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業界研究 / 会計事務所・税理士法人

未経験から会計事務所・税理士法人に入るには|公務員経験の使い方

「税理士の資格がないので、会計事務所は無理だと思っていました」——財政課の方からよく聞く言葉です。この認識は、税務代理や税務書類の作成という税理士の独占業務(税理士法第2条第1項、第52条)については正しく、業界全体については違います。会計事務所・税理士法人には、記帳と決算の補助、公会計の支援、外部監査の補助、第三セクターの会計、補助金の実績報告の支援といった、資格がなくても担う領域があり、そのうち自治体と接点を持つ領域では、財政課の経験が「未経験」ではなく「経験者」として扱われます。

この記事では、「未経験」を3つに分けて自分がどれに当たるかを確かめ、財政課の経験が効く入り口の枠を順に整理し、資格と科目免除の位置づけ、在職中にできる準備、公務員が使えない支援制度、服務の線を書きます。業界の構造と職種ごとの評価は会計事務所・税理士法人は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に、志望動機の組み立ては志望動機をどう組み立てるかに、処遇の決まり方は年収と働き方に書いています。

業界構造の要点——「独占業務」と「資格がなくても担う領域」の線

税理士でなければ行えないのは、税務代理、税務書類の作成、税務相談です(税理士法第2条第1項、第52条)。税理士となる資格は、税理士試験の合格者(租税または会計の事務に通算2年以上従事した者)、試験科目の全部を免除された者、弁護士、公認会計士に認められます(第3条第1項)。この線の外側——記帳や決算の補助、会計の支援、経営の助言、公会計の支援、外部監査の補助——は、税理士の監督の下で資格のない職員が担います。

自治体との接点は、統一的な基準による財務書類と固定資産台帳の作成支援、包括外部監査・個別外部監査(地方自治法第252条の27、第252条の28)の補助、第三セクターや指定管理者の会計と税務、補助金の実績報告の支援、健全化判断比率(地方公共団体の財政の健全化に関する法律第3条)に関わる財務の分析に現れます。「未経験」かどうかは、この線のどちら側の業務に応募するかで変わります。

「未経験」を3つに分ける

未経験の種類財政課の方の実態会計事務所での重み
自治体側未経験(公会計の作り方、監査で見られる箇所、実績報告の審査の目を知らない)経験者。財務書類と決算統計を作る側、外部監査と監査委員の決算審査を受ける側、補助金の実績報告と第三セクターの経営状況を審査する側を実務で回している公会計・行政向けの業務では最も重い。「外から学んだ」職員が持っていない知識
民間未経験(会社で働いたことがない)未経験。ただし、事務所が作った実績報告や決算を自治体側で読み、戻している中程度。入所後の慣れで補える。選考では「決める側から、依頼を受けて作る側へ」の転換で見られる
実務未経験(簿記と記帳、税務の実務、会計ソフトを知らない)未経験税務職では決定的。公会計・行政向けの業務では前提ではないが、簿記の基礎は入所後すぐに求められる

財政課の方が「未経験」と感じているのは後ろの2つですが、公会計・行政向けの業務で最も重いのは1つ目で、そこは経験者です。この認識を直すことが、応募できる枠を見つける最初の一歩です。ただし、会計事務所では3つ目(簿記の基礎)を面接で確かめられることが多く、税務職に応募する場合は前提になります。

入り口になる枠——財政課の経験が効く順

未経験からの入り口は、財政課の経験が効く順に並べると次のようになります。

枠主な業務財政課の経験の効き方求人の見つけ方
公会計・行政向けの業務財務書類と固定資産台帳の作成支援、外部監査の補助、公営企業の会計直接効く。作る側・受ける側の両方を知る人は事務所にいない事務所の案内と求人票に「公会計」「行政」「監査」の語があるか。求人は少ない
第三セクター・社会福祉法人・医療法人の会計自治体が出資し、補助し、指定管理を委ねる法人の会計と税務審査する側の目が効く。経営状況の報告と実績報告を「作る側」に回る地域の中堅税理士法人に多い。求人票に法人の種類が書かれているか
補助金・実績報告の支援補助事業者の実績報告と精算の支援、経営の助言審査する側の目が効く。「どこで戻されるか」を作る側に持ち込む経営支援や補助金の語がある事務所
記帳・決算の補助(税務職の入り口)記帳、月次の確認、決算と申告の補助予算・決算の数字の扱いは効くが、簿記と会計ソフトの実務は未経験として扱われる未経験可の求人。簿記の基礎が前提になることが多い

上の2つは「自治体側の経験者」として応募でき、下の2つは「実務未経験者」として応募することになります。同じ事務所の中でも、どの枠で入るかで「未経験」の重みが変わるので、応募の前に求人票で業務を特定してください。

資格の位置づけ——取るべきか、科目免除は受けられるか

資格は「入り口の条件」と「入った後の伸び」を分けて考えます。

入り口の条件としては、税理士の資格は不要ですが、簿記の基礎は求められます。公会計・行政向けの業務でも、財務書類は複式簿記で作られており、仕訳と財務諸表の読み方は前提です。財政課で統一的な基準の財務書類に関わった方は、簿記の基礎を持っていることが多いですが、持っていない場合は、簿記の検定の学習で補えます。取るかどうかより、面接で「仕訳と財務諸表の読み方が分かるか」を示せるかが問われます。

入った後の伸びとしては、税理士試験の科目合格が事務所の中での位置を変えます。税理士試験は科目ごとの合格が積み上がる制度で、税務職では科目合格を重ねることが期待されます。公会計・行政向けの業務では必須ではありませんが、税理士の資格があれば担える業務の範囲が広がります。

科目免除は、財政課の経歴では受けられません。税理士法第8条の科目免除は、官公署で所得税・法人税などの国税の賦課の事務や、道府県民税・市町村民税・固定資産税などの地方税の賦課の事務に一定期間従事した者が対象で、財政課の予算・決算・起債の事務は含まれません。税務課で賦課の事務を担当した期間がある方は、その期間が要件を満たすかを確かめてください。「公務員だったので免除がある」と思い込んだまま応募すると、面接で制度を確かめていないと見られます。

自分の経歴が「経験者」として通る枠か「未経験者」として入る枠かは、求人票を一緒に見ると判断しやすくなります。どの枠で応募できるかから相談できます。

在職中にできる準備——順序

在職中の準備は、次の順序で進めると、業務と重なる部分が多く、無理がありません。

1. 自分の自治体の財務書類と固定資産台帳を「作る側」の目で読み直す。財政課にいる間に、統一的な基準による財務書類がどの資料からどう作られているか、固定資産台帳と決算統計の整合をどう取っているかを、自分の担当でなくても確かめておきます。会計事務所の公会計の支援は、この作り方を外から再現する仕事です。

2. 外部監査と監査委員の決算審査で「何を見られたか」を型にする。監査人がどの順序で資料を見て、どこで質問が集中し、何を指摘したかを、個別の内容ではなく型として整理します。事務所の監査の補助は、この型を知っている人がいると先に固める箇所が分かります。地方公務員法第34条の秘密に触れない範囲で、「見られる箇所の型」だけを手元に置きます。

3. 補助金の実績報告と第三セクターの経営状況の「戻す箇所」を型にする。審査する側でどこを戻し、どう直させたかを型にすると、作る側に回ったときに「戻らない報告」を作る材料になります。

4. 簿記の基礎を並行して学ぶ。仕訳、財務諸表の読み方、消費税の基本は、公会計の支援でも税務職でも前提です。庁内研修(地方公務員法第39条)や自治体職員向けの外部研修に会計の講座があれば、今の業務の能率を上げる研修として受けられます。

5. 求人票で「公会計」「行政」「監査」「社会福祉法人」「第三セクター」の語を探す。会計事務所の求人は税務職が多く、公会計・行政向けの枠は少ないので、語で絞って探します。

公務員が使えない支援制度と、代わりの機会

雇用保険の教育訓練給付金(雇用保険法第60条の2)は、対象が雇用保険の被保険者または被保険者でなくなってから一定期間内の人で、支給要件期間が3年以上あることが条件です。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外なので(同法第6条第6号)、在職中の公務員はこの給付の対象になりません。簿記や税理士試験の講座が指定の教育訓練になっていても、在職中は使えないということです。民間に転職した後、被保険者としての期間が要件を満たせば対象になります。

代わりに使えるのは、前述の庁内研修(地方公務員法第39条)と、自治体職員向けに開かれている外部の研修です。「転職の準備」としてではなく「今の業務の能率を上げる研修」として探すと、庁内の手続きも通りやすく、内容も業務に直結します。公会計の研修は自治体職員向けに開かれているものが多く、会計事務所の側から見ても「作る側の研修を受けた人」として通ります。

服務の線——在職中の準備で触れてはいけないこと

在職中の準備には、地方公務員法の線があります。

営利企業への従事(第38条)。在職中に会計事務所の業務を手伝う、報酬を受けて記帳や実績報告の作成を請け負う、といったことは、任命権者の許可がなければできません。「実務経験を積むために手伝う」は、この線に触れます。

秘密を守る義務(第34条)。外部監査の指摘事項の個別の内容、特定の補助事業者の実績報告の中身、第三セクターの未公表の経営状況は、退職後も秘密です。準備で「型」にするのは制度と業務の型で、個別の内容は手元に置かないでください。

再就職者による依頼等の規制(第38条の2)。自分の自治体の外部監査を担当している事務所、第三セクターの会計を受けている事務所に移る場合、退職後に元の職場へ職務上の依頼をすることには規制があります。在職中に応募する場合は、勤務時間外に行い、接点があることを応募先にも伝えるほうが安全です。

内定後は、労働基準法第15条により労働条件が書面などで明示されるので、未経験での入所に伴う条件(試用期間、担当する業務が公会計・行政向けに特定されているか、業務の変更の範囲に一般の税務が含まれるか——労働基準法施行規則第5条第1号の3、繁忙期の労働時間の設計——同条第2号、賃金の内訳と手当——同条第3号)を通知書で確かめてから承諾してください。

行政が相手の求人は、掲載中のものから「公会計・行政向けの業務があるか」「未経験可の条件」「担当する法人の種類」が業務内容で見えます。行政が相手の求人を見てみる

まとめ

よくある質問

30代後半で、簿記も民間も未経験です。年齢で入り口は狭くなりますか

枠によります。記帳・決算の補助(税務職の入り口)は、簿記の基礎と実務を一から積む前提の枠なので、年齢と経験の組み合わせで見られ、事務所の考え方で差があります。一方、公会計・行政向けの業務と第三セクターの会計では、事務所が欲しいのは「財務書類を作る側、監査を受ける側、実績報告を審査する側を知っている人」で、財政課での年数はそのまま経験の厚みとして扱われます。年齢で狭くなるのは実務未経験者として入る枠で、経験者として入る枠では、年数はむしろ材料です。どちらの枠に応募するかを先に決めてください。

簿記の検定を取ってから応募したほうが有利ですか

枠で分かれます。税務職の入り口では簿記の基礎が前提になることが多く、検定は「基礎がある」ことを示す分かりやすい材料になります。公会計・行政向けの業務と第三セクターの会計では、検定より「作る側・受ける側・審査する側の経験」が先に見られ、簿記は入所後に並行して学ぶ前提で通ることがあります。求人の少ない枠ほど、出たときに応募できるかで決まるので、検定の取得を応募の条件にせず、学習は在職中に並行して進めてください。なお、税理士試験の科目免除は財政課の経歴では受けられないので(税理士法第8条)、免除を前提に計画を立てないでください。

在職中に、税理士法人が主催する自治体向けの公会計セミナーに参加してよいですか

自治体職員向けに公開されているセミナーに、業務の一環として、または自分の時間に参加すること自体は問題ありません。庁内の手続き(研修としての参加か、私的な参加か)に従ってください。線が引かれるのは、参加をきっかけにその事務所の業務を報酬を受けて手伝うこと(地方公務員法第38条の営利企業への従事の制限)と、セミナーの場で自分の自治体の未公表の情報や監査の指摘の個別内容を話すこと(第34条)です。また、その事務所に応募する意思がある場合、在職中のやり取りは勤務時間外に行い、自分の自治体との接点があるなら応募先にも伝えておくほうが安全です(第38条の2)。

出典

  1. 税理士法 第2条(税理士の業務)/第3条(税理士の資格)/第8条(試験科目の一部の免除等)/第52条(税理士業務の制限)|e-Gov法令検索
  2. 地方自治法 第252条の27(外部監査契約)/第252条の28(外部監査契約を締結できる者)|e-Gov法令検索
  3. 地方公共団体の財政の健全化に関する法律 第3条(健全化判断比率の公表等)|e-Gov法令検索
  4. 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条(営利企業への従事等の制限)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)/第39条(研修)|e-Gov法令検索
  5. 雇用保険法 第6条(適用除外)/第60条の2(教育訓練給付金)|e-Gov法令検索
  6. 労働基準法 第15条(労働条件の明示)|e-Gov法令検索
  7. 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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