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地方公務員に再就職規制はあるのか
「公務員は退職後、関係する企業に就職できない」という話は、地方公務員にも向けられます。国家公務員の再就職規制は退職後の再就職規制|国家公務員の場合に書きました。では、地方公務員に再就職規制はあるのか。
答えは、あります。ただし、就職先を制限する規定ではありません。地方公務員法第38条の2は、退職後2年間、古巣に対して契約や処分に関する働きかけをすることを禁じる規定で、第38条の6は、自治体が条例で届出の仕組みを設けられると定めています。どこに就職してよいかを法律が決めているわけではありません。
この記事では、地方公務員の再就職規制を、地方公務員法の条文で整理します。自治体が条例で定める部分(届出の対象、期間、事項)は自治体ごとに違うので、この記事は法律の枠組みで、自分の自治体の退職管理の条例は、人事の担当課で確かめてください。
全体——法律の規制と、条例の届出
| 区分 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 退職後の行為規制 | 第38条の2 | 再就職者は、離職前5年間に在職した組織の役職員に対し、離職前5年間の職務に属する契約等事務に関し、離職後2年間、職務上の行為の要求・依頼をしてはならない |
| 違反の報告・調査 | 第38条の3〜5 | 任命権者は違反の疑いを人事委員会・公平委員会に報告し、調査する |
| 自治体の措置 | 第38条の6 | 自治体は退職管理の適正を確保する措置を講じ、条例で、退職者に離職後の就職の届出をさせることができる |
| 罰則 | 第60条第4号、第63条、第64条 | 不正な行為の要求・依頼は刑事罰、それ以外の働きかけの規制違反は過料 |
在職中の求職を規制する法律の条文は、地方公務員法にはありません。国家公務員法第106条の3に相当する規定は、自治体が条例で設けるかどうかによります。
第38条の2——誰が、誰に、何を、いつまで
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 職員であった者で、離職後に営利企業等(営利企業と、国・地方公共団体などを除く法人)の地位に就いている者(再就職者)。臨時的任用、条件付採用期間中、非常勤(短時間勤務を除く)の職員であった者は除く |
| 誰に対して | 離職前5年間に在職していた地方公共団体の執行機関の組織等(執行機関の補助機関、議会の事務局、特定地方独立行政法人)の役職員、またはこれに類する者として人事委員会規則で定めるもの |
| 何について | 当該地方公共団体と再就職先(またはその子法人)との間の売買、貸借、請負その他の契約、再就職先に対する処分に関する事務(契約等事務)であって、離職前5年間の職務に属するもの |
| いつまで | 離職後2年間 |
| 何を禁じるか | 職務上の行為をするように、又はしないように、要求し、又は依頼すること |
第4項と第5項が、範囲を広げています。
| 項 | 拡大の内容 |
|---|---|
| 第4項 | 長の直近下位の内部組織の長(部長級)などに、離職の5年前より前に就いていた者は、その職に就いていたときの組織の役職員に対して、その職に就いていたときの職務に属する契約等事務についても、離職後2年間、規制の対象 |
| 第5項 | 再就職者は、在職中に自らが決定した契約・処分に関しては、期間の限定なく、働きかけの規制の対象 |
財政課で契約や補助金の決定に関わっていた方は、第5項が効きます。自分が決定した契約や処分については、2年を過ぎても、再就職先のために古巣に働きかけることはできません。
第6項は例外で、法律に基づく行政上の事務(試験、検査など)を遂行するために必要な場合、法令や契約に基づく権利・義務の行使に必要な場合などは、規制の対象外です。再就職先が自治体と契約を履行するうえで必要な連絡は、働きかけではありません。
第7項により、職員は、再就職者から禁止される要求・依頼を受けたときは、人事委員会・公平委員会に届け出なければなりません。働きかけた側だけでなく、受けた側にも義務があります。
第8項により、自治体は条例で、部長・課長級であった者について規制を拡大できます。
第38条の6——自治体の条例による届出
第38条の6第1項は、自治体は、国家公務員法の退職管理の規定の趣旨と、職員の離職後の就職の状況を勘案し、退職管理の適正を確保するために必要な措置を講ずると定めています。第2項により、自治体は条例で、職員であった者で条例で定めるものが、条例で定める法人の役員などの地位に就こうとする場合または就いた場合に、離職後条例で定める期間、条例で定める事項を届け出させることができます。
| 条例で定めるもの | 例 |
|---|---|
| 誰が届け出るか | 課長級以上であった者、など |
| どの法人に就く場合か | 営利企業等、自治体と契約関係のある法人、など |
| どの期間か | 離職後2年間、など |
| 何を届け出るか | 再就職先の名称、地位、業務の内容、離職時の職、など |
| 誰に届け出るか | 任命権者、人事委員会、など |
この条例の有無と中身が、自治体ごとに違います。都道府県と政令指定都市の多くは条例を定めていますが、対象を管理職に限っているところが多く、一般職員の民間企業への転職は届出の対象外である自治体が少なくありません。自分の自治体の条例を、人事の担当課で確かめてください。届け出る場合、届出は「承認」ではなく「届出」で、就職を止める仕組みではありません。
罰則
| 条文 | 対象 | 罰則 |
|---|---|---|
| 第60条第4号 | 離職後2年を経過するまでの間に、離職前5年間の職務に属する契約等事務に関し、職務上不正な行為をするように、又は相当の行為をしないように要求・依頼した者 | 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 第63条 | 職務上不正な行為の見返りに、営利企業等に再就職の地位を要求・約束した職員など | 3年以下の拘禁刑 |
| 第64条 | 第38条の2第1項・第4項・第5項に違反して、契約等事務に関し職務上の行為を要求・依頼した者(不正な行為の要求を除く) | 10万円以下の過料 |
構造は国と同じで、不正な行為に関わる働きかけは刑事罰、それ以外は過料です。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、地方公務員の再就職規制で効いてくる点は3つです。
1. 就職先の制限はない
法律にも、通常の条例にも、就職先そのものを制限する規定はありません。自治体と取引のある企業への転職も、法律上は禁じられていません。
2. 退職後2年間、古巣への契約等事務に関する働きかけをしない。自分が決定したものは期間なし
第38条の2第1項と第5項のとおりです。転職先が前職の自治体を顧客にする場合、離職前5年間の所属部局と、自分が決定した契約・処分に関する営業から外れる形を、転職先と相談してください。
3. 条例の届出の対象かを確かめる
管理職に限っている自治体が多いですが、自治体ごとに違います。対象なら、離職後に条例の定める事項を届け出ます。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 退職前 | 退職管理の条例の有無と、自分が届出の対象かを人事の担当課に確かめる | 退職日が決まったら | 第38条の6 |
| 退職前 | 在職中に自らが決定した契約・処分を書き出す | 退職前 | 第38条の2第5項 |
| 退職後 | 条例の対象なら、離職後の就職の届出 | 条例で定める期間 | 第38条の6第2項 |
| 退職後 | 離職前5年間の組織の役職員への、契約等事務に関する働きかけをしない | 離職後2年間 | 第38条の2第1項 |
| 退職後 | 自らが決定した契約・処分に関する働きかけをしない | 期間なし | 第38条の2第5項 |
| 転職先で | 前職の自治体を担当する場合、上司に規制の内容と自分の在職の部局を伝える | 入社時 | ── |
誤解されやすい点
「地方公務員には再就職規制がない」と思い込む
第38条の2の働きかけの規制と、第38条の6の条例による届出があります。
「関係企業には2年間就職できない」と思い込む
就職先を制限する規定はありません。規制は働きかけの禁止です。
「2年たてば何をしてもよい」と思い込む
自らが決定した契約・処分については、期間の限定なく規制されます(第5項)。
「届出をすれば承認が要る」と思い込む
届出であって承認ではありません。就職を止める仕組みではありません。
まとめ
- 地方公務員の再就職規制は、地方公務員法第38条の2の働きかけの禁止と、第38条の6に基づく自治体の条例による届出で、就職先を制限する規定はありません
- 第38条の2第1項は、再就職者が、離職前5年間に在職した組織の役職員に対し、離職前5年間の職務に属する契約等事務に関し、離職後2年間、職務上の行為の要求・依頼をすることを禁じます
- 部長級であった者は範囲が広がり(第4項)、自らが決定した契約・処分については期間の限定がありません(第5項)
- 条例による届出は、対象、法人、期間、事項が自治体ごとに違い、管理職に限っている自治体が多いです。人事の担当課で確かめてください
- 罰則は、不正な行為の要求は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(第60条第4号)、それ以外の働きかけの規制違反は10万円以下の過料(第64条)
- 在職中の求職を規制する法律の条文はなく、条例で設けるかどうかは自治体による
よくある質問
財政課の係長です。自治体と取引のあるシステム会社に転職できますか
法律上、就職先を制限する規定はないので、転職できます。地方公務員法第38条の2は、転職先を制限するものではなく、退職後の働きかけを禁じるものです。転職後に注意するのは、離職後2年間、離職前5年間に在職した組織の役職員に対し、離職前5年間の職務に属する契約等事務(自治体とその会社との契約など)に関して、職務上の行為の要求・依頼をしないことです。加えて、在職中に自らが決定した契約や処分に関しては、期間の限定なく働きかけの規制の対象です(第5項)。財政課の係長は、予算の査定や契約の審査に関わることはあっても、契約の締結や処分を「自らが決定」する立場ではないことが多いので、第5項の範囲は限られると思いますが、決裁の権限があったものは書き出しておいてください。転職先で前職の自治体を担当する場合は、上司に在職の部局と規制の内容を伝え、担当の割振りで避ける形が安全です。自治体の退職管理の条例が係長を届出の対象にしているかも、人事の担当課で確かめてください。
自治体の退職管理の条例は、どこで確かめられますか
自治体の例規集(条例・規則の公開データベース)で「退職管理」を検索すると出てきます。多くの自治体が「職員の退職管理に関する条例」という名称で定めており、対象となる職員(課長級以上など)、届出の対象となる法人、届出の期間、届出の事項、届出先が書かれています。条例がない自治体もあり、その場合は法律の第38条の2の規制だけが適用されます。人事の担当課に「退職管理の条例があるか、自分は届出の対象か」を聞くのが最も確実で、退職の意思を伝えなくても、制度の照会として聞けます。条例の届出は、就職を承認する仕組みではなく、離職後の就職の状況を自治体が把握するためのものなので、対象であっても、届け出れば足ります。届出を怠った場合の扱いは条例によるので、対象なら期限内に届け出てください。
転職先が前職の自治体に営業をしています。自分は何をしてはいけませんか
離職前5年間の所属部局の役職員に対し、自治体と転職先との契約や、転職先に対する処分に関して、離職後2年間、職務上の行為をするように、又はしないように要求・依頼することです。具体的には、「うちの製品を採用してほしい」「この入札の仕様をこう変えてほしい」「あの処分を見直してほしい」といった働きかけが該当します。挨拶、公開の説明会への参加、転職先が自治体と結んだ契約を履行するために必要な連絡は、第6項の例外や、そもそも「要求・依頼」に当たらないものとして対象外です。営業の場面では線が曖昧になりやすいので、離職後2年間は前職の自治体の営業担当から外れる、または離職前5年間の所属部局への接触を避ける形を転職先と相談してください。違反は10万円以下の過料(第64条)で、不正な行為を求めた場合は刑事罰(第60条第4号、第63条)です。働きかけを受けた側の職員には人事委員会・公平委員会への届出の義務があるので(第7項)、「元同僚だから内々に」は成り立ちません。