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業界研究 / 会計事務所・税理士法人

会計事務所・税理士法人の志望動機|公務員からの転職でどう組み立てるか

会計事務所・税理士法人の面接官は、所長か代表社員か、実務を束ねる税理士です。数字と法律を毎日扱っている人たちに、「数字に強いので」「税務に興味があるので」と言っても、材料になりません。会計事務所が財政課の方に聞きたいのは、「なぜ自治体を出るのか」「なぜ会計事務所なのか」「なぜうちの事務所なのか」の3つに、この人が自分の経験で答えられるかです。

財政課の経験を持つ方がこの業界に持ち込めるのは、公会計の財務書類と決算統計、健全化判断比率を「作る側」にいて、外部監査と補助金の実績報告を「受ける側・審査する側」にいた——自治体の会計と監査の内側を知っていることです。志望動機は、この「持ち込めるもの」を軸に組み立てます。

この記事では、会計事務所・税理士法人の志望動機を「なぜ発注者側から供給者側へ」「なぜ会計事務所か」「なぜこの事務所か」の3層で組み立てる方法、財政課の経験から素材を取り出す手順、効く言い方と効かない言い方、科目免除の誤解、服務の線を整理します。志望動機の一般論は公務員からの転職で志望動機をどう組み立てるかと自治体向け事業の会社への志望動機に、業界の構造と職種ごとの評価は会計事務所・税理士法人は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。

業界構造の要点——志望動機の土台になる事実

税理士の業務は、他人の求めに応じて租税に関し、税務代理、税務書類の作成、税務相談を行うことで(税理士法第2条第1項)、税理士または税理士法人でない者はこれらの業務を行えません(第52条)。税理士法人は税理士が共同して設立します(第48条の2)。一方で、記帳や決算の補助、会計の支援、経営の助言、公会計の支援は、税理士の監督の下で資格のない職員が担う領域です。

自治体との接点は、公会計の財務書類と固定資産台帳の作成支援、外部監査(地方自治法第252条の27、第252条の28)の補助、第三セクターや指定管理者の会計と税務(出資金の財源は地方財政法第5条第2号)、補助金の実績報告の支援、公営企業の消費税の実務に現れます。健全化判断比率は毎年度公表され(地方公共団体の財政の健全化に関する法律第3条)、監査委員は自治体に置かれます(地方自治法第196条)。

志望動機に効くのはこの構造の裏側です。会計事務所で公会計や自治体の外部監査を担う職員の多くは、自治体の会計を「外から学んだ」側で、「内側で作り、監査を受け、補助金を審査した」側は少数です。志望動機は「税務の仕事がしたい」ではなく、「自治体の会計と監査の内側を、供給者側の事務所に持ち込む」を軸にします。応募先の事務所に公会計・行政向けの業務があるか、それとも中小企業の税務が中心かを、先に確かめる必要があります。軸はそれで変わります。

志望動機の3層——「なぜ発注者側から供給者側へ」「なぜ会計事務所か」「なぜこの事務所か」

志望動機は3層に分けて、それぞれに自分の経験から答えを用意します。

層面接官の問い効く答えの骨格効かない答え
①なぜ発注者側から供給者側へ決める側から、依頼を受けて作る側に回れるか「財務書類を作り、監査を受け、補助金を審査していて、作る側と見る側の両方を知る人が事務所に少ないと感じた。自分は依頼を受けて作る側に回り、自治体の内側を持ち込みたい」「もっと専門性を高めたい」(決める側から降りる覚悟が見えない)
②なぜ会計事務所か監査法人、総合コンサル、銀行ではなく、なぜ会計事務所か「税理士の独占業務の周辺で、公会計、第三セクターの会計、補助金の実績報告を継続的に担うのは会計事務所で、財政課の経験がそのまま効く領域だと考えた」「税務に興味がある」(税理士でない自分が何を担うかが見えない)
③なぜこの事務所か他の事務所ではなくこの事務所である理由「この事務所の公会計の支援と外部監査の補助の業務に、自分が作る側・受ける側で見てきた具体が使える」「地域に根ざしている」(どの事務所にも言える)

3層のうち、財政課の方が最も弱いのは①です。会計事務所は「依頼を受けて期限までに作る」仕事で、財政課の「査定して決める」仕事とは立場が逆です。①で「決める側から作る側へ回る理由」を自分の言葉で示せないと、②③がよくできていても「税務署のOBのように上から来る人」と見られます。①は「作る側に回って、作った側の目で自治体の内側を持ち込む」で答えます。

財政課の経験から動機の素材を取り出す手順

素材は「会計事務所と接点があった場面」から取り出します。財政課の業務のうち、会計と監査に関わるものを棚卸しする順序は次のとおりです。

1つ目は、作った側の場面。統一的な基準による財務書類の作成、固定資産台帳の整備、決算統計の作成、健全化判断比率の算定で、自分がどの数字をどう作り、どこで判断に迷い、どう決めたか。「財務書類を作っていた」ではなく、「固定資産台帳と決算統計の数字が合わない箇所を、どの資料で突き合わせて直したか」まで書けると素材になります。

2つ目は、受けた側の場面。包括外部監査や個別外部監査、監査委員の決算審査で、何を求められ、どの資料をどう出し、何を指摘され、指摘にどう対応したか。「監査を受けた」ではなく、「監査人がどの順序で資料を見て、どこで質問が集中したか」を書けると、監査の補助を担う側にとって欲しい情報になります。

3つ目は、審査した側の場面。補助金の実績報告の審査、第三セクターの経営状況の報告の査定、指定管理料の精算の審査で、何を見て、どこを戻し、どう直させたか。事務所側は実績報告を「作る側」で、財政課は「審査する側」です。「審査する側が何を見るか」を作る側に持ち込めるのが、財政課の方の強みです。

3つの場面を取り出したら、それぞれについて「事務所側と噛み合っていなかったところ」と「自分がどう直したか」を書き添えます。「作った→受けた→審査した」の3つに「直した」が付くと、志望動機の素材になります。

効く言い方・効かない言い方

同じ経験でも、言い方で伝わり方が変わります。

効かない言い方効く言い方違い
「数字に強く、会計に興味があります」「統一的な基準の財務書類を作る側にいて、固定資産台帳と決算統計の整合を取る作業を担当していました」会計の具体が入っている
「監査の経験があります」「包括外部監査で監査人の質問が集中した箇所を把握しており、監査の補助でどこを先に固めるかが分かります」受けた側の経験が、補助の側の実務に変換されている
「補助金の知識があります」「実績報告を審査する側で、どの資料で戻し、どう直させたかを繰り返してきました。作る側に回れば、審査で戻らない報告が作れます」審査した側が、作る側の価値に変換されている
「税理士を目指しています」「まず公会計と第三セクターの会計で貢献し、税理士試験は事務所の実務と並行して進める考えです。財政課の経歴は科目免除の対象ではないと理解しています」資格への姿勢が、制度の理解と一緒に示されている
「地域の企業を支えたい」「この事務所の公会計の支援と第三セクターの会計の業務に、自治体の内側で見た具体が使えると考えました」事務所の業務が特定されている

共通するのは、効く言い方はすべて「会計と監査の具体」と「自治体の内側であること」と「作る側に回る姿勢」のいずれかを含んでいることです。効かない言い方は、どれも欠けています。

自分の「直した場面」が、どの事務所のどの業務に当たるのかは、一人で調べるより話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

事務所のタイプ別——「なぜこの事務所か」の作り分け

③の「なぜこの事務所か」は、事務所のタイプで作り分けます。

事務所のタイプ主な業務③の軸財政課の経験の効き方
公会計・行政向けの部門を持つ税理士法人公会計の支援、外部監査の補助、公営企業の会計「作る側・受ける側の両方を知る人を、この部門に持ち込む」直接効く。求人は少なく、部門の有無を先に確かめる
地域の中堅税理士法人中小企業、医療法人、社会福祉法人、第三セクターの税務と会計「自治体が出資し、補助し、指定管理を委ねる法人の会計に、審査する側の目を持ち込む」第三セクター、指定管理者、補助事業者の会計で効く
個人の会計事務所所長の専門分野に依存「所長の分野と自治体との接点」を具体的に所長が行政向けの業務を持つかで決まる
監査法人系のグループの税理士法人グループの公会計・行政向けの業務と連携「グループの行政向け業務に、内側の視点を加える」総合コンサルに近い評価。総合コンサルティングの志望動機とあわせて

どのタイプでも、「この事務所のどの業務に、自分のどの経験が当たるか」を1対1で書くのが③の基本です。事務所の案内や求人票に「公会計」「行政」「社会福祉法人」「医療法人」の語があるかを確かめ、なければ「なぜこの事務所か」は作りにくいと判断してください。

服務の線——志望動機に書いてよいこと、書けないこと

志望動機に自治体の経験を書くとき、線があります。

書いてよいのは、制度と業務の型です。財務書類の作り方、監査で見られる箇所の型、実績報告で戻す箇所の型、第三セクターの経営状況の報告の見方は、法律と一般的な実務に基づく知識で、書けます。

書けないのは、職務上知った秘密です。監査の指摘事項の個別の内容、特定の補助事業者の実績報告の中身、第三セクターの未公表の経営状況、未公表の決算の数字は、地方公務員法第34条の秘密を守る義務の対象で、退職後も同じです。会計事務所は守秘義務を重く見る業界で、志望動機で自治体の個別の情報を書く人は「うちの顧客の情報も漏らす人」と見られます。

在職中に応募先と接点がある場合は、隠さず相談してください。自分の自治体の外部監査を担当している事務所、第三セクターの会計を受けている事務所に応募する場合、在職中の職務との関係で、応募先とのやり取りが職務に専念する義務(第35条)に触れないよう、勤務時間外に行います。退職後も、再就職者が元の職場に職務上の依頼をすることには規制があります(第38条の2)。志望動機で「今の自治体の仕事をこの事務所に持ってくる」と読める書き方は避けてください。

税理士試験の科目免除は、財政課の経歴を前提にしないでください。税理士法第8条の科目免除は、官公署で所得税・法人税などの国税の賦課の事務や、道府県民税・市町村民税・固定資産税などの地方税の賦課の事務に一定期間従事した者が対象で、財政課の予算・決算の事務は含まれません。志望動機で「公務員だったので科目免除があります」と書くと、制度を確かめていないと見られます。

在職中でも、情報収集だけでも構いません。行政が相手の求人は、掲載中のものから「公会計・行政向けの業務がある事務所か」が業務内容で見えます。行政が相手の求人を見てみる

まとめ

よくある質問

財政課で公会計の財務書類の作成に直接関わったことがなく、予算査定が中心でした。素材はありますか

あります。予算査定の中で、補助金の実績報告の審査、第三セクターの経営状況の報告の査定、指定管理料の精算の審査、公営企業の決算の確認に関わっていれば、それが「審査した側」の素材です。会計事務所は実績報告や経営状況の報告を「作る側」で、審査する側が何を見て、どこで戻すかを知っている人は事務所にいません。財務書類を作った経験がなくても、「審査した側の目」は志望動機の軸になります。決算統計の作成や監査委員の決算審査への対応に関わっていれば、それも加えてください。

「なぜ監査法人や総合コンサルではなく会計事務所なのか」と聞かれたら、どう答えればよいですか

「継続性」で答えます。監査法人や総合コンサルの公会計の支援は、財務書類の整備や制度の導入といった期間を区切った業務が中心ですが、会計事務所は顧問として第三セクターや社会福祉法人の会計と税務を年単位で継続して担い、公会計の支援も毎年度の作成の支援として続きます。「自治体の内側で見た具体を、単発の支援ではなく、毎年度の実務に組み込みたい」と、事務所の業務の継続性に自分の経験を結びつけて答えると、監査法人やコンサルとの違いを理解していることが伝わります。税理士の独占業務の周辺で、資格のない自分が何を担うかも、あわせて示してください。

自分の自治体の外部監査を担当している事務所に応募します。志望動機で自治体の名前を出してよいですか

出して構いませんが、書き方に線があります。在職している自治体の名前と財政課での業務の型(財務書類の作成、監査への対応、実績報告の審査)を書くのは問題ありません。書けないのは、その事務所が行った外部監査の指摘事項の個別の内容、未公表の決算の数字、特定の補助事業者や第三セクターの情報で、地方公務員法第34条の対象です。また、在職中の応募先とのやり取りは勤務時間外に行い、職務に専念する義務(第35条)と、退職後の元の職場への依頼の規制(第38条の2)に触れる書き方——「今の監査の案件をこの事務所に有利に進める」と読める表現——は避けてください。接点があること自体は隠さず、応募先にも伝えるほうが安全です。

出典

  1. 税理士法 第2条(税理士の業務)/第8条(試験科目の一部の免除等)/第48条の2(設立)/第52条(税理士業務の制限)|e-Gov法令検索
  2. 地方自治法 第196条(監査委員の選任)/第252条の27(外部監査契約)/第252条の28(外部監査契約を締結できる者)|e-Gov法令検索
  3. 地方公共団体の財政の健全化に関する法律 第3条(健全化判断比率の公表等)|e-Gov法令検索
  4. 地方財政法 第5条(地方債の制限)|e-Gov法令検索
  5. 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第35条(職務に専念する義務)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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