制度とお金 / 給与・手当
給与の差押えと天引きの順番
給与明細に並ぶ税金や共済の掛金と、借入金などを理由とする給与の差押えは、同じ天引きに見えても根拠が違います。手元に残る額を考えるには、差押えの対象となる給与、税や社会保険料の控除、差押えが禁止される部分を順に区別する必要があります。
この記事は、一般の貸金などについて裁判所の差押命令により行う給与の差押えを中心に整理します。養育費などの扶養義務に関する債権や、税の滞納処分では扱いが異なります。公務員の給与でも、一律に同じ額が差し押さえられるわけではありません。本記事は2026年11月時点の公開情報にもとづきます。個別の差押可能額や複数の差押えの優先関係は、命令を発した裁判所、給与担当、弁護士などに確認してください。
最初に、何の差押えかを文書で確かめる
裁判所の手続では、給与を支払う勤務先は第三債務者と呼ばれます。民事執行法第145条は、差押命令で第三債務者から債務者への支払を禁止し、命令が第三債務者に送達された時に差押えの効力が生じるとしています。本人への通知だけで完結する手続ではありません。
勤務先の給与担当は、差押命令とその目録などに基づいて処理します。自分の給与に関係する文書を受け取ったら、裁判所名、事件番号、債権者、請求の内容、対象となる給与、命令の対象期間を確認します。給与担当には、どの支給回から計算に反映される予定かを尋ねます。振込額が変わってから理由を推測するより、文書と照合したほうが確実です。
一方、税務署や自治体による税の滞納処分は、この民事執行の説明と同じではありません。まず、裁判所からの命令か、行政機関による差押えかを分けます。差押えという言葉だけを見て、後述の4分の1を機械的に当てはめないでください。
また、給与が銀行口座へ振り込まれる前の給与債権と、振り込まれた後の預金債権は、差押えの対象として区別して考える必要があります。この記事の給与の計算を、そのまま口座残高に適用できるとは限りません。口座の差押えに関する文書がある場合は、給与の差押えとは別に専門家へ確認します。
一般の民事執行では、給与の一部が保護される
民事執行法第152条第1項は、給料や賃金、俸給、賞与などについて、原則としてその4分の3に相当する部分を差押禁止としています。ただし、その額が政令の定める額を超える場合は、その政令額が保護される額になります。毎月支給する給与について、施行令第2条が定める額は33万円です。
裁判所の一般的な給与の差押債権目録では、基本給と諸手当から通勤手当を除き、所得税、住民税、社会保険料を控除した残額を基礎にしています。その残額が月額44万円以下の場合、原則として4分の1が差押えの対象となり、44万円を超える場合は33万円を除いた額が対象となります。実際には、自分に送達された命令の目録を確認してください。
次の数字は制度の計算方法を示す仮の例です。公務員の給与水準や転職後の収入を示すものではありません。対象となる給与の範囲と税・社会保険料の控除を確定した後の額を使います。
| 計算の基礎となる残額 | 一般の貸金等の差押可能額の例 | 差押えの対象にならない部分の例 |
|---|---|---|
| 月額28万円 | 7万円 | 21万円 |
| 月額40万円 | 10万円 | 30万円 |
| 月額48万円 | 15万円 | 33万円 |
48万円の例を単に4で割ると12万円になりますが、保護される部分が33万円となるため、差押可能額は15万円です。「給与の差押えはいつでも手取りの4分の1」とだけ覚えると、この場合の見通しがずれます。逆に、給与の額にかかわらず33万円が必ず残る制度でもありません。28万円の例のように、4分の3の保護を計算する場合があります。
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天引きは、何でも先に引けるわけではない
地方公務員法第25条第2項は、法律や条例で特に認められた場合を除き、給与を直接本人に全額支払うことを原則としています。税や共済の掛金などの控除も、単に慣習で給与から引いているわけではありません。明細にある控除の根拠を区別することが出発点です。
一般の給与差押えの計算では、まず対象となる給与の範囲を確かめ、次に目録で示される税や社会保険料を控除し、差押禁止の範囲を計算します。給与明細の一番下に記載された振込額を、そのまま4で割る計算ではありません。振込額には、差押可能額の計算とは別の控除が含まれている可能性があるためです。
たとえば、職員向けの貸付返済、積立、団体保険などの任意の控除があっても、それをすべて先に差し引いてから差押額を計算できるとは限りません。どの項目を計算の基礎から除くかは、目録と法令に沿って給与担当に確かめます。自分で任意の控除を増やして差押額を減らすという考え方は適切ではありません。
| 確認の順番 | 給与担当への質問 |
|---|---|
| 対象給与の範囲 | 給料と手当のどの項目が目録の対象ですか |
| 税・社会保険料等 | 計算の基礎から控除する項目と額は何ですか |
| 差押禁止部分 | 今回はどの規定と計算を適用していますか |
| 任意の控除 | 計算上の扱いと、継続できるかを確認できますか |
| 最終的な振込 | 今回の給与と賞与の振込見込みを分けて示せますか |
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養育費と税滞納は、一般の貸金と同じに計算しない
民事執行法第152条第3項は、同法の定める扶養義務等の金銭債権を請求する場合、差押禁止部分の割合を4分の3から2分の1に読み替えています。養育費などは、一般の貸金とは差押えの範囲が異なります。何の債権が請求されているかを確認せず、前の表で生活費を計算しないでください。
養育費については、2026年4月施行の制度改正を反映した裁判所の案内に、複数の執行手続が示されています。請求の根拠や発生時期によって確認が必要なため、古い書式や説明だけで処理の優先関係を判断しないようにします。自分の事件の文書を示して、裁判所や弁護士に確認してください。
税滞納の場合は、国税徴収法第76条が給与の差押禁止額を定めており、所得税や住民税、社会保険料、生計に関係する額などを組み合わせた仕組みです。民事執行の33万円という数字を、そのまま税の滞納処分の保護額に使うことはできません。通知を発した税務署や自治体の徴収担当に、適用された計算と納付相談の窓口を確認します。
複数の差押えがある場合も、最初に届いたものから給与を順番に全部渡せばよいわけではありません。民事執行法第156条には、第三債務者による供託と、一定の場合に供託を要する定めがあります。税の差押えや養育費などが重なれば、さらに制度の確認が必要です。給与担当だけで判断に迷う場合は、関係する裁判所や法律の専門家に確認する事項になります。
生活費が足りないときは、範囲変更の手続を確認する
民事執行法第153条は、申立てにより、債務者と債権者の生活状況などを考慮して、裁判所が差押命令の全部または一部を取り消すことなどを定めています。生活の事情によって差押禁止の範囲の変更を求める手続がありますが、相談しただけで自動的に差押えが止まるわけではありません。
命令に同封された案内や教示を読み、申立先、必要な書類、提出時期を裁判所に確認します。家賃、家族構成、収入、医療費など、何を資料で示す必要があるかも尋ねます。個別の事情に応じてどの申立てが適切かは、弁護士などに相談してください。給与担当に支払停止を頼むことと、裁判所へ申立てをすることは別の手続です。
債権者へ直接支払った場合も、命令に基づく給与処理との調整が必要です。支払った証拠を保存し、二重の処理が起きないよう、弁護士や給与担当にどの書類で確認すべきかを尋ねます。当事者同士で合意したという説明だけで、勤務先が差押命令への対応を終了できるとは限りません。
転職は、債務を整理する手続の代わりにならない
民事執行法第151条は、給与のような継続的給付への差押えが、その後に受ける給付にも一定の範囲で及ぶことを定めています。命令の対象によっては、退職手当も確認が必要です。退職すると借入金などの債務自体が消えるわけではありません。勤務先が変わる場合の処理は、給与担当と専門家に確認します。
入社日や退職日を決めるなら、最終給与、退職手当、新しい会社の初回支給日を分けて整理します。そのうえで、差押えや返済の見込みを専門家と確認します。内定先の提示額だけを見て、生活費が確保できると決めないことが大切です。現職を続けながら債務の整理や生活費の見直しを進める判断にも理があります。
仕事選びについては、LINEで短く聞くこともできます。裁判所の文書や債務の詳細を広く送るのではなく、相談先ごとに必要な情報を確かめてください。
よくある質問
給与の差押えなら、必ず33万円残りますか
そうではありません。一般の民事執行では、原則として給与の4分の3が保護され、その額が政令の額を超える場合に政令額を用いる仕組みです。税や社会保険料などを控除した残額が28万円の仮の例なら、保護されるのは21万円です。養育費や税滞納は別の計算を確認します。
積立や貸付返済を引いた後の振込額で計算しますか
給与明細の振込額を、そのまま基礎にするとは限りません。目録が対象とする給与と控除項目を先に確認します。任意の積立や返済などを差押可能額の計算前に控除できるかは、給与担当に根拠とともに尋ねてください。
生活費が足りなければ、給与担当に止めてもらえますか
給与担当への相談だけで差押命令の効力がなくなるわけではありません。民事執行では差押禁止範囲の変更を求める手続があるため、命令を出した裁判所や弁護士に必要な申立てを確認します。税滞納の場合は、通知を発した徴収担当に相談してください。