制度とお金 / 休暇
年次有給休暇の繰越と消化
退職を決めた方が、最初に計算するものの1つが、残っている年次有給休暇です。財政課で働いていると、予算編成と決算の時期に休暇を取れず、繰り越した分を含めて残日数が多い方がよくいます。
年次有給休暇は、退職時に買い取られず、残った分は消えます。退職日までに消化するかどうかで、実際に働く最後の日が変わり、転職先の入社日との調整にも効きます。一方で、引継ぎと消化を両立させる段取りが要ります。
この記事では、地方公務員の年次有給休暇の仕組み(付与、繰越、時効)と、退職時の消化の考え方、転職先での付与を整理します。日数と繰越は自治体の条例で定められ、国の例に準じていることが多いですが、自分の残日数と扱いは人事の担当課で確かめてください。
根拠——条例で定め、国の例に準じる
地方公務員法第24条第5項は、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定めると定めています。年次有給休暇の日数と繰越は、各自治体の勤務時間条例と規則で定められています。
多くの自治体が国の制度に準じています。国の制度は次のとおりです。
| 項目 | 国の制度 | 根拠 |
|---|---|---|
| 日数 | 一の年(暦年)ごとに20日 | 一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律第17条第1項 |
| 繰越 | 20日を超えない範囲の残日数を翌年に繰り越せる | 同法第17条第2項、人事院規則一五―一四第19条 |
| 最大の保有 | 繰越20日+当年20日=40日 | ── |
| 年の途中の採用・退職 | 在職期間を考慮して20日を超えない範囲で規則で定める日数 | 同法第17条第1項第2号 |
自治体の条例も、暦年ごとに20日、繰越20日という形が一般的です。会計年度(4月〜3月)ではなく暦年(1月〜12月)で数える自治体が多いので、退職の時期によって残日数の数え方が変わります。
労働基準法との関係
労働基準法第39条は、年次有給休暇の付与(第1項・第2項)、時季の指定(第5項)などを定めています。地方公務員法第58条第3項は労働基準法の一部を適用除外としていますが、第39条は第6項から第8項まで(計画的付与、使用者の時季指定義務など)が除外されているだけで、第5項までは地方公務員にも適用されます。
| 労働基準法第39条 | 地方公務員への適用 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1項・第2項(付与の日数) | 適用。ただし条例の日数のほうが多い | 6か月継続勤務で10日、以後の継続勤務年数で加算 |
| 第5項(時季の指定と変更) | 適用 | 労働者の請求する時季に与える。事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時季に変更できる |
| 第7項(使用者の時季指定義務) | 適用除外 | 民間では、年10日以上付与される労働者に年5日を使用者が時季を指定して取得させる義務 |
時効は2年です(労働基準法第115条。賃金以外の請求権は2年)。繰越が翌年1回限りである国の制度と整合しています。
退職時の扱い——買取りはなく、残った分は消える
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 買取り | ありません。未消化の年次有給休暇を金銭に換える制度は、地方公務員にはないのが一般的です |
| 退職日までの消化 | できます。退職日までの勤務日に取得する形 |
| 時季変更権 | 事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時季に変更できます。退職日以降に変更することはできないので、退職日が近いほど変更の余地は狭まります |
| 引継ぎとの関係 | 引継ぎを済ませてから消化するのが、職場との関係では自然な形 |
「退職日までに全部消化する」は、権利としては可能ですが、引継ぎと両立させる段取りが要ります。残日数が多い方ほど、退職の申出を早めに行い、引継ぎの期間と消化の期間を合わせて退職日を決める必要があります。
消化の段取り——3つの形
| 形 | 内容 | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 引継ぎの後にまとめて消化 | 引継ぎを済ませ、最終の出勤日の後に残日数を連続して取得し、退職日を迎える | 残日数が多く、転職先の入社日に余裕がある |
| 引継ぎと並行して分散して消化 | 週に何日か取得しながら引継ぎを進める | 残日数が中程度で、引継ぎに時間がかかる |
| 一部を消化し、残りは諦める | 転職先の入社日が近く、全部は消化できない | 入社日を優先する場合 |
転職先の入社日を退職日の翌日にしたい場合、退職日は「最終出勤日+消化する日数」で決まります。入社日から逆算して、消化できる日数を計算し、退職の申出の時期を決めてください。
転職先での年次有給休暇
転職先では、労働基準法第39条により、雇入れの日から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10日が付与されます(第1項)。入社直後は年次有給休暇がありません。企業によっては入社時に一定日数を付与する制度がありますが、法律上の義務ではありません。
| 項目 | 公務員(国の例) | 転職先(労働基準法の最低基準) |
|---|---|---|
| 付与の時期 | 採用の年から在職期間に応じて | 入社から6か月後 |
| 初回の日数 | 在職期間に応じて(1月採用なら20日) | 10日 |
| 年20日に達するまで | 初年度から | 6年6か月の継続勤務後 |
| 繰越 | 20日まで | 2年の時効の範囲で |
| 使用者の時季指定義務 | なし(適用除外) | 年5日(第7項) |
転職の直後の半年は、年次有給休暇がない前提で予定を組んでください。引越し、家族の用事、通院などは、入社前に済ませるか、転職先の他の休暇の制度(慶弔休暇など)を確かめておきます。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、年次有給休暇で効いてくる点は3つです。
1. 残った分は消える。消化するなら退職日から逆算
買取りはありません。最終の出勤日、消化の日数、引継ぎの日数、退職の申出の時期を、入社日から逆算します。
2. 時季変更権は、退職日以降には使えない
労働基準法第39条第5項は地方公務員にも適用され、事業の正常な運営を妨げる場合に限り時季を変更できますが、退職日を越えて変更することはできません。引継ぎを先に済ませれば、変更を求められる理由も減ります。
3. 転職先では入社から6か月は年次有給休暇がない
用事は入社前に済ませ、転職先の他の休暇の制度を確かめておく。入社時に付与する企業もあるので、条件の確認のときに聞いてください。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 時期 |
|---|---|---|
| 退職を考え始めたら | 残日数を確かめる(繰越分と当年分)。自治体の条例の日数と繰越の扱いを確かめる | 早めに |
| 転職先の入社日が見えたら | 退職日=入社日の前日。消化の日数と引継ぎの日数を引いて、最終出勤日と申出の時期を逆算する | 内定後 |
| 退職の申出 | 引継ぎと消化の計画を上司に示す | 逆算した時期 |
| 引継ぎ | 消化の前に済ませる | 最終出勤日まで |
| 消化 | 退職日までの勤務日に取得 | 最終出勤日の後 |
| 転職先で | 年次有給休暇の付与の時期と日数、入社時の付与の有無を確かめる | 条件の確認のとき |
誤解されやすい点
「未消化の年次有給休暇は退職時に買い取られる」と思い込む
地方公務員には買取りの制度がないのが一般的です。残った分は消えます。
「退職日直前でも全部取れる」と思い込む
権利としては取れますが、時季変更権が及び、引継ぎとの両立が要ります。逆算して申出の時期を決めてください。
「転職先でもすぐに年次有給休暇がある」と思い込む
労働基準法では入社から6か月後に10日です。入社時の付与は企業の任意です。
「年5日は必ず取らされる」と思い込む
使用者の時季指定義務(第39条第7項)は地方公務員には適用除外です。転職先では適用されます。
まとめ
- 地方公務員の年次有給休暇は条例で定められ(地方公務員法第24条第5項)、国の例では暦年ごとに20日、20日まで翌年に繰り越せます(勤務時間法第17条、人事院規則一五―一四第19条)
- 労働基準法第39条第5項(時季の指定と変更)は地方公務員にも適用され、第7項(使用者の時季指定義務)は適用除外です(地方公務員法第58条第3項)。時効は2年です(第115条)
- 退職時の買取りはなく、残った分は消えます。退職日までの勤務日に消化する形です
- 入社日の前日=退職日から、消化の日数と引継ぎの日数を引いて、最終出勤日と申出の時期を逆算してください
- 時季変更権は退職日を越えて使えませんが、引継ぎを先に済ませるのが職場との関係では自然です
- 転職先では入社から6か月後に10日が法律の最低基準で、入社直後は年次有給休暇がない前提で予定を組みます
よくある質問
残日数が35日あります。全部消化して退職できますか
権利としては可能ですが、引継ぎと両立させる段取りが要ります。35日を連続して取得すると、最終の出勤日から退職日まで約7週間の勤務日が空きます。引継ぎを最終の出勤日までに済ませておけば、その後の消化は業務に支障を与えないので、時季変更権(労働基準法第39条第5項)を行使される理由も薄くなります。逆に、引継ぎが終わっていない段階で消化に入ると、事業の正常な運営を妨げるとして時季の変更を求められることがあり、退職日が近ければ変更の余地がなく、結果として引継ぎの不備が残ります。転職先の入社日の前日を退職日として、そこから35日分の勤務日を引いた日を最終の出勤日、さらに引継ぎに要する期間を引いた日を退職の申出の目安にしてください。転職先との入社日の交渉で「引継ぎと休暇の消化があるので、入社日はこのくらいの幅で」と伝えておくと、消化と入社日の両立が楽になります。全部の消化が難しい場合は、一部を諦めて入社日を優先する判断もあります。買取りがないので、諦めた分は消えますが、それを理由に転職の時期を延ばすほどのものではありません。
年の途中で退職する場合、その年の20日は全部使えますか
自治体の条例によりますが、国の例では、年の初めに付与された20日は、年の途中で退職しても使えます。国の制度では、年次休暇は「一の年ごとにおける休暇」で、年の初めにその年の日数が与えられ(勤務時間法第17条第1項)、年の途中で退職することになる職員について日数を減らす規定は、任期の満了により退職する場合などに限られています。自治体の条例も同様の形が多いですが、年の途中の退職について日数を按分する定めがある自治体もあるので、人事の担当課に「退職の年の日数の扱い」を確かめてください。前年からの繰越分(20日まで)は、その年に使えます。したがって、繰越20日と当年20日を合わせた最大40日が、退職の年に使える日数の上限になることが多いです。会計年度ではなく暦年で数える自治体が多いので、3月31日退職なら、1月に付与された分と繰越分が対象です。
転職先で、入社してすぐに休暇が要ります。どうすればよいですか
転職先の制度を、条件の確認のときに聞いてください。法律上は入社から6か月間は年次有給休暇がありません。労働基準法第39条第1項は、雇入れの日から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10日を付与すると定めており、入社直後の付与は法律の義務ではありません。ただし、入社時に一定の日数を付与する企業、入社月に応じて按分して付与する企業、慶弔休暇や特別休暇を入社直後から使える企業もあるので、労働条件通知書と就業規則で確かめます。予定が分かっている用事(引越し、家族の行事、通院)は、退職日までの年次有給休暇の消化の期間に済ませるのが最も確実です。どうしても入社直後に休む必要がある場合は、内定の承諾の前に転職先に伝えて、欠勤扱いになるか、無給の休暇として認められるか、入社日をずらせるかを相談してください。公務員の年次有給休暇の感覚で「入社してすぐ取れる」と思い込むと、入社直後の信頼に響きます。