。「この処分は議会で何を聞かれるか」「財政課はどの価格と時期で納得するか」を知っていることは、自治体との事業の組み立てで価値があります。

2. PPP/PFIの財政負担の比較。PFIの導入可能性調査や事業者選定では、従来方式との比較(財政負担の総額と年度ごとの支出)、債務負担行為の設定、起債との関係が前提になります。財政課はこの比較を内側で組んできました。事業者側でこの比較を自治体の作法で示せることは、提案の説得力に直結します。

3. 公共施設の再編と跡地活用の財政効果。総合管理計画に基づく再編では、施設の統廃合による維持費の削減、跡地の売却収入、複合化による整備費の平準化が、自治体の意思決定の材料です。財政課で更新費用の推計や再編の財政効果を算定していた方は、自治体が再編を決める理屈を知っています。

4. 庁内の合意形成と議会説明。公有財産の処分やPFIは、財政課、管財部門、企画部門、担当課、議会を巻き込みます。財政課は査定を通じて庁内のどこで何が引っかかり、議会がどこを聞くかを見てきました。事業者側で自治体との協議を進める場面で、この経験は直接効きます。

職種ごとの評価——財政課の経験はどこで効くか

職種業務財政課の経験の評価評価される部分評価されない部分
公民連携・事業企画(官公庁向け)公有地の取得、PPP/PFIの提案、公共施設の複合化、自治体との協議高い公有財産の制度、財政負担の比較、議会の視点、庁内の合意形成事業収支の組み立て(民間側の採算)、開発の実務は学習が要る
用地・開発(自治体との調整を含む)土地の取得、開発許可の手続き、行政協議中〜高自治体の手続きと意思決定の作法、公拡法の届出、開発協議で自治体が求めるもの民有地の交渉、開発の技術と法規の実務は学習が要る
資産運用・CRE(企業不動産)保有不動産の運用、企業や自治体の資産の活用提案中公有財産の利活用の視点、財政の見え方不動産の評価と金融の知識は別途の学習が要る
営業(住宅・商業)個人や企業への販売、賃貸低い行政の手続きを知っていることが補助的に効くことはある営業の型と市場の知識は別の経験
設計・施工管理建物の設計、工事の管理低い—技術と資格が前提

財政課の経験が最も評価されるのは、公民連携・事業企画(官公庁向け)です。この職種は、自治体の財産の制度と財政の見え方を知っている人と、民間の事業収支を組める人が協働する枠で、前者に財政課の経験が当たります。ただし、民間側の採算(事業収支、資金調達、リスク)は入社後に学ぶ前提です。

評価されない経験——3つの落とし穴

1つ目は、「公有財産を査定していたから、不動産が分かる」という一般化。財政課で見ていたのは財産の処分と財政の見え方であって、不動産の評価、市場、事業収支ではありません。面接で「不動産の実務経験はありますか」と聞かれて「公有財産の査定で関わっていました」と答えると、事業企画の面接官には「分かっていない」と受け取られます。「自治体側の財産の制度と財政の見え方を知っている。民間側の採算は御社で学ぶ」と線を引いて示すほうが評価されます。

2つ目は、自分の自治体の運用の一般化。公有財産の処分の進め方、議会の関与の度合い、PFIへの姿勢は自治体ごとに違います。デベロッパーは複数の自治体を相手にするので、「私の自治体ではこうだった」を「自治体一般はこうだ」と語ると、面接で修正されます。共通する制度(地方自治法の財産の章、PFI法、公拡法)と、自治体ごとの運用を分けて話すのが型です。

3つ目は、「自治体の側」の感覚のまま事業者側に立つこと。デベロッパーは、自治体に提案し、選ばれ、契約し、事業のリスクを負う側です。財政課で「決める側」にいた方が、提案が通らないこと、事業の採算が自治体の意向と合わないことを受け入れられないと、入社後にストレスになります。面接ではこの転換の理解も見られています。

自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

入り方——職種の選び方と、準備

1. 「公民連携」「PPP/PFI」「官公庁」「公有地」の言葉が業務内容にある職種を探す。不動産・デベロッパーの求人の多くは営業・開発・設計です。求人票で公民連携や官公庁向けの事業企画の言葉がある職種を探してください。この言葉がない会社では、財政課の経験が効く枠がない可能性が高いです。

2. 財政課の業務を「公有財産と財政」の軸で棚卸しする。公有財産の処分の査定(価格、時期、議会説明)、売却収入の歳入計上、貸付料の設定、PFIの財政負担の比較、公共施設の再編の財政効果、債務負担行為の設定、起債・補助金の判断。それぞれで自分が「何を判断し、何を作ったか」を書き出すと、そのまま職務経歴書の材料になります。

3. 自分の自治体の公有財産の処分やPFIの事例を、事業者の視点で読み直す。財政課にいた方は、これらの予算と議案を査定しているはずです。「事業者がどう提案したか」「財政課としてどこを査定したか」「議会で何が聞かれたか」の視点で読み直すと、業務のイメージがつかめます。

4. 服務の線を確かめる。在職中に応募先の会社が関わる公有財産の処分やPFIの審査に関与している場合は、応募の時期と、退職後の働きかけの規制(地方公務員法第38条の2)を確認してください。自治体の未公表の情報(処分予定の財産、予定価格、他社の提案)を職務経歴書や面接で使わないこと(第34条)も、財産の処分を扱う領域では特に確認されます。再就職者による働きかけの規制と守秘義務は退職後も続くかに整理しています。

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まとめ

よくある質問

宅地建物取引士の資格がなくても応募できますか

公民連携・事業企画や用地・開発の枠では、宅地建物取引士の資格が応募の前提にならないことが一般的です。宅地建物取引業を営む会社には免許が要り(宅地建物取引業法第3条第1項)、事務所等ごとに宅地建物取引士を置く定めがありますが(同法第31条の3第1項)、それは会社側の要件で、個々の応募者の要件とは別です。入社後に取得を求められることはあるので、求人票の応募要件と、面接で「入社後に取得が必要か」を確かめてください。財政課の経験を示す材料としては、資格より公有財産と財政の実務の具体が重く見られます。

財政課で公有財産の処分に直接関わったことがありません。素材はありますか

管財部門でなくても、財政課は売却収入の歳入計上、貸付料の設定、公共施設の再編の財政効果、PFIの財政負担の比較、債務負担行為の設定を査定の側で見ています。これらのうち自分が関わったものを「公有財産と財政」の軸で書き出してください。処分の手続きそのものに関わっていないことは正直に示し、自分の自治体の処分やPFIの事例を読んで理解した内容を添えるほうが、面接で崩れません。

自分の自治体の土地を取得した会社に応募したいのですが、問題になりますか

応募そのものが禁じられているわけではありませんが、2つの点を確認してください。1つは、在職中にその処分(価格の査定、議案の作成、審査)に関わっていたかで、該当する場合は選考の中で隠さず伝え、応募の時期と入社後の担当の切り分けを相談してください。もう1つは、退職後に元の職場へ働きかけることの規制(地方公務員法第38条の2)で、公民連携の職種では元の自治体を担当から外す配慮を会社が求めることがあります。財産の処分は議会と住民の関心が高い領域なので、この確認は他の業界より慎重に扱われます。再就職者による働きかけの規制に整理しています。

出典

  1. 地方自治法 第237条(財産の管理及び処分)/第238条(公有財産の範囲及び分類)/第238条の4(行政財産の管理及び処分)|e-Gov法令検索
  2. 公有地の拡大の推進に関する法律 第4条(土地を譲渡しようとする場合の届出義務)|e-Gov法令検索
  3. 都市計画法 第29条(開発行為の許可)|e-Gov法令検索
  4. 宅地建物取引業法 第3条(免許)/第31条の3(宅地建物取引士の設置)|e-Gov法令検索
  5. 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律 第2条(定義)/第69条(行政財産の貸付け)|e-Gov法令検索
  6. 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索
  7. 公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進|総務省

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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