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業界研究 / 会計事務所・税理士法人

会計事務所・税理士法人は公務員のどの経験を評価するか

会計事務所・税理士法人は、財政課の方が「税理士の資格がなければ入れない世界」と感じて候補から外しがちな業界です。この感覚は、税務代理や税務書類の作成という税理士の独占業務については正しく(税理士法第2条第1項、第52条)、業界全体については違います。会計事務所・税理士法人には、資格がなくても担える領域——記帳と決算の補助、公会計の支援、自治体の外部監査の補助、第三セクターの会計、補助金の実績報告の審査の支援、経営の助言——があり、そのうち自治体と接点を持つ領域では財政課の経験が直接効きます。

自治体の側から見ると、財政課は公会計の財務書類、決算統計、健全化判断比率を「作る側」で、外部監査と補助金の実績報告を「受ける側・審査する側」だった部署です。自治体は監査委員を置き(地方自治法第196条)、包括外部監査・個別外部監査を弁護士、公認会計士、一定の行政事務の経験者などと契約し、必要と認めるときは税理士とも契約できます(第252条の27、第252条の28)。健全化判断比率は毎年度公表されます(地方公共団体の財政の健全化に関する法律第3条)。公会計の作り方と、外部監査で何が見られるかを内側から知っている人は、会計事務所の側では少数です。

この記事では、会計事務所・税理士法人の業界構造(税理士の独占業務と、資格がなくても担える領域、自治体との接点、税理士試験の科目免除の仕組み)を法律で押さえたうえで、財政課の経験のうちどこが評価され、どこが評価されないかを、職種ごとに整理します。監査法人系や総合コンサルとの境目は、総合コンサルティングは公務員のどの経験を評価するかとあわせて読むと見えます。

業界構造——独占業務と、資格がなくても担える領域

税理士の業務は、他人の求めに応じて租税に関し、税務代理、税務書類の作成、税務相談を行うことで(税理士法第2条第1項)、税理士または税理士法人でない者はこれらの税理士業務を行ってはなりません(第52条)。税理士法人は、税理士が共同して設立します(第48条の2)。一方で、記帳や決算の補助、会計の支援、経営の助言、公会計の支援は、税理士の監督の下で資格のない職員が担う領域です。

自治体との接点は、次の形で現れます。

接点の形内容法律上の前提財政課の関わり
公会計の支援統一的な基準による財務書類(貸借対照表、行政コスト計算書など)の作成支援、固定資産台帳の整備自治体の会計制度と総務省の要請に基づく実務財務書類と固定資産台帳を作る側の実務
外部監査包括外部監査・個別外部監査の補助、監査の報告書の作成の支援地方自治法第252条の27(外部監査契約)、第252条の28(弁護士、公認会計士、一定の行政事務の経験者、必要と認めるときは税理士)監査を受ける側として、何が見られ、何を指摘されるかを知っている
第三セクター・指定管理者の会計自治体が出資する法人や指定管理者の会計、決算、税務出資金の財源は地方財政法第5条第2号経営状況の報告の査定、指定管理料の精算の審査
補助金の実績報告補助事業者の実績報告と精算の書類の作成支援、自治体の審査への対応自治体の補助金の交付規則と精算の手続き補助金の実績報告を審査する側の視点
地域の企業の税務・会計中小企業の記帳、決算、申告、経営の助言税理士法第2条の独占業務(税務)と、資格のない職員が担う補助直接には効かない。行政の制度(補助金、制度融資)の理解が助言で補助的に効く

この構造で押さえるべきことは、会計事務所・税理士法人の事業の大半は地域の企業の税務と会計で成り立ち、自治体と接点を持つ領域は事務所によって有無も規模も大きく違うことです。財政課の経験が効くのは後者で、その領域の有無を先に確かめる必要があります。

財政課の経験が効く領域——4つ

1. 公会計の実務。統一的な基準による財務書類の作成、固定資産台帳の整備、決算統計との整合——財政課はこれを「作る側」で毎年回してきました。公会計の支援を受託する事務所で、自治体の会計の作法(歳入歳出の現金主義と、発生主義の財務書類の関係)を内側から知っていることは、支援の精度に直結します。

2. 外部監査への対応の経験。包括外部監査や個別外部監査で、監査人が何を見て、何を指摘し、自治体がどう対応したか——財政課は監査を受ける側でこれを経験してきました。外部監査の補助を担う事務所で、「自治体側はどこで困り、どの指摘に意味があるか」を知っていることは、監査の実効性で価値があります。

3. 第三セクターと指定管理者の会計の見え方。出資法人の経営状況の報告、指定管理料の精算、自治体への報告の作法——財政課はこれを査定する側で見てきました。事務所側で第三セクターや指定管理者の会計を担うとき、自治体がどの数字を見て、どの説明で納得するかを知っていることが前提になります。

4. 補助金の実績報告と精算の審査の視点。補助事業者の実績報告を審査し、精算を確定する——財政課と担当課はこれを毎年行ってきました。事務所側で補助事業者の書類を作るとき、自治体の審査で何が問われ、どこで差し戻されるかを知っていることは、書類の精度に直結します。

職種ごとの評価——財政課の経験はどこで効くか

職種業務財政課の経験の評価評価される部分評価されない部分
公会計・行政向けの支援(コンサルティング部門)財務書類の作成支援、固定資産台帳、外部監査の補助、第三セクターの会計高い公会計の実務、決算統計、外部監査を受ける側の経験、自治体の作法企業会計と税務の実務は学習が要る
補助金・制度融資の支援補助事業者の実績報告、制度融資の申請の支援中〜高自治体の審査の視点、交付規則と精算の手続き企業の財務の実務は学習が要る
記帳・決算の補助(企業向け)中小企業の記帳、決算、申告書の下書き中財務会計と公会計の実務、数字の正確さ税務の知識、企業会計の型は学習が要る。税務代理と税務書類の作成は税理士の独占業務
税務(税理士)税務代理、税務書類の作成、税務相談低い—税理士の資格が前提(税理士法第52条)
経営の助言・事業承継企業の経営計画、事業承継、資金調達の助言低い行政の制度の理解が補助的に効く企業の経営の知識は別の経験

財政課の経験が最も評価されるのは、公会計・行政向けの支援を行う部門です。この部門を持つのは一部の事務所と税理士法人に限られますが、公会計を「作る側」だった経験は、そこでは直接効きます。ただし、企業会計と税務の実務は入所後に学ぶ前提で、税務代理などの独占業務は税理士の資格がなければ担えません。

評価されない経験——3つの落とし穴

1つ目は、「決算統計を作っていたから、会計が分かる」という一般化。自治体の会計(現金主義の歳入歳出と、統一的な基準の財務書類)と企業会計(発生主義、税務との調整)は型が違います。面接で「企業会計の経験はありますか」と聞かれて「決算統計で関わっていました」と答えると、事務所の面接官には「分かっていない」と受け取られます。「公会計と自治体の作法を知っている。企業会計と税務は御社で学ぶ」と線を引いて示すほうが評価されます。

2つ目は、自分の自治体の運用の一般化。公会計の整備の進み方、外部監査の実施の有無、第三セクターへの姿勢は自治体ごとに違います。事務所は複数の自治体と企業を相手にするので、「私の自治体ではこうだった」を「自治体一般はこうだ」と語ると、面接で修正されます。共通する制度(地方自治法の監査の章、健全化法、公会計の統一的な基準)と、自治体ごとの運用を分けて話すのが型です。

3つ目は、税理士試験の科目免除への誤解。税理士法第8条は、官公署で所得税・法人税などの国税や、道府県民税・市町村民税・固定資産税などの地方税の賦課の事務に一定期間従事した者に、税法に属する科目の試験を免除する仕組みを定めています。ただし、対象は税の賦課の事務であって、財政課の予算・決算の事務は含まれません。「公務員だったので科目免除がある」と面接で言うと、制度を確かめていないと見られます。自分の経歴が税務課の賦課の事務を含むかで判断してください。

自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

入り方——職種の選び方と、準備

1. 「公会計」「自治体」「行政」「外部監査」「第三セクター」の言葉が業務内容にある事務所を探す。会計事務所・税理士法人の求人の多くは、企業向けの記帳・決算と税務です。求人票や事務所の業務案内で、公会計や行政向けの支援の言葉があるかを確かめてください。この言葉がない事務所では、財政課の経験が効く枠がない可能性が高いです。

2. 財政課の業務を「公会計と監査」の軸で棚卸しする。財務書類の作成、固定資産台帳の整備、決算統計、健全化判断比率の算定、外部監査への対応(何を指摘され、どう対応したか)、第三セクターの経営状況の報告の査定、指定管理料の精算の審査、補助金の実績報告の審査、議会での説明。それぞれで自分が「何を判断し、何を作ったか」を書き出すと、そのまま職務経歴書の材料になります。

3. 自分の自治体の財務書類と外部監査の報告書を、支援する側の視点で読み直す。公表されている財務書類、固定資産台帳の概要、包括外部監査の報告書。「支援する側はこの書類をどう作ったか」「財政課としてどこで困ったか」の視点で読み直すと、業務のイメージがつかめます。

4. 服務の線を確かめる。在職中に応募先の事務所と自治体の契約(公会計の支援、外部監査、第三セクターの会計)に関与している場合は、応募の時期と、退職後の働きかけの規制(地方公務員法第38条の2)を確認してください。自治体の未公表の情報(監査の未公表の指摘、第三セクターの未公表の経営状況、補助事業者の個別の情報)を職務経歴書や面接で使わないこと(第34条)も、会計と監査を扱う業界では特に確認されます。再就職者による働きかけの規制と守秘義務は退職後も続くかに整理しています。

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まとめ

よくある質問

税理士の資格がなくても、会計事務所・税理士法人に入れますか

税務代理、税務書類の作成、税務相談は税理士の独占業務ですが(税理士法第2条第1項、第52条)、記帳・決算の補助、公会計の支援、外部監査の補助、第三セクターの会計、補助金の実績報告の支援は、税理士の監督の下で資格のない職員が担う領域です。財政課の経験が評価されるのは、公会計や行政向けの支援の部門で、そこでは資格は応募の前提になりません。ただし、その部門を持つ事務所は一部に限られ、企業会計と税務の実務は入所後に学ぶ姿勢が求められます。

公務員だったので、税理士試験の科目免除は受けられますか

税理士法第8条の科目免除は、官公署で所得税・法人税などの国税の賦課の事務や、道府県民税・市町村民税・固定資産税などの地方税の賦課の事務に一定期間(事務の内容により10年以上、15年以上など)従事した者が対象で、税法に属する科目が免除されます。財政課の予算・決算・起債の事務は、この「税の賦課の事務」に含まれません。税務課で賦課の事務を担当した期間がある方は、その期間が要件を満たすかを確かめてください。財政課だけの経歴で科目免除を前提にするのは誤りです。

自分の自治体の外部監査を担当している事務所に応募したいのですが、問題になりますか

応募そのものが禁じられているわけではありませんが、2つの点を確認してください。1つは、在職中にその事務所との契約(外部監査、公会計の支援、第三セクターの会計)に関わっていたか、監査を受ける側として未公表の指摘に触れていたかで、該当する場合は選考の中で隠さず伝え、応募の時期と入所後の担当の切り分けを相談してください。もう1つは、退職後に元の職場へ働きかけることの規制(地方公務員法第38条の2)で、外部監査の補助で元の自治体を担当すると規制との関係が問題になりやすいので、事務所が元の自治体を担当から外す配慮を求めることがあります。監査の未公表の指摘と第三セクターの未公表の経営状況は、地方公務員法第34条の守秘義務により退職後も使えません。再就職者による働きかけの規制に整理しています。

出典

  1. 税理士法 第2条(税理士の業務)/第8条(試験科目の一部の免除等)/第48条の2(設立)/第52条(税理士業務の制限)|e-Gov法令検索
  2. 地方自治法 第196条(監査委員の選任)/第252条の27(外部監査契約)/第252条の28(外部監査契約を締結できる者)|e-Gov法令検索
  3. 地方公共団体の財政の健全化に関する法律 第3条(健全化判断比率の公表等)|e-Gov法令検索
  4. 地方財政法 第5条(地方債の制限)|e-Gov法令検索
  5. 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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