選考対策 / 退職と在職中の進め方
引継ぎの進め方
退職までの期間で、いちばん時間を使うのが引継ぎです。
手続きは、確認して順に進めれば終わります。一方、引継ぎは、やり方によって残るものが変わります。
この記事では、進め方を扱います。時期の決め方は退職時期の決め方|年度末と年度途中にあります。
記録は、組織の資源です
引継ぎの考え方は、文書の管理の目的と重なります。
公文書等の管理に関する法律第1条です。
> この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として(中略)行政文書等の適正な管理(中略)を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに(中略)することを目的とする。
記録は、共有の資源。
同法第34条により、地方公共団体も、この法律の趣旨にのっとって文書の管理に努めることとされています。
引継ぎとは、自分の頭の中にある情報を、組織の資源に変える作業です。
「自分が知っていること」を「誰でも参照できる形」にする。これが目的です。
3つの作業に分かれる
| 作業 | 内容 | 時期 |
|---|---|---|
| ① 資料の作成 | 担当業務の一覧、手順、進行中の案件 | 後任が決まる前から |
| ② 後任への説明 | 対面での説明、同行 | 後任が決まってから |
| ③ 関係先への連絡 | 他課、事業者、住民の担当者 | 退職の直前 |
①が、いちばん重要です。
そして、①だけは後任が決まる前から進められます。
年度末は、異動の内示が遅れることがあります。後任が決まってから始めると、間に合いません。
①——資料に書くこと
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 担当業務の一覧 | 業務名、根拠となる規定、年間の件数 |
| 年間の流れ | いつ、何が起きるか(繁忙期を含む) |
| 進行中の案件 | 状況、期限、次にやること |
| 関係する相手先 | 他課、事業者、関係機関 |
| 資料の所在 | 文書の場所、データの保存先 |
| 例外の処理 | 標準の手順で処理できない案件の扱い |
| 過去の経緯 | 判断の根拠になった経緯 |
6つ目が、いちばん価値のある部分です。
標準的な事務は、マニュアルがあれば引き継げます。
引き継げないのは、「こういう場合はこうする」という判断の部分です。
その業務を長く担当している人ほど、この部分を多く持っています。
例外の処理を、書き出す方法
思い出しにくい部分なので、手がかりを挙げます。
| 手がかり | 問い |
|---|---|
| 相談された場面 | 後輩や同僚から、何を聞かれたか |
| 迷った場面 | 判断に時間がかかった案件は何か |
| 前例を調べた場面 | 過去の文書を探した案件は何か |
| 上司に相談した場面 | 自分では決められなかった案件は何か |
4つとも、「標準から外れた案件」です。
そのとき、どう判断したか。それを書けば、例外の処理の記録になります。
②——後任への説明
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 資料を渡し、読んでもらう |
| 2 | 疑問点を聞いて、資料に追記 |
| 3 | 年間の流れを、対面で説明 |
| 4 | 進行中の案件を、個別に説明 |
| 5 | 可能であれば、実際の業務に同行 |
2を飛ばさないでください。
後任が分からなかった部分が、資料の弱い部分です。
その場で口頭で答えて終わらせず、資料に追記してください。
次の担当者にも使えます。
③——関係先への連絡
| 相手 | 伝えること |
|---|---|
| 他課の担当 | 後任の氏名と連絡先 |
| 事業者 | 担当が変わる旨(時期は所属の判断で) |
| 関係機関 | 同上 |
外部への連絡は、所属の判断に従ってください。
自分の判断で先に伝えないこと。組織としての連絡の段取りがあります。
後任が決まらない場合
年度の途中の退職では、後任が補充されないことがあります。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 残る職員が兼務する | 複数人に分けて引き継ぐ |
| 後任が後日着任する | 文書だけで引き継げる形に |
| 一部が未定 | 上司に判断を仰ぐ |
2つ目を前提に、資料を作ってください。
「誰が読んでも分かる」形にしておけば、後任が決まっていなくても渡せます。
口頭でしか伝わらない情報を残さないことが、この場合の条件です。
資料の形式
凝った形式にする必要はありません。
| 資料 | 形式 |
|---|---|
| 担当業務の一覧 | 表(業務名・根拠・件数・時期) |
| 年間の流れ | 月ごとの表 |
| 進行中の案件 | 案件ごとに数行 |
| 例外の処理 | 「こういう場合は、こうする」の箇条書き |
| 資料の所在 | 文書の分類番号、保存先の一覧 |
5つとも、既存の様式があれば、それに従ってください。
所属で引継書の様式が定められていることがあります。その場合、様式に沿って作れば足ります。
様式が無い場合でも、新しく作り込む必要はありません。普段の業務で使っている表や、進捗の管理の表を、そのまま引き継げる形に整えるだけで構いません。
手を加えるとすれば、「自分にしか分からない略語や記号」を開くことです。自分用に作った表には、略語が多く含まれています。それを開くだけで、資料として使える形になります。
進め方の目安
| 時期 | やること |
|---|---|
| 退職の2か月前 | 担当業務の一覧を作る |
| 1か月半前 | 年間の流れと例外の処理を書く |
| 1か月前 | 進行中の案件を整理 |
| 3週間前 | 後任への説明(決まっていれば) |
| 2週間前 | 関係先への連絡 |
| 最終週 | 返還、書類の受け取り |
最初の2つは、後任が決まる前でも進められます。
経験の言い換えから相談することもできます。
なお、作成した資料は、所属の文書として保存してください。自分の手元だけに置くと、退職後に参照できなくなります。保存の場所は、上司と決めておいてください。
よくある失敗
1. 後任が決まってから始める
間に合いません。①は先に進められます。
2. 口頭で済ませる
後任が変わると、また説明が必要になります。
3. 例外の処理を書かない
いちばん引き継ぎにくい部分です。
4. 後任の疑問を、資料に追記しない
次の担当者にも使えます。
5. 外部へ自分の判断で連絡する
所属の段取りに従ってください。
6. 標準の手順だけを書く
マニュアルで足りる部分です。
まとめ
- 公文書管理法第1条は、記録を共有の知的資源と位置づけています。引継ぎは、自分の頭の中の情報を組織の資源に変える作業です
- 作業は、①資料の作成 ②後任への説明 ③関係先への連絡の3つ。①は後任が決まる前から進められます
- 資料に書くのは、業務の一覧・年間の流れ・進行中の案件・関係先・資料の所在・例外の処理・過去の経緯です
- 例外の処理が、いちばん価値のある部分です。相談された場面、迷った場面から思い出してください
- 後任の疑問は、口頭で答えず、資料に追記してください
- 完璧を目指さない。合計10枚程度で十分です
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よくある質問
引継ぎの時間が業務中に取れません
担当業務の一覧だけは、先に作ってください。これは、30分から1時間で作れます。業務名、根拠の規定、年間の件数。この3列だけの表で足ります。残りは、上司に相談して時間を確保してください。引継ぎは、退職する職員の個人的な作業ではなく、組織として必要な業務です。時間が取れない状態が続くなら、その旨を上司に伝えてください。業務の割り振りを調整してもらえることがあります。「自分の時間でやるもの」と考えないでください。
後任が経験の浅い職員です
資料の粒度を細かくしてください。経験のある職員であれば「◯◯の要領による」で通じる部分も、経験が浅い場合は手順まで必要です。加えて、判断の基準を明示してください。「この場合は係長に相談」「この金額を超えたら課長決裁」といった線引きです。経験の浅い方がいちばん困るのは、どこまで自分で決めてよいかが分からないことです。なお、後任が着任してから疑問が出ることもあります。連絡先を残す場合は、守秘の線を確認したうえでにしてください。
退職後に、業務の照会が来た場合は
答えられる範囲があります。地方公務員法第34条の守秘の義務は、退職後も続きます。答えられるのは、制度の一般的な仕組みや、自分が使っていた方法までです。個別の案件の内部の情報や、未公表の検討の経緯は、答えられません。判断に迷う場合は、「その件は、現在の担当の方にご確認ください」と述べれば足ります。なお、頻繁に照会が来る状態は、引継ぎの資料が不十分だった証拠でもあります。退職の前に、想定される質問を資料に書き足しておくほうが、双方にとって楽です。