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退職前に転職先と条件を詰めてよいか

転職先から内定が出て、給与、入社日、配属、役職の話になる。このとき、公務員の方から「在職中にここまで詰めてよいのか」と聞かれることがあります。転職先と条件を交渉することが、兼業や職務専念義務に触れないか、という不安です。

結論から書くと、在職中に転職先と条件を詰めることは、地方公務員法のどの条文にも触れません。第38条は兼業の規定で、条件の交渉は兼業ではありません。第35条は勤務時間の規定で、勤務時間外の交渉は対象外です。むしろ、条件は退職の申出の前に詰めておくべきもので、詰めずに退職を申し出ると、後戻りができなくなります。

この記事では、条件を詰めることと法律の関係、詰めるべき順序、そして線引きを整理します。条件の交渉の中身(何を、どう聞くか)は条件交渉の進め方とオファー面談で確かめることに書いています。

条件を詰めることと、地方公務員法の関係

条文規制する行為条件を詰めることとの関係
第38条(営利企業への従事等の制限)在職中に、営利企業の役員を兼ねる、自ら営む、報酬を得て従事する対象外。条件の交渉は従事ではない。内定も雇用契約の約束で、従事ではない
第35条(職務に専念する義務)勤務時間と職務上の注意力を職務以外に向ける勤務時間外に行えば対象外。面接や面談は年次有給休暇で
第34条(秘密を守る義務)職務上知り得た秘密を漏らす交渉の材料に前職の秘密を使わなければ対象外(給与の額は自分の情報で、秘密ではない)
第38条の2(再就職者による依頼等の規制)退職後の古巣への働きかけ退職前の条件の交渉は対象外

自治体の退職管理の条例で、在職中の求職活動の届出を定めている場合(管理職などが対象のことが多い)は、条例に従って届け出ます。届出であって、承認ではありません。国家公務員の場合は、利害関係企業等への在職中の求職が国家公務員法第106条の3で規制されるので、別の考え方になります(退職後の再就職規制|国家公務員の場合)。

順序——条件を詰めてから、退職を申し出る

転職の順序で、最も大切なのは「条件を詰めてから退職を申し出る」です。逆にすると、退職の申出が受理された後に条件が合わず、戻る先がなくなります。

順序すること状態
1応募、面接在職中。勤務時間外に
2内定(採用の意思の通知)在職中。まだ何も約束していない
3条件の提示を受ける(労働条件通知書または内定通知書)在職中。ここで詰める
4条件の交渉と確定(給与、入社日、配属、役職、勤務地、試用期間)在職中。ここで納得するまで詰める
5内定の承諾(雇用契約の合意)在職中。ここで転職先が確定
6退職の申出在職中。転職先が確定した後に
7退職日の調整、引継ぎ在職中
8退職、入社──

4で詰めきらないまま6に進むのが、最も避けたい形です。退職の申出は、任命権者の承認で辞職が確定し、撤回は難しくなります。転職先の条件が固まっていない段階で退職を申し出れば、条件が合わなかったときに、公務員でも転職先の社員でもない状態になります。

労働条件の明示——転職先の義務

労働基準法第15条第1項は、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定め、賃金と労働時間などの事項は厚生労働省令で定める方法(書面の交付など)で明示しなければならないとしています。第2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できると定めています。

転職先から受け取るもの内容確かめること
労働条件通知書賃金、労働時間、就業場所、業務、契約期間、退職に関する事項など書面(または電子)で受け取る。口頭の説明だけで承諾しない
内定通知書、オファーレター採用の意思、入社日、役職、給与など労働条件通知書と一致しているか
就業規則勤務条件の全体閲覧を求める。労働条件通知書に書かれていない事項(賞与、退職金、休暇)はここで

「条件を詰める」とは、この書面の内容を確かめて、疑問があれば聞き、修正が要れば交渉して、納得してから承諾することです。書面を受け取らないまま承諾しないでください。

何を詰めるか——公務員からの転職で特に確かめる点

項目公務員からの転職で効く理由
給与の内訳基本給、手当、賞与の有無と決まり方。公務員の給料表とは構造が違う。年収の額だけでなく、月給と賞与の内訳
入社日退職日の翌日にできるか。健康保険・年金の空白と、退職手当の支給時期に効く(転職先の健康保険に入る場合)
試用期間期間と、その間の条件の違い。公務員の条件付採用と似ているが、制度が違う
退職金の制度有無、確定拠出年金の有無(企業型確定拠出年金への移換)
健康保険健康保険組合か協会けんぽか。付加給付の有無
休暇年次有給休暇の付与の時期と日数。入社直後は付与されないことがある
前職の経歴の評価給与の決定で、公務員の経験が何年分として評価されたか

線引き——詰めてよいこと、避けること

行為扱い
給与、入社日、配属、役職を交渉する問題ない。勤務時間外に
労働条件通知書を受け取って確かめる問題ない。むしろ必須
内定を承諾する(雇用契約に合意する)問題ない。従事ではない
入社日を退職日の翌日に設定する問題ない
入社前に、転職先の業務を報酬を得て始める第38条の対象。退職日の翌日から
勤務時間中に転職先と連絡を取る第35条の問題。勤務時間外に、私用の端末で
交渉の材料に、前職の非公開の情報を使う第34条の問題。自分の給与の額は自分の情報で、使ってよい
自治体の条例で届出の対象なら、届け出ない条例違反。届出は承認ではない

転職するとどうなるか

転職を考えている方にとって、条件を詰めることで効いてくる点は3つです。

1. 条件の交渉は在職中にでき、法律に触れない

第38条は兼業、第35条は勤務時間の規定です。勤務時間外の交渉は自由です。

2. 条件を詰めてから、退職を申し出る

退職の申出は撤回が難しいので、転職先の条件が確定した後に。

3. 労働条件通知書を書面で受け取る

労働基準法第15条により、転職先は明示の義務があります。口頭だけで承諾しないでください。

手続きと期限

順序手続き時期根拠
内定後労働条件通知書(または内定通知書)を書面で受け取る内定後労働基準法第15条
内定後給与の内訳、入社日、試用期間、退職金、健康保険、休暇を確かめ、交渉する勤務時間外に第35条
条例の対象なら在職中の求職活動・再就職の届出条例の定め自治体の退職管理の条例
納得したら内定を承諾する条件の確定後──
承諾後退職を申し出る転職先の確定後──
退職日まで職務に専念。転職先の業務は始めない退職日まで第35条、第38条
入社日労働条件通知書と実際の条件が一致しているか確かめる入社日労働基準法第15条第2項

誤解されやすい点

「在職中に条件を詰めるのは兼業に当たる」と思い込む

条件の交渉も内定の承諾も、従事ではありません(第38条)。

「内定が出たらすぐ退職を申し出る」と思い込む

条件を詰めて承諾してからです。退職の申出は撤回が難しいので、順序が大切です。

「口頭で聞いた条件で承諾してよい」と思い込む

労働基準法第15条により、転職先は書面などで明示する義務があります。書面で受け取ってください。

「条件の交渉は転職先に悪い印象を与える」と思い込む

労働条件の確認と交渉は、転職の通常の手続きです。確かめない応募者のほうが、入社後に食い違いを起こします。

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まとめ

よくある質問

内定は出ましたが、労働条件通知書がまだ届きません。退職を申し出てよいですか

まだ申し出ないでください。内定は採用の意思の通知で、条件はまだ確定していません。労働基準法第15条により、転職先は労働契約の締結に際して賃金・労働時間などを書面などで明示する義務があるので、「労働条件通知書(または内定通知書に条件を明記したもの)をいただいてから承諾したい」と転職先に伝えてください。通常の手続きで、悪い印象にはなりません。書面を受け取り、給与の内訳、入社日、試用期間、退職金の制度、健康保険、休暇を確かめ、疑問があれば聞き、納得してから承諾する。承諾で転職先が確定してから、退職を申し出る。この順序を守らないと、退職の申出の後に条件が食い違ったときに、戻る先がありません。転職先が書面の交付を渋る場合は、法令の理解が浅い企業である可能性を考える材料にもなります。転職の支援を受けている場合は、担当者が書面の交付を転職先に求めてくれます。

転職先から「入社日を早めてほしい」と言われました。退職日は自分で決められますか

退職日は、本人の申出と任命権者の承認で決まり、業務の引継ぎを理由に調整を求められることがあります。転職先の希望する入社日に合わせて退職日を申し出ることはできますが、任命権者が承認するまで辞職は確定せず、引継ぎの都合で退職日を遅らせるよう求められることがあります。逆に、退職日を一方的に決められるわけでもなく、本人の申出の日を大幅に遅らせることは通常ありません。実務上は、転職先に「公務員の退職には引継ぎの期間が要るので、入社日は退職の申出の後に確定させたい」と伝え、入社日に幅を持たせておくのが安全です。転職先が入社日を急ぐ理由が合理的なら、退職の申出を早めに行い、引継ぎの計画を上司に示して調整します。退職日の翌日が入社日なら健康保険と年金の空白がなく、退職手当の支給の時期も見通せるので、退職日と入社日は一体で調整してください。転職先には、条件の確定の前に入社日の幅を伝えておくと、後の調整が楽です。

給与の交渉で、今の給与の額を伝えてよいですか

伝えてよいです。自分の給与の額は、自分に関する情報で、職務上知り得た秘密ではありません。地方公務員法第34条の守秘義務の対象は、職務上知り得た秘密で、自分の給与、手当、賞与の額は、自分の労働条件であって、秘密ではありません。給料表そのものも公表されています。転職先が「現在の年収」を聞くのは、給与の決定の材料としてで、源泉徴収票や給与明細の提出を求められることもあります。伝えてはいけないのは、他の職員の給与や、内部の人事の情報で、これは第34条と個人情報保護の問題です。交渉では、現在の給与の額に加えて、公務員の給与の構造(基本給と手当、賞与の支給月数、昇給の仕組み)を説明すると、転職先が比較しやすくなります。退職手当や共済の年金は公務員に固有の制度なので、転職先の退職金と確定拠出年金の制度と対比して、総額で比べる形が、条件の判断としては正確です。

出典

  1. 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第35条(職務に専念する義務)/第38条(営利企業への従事等の制限)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索
  2. 労働基準法 第15条(労働条件の明示)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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