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業界研究 / 自治体向けSaaS・GovTech

自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか

自治体向けSaaS・GovTechへの転職を考えるとき、多くの方が最初に知りたいのは「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」です。ここで先に断っておきます。この記事には、GovTech業界の年収の相場やレンジは書いていません。会社ごとの差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。

代わりにこの記事で整理するのは、「公務員の処遇と働き方は法律と条例で決まり、民間の処遇と働き方は会社ごとの就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違いと、その違いを踏まえて、応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、民間の「就業規則」と「労働条件通知書」を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。

業界の構造と職種ごとの評価は自治体向けSaaS・GovTechは公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。

業界構造の要点——処遇に影響する事業の形

GovTechの企業は、標準化の対象外の業務系・情報系(財務会計、予算編成、公会計、電子申請、文書管理など)を、複数の自治体に提供する事業が中心です(地方公共団体情報システムの標準化に関する法律第8条第1項、デジタル庁の公式ページによれば標準化対象事務は20事務で、財務会計・予算編成は含まれません)。

処遇の観点で押さえておきたいのは、同じ「GovTech」でも、会社の規模と事業の段階で処遇の決まり方がまったく違うことです。長く業務パッケージを提供している会社は、就業規則と賃金の等級が整っていることが多く、公務員の給料表に近い読み方ができます。一方、SaaSで事業を立ち上げている段階の会社は、賃金の等級が固まっていない、あるいは職種ごとに個別の契約で決まることがあります。「業界の相場」を探すのではなく、応募先の会社がどちらの型かを先に見るのが、条件を確かめる出発点です。

公務員と民間で「決まり方」がどう違うか

項目公務員(地方)民間(GovTechを含む)
給与の決まり方条例で定める(地方公務員法第24条第5項)。給料表と手当の種類は条例に列挙され、職務と責任に応じ、国・他団体・民間の給与を考慮する(同条第1〜2項)就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の労働者を使用する会社は、賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号)
賞与期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項)「定めをする場合」に明示・記載する事項。制度がない会社もありうる(労働基準法施行規則第5条第5号)
退職金退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項)「定めをする場合」に記載する事項。制度がない会社もありうる(労働基準法第89条第3号の2)
時間外の扱い条例・規則で定める法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。裁量労働制の対象業務ならみなし労働時間(第38条の3、第38条の4)
年次有給休暇条例で定める雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条)
身分の保障分限処分の事由は法律で限定解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項)

表を見て分かるとおり、公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」必要がある項目(賞与、退職金)があります。財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。「賞与は当然ある」「退職金は当然ある」という前提で入ると、就業規則を読んで初めて制度がないと知ることになります。

労働条件通知書の読み方——確かめる順序

労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この条文に沿って書かれているので、次の順で読んでください。

1. 契約期間(第5条第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。無期か有期か。就業場所と業務が「変更の範囲」としてどこまで広がりうるか。GovTechは自治体への常駐や出張が業務に含まれることがあるので、変更の範囲は必ず見ます。

2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。「所定労働時間を超える労働の有無」が「有」なら、時間外が想定されている契約です。フレックスや裁量労働制の場合、その旨と、みなし労働時間が書かれているかを見ます。

3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。月給か年俸か。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。「固定残業代」がある場合、何時間分で、超えた分をどう払うかが書かれているかを見ます。

4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。書かれていない場合は、就業規則を見せてもらい、制度の有無を確認してください。

財政課で給与条例と勤務時間条例を読んでいた方なら、この4段階は条例の「給料」「手当」「勤務時間」「休暇」の章立てとほぼ対応します。条例の代わりに就業規則を、規則の代わりに労働条件通知書を読む、と置き換えれば、読み方は同じです。

条件の読み方や、どこまで交渉できるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの

処遇の比較で見落とされやすいのが、社会保険と給付の切り替えです。

年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は会社が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。切り替えの手続きと、間が空く場合の対応は厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。

雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与(退職手当)の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると雇用保険の被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。育児休業そのものの制度は育児休業の制度に、公務員と民間の違いを含めて整理しています。

退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、自己都合か定年かで額が変わります(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は前述のとおり「定めがある場合」の制度なので、転職先に制度があるか、あるとして勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当を受け取って民間に移る場合、通算はされません。

働き方——会社ごとの差が大きい部分

GovTechの働き方は、リモートワークの可否、自治体への訪問や常駐の頻度、繁忙期の形(自治体の予算編成期・年度末・年度初めに対応が集中しやすい)など、会社と職種によって大きく違います。業界として「こういう働き方」と一般化できる材料は当社にはありません。

確かめ方は、カジュアル面談と一次面接で、配属予定のチームの人に直接聞くことです。聞くべき項目は次のとおりです。

「時間外はどのくらいですか」と一般的に聞くと、一般的な答えしか返ってきません。財政課の方なら、自治体の予算編成期がいつ忙しいかを知っているので、「予算編成期の対応で、御社側の負荷はどう出ますか」と自治体の年間の動きに合わせて聞くと、具体的な答えが返ってきます。

掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。会社ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる

まとめ

よくある質問

年俸制の会社です。残業代は出ないと言われましたが、そういうものですか

年俸制であっても、法定労働時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。「年俸に残業代を含む」という設計はありえますが、その場合は年俸のうち何時間分の時間外に相当する額が含まれているか、それを超えた分をどう払うかが明示されている必要があります。裁量労働制(第38条の3、第38条の4)が適用される職種であれば、みなし労働時間で扱われますが、その場合も労使協定や労使委員会の決議が前提です。「残業代は出ない」という説明だけで納得せず、労働条件通知書と就業規則の該当箇所を見せてもらってください。

公務員の退職手当をもらって転職すると、民間の退職金と通算されますか

されません。公務員の退職手当は条例に基づき、退職時に支給されて完結します。民間の退職金は、転職先に制度がある場合に、その会社での勤続期間に基づいて計算されます。転職先に退職金制度がない場合や、勤続年数の要件を満たすまで支給されない場合があるので、オファーの段階で就業規則の退職金の章を確認してください。公務員の退職手当の額と受け取り方は自己都合退職と定年退職で何が変わるかに整理しています。

条件の交渉は、どの段階でどこまでできますか

一般的には、オファーの段階(最終面接の後、内定の条件を提示されるとき)が交渉の場です。交渉できる範囲は会社によって違いますが、賃金の額だけでなく、入社日、就業場所、職種の範囲も交渉の対象になりえます。在職中に転職先と条件を詰めること自体は服務の線に触れませんが、在職中の業務との関係で注意する点があります。退職前に転職先と条件を詰めてよいかと条件交渉はどこまでできるかに整理しています。

出典

  1. 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
  2. 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)|e-Gov法令検索
  3. 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第38条の3・第38条の4(裁量労働制)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
  4. 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
  5. 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
  6. 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
  7. 厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索
  8. 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化|デジタル庁

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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