業界研究 / 上下水道・道路のインフラ運営
上下水道・道路のインフラ運営の年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか
上下水道・道路のインフラ運営への転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、インフラ運営業界の年収の相場やレンジは書いていません。会社の規模と職種(現場の運転・維持管理か、本社の経営企画か)で差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。
代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、インフラ運営に固有の働き方の構造(受託契約の期間と更新、24時間運転の現場と本社で違う働き方、自治体の年度周期、常駐の形)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。
業界の構造と職種ごとの評価は上下水道・道路のインフラ運営は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。
業界構造の要点——処遇に影響する事業の形
インフラ運営の会社の事業は、自治体からの委託、指定管理(地方自治法第244条の2第3項、指定は期間を定めて行う——同条第5項)、運営権(PFI法第16条)の受託で成り立ちます。処遇の観点で押さえておきたいのは、会社の収入が受託契約に依存し、契約の期間と更新の結果が会社の事業の規模と体制に直結する点です。指定管理は期間を定めて指定され、委託は契約の期間で区切られ、運営権も期間があります。自分が入る枠の処遇が、特定の受託契約に連動しているか(契約の終了で配置や雇用が変わる設計か)を確かめるのが出発点です。
公務員と民間で「決まり方」がどう違うか
| 項目 | 公務員(地方) | 民間(インフラ運営を含む) |
|---|---|---|
| 給与の決まり方 | 条例で定める(地方公務員法第24条第5項) | 就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の会社は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号) |
| 賞与 | 期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の明示事項。制度がない会社もありうる(労働基準法施行規則第5条第5号) |
| 退職金 | 退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の記載事項。制度がない会社もありうる(労働基準法第89条第3号の2) |
| 労働時間の設計 | 条例・規則で定める | 法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。24時間運転の現場では、1か月単位の変形労働時間制(第32条の2)や交替制が使われることがある |
| 年次有給休暇 | 条例で定める | 雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条) |
| 身分の保障 | 分限処分の事由は法律で限定 | 解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項) |
公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。
インフラ運営に固有の働き方——法律の側から読む
1つ目は、受託契約の期間と更新。指定管理は期間を定めて指定され(地方自治法第244条の2第5項)、委託と運営権にも期間があります。契約の更新に失敗すると、その施設の業務がなくなる構造なので、現場の要員は契約に連動した配置になり、契約期間に合わせた有期の雇用になっている会社もあります。本社の経営企画は特定の契約に連動しないことが多いですが、会社全体の受託の増減が体制に影響します。労働基準法施行規則第5条第1号により契約期間は労働条件の明示事項なので、自分の雇用が無期か有期か、有期なら受託契約に連動しているかを確かめてください。
2つ目は、24時間運転の現場と本社で違う働き方。上下水道の施設は24時間運転で、現場の運転・維持管理は交替制や、1か月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2:労使協定または就業規則で、1か月以内の期間を平均して週の法定労働時間を超えない範囲で特定の日・週に法定時間を超えて労働させることができる)で組まれることがあります。本社の経営企画や官公庁営業は、自治体の開庁日に合わせた働き方が中心です。自分が入る枠が現場か本社か、現場なら労働時間の設計がどうなっているかを確かめてください。
3つ目は、自治体の年度周期。委託や指定管理の更新、次年度の提案、自治体の予算の周期(要求→査定→議会)に合わせて、年度末から年度初めに経営企画と官公庁営業の繁忙が集中しやすい構造があります。複数年度の契約は債務負担行為(地方自治法第214条)で組まれるので、「受託のうち複数年度の契約の割合」を聞けば、更新の周期と繁忙の実態が分かります。財政課の方は、この周期を予算の側で知っています。
4つ目は、常駐の形。施設に常駐して運転・維持管理を行う場合、委託(請負)であれば指揮命令の主体は自社で、自治体の職員が直接指示する形ではありません。労働者派遣(労働者派遣法第2条第1号)の形であれば派遣先の指揮命令を受けます。自分の常駐の形と指揮命令の主体を、労働条件通知書と契約の形で確かめてください。財政課の方は、自治体側で委託と派遣の契約の違いを見てきたので、この区別は理解しやすいはずです。
労働条件通知書の読み方——確かめる順序
労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。
1. 契約期間(第1号)、更新の基準(第1号の2)、就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。——無期か有期か、有期なら受託契約に連動しているか、就業場所に「受託施設」が含まれるか、業務の変更の範囲に「現場の運転・維持管理」が含まれるか。経営企画の枠で入ることを前提にしている場合、この範囲は交渉の対象です。
2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。現場の場合、変形労働時間制や交替制の設計が書かれているかを見ます。本社の場合、自治体の年度周期に合わせた時間外の実態を面接で聞いておきます。
3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。月給か年俸か。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。現場の交替勤務手当や、技術系の資格手当の対象を確かめます。
4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。書かれていない場合は、就業規則を見せてもらい、制度の有無を確認してください。
条件の読み方や、どこまで交渉できるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの
年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は会社が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。
雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。
退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。
掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。会社ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる
まとめ
- この記事に業界の年収相場は書いていない。会社の規模と職種で差が大きく、裏を取った統計がないため。条件は掲載中の求人ごとに確かめる
- 公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる。賞与・退職金は民間では「定めがある場合」の制度
- インフラ運営の会社の事業は受託契約の期間と更新に依存する(指定管理は期間を定めて指定——地方自治法第244条の2第5項)。自分の雇用が受託契約に連動しているかを契約期間と更新の基準で確かめる
- 24時間運転の現場は交替制や1か月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)、本社は自治体の開庁日に合わせた働き方。自分が入る枠がどちらかを確かめる
- 年度末から年度初めに更新と提案の繁忙が集中しやすい。常駐の形(委託か派遣か)で指揮命令の主体が違う
- 民間に移ると厚生年金・健康保険・雇用保険に切り替わり、育児休業給付金など新しく対象になる給付がある
よくある質問
受託契約が更新されなかったら、どうなりますか
会社と職種によります。現場の運転・維持管理の要員は受託契約に連動した配置になっていることが多く、契約が終われば別の受託施設への配置換えか、有期の雇用であれば契約の終了になる設計の会社があります。本社の経営企画や官公庁営業は特定の契約に連動しないことが多いですが、会社全体の受託の増減が体制に影響します。労働条件通知書の契約期間(労働基準法施行規則第5条第1号)と更新の基準(第1号の2)、就業場所の変更の範囲(第1号の3)を確かめ、面接で「受託契約が終わった場合の配置の扱い」を聞いてください。
経営企画の枠で入っても、現場の交替勤務になることはありますか
会社によります。経営企画や官公庁営業は本社が中心ですが、業務の変更の範囲に「受託施設の運転・維持管理」が含まれていれば、契約上は配置がありえます。労働基準法施行規則第5条第1号の3により、就業場所と業務の「変更の範囲」は労働条件の明示事項なので、通知書に書かれている範囲を確かめ、本社の枠に限定したい場合は交渉の対象にしてください。口頭で「基本は本社」と言われても、変更の範囲に現場が含まれていれば契約上は配置がありえます。
現場の変形労働時間制とは、どういう仕組みですか
労働基準法第32条の2の1か月単位の変形労働時間制は、労使協定または就業規則で、1か月以内の一定の期間を平均して1週間の労働時間が法定の時間を超えない範囲で、特定の日や週に法定の時間を超えて労働させることができる仕組みです。24時間運転の施設で交替制を組むときに使われることがあります。適用される場合、期間の中で労働時間の長い日と短い日が組まれるので、通知書と就業規則で対象の期間、各日・各週の労働時間の設計、深夜や休日の割増賃金の扱い(第37条)を確かめてください。財政課の方が応募する経営企画の枠では、通常は適用されません。
出典
- 地方公営企業法 第3条(経営の基本原則)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)/第214条(債務負担行為)/第244条の2(公の施設の設置、管理及び廃止)|e-Gov法令検索
- 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律 第16条(公共施設等運営権の設定)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第2条(用語の意義)|e-Gov法令検索
- 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
- 厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索