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退職後の再就職規制|国家公務員の場合
「公務員は退職後、関係する企業に就職できない」という話を聞いたことがある方は多いはずです。報道で「天下り」が問題になるたびに、公務員には再就職の規制があるというイメージが強まります。
この規制は、国家公務員法に定められたもので、地方公務員には地方公務員法の別の規定があります。両者は似ていますが同じではなく、国の仕組みを正確に知ると、地方の仕組みとの違いが見えます。
この記事では、国家公務員の再就職規制を、国家公務員法の条文で整理します。地方公務員の規制は地方公務員に再就職規制はあるのかに書いています。国から地方に転じた方、国の規制の報道を見て不安になった方、国と地方の違いを知りたい方に向けて書いています。個別の事案が規制に当たるかは、所属の担当部局と、国の再就職等監視委員会の判断によるので、この記事は枠組みです。
全体——「就職先の制限」ではなく「行為の規制」
国家公務員の再就職規制は、どこに就職してはいけないという就職先の制限ではなく、在職中と退職後に、何をしてはいけないかという行為の規制と、届出の組合せです。
| 区分 | 条文 | 誰が | 何を規制するか |
|---|---|---|---|
| 在職中の行為規制 | 第106条の2 | 職員 | 他の職員や元職員を、営利企業等に再就職させる目的で情報提供や依頼をすること(あっせんの規制) |
| 在職中の行為規制 | 第106条の3 | 職員 | 利害関係企業等に対し、退職後の地位を目的に自分の情報を提供し、地位を要求・約束すること(求職の規制) |
| 退職後の行為規制 | 第106条の4 | 再就職者 | 離職前5年間に在職した局等組織の役職員に対し、離職前5年間の職務に属する契約等事務に関して、離職後2年間、職務上の行為を要求・依頼すること(働きかけの規制) |
| 届出 | 第106条の23 | 職員 | 退職後に営利企業等の地位に就くことを約束した場合、速やかに任命権者に届出 |
| 届出 | 第106条の24 | 管理職職員であった者 | 離職後2年間、独立行政法人、特殊法人、認可法人、国と密接な公益法人の役員などに就こうとする場合、あらかじめ内閣総理大臣に届出 |
第103条(私企業からの隔離)は、在職中に営利企業の役員などを兼ねること、自ら営利企業を営むことの禁止で、退職後の就職先を事前に承認する規定は含まれていません。現在の条文に、退職後の就職先そのものを制限する規定はありません。
在職中の規制——求職とあっせん
第106条の3(在職中の求職の規制)は、職員が、利害関係企業等(職員の職務に利害関係を有する営利企業等として政令で定めるもの)に対し、離職後にその地位に就くことを目的として、自分に関する情報を提供し、地位に関する情報の提供を依頼し、地位に就くことを要求・約束してはならない、と定めています。
規制の対象は「利害関係企業等」に対する求職です。許認可、契約、検査などの職務で利害関係のある企業に対して、在職中に自分を売り込むことが禁じられます。利害関係のない企業への求職は、この条の対象ではありません。例外は、政令で定める場合(局等組織の意思決定の権限を実質的に有しない職員が行う場合など)に限られます。
第106条の2(他の役職員についての依頼等の規制)は、職員が、他の職員や元職員を営利企業等に再就職させる目的で、情報を提供したり依頼したりすることを禁じます。いわゆる「あっせん」の規制で、自分の再就職ではなく、他人の再就職への関与を規制するものです。
退職後の規制——働きかけ
第106条の4(再就職者による依頼等の規制)は、退職後の行為を規制する条文です。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 職員であった者で、離職後に営利企業等の地位に就いている者(再就職者) |
| 誰に対して | 離職前5年間に在職していた局等組織に属する役職員(政令で定める類する者を含む) |
| 何について | 国等と当該営利企業等との契約、当該営利企業等に対する処分に関する事務(契約等事務)であって、離職前5年間の職務に属するもの |
| いつまで | 離職後2年間 |
| 何を禁じるか | 職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼すること |
退職後に古巣に働きかけて、自分の転職先に有利な取り計らいを求めることを禁じています。逆に言えば、転職先で働くこと自体、古巣と接触すること自体は、この条の対象ではありません。契約等事務に関する要求・依頼が対象です。
届出——約束したときと、特定の法人に就くとき
第106条の23により、職員は、退職後に営利企業等の地位に就くことを約束した場合、速やかに任命権者に届け出ます。管理職職員の場合、任命権者はその届出を内閣総理大臣に通知します。内定を受けた時点で届出の義務が生じるので、転職活動の進め方に直接効きます。
第106条の24により、管理職職員であった者は、離職後2年間、独立行政法人、特殊法人、認可法人、国と特に密接な公益法人の役員などの地位に就こうとする場合、あらかじめ内閣総理大臣に届け出ます。民間企業への就職は、この条の対象ではありません。
罰則
| 条文 | 対象 | 罰則 |
|---|---|---|
| 第112条 | 職務上不正な行為をすること(しないこと)の見返りに、営利企業等に再就職の地位を要求・約束した職員など | 3年以下の拘禁刑 |
| 第113条第1号 | 第106条の4に違反して、契約等事務に関し職務上の行為を要求・依頼した者(不正な行為の要求を除く) | 10万円以下の過料 |
| 第113条第2号 | 第106条の24の届出をせず、又は虚偽の届出をした者 | 10万円以下の過料 |
不正な行為の見返りとしての再就職は刑事罰、通常の働きかけの規制違反と届出義務違反は過料という構造です。
地方公務員との違い——別の記事で
地方公務員法にも、退職後の働きかけの規制があります。地方公務員法第60条第4号は、離職後2年を経過するまでの間に、離職前5年間に在職していた地方公共団体の執行機関の組織等に属する役職員に対し、契約等事務であって離職前5年間の職務に属するものに関し、職務上不正な行為をするように要求・依頼した者を罰則の対象としています。構造は国と似ていますが、届出の仕組みや対象の範囲は自治体の条例によるところがあり、国の規制がそのまま地方に当てはまるわけではありません。地方公務員の規制は地方公務員に再就職規制はあるのかに書いています。
転職するとどうなるか
国家公務員から転職を考えている方にとって、再就職規制で効いてくる点は3つです。
1. 利害関係企業等への在職中の求職は禁止
第106条の3のとおりです。許認可、契約、検査などで利害関係のある企業への応募は、在職中はできません。利害関係のない企業への応募は対象外です。
2. 内定を受けたら、速やかに任命権者に届出
第106条の23のとおりです。転職先が決まった時点で、退職の意思の表明と同時に届出が要ります。
3. 退職後2年間、古巣への働きかけをしない
第106条の4のとおりです。転職先で働くことは自由で、古巣との接触も自由ですが、契約等事務に関する要求・依頼はできません。転職先の上司にも、この線引きを伝えておくと安全です。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 応募の前 | 応募先が「利害関係企業等」に当たるかを確かめる | 応募の前 | 第106条の3 |
| 内定を受けたら | 任命権者に届出 | 速やかに | 第106条の23 |
| 管理職職員であった者が特定の法人の役員などに就く場合 | 内閣総理大臣に事前の届出 | あらかじめ | 第106条の24 |
| 退職後 | 離職前5年間の局等組織の役職員への、契約等事務に関する働きかけをしない | 離職後2年間 | 第106条の4 |
| 退職後 | 元同僚を転職先に再就職させる目的の情報提供・依頼をしない(在職中の規制の趣旨) | ── | 第106条の2 |
誤解されやすい点
「関係する企業には2年間就職できない」と思い込む
現在の条文に、就職先を制限する規定はありません。規制は在職中の求職の相手(第106条の3)と、退職後の働きかけ(第106条の4)です。
「民間企業に就職するには承認が要る」と思い込む
承認ではなく届出です(第106条の23)。管理職職員であった者の特定の法人への就職は事前の届出(第106条の24)で、民間企業は対象外です。
「退職後は古巣と一切接触できない」と思い込む
禁じられるのは、契約等事務に関する職務上の行為の要求・依頼です。接触そのものではありません。
「地方公務員も国と同じ規制」と思い込む
地方公務員法の別の規定と自治体の条例によります。
まとめ
- 国家公務員の再就職規制は、就職先の制限ではなく、行為の規制と届出です。第103条は在職中の兼業などの禁止で、退職後の就職先を承認する規定はありません
- 在職中は、利害関係企業等への求職(第106条の3)と、他の職員の再就職のあっせん(第106条の2)が禁じられます
- 退職後は、離職前5年間の局等組織の役職員に対し、離職前5年間の職務に属する契約等事務に関して、離職後2年間、職務上の行為の要求・依頼が禁じられます(第106条の4)
- 退職後の地位を約束したら速やかに任命権者に届出(第106条の23)。管理職職員であった者が特定の法人の役員などに就く場合は内閣総理大臣に事前の届出(第106条の24)
- 罰則は、不正な行為の見返りの再就職は3年以下の拘禁刑(第112条)、働きかけの規制違反と届出義務違反は10万円以下の過料(第113条)
- 地方公務員には地方公務員法の別の規定と自治体の条例があり、国の規制がそのまま当てはまるわけではありません(地方公務員法第60条第4号)
よくある質問
国家公務員です。在職中に転職活動をしてよいですか
利害関係企業等に対する求職でなければ、法律上の規制の対象ではありません。第106条の3が禁じるのは、職員の職務に利害関係を有する営利企業等(許認可、契約、検査などの相手方として政令で定めるもの)に対し、退職後の地位を目的に自分の情報を提供したり、地位を要求・約束したりすることです。利害関係のない企業への応募、転職支援のサービスへの登録、面接を受けることは、この条の対象ではありません。ただし、応募先が利害関係企業等に当たるかどうかは、自分の職務との関係で判断するので、迷う場合は所属の担当部局に確かめてください。転職先が決まって地位に就くことを約束したら、第106条の23により速やかに任命権者に届け出ます。届出は、退職の意思を伝えるのと同時になることが多いので、内定の時期と退職の申出の時期を合わせて考えておくと滞りません。
退職後、転職先の営業で古巣の省庁を訪問することになりました。問題ありますか
訪問そのものは規制の対象ではありませんが、契約等事務に関する要求・依頼は離職後2年間できません。第106条の4が禁じるのは、離職前5年間に在職していた局等組織の役職員に対し、離職前5年間の職務に属する契約等事務(国と転職先との契約、転職先に対する処分に関する事務)に関して、職務上の行為をするように、又はしないように要求・依頼することです。挨拶、情報交換、公開の説明会への出席は対象ではありません。ただし、営業の場面では、契約に関する働きかけと情報交換の線が曖昧になりやすいので、離職後2年間は、離職前5年間の所属部局に対する営業活動から外れる形を転職先と相談するのが安全です。違反は10万円以下の過料(第113条第1号)で、不正な行為を求めた場合は刑事罰(第112条)の対象になります。転職先の上司に、この規制の内容と自分の在職の部局を伝えておくと、担当の割振りで避けられます。
地方公務員です。国家公務員の規制は自分にも当てはまりますか
直接は当てはまりません。地方公務員には地方公務員法の別の規定と、自治体の条例があります。国家公務員法第106条の2以下は国家公務員を対象とする規定で、地方公務員には適用されません。地方公務員法には、退職後の働きかけの規制(第60条第4号に罰則が定められている、離職後2年間、離職前5年間の職務に属する契約等事務に関する不正な行為の要求・依頼の禁止)があり、在職中の求職の規制や届出の仕組みは、自治体が条例で定めることになっています。自分の自治体に退職管理の条例があるか、あればどの職員が対象で、何を届け出るかを、人事の担当課に確かめてください。国の規制と構造は似ていますが、対象の範囲と手続きは自治体ごとに違います。地方公務員の規制の中身は地方公務員に再就職規制はあるのかに書いています。