業界研究 / 会計事務所・税理士法人
会計事務所・税理士法人の年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか
会計事務所・税理士法人への転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、会計事務所・税理士法人の年収の相場やレンジは書いていません。大手の税理士法人と個人の会計事務所、税理士の資格の有無、担当する業務(税務か公会計か)で差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。
代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、会計事務所に固有の働き方の構造(確定申告期と決算期の繁忙、1年単位の変形労働時間制、税理士試験との両立、事務所の規模による就業規則の有無、担当先を持つ働き方)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。
業界の構造と職種ごとの評価は会計事務所・税理士法人は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。
業界構造の要点——処遇に影響する事業の形
税理士の業務は、税務代理、税務書類の作成、税務相談で(税理士法第2条第1項)、税理士または税理士法人でない者は行えません(第52条)。会計事務所・税理士法人の収入は、顧問先からの顧問料と、決算・申告、記帳、公会計や監査の補助といった業務の報酬で成り立ち、職員は税理士の監督の下で担当先を持って動きます。処遇に影響するのは、この「担当先を持つ」働き方と、税法が定める申告の期限が繁忙を作ることです。
申告の期限は法律で決まっています。個人の確定申告は、その年の翌年2月16日から3月15日までの期間(所得税法第120条第1項)、法人の確定申告は各事業年度終了の日の翌日から2か月以内(法人税法第74条第1項)です。自治体の会計年度と同じ3月を事業年度の末日とする法人の申告は、その2か月後に集中します。財政課の繁忙が予算編成期と決算期に来るのと同じように、会計事務所の繁忙は申告の期限で来ますが、時期がずれます。転職の時期と、入所後の最初の繁忙をどう迎えるかは、この期限から逆算します。
公務員と民間で「決まり方」がどう違うか
| 項目 | 公務員(地方) | 民間(会計事務所・税理士法人を含む) |
|---|---|---|
| 給与の決まり方 | 条例で定める(地方公務員法第24条第5項) | 就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の事業場は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号)。常時10人未満の事務所には就業規則の作成義務がない |
| 賞与・手当 | 期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の明示事項(労働基準法施行規則第5条第5号)。税理士や科目合格に関わる手当は事務所による |
| 退職金 | 退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の記載事項。制度がない事務所もありうる(労働基準法第89条第3号の2) |
| 時間外の扱い | 条例・規則で定める | 法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。時間外労働には労使協定が前提(第36条)。繁忙期に合わせた1年単位の変形労働時間制(第32条の4)を採る事務所がある |
| 年次有給休暇 | 条例で定める | 雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条) |
| 身分の保障 | 分限処分の事由は法律で限定 | 解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項) |
公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金、手当)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。会計事務所ではもう一つ線があり、常時10人未満の個人事務所には就業規則の作成・届出の義務がなく、条件は労働契約と労働条件通知書に書かれた範囲で決まります。就業規則がない事務所では、通知書の記載がすべてになるので、読む重みが変わります。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。
会計事務所に固有の働き方——法律の側から読む
会計事務所・税理士法人には、他の業界にない働き方の構造が4つあります。
1つ目は、申告の期限が作る繁忙です。所得税の確定申告の期間(所得税法第120条第1項)と、法人の申告の期限(法人税法第74条第1項)は法律で決まっており、事務所の側で動かせません。財政課の予算編成期のように「自治体の内部の日程で決まる繁忙」ではなく、「顧問先の数と決算期の分布で決まる繁忙」です。担当先に3月決算の法人が多ければ5月に、個人の顧問先が多ければ2月から3月に集中します。面接では「担当先の決算期の分布」を聞くと、繁忙の形が見えます。
2つ目は、1年単位の変形労働時間制です。労働基準法第32条の4は、労使協定で対象期間(1か月を超え1年以内)と特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間)を定めたとき、対象期間を平均して週40時間を超えない範囲で、特定の週や日に法定の労働時間を超えて労働させることを認めています。繁忙期が申告の期限で決まる会計事務所では、この制度で繁忙期の所定労働時間を長く、閑散期を短く設計する事務所があります。この制度の下では、繁忙期に所定を超えて働いても「時間外」にならない部分があり、割増賃金の計算が通常の事務所と違います。労働条件通知書と労使協定で、対象期間、特定期間、各日・各週の労働時間を確かめてください。
3つ目は、税理士試験との両立です。税理士試験の科目合格を重ねながら働く職員がいる業界で、試験に向けた休暇や勤務時間の調整、科目合格の手当は事務所による設計です。法律上の義務ではないので、求人票と通知書に書かれていなければ制度がない可能性があります。財政課の方が「税理士を目指す」と伝える場合、試験の時期と繁忙期の重なりを含めて、事務所の考え方を面接で聞いておきます。
4つ目は、担当先を持つ働き方です。職員は顧問先を担当として持ち、月次の訪問や記帳の確認、決算と申告を担当先ごとに回します。財政課の「事業ごとに査定する」働き方に似ていますが、担当先の数が仕事量を決め、期限が動かせない点で違います。公会計の支援や外部監査の補助を担う職員は、担当先が自治体や第三セクターになり、繁忙が自治体の決算期(出納整理期間の後)に来る形になります。
労働条件通知書の読み方——確かめる順序
労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。
1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。——担当する業務が公会計・行政向けに特定されているか、業務の変更の範囲に一般の税務が含まれるか、事務所が複数ある場合の就業場所の範囲。公会計・行政向けの業務で入ることを前提にしている場合、この範囲は交渉の対象です。
2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。1年単位の変形労働時間制を採る場合は、対象期間と特定期間、繁忙期の所定労働時間が書かれているかを見ます。繁忙期の休日の扱いと、試験に向けた休暇の有無も、ここで確かめます。
3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。——基本給と手当の内訳、税理士や科目合格に関わる手当の有無、変形労働時間制の下での割増賃金の計算の仕方、支払時期。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。
4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。就業規則がある事務所では見せてもらい、常時10人未満で就業規則がない事務所では、通知書に書かれた内容がすべてだと理解して確認してください。
「この条件は妥当か」は、業界のほかの求人と並べないと判断できません。同じ業務で複数の事務所の条件を見比べたうえで、条件の読み方から相談できます。
社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの
年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は事務所が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。会計事務所に入っても、自分の年金と医療は共済から厚生年金と健康保険に切り替わります。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。個人事務所の場合、適用事業所かどうかは事務所の形態と人数で決まるので、面接で確かめてください。
雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。
退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。
掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。事務所ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる
まとめ
- この記事に年収の相場やレンジは書いていません。事務所の規模と資格の有無、担当する業務で差が大きく、裏を取った統計がないためです
- 公務員の処遇は法律と条例、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる。賞与・退職金・手当は「定めがある場合」の項目で、常時10人未満の事務所には就業規則の作成義務がない(労働基準法第89条)
- 会計事務所に固有の構造は、申告の期限が作る繁忙(所得税法第120条、法人税法第74条)、1年単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の4)、税理士試験との両立、担当先を持つ働き方の4つ
- 労働条件通知書は、業務と就業場所の変更の範囲→労働時間と変形労働時間制の設計→賃金の内訳と割増の計算→退職金・賞与の定めの有無の順で読む
- 年金と医療は共済から厚生年金・健康保険へ、雇用保険は新しく被保険者に。退職手当は通算されない
- 会計事務所の条件と財政課に残った場合の見込みを、同じ紙に並べて比較する
よくある質問
会計事務所は確定申告期の残業が多いと聞きました。財政課の予算編成期と比べてどうですか
形が違います。財政課の予算編成期の繁忙は自治体の内部の日程で決まり、時間外勤務は条例と規則の下で手当の対象でした。会計事務所の繁忙は、所得税の確定申告の期間(所得税法第120条第1項)と法人の申告の期限(法人税法第74条第1項)という法律上の期限と、担当先の決算期の分布で決まります。繁忙期が申告の期限の前後に集中するのは法律上の期限の帰結ですが、その月の所定労働時間を1年単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の4)で長く設計している事務所では、所定の範囲は時間外になりません。「繁忙期に何時間働く設計か」と「割増の対象はどこからか」を、面接と通知書で確かめてください。多い少ないは事務所と担当先の構成によります。
税理士試験を受けながら働きたいのですが、試験のための休暇はありますか
法律上の義務ではなく、事務所による設計です。試験の時期と法人の申告の繁忙が重なる事務所もあります。試験に向けた休暇、勤務時間の調整、科目合格の手当は、求人票と労働条件通知書に書かれていなければ制度がない可能性があるので、面接で「試験と実務の両立をどう考えているか」を聞いてください。なお、財政課の予算・決算の事務は税理士法第8条の科目免除の対象ではないので、免除を前提にした計画は立てないでください。詳しくは会計事務所・税理士法人は公務員のどの経験を評価するかに整理しています。
個人の会計事務所で「就業規則はない」と言われました。問題ありませんか
法律上は問題ありません。就業規則の作成と届出の義務は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に課されるもので(労働基準法第89条)、10人未満の事務所には義務がありません。ただし、就業規則がない場合、賃金、労働時間、休日、退職金、賞与の条件は労働契約と労働条件通知書に書かれた範囲で決まるので、通知書の記載がすべてになります。労働基準法第15条第1項の明示義務は事務所の規模にかかわらず課されるので、労働基準法施行規則第5条の事項が通知書に書かれているかを、一つずつ確かめてください。書かれていない事項は、書面で出してもらうよう求めて構いません。
出典
- 税理士法 第2条(税理士の業務)/第52条(税理士業務の制限)|e-Gov法令検索
- 所得税法 第120条(確定所得申告)|e-Gov法令検索
- 法人税法 第74条(確定申告)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第32条の4(1年単位の変形労働時間制)/第36条(時間外及び休日の労働)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
- 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
- 厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索