業界研究 / 会計事務所・税理士法人
会計事務所・税理士法人の選考フローと、面接で見られている観点
会計事務所・税理士法人の選考は、公務員の採用試験とも、大手企業の選考とも違う点があります。多くの事務所は少人数で、選考は所長や代表社員との面接が中心、段階が少なく、実務の確認(簿記の試験、記帳の実技、Excelの操作)が課されることがある——大手の税理士法人を除けば、この形が一般的です。財政課の経験を持つ方がこの選考で戸惑うのは、実務の確認で企業会計の簿記を問われて崩れる点と、「税理士の資格を目指すのか」を必ず聞かれる点です。
もう1つの特徴は、財政課の経験が効く「公会計・行政向けの支援」の部門を持つ事務所が一部に限られ、その部門の面接と、企業向けの税務・会計の部門の面接では、見られる観点がまったく違うことです。応募する事務所にどちらの部門があるかを、応募の段階で確かめる必要があります。
この記事では、会計事務所・税理士法人の選考の一般的な流れ、税務職と公会計・行政向けで見られる観点の違い、財政課の経験に固有の質問の型、税理士試験の科目免除の位置づけ、服務の線を整理します。業界の構造と職種ごとの評価は会計事務所・税理士法人は公務員のどの経験を評価するかに書いています。選考の流れと回数は事務所ごとに違うので、この記事は一般的な形の説明です。
業界構造の要点——選考で前提になること
税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の独占業務で(税理士法第2条第1項、第52条)、記帳・決算の補助、公会計の支援、外部監査の補助(地方自治法第252条の27・第252条の28)は資格のない職員が担う領域です。自治体との接点は、公会計の財務書類(健全化判断比率——健全化法第3条——と決算統計に整合する形で作られる)の作成支援、外部監査の補助、第三セクター・指定管理者の会計、補助金の実績報告の支援です。
選考で前提になるのは、「事務所の事業の大半は企業の税務と会計で、公会計・行政向けはその一部」という構造です。公会計の部門を持つ事務所では、財政課の経験を「作る側・受ける側の経験」として評価しますが、企業向けの部門しかない事務所では、財政課の経験は「簿記の基礎がある事務職」以上には評価されません。財政課の方は、応募する事務所に公会計・行政向けの部門があるかを先に確かめる必要があります。
選考の流れ——一般的な形
| 段階 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 1. 書類選考 | 履歴書、職務経歴書 | 財政課の経験を「公会計と監査」の軸で書けているかで通過が決まる |
| 2. 実務の確認 | 簿記の試験、記帳の実技、Excelの操作、文章の作成。事務所による | 企業向けの部門では重い。公会計の部門では、財務書類の読み方や自治体の会計の理解を問われることがある |
| 3. 面接(所長・代表社員・部門の責任者) | 少人数の事務所では所長との面接が中心。大手の税理士法人では部門の責任者と人事 | 財政課の経験の具体性と、企業会計・税務を学ぶ姿勢、税理士の資格への姿勢が問われる |
| 4. 最終面接(代表・パートナー) | 大手の税理士法人の場合。事務所の方向性との一致、長く働けるか | 「なぜ自治体側から事務所側へ」の説明が固まっているか |
| 5. オファー面談 | 労働条件と配属の提示 | 労働基準法第15条により条件は書面などで明示される。配属が公会計・行政向けの部門か、繁忙期の働き方、資格の取得の扱いを確認する |
少人数の事務所では、書類から内定までが短く、所長との面接1回で決まることもあります。大手の税理士法人では段階が増えます。
税務職と公会計・行政向けで、見られる観点が違う
| 観点 | 税務・企業会計(記帳・決算・申告) | 公会計・行政向けの支援 |
|---|---|---|
| 中心の評価軸 | 簿記の基礎、企業会計の実務、税務の知識、税理士の資格への姿勢 | 公会計の実務、外部監査を受ける側の経験、自治体の作法、企業会計を学ぶ姿勢 |
| 財政課の経験の扱い | 補助的。「数字に強い事務職」として | 中心。財務書類の作成、固定資産台帳、決算統計、外部監査への対応、第三セクターの会計の査定、補助金の実績報告の審査 |
| 典型的な質問 | 「簿記の資格はあるか」「税理士を目指すか」 | 「統一的な基準の財務書類を作るとき、自治体はどこで困るか」「外部監査でどんな指摘を受け、どう対応したか」 |
| 落ちやすい答え | 簿記の基礎がない | 「決算統計を作っていたので会計が分かる」の一般化。企業会計の話に合わせようとして崩れる |
財政課の方が応募するのは右の列なので、右の列の部門がある事務所を選ぶことが第一です。左の列の部門しかない事務所に応募すると、財政課の経験は評価の材料になりません。右の列でも「企業会計と税務を学ぶ姿勢」と「税理士の資格への姿勢」は聞かれます。
面接で問われる質問の型——財政課の経験に固有のもの
1. 「統一的な基準の財務書類を作るとき、自治体はどこで困るか」。公会計の部門で最も多い質問です。「固定資産台帳の整備で、取得価額が分からない古い資産の評価と、インフラ資産の扱いに困る。歳入歳出の現金主義のデータから発生主義の財務書類に変換する仕訳の作法で、担当課との連携が要る。決算統計との整合を取る作業が年度末に集中する」と、作る側で実際に困った点を具体的に話します。
2. 「外部監査で、どんな指摘を受け、どう対応したか」。「受ける側」であることを示す質問です。「包括外部監査で補助金の実績報告の審査の甘さを指摘され、精算の確認の手順を見直した」のように、公表された監査の結果の範囲で、指摘と対応を話します。未公表の指摘は話せません(後述)。
3. 「第三セクターの経営状況の報告を、自治体はどう見るか」。「査定する側」であることを示す質問です。「出資金の回収の見通し、追加支援の必要性、議会への説明の材料として見る。損益だけでなく、自治体からの委託料と補助金への依存の度合いを見る」と、自分が査定で実際に見ていた点を話します。
4. 「企業会計の経験はあるか。税理士を目指すか」。必ず聞かれます。「企業会計の実務は未経験で、公会計と自治体の作法を知っている。企業会計と税務は御社で学ぶ」と線を引き、税理士の資格については自分の考えを正直に答えます。目指すなら学習の計画を、目指さないなら公会計・行政向けの支援で長く働く意思を示します。
5. 「税理士試験の科目免除は使えるか」。財政課の方が誤解しやすい点です。「税理士法第8条の科目免除は税の賦課の事務が対象で、財政課の予算・決算の事務は含まれない。私は税務課で賦課の事務を担当した期間がないので、免除は使えない」と、制度を確かめたうえで正確に答えることが、事務所の面接では評価につながります。
自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
公会計・監査に関わった経歴の確認事項
在職中に、応募先の事務所と自治体の契約に関与していたか。公会計の支援の委託、外部監査の契約、第三セクターの会計の委託——これらの選定や審査に該当する場合、選考の中で正直に伝え、応募の時期と入所後の担当の切り分けを事務所側と相談します。財政課は公会計の支援の委託料を査定する側なので、該当する可能性は低くありません。
退職後、元の職場に働きかける立場にならないか。地方公務員法第38条の2は、再就職者が離職前の職務に関して元の職場に働きかけることを規制しています。公会計の支援や外部監査の補助で元の自治体を担当すると、この規制との関係が問題になりやすいので、元の自治体を担当から外す、一定期間は接触しないといった配慮を事務所側が求めることがあります。再就職者による働きかけの規制に、規制の内容を整理しています。
守秘義務。地方公務員法第34条の秘密を守る義務は退職後も続きます。面接で、自分の自治体の未公表の情報(外部監査の未公表の指摘、第三セクターの未公表の経営状況、補助事業者の個別の情報、固定資産台帳の未公表の評価)を使ってはいけません。公表された監査の報告書と財務書類の範囲で話します。守秘義務は退職後も続くかに線引きを整理しています。
在職中の選考活動。面接は勤務時間外か年次有給休暇で。少人数の事務所では平日の日中の面接が多いので、年次有給休暇の使い方を計画的に。地方公務員法第35条の職務専念義務との関係は退職前に転職先と条件を詰めてよいかに整理しています。
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まとめ
- 会計事務所・税理士法人の選考は書類→実務の確認→所長・部門の責任者の面接→(大手は最終面接)→オファー。少人数の事務所では段階が少なく速い
- 税務・企業会計と公会計・行政向けで見られる観点がまったく違う。財政課の方は公会計の部門がある事務所を選び、その観点(公会計の実務、外部監査を受ける側の経験、自治体の作法)で自分を示す
- 固有の質問は、財務書類の作成で自治体が困る点、外部監査の指摘と対応(公表の範囲で)、第三セクターの報告の見方、企業会計と税理士の資格への姿勢、科目免除の可否(税理士法第8条は税の賦課の事務が対象で財政課は含まれない)
- 「公務員だから科目免除がある」と言わない。制度を確かめて正確に答える
- 公会計・監査に関わった経歴の確認。在職中の契約への関与、退職後の働きかけ(第38条の2)、監査の未公表の指摘と第三セクターの未公表の経営状況の守秘(第34条)
よくある質問
実務の確認で簿記の試験があり、企業会計の仕訳ができませんでした。落ちますか
企業向けの税務・会計の部門では、簿記の基礎は前提なので不利に働きます。公会計・行政向けの支援の部門では、企業会計の仕訳ができないこと自体で落ちることは一般的ではなく、財務書類の読み方や自治体の会計の理解のほうが重く見られます。「企業会計は未経験で、公会計と自治体の作法を知っている。企業会計は御社で学ぶ」と線を引いて答えてください。企業向けの部門しかない事務所に応募していた場合は、事務所の選び方を見直す必要があります。
「税理士を目指すか」と聞かれました。目指さないと言うと不利ですか
事務所によります。税理士の資格を取ることを前提に採用する事務所では、目指さない答えは不利に働きます。公会計・行政向けの支援の部門では、資格より公会計の経験を評価する事務所もあり、目指さなくても長く働く意思があれば評価されることがあります。いずれにしても、自分の考えを正直に答え、目指すなら学習の計画を、目指さないなら公会計の支援で担える範囲を示してください。目指すふりをして入所すると、後で評価と配属の期待がずれます。
在職中に、応募先の事務所と自治体の公会計の支援の委託を担当しました。応募できますか
応募そのものが禁じられているわけではありませんが、選考の中で必ず伝え、事務所側と応募の時期・入所後の担当の切り分けを相談してください。委託が継続中であれば、元の自治体を一定期間担当しないなどの配慮を事務所が求めることがあります。退職後に元の職場へ働きかけることは地方公務員法第38条の2で規制されており、公会計の支援で元の自治体を担当すると規制との関係が問題になりやすいです。委託の未公表の内容と監査の未公表の指摘は、地方公務員法第34条の守秘義務により退職後も使えません。隠して入所することは避けてください。