制度とお金 / 服務
争議行為の禁止
公務員と民間の労働者の最も大きな違いの1つが、争議行為——ストライキなど——ができるかどうかです。地方公務員法第37条は争議行為を禁じ、地方公務員には労働組合法が適用されません。転職すると、この仕組みが根本から変わります。
転職を考える方にとって、第37条そのものが問題になる場面は多くありません。関わるのは、職員団体と労働組合の違いを理解しておくこと、退職の際に集団で動くことの扱い、そして転職先で労働三権がどう回復するかです。
この記事では、第37条の条文と、職員団体の仕組み、転職で何が変わるかを整理します。転職先での労働組合の有無と機能は企業ごとに違うので、この記事は枠組みです。
条文——第37条
| 項 | 内容 |
|---|---|
| 第1項前段 | 職員は、自治体の機関が代表する使用者としての住民に対して、同盟罷業、怠業その他の争議行為をし、または自治体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない |
| 第1項後段 | 何人も、このような違法な行為を企て、遂行を共謀し、そそのかし、あおってはならない |
| 第2項 | 第1項に違反する行為をした職員は、その行為の開始とともに、任命上または雇用上の権利をもって自治体に対抗することができなくなる |
第1項前段の主語は「職員は」で、争議行為をする職員本人への禁止です。後段の主語は「何人も」で、職員でない人も含めて、企て・共謀・そそのかし・あおりを禁じます。
第2項が、この条文の重い部分です。争議行為をした職員は、任命上・雇用上の権利で対抗できなくなります。つまり、争議行為を理由とする不利益な処分を、身分保障を盾に争えなくなる、という趣旨です。
罰則——本人ではなく、あおった者
第37条第1項前段(争議行為をすること)には、職員本人への罰則はありません。違反した職員の扱いは、第2項と、第29条の懲戒処分です。
一方、第61条第4号は、何人たるを問わず、争議行為の遂行を共謀し、唆し、あおり、またはこれらの行為を企てた者を、3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処すると定めています。罰則は、争議行為をした本人ではなく、企て・共謀・そそのかし・あおった者に向いています。
職員団体と労働組合——何が違うか
地方公務員には、労働組合の代わりに職員団体の仕組みがあります。
| 項目 | 職員団体(地方公務員) | 労働組合(民間) |
|---|---|---|
| 根拠 | 地方公務員法第52条以下 | 労働組合法 |
| 結成・加入 | 自由(第52条第3項)。管理職等は別の団体 | 自由 |
| 交渉 | 登録を受けた職員団体からの適法な交渉の申入れに、当局は応ずべき地位に立つ(第55条第1項) | 団体交渉権。使用者は正当な理由なく拒めない |
| 協約 | 団体協約を締結する権利を含まない(第55条第2項)。書面による協定は可能 | 労働協約を締結できる |
| 争議行為 | 禁止(第37条) | 争議権がある(正当な争議行為は免責) |
| 労働組合法の適用 | 適用なし(第58条第1項) | 適用あり |
| 勤務条件の決め方 | 条例で定める(勤務条件条例主義)。人事委員会の勧告 | 労使の交渉と労働協約、就業規則 |
地方公務員の労働三権は、団結権は認められ、交渉権は団体協約の締結を除いて認められ、争議権は認められていない、という構造です。その代わりに、勤務条件は条例で定められ、人事委員会の勧告などの代償の仕組みがあります。
転職の場面での論点
1. 集団での退職は争議行為か
転職を考える方から、「同期で一斉に辞めたら争議行為になるか」と聞かれることがあります。退職は、任命上の権利の行使であって、争議行為ではありません。個々の職員が自分の意思で退職を申し出ることは、時期が重なっても、第37条の対象ではありません。
ただし、業務を妨げる目的で、退職の予告を集団で行って当局に圧力をかける、退職日まで職務を怠るといった形になると、「怠業的行為」や「活動能率を低下させる」行為として問題になり得ます。退職は個々の判断として行い、退職日までは職務に専念するのが、第37条の面でも、第35条の面でも、円満な退職の面でも正しい形です。
2. 職員団体の役員をしている方の転職
職員団体の役員であることは、転職に法律上の制限をもたらしません。役員を退任する手続きは職員団体の規約によります。在籍専従の許可を受けている方は、退職で許可が終わります。
3. 転職先での労働組合
転職先に労働組合があれば、労働組合法に基づく組合で、団体交渉権と争議権があります。加入は原則として自由(ユニオン・ショップ協定がある企業では加入が条件)で、公務員時代の職員団体の経験と重なる部分と、労働協約・ストライキという重ならない部分があります。労働組合のない企業も多く、その場合は個々の労働契約と就業規則が勤務条件の基礎です。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、争議行為の禁止で効いてくる点は3つです。
1. 退職は争議行為ではない
個々の判断としての退職は、任命上の権利の行使です。業務を妨げる目的の集団行動にしなければ、第37条は関係ありません。
2. 転職先では労働組合法が適用される
団体交渉権と争議権が回復します。労働組合の有無と、加入の条件(ユニオン・ショップの有無)を確かめてください。
3. 勤務条件の決まり方が変わる
条例と人事委員会の勧告から、労使の交渉と就業規則へ。変更の手続きが違うので、内定の段階で確かめておくと、入社後の変更に驚きません。
手続きと期限
| 場面 | すること | 根拠 |
|---|---|---|
| 退職を決めたら | 個々の判断として退職を申し出る。集団で圧力をかける形にしない | 第37条 |
| 退職日まで | 職務に専念し、引継ぎを行う | 第35条、第37条 |
| 職員団体の役員である場合 | 規約に従って退任の手続き。在籍専従の許可は退職で終了 | 職員団体の規約 |
| 内定の段階 | 転職先の労働組合の有無、労働協約の有無、就業規則の変更の手続きを確かめる | 労働組合法 |
| 入社後 | 労働組合があれば、加入の条件を確かめる(ユニオン・ショップの有無) | 労働組合法 |
誤解されやすい点
「同期で一斉に辞めると争議行為になる」と思い込む
個々の判断としての退職は、任命上の権利の行使です。業務を妨げる目的の集団行動でなければ、対象ではありません。
「公務員には労働組合がない」と思い込む
職員団体があります(第52条)。団体協約の締結と争議行為ができない点が、労働組合と違います。
「争議行為をした本人に刑事罰がある」と思い込む
罰則は、企て・共謀・そそのかし・あおった者に向いています(第61条第4号)。本人は第2項と懲戒の対象です。
「民間に行けば勤務条件が有利に守られる」と思い込む
守られ方が違います。条例と人事委員会の代わりに、労使の交渉と就業規則で決まり、労働組合のない企業も多いです。
まとめ
- 地方公務員法第37条は、職員の争議行為と怠業的行為を禁じ、何人もそれを企て・共謀・そそのかし・あおってはならないと定めています
- 違反した職員は、任命上・雇用上の権利をもって自治体に対抗できなくなり(第2項)、懲戒の対象です。企て・共謀・そそのかし・あおった者は3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です(第61条第4号)
- 地方公務員には労働組合法が適用されず(第58条第1項)、代わりに職員団体があります。交渉はできますが団体協約は締結できず(第55条第2項)、争議行為はできません
- 個々の判断としての退職は、任命上の権利の行使で、争議行為ではありません。業務を妨げる目的の集団行動にしないでください
- 転職先では労働組合法が適用され、団体交渉権と争議権が回復します。労働組合の有無と加入の条件を確かめてください
- 勤務条件は、条例と人事委員会の勧告から、労使の交渉と就業規則へ変わります。何で決まるかを内定の段階で確かめてください
よくある質問
同じ課の3人が同じ時期に転職を決めました。まとめて退職を申し出ると問題になりますか
個々の判断としての退職なら、時期が重なっても問題ありません。退職は任命上の権利の行使で、第37条の争議行為ではありません。3人がそれぞれの事情で転職を決め、それぞれが退職を申し出ることは、たまたま時期が重なっただけです。注意するのは、「3人一緒に辞めるから条件を変えろ」と当局に圧力をかける形にすること、退職日まで職務を怠ることを申し合わせることで、これは怠業的行為や活動能率を低下させる行為として第37条の問題になり得ます。実務上は、退職の申出はそれぞれが自分の上司に個別に行い、退職日は業務の引継ぎを考えて調整に応じ、退職日まで職務に専念する形が、法律の面でも、職場との関係の面でも正しい形です。3人が同時に抜けることで業務に支障が出る場合、退職日の調整を求められることがありますが、退職そのものを止められるわけではありません。
職員団体の役員をしています。転職に影響しますか
法律上の影響はありません。職員団体の役員であることは、退職や転職を制限するものではなく、退職すれば職員団体の構成員でもなくなります。役員の退任は職員団体の規約に従って手続きをしてください。在籍専従の許可を受けている方は、退職で許可が終わるので、専従の期間の扱い(給与、共済、退職手当の計算での取扱い)を人事の担当課で確かめてください。転職の面接で職員団体の役員の経験を話すかどうかは、転職先の性格によります。労働組合のある企業では、交渉や調整の経験として評価されることがありますが、企業によっては警戒される場合もあるので、転職支援の担当者に応募先ごとの伝え方を相談するのが現実的です。役員としての活動で知り得た情報のうち、職務上の秘密に当たるものは、第34条の守秘義務の対象なので、転職先で話さないでください。
転職先に労働組合がありません。勤務条件はどう守られますか
個々の労働契約、就業規則、労働基準法などの法律で守られます。労働組合がない企業では、団体交渉や労働協約による勤務条件の決定はなく、勤務条件は入社時の労働契約と就業規則で決まり、変更は労働契約法の定める手続き(就業規則の変更の合理性、労働者の合意)によります。公務員の条例と人事委員会の勧告に相当する仕組みはなく、勤務条件の変更に個人で向き合う場面が増えます。入社前に、労働条件通知書で勤務条件を確かめ、就業規則の閲覧を求め、変更の手続きを聞いておくと、入社後の変更に驚かずに済みます。労働組合がなくても、労働基準法、労働契約法、最低賃金法などの法律は適用され、労働基準監督署への相談や、企業の外の労働組合(合同労組)への加入という道もあります。公務員時代は最低賃金法も適用除外でしたが(第58条第1項)、転職先では適用されます。