制度とお金 / 共済
保険料はどれが安いのか、の考え方
退職から入社まで空白がある場合、健康保険は任意継続か国民健康保険か、家族の扶養に入るかを選びます。「どれが安いか」は、この3つの中で最も多く聞かれる質問で、最も答えにくい質問でもあります。
答えにくいのは、3つの保険料が、それぞれ別の法律で、別の基礎で決まるからです。任意継続は在職中の標準報酬、国民健康保険は前年の所得と世帯の人数、扶養は本人の保険料がゼロ。基礎が違うので、一般論では順位が付かず、人によって逆転します。
この記事では、3つの保険料の決まり方を条文で対置して、自分の額を出すための聞き方と、比較表の作り方を整理します。この記事に額は書きません。額は、共済組合と市区町村に聞いた見込みで決まります。各制度の中身は、任意継続組合員制度、国民健康保険に切り替える場合、家族の扶養に入る場合に書いています。
3つの基礎を並べる
| 選択肢 | 何を基礎に決まるか | 根拠 | 家族の人数 | 退職の年の所得 |
|---|---|---|---|---|
| 任意継続 | 在職中の標準報酬(掛金+自治体の負担金相当。組合の定款で上限あり) | 地方公務員等共済組合法第144条の2第2項 | 効かない(被扶養者は増えても同額) | 効かない |
| 国民健康保険 | 前年の所得(所得割)+被保険者の人数(均等割)+世帯(平等割) | 国民健康保険法第76条、施行令第29条の7 | 効く(1人ずつ被保険者) | 退職した年度は効かない。翌年度から効く |
| 家族の扶養 | 本人の保険料はゼロ。要件は本人の年間収入の見込み | 健康保険法第3条第7項 | ── | 効く(見込みが基準を超えると入れない) |
この表が、比較の骨です。任意継続は「在職中の給与」で決まり、国民健康保険は「前年の所得と人数」で決まる。つまり、
- 扶養する家族が多いほど、国民健康保険が高くなり、任意継続が相対的に有利
- 在職中の給与が高いほど、任意継続が高くなる(ただし上限あり)
- 退職した年度は、国民健康保険も前年(在職中)の所得で計算するので高い
- 翌年度は、国民健康保険が退職の年の所得で下がる。任意継続は変わらない
- 退職後の収入の見込みがないなら、家族の扶養に入れる可能性があり、入れれば保険料はゼロ
逆転が起きる4つの軸
軸1:家族の人数
単身なら、国民健康保険は本人1人分の均等割で済みます。配偶者と子が被扶養者なら、国民健康保険では全員が被保険者になり、人数分の均等割がかかります。任意継続は被扶養者が何人いても掛金は同じなので、人数が多いほど任意継続に傾きます。
軸2:在職中の標準報酬と、定款の上限
任意継続の掛金は在職中の標準報酬が基礎ですが、組合の定款で算定の基礎に上限を設けていることが多いので、給与が高かった方は上限で頭打ちになります。上限の有無と額は、共済組合に聞かないと分かりません。
軸3:退職した年度か、翌年度か
国民健康保険の所得割は前年の所得が基礎です。3月31日に退職すると、4月からの年度の所得割は、在職中の最後の1年の所得で計算されます。退職した年度は国民健康保険が高く、翌年度は下がる。任意継続は2年間、在職中の標準報酬のままです。空白が年度をまたぐなら、年度ごとに比べる必要があります。
軸4:退職後の収入の見込み
家族の扶養に入る道は、本人の年間収入の見込みが基準を下回ることが要件です。失業者の退職手当を受ける場合はその日額で、転職先が決まって収入が出れば、その時点で外れます。空白の期間に収入がなく、家族が健康保険の被保険者なら、まずこの道を確かめる価値があります。
見込みを聞くときの聞き方
比較には、自分の額が要ります。額は2か所に聞きます。
| 聞く先 | 聞くこと | 持っていくもの |
|---|---|---|
| 共済組合 | 「退職日が○月○日の場合の、任意継続掛金の月額(介護分を含む)と、算定の基礎の上限の有無」 | 組合員証、直近の給与明細 |
| 市区町村の国民健康保険の担当課 | 「前年の所得が○円、世帯が○人(うち被保険者になるのが○人)で、○月から加入した場合の、年度内の保険料の月額と年額」 | 前年の源泉徴収票、世帯の構成が分かるもの |
| 家族の勤務先の健康保険(家族経由) | 「退職者の被扶養者の認定の要件と、退職手当・失業者の退職手当の扱い」 | 退職後の収入の見込み |
市区町村には、源泉徴収票を持っていくと、その場で見込みが出ます。退職の意思を伝える必要はなく、どちらも制度の照会として聞けます。
比較表の作り方
聞いた見込みを、1枚の表にします。
| 月 | 任意継続(月額) | 国民健康保険(月額) | 家族の扶養 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 退職の翌月 | ○円 | ○円 | 入れるなら0円 | |
| … | ||||
| 年度の切替え(4月) | 同額 | 翌年度の見込みに変わる | 国民健康保険は前年の所得で再計算 | |
| 入社の月 | 転職先の保険料へ | 転職先の保険料へ | 転職先の保険料へ |
表の縦は月、横は選択肢です。空白の期間の月数分を足せば、選択肢ごとの合計が出ます。年度をまたぐ場合は、4月で国民健康保険の額が変わるので、市区町村に翌年度の見込みも聞いておきます。翌年度の所得割は退職の年の所得(退職までの給与+退職手当以外の収入)が基礎なので、見込みで聞くことになります。
任意継続で始めて、翌年度に国民健康保険へ切り替える組合せもあります。任意継続は自分の意思でやめられるので(第144条の2第5項第5号)、年度の切替えで乗り換えれば、退職した年度は任意継続、翌年度は国民健康保険の安いほうを取れます。
税の効果——どれを選んでも社会保険料控除
払った保険料は、任意継続の掛金も、国民健康保険の保険料も、全額が社会保険料控除の対象です(所得税法第74条)。転職先の年末調整か確定申告で控除します。家族の扶養に入れば本人の保険料はゼロなので、控除もありません。比較表の額は、控除前の額で並べて構いませんが、控除の分だけ実際の負担は額面より小さいことは頭に置いてください。控除の仕組みは社会保険料控除と退職の年に書いています。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、保険料の比較で効いてくる点は3つです。
1. 退職の翌日に入社するなら、比較は要らない
転職先の健康保険に入るので、任意継続も国民健康保険も使いません。入社日を退職日の翌日にできるかが、最初に確かめることです。
2. 空白があるなら、家族の人数と退職の年の所得で軸が決まる
家族が多いなら任意継続に、単身で所得が下がるなら国民健康保険に傾きます。傾きを知ったうえで、自分の額で確かめてください。
3. 空白の保険料は数か月分で、社会保険料控除の対象
額の差は、転職の判断を変えるほどではありません。比較は退職日と入社日が決まった後の事務です。
手続きと期限
| 順序 | すること | 期限 |
|---|---|---|
| 退職日の見込みが立ったら | 共済組合に任意継続の掛金の見込みを照会 | ── |
| 同時に | 市区町村に国民健康保険の見込みを照会(源泉徴収票を持参) | ── |
| 家族が健康保険の被保険者なら | 家族経由で被扶養者の要件を照会 | ── |
| 退職前 | 比較表に月ごとに入れて、合計を出す | 退職前 |
| 退職の日から20日以内 | 任意継続を選ぶなら申出(と初回の掛金の払込み) | 20日(第144条の2第1項) |
| 退職の翌日から14日以内 | 国民健康保険を選ぶなら世帯主が届出 | 14日 |
| 空白が年度をまたぐなら | 4月の前に、切替えの要否を判断 | 3月中 |
誤解されやすい点
「任意継続は必ず高い」と思い込む
在職中の掛金の倍が目安ですが、比べる相手は国民健康保険の保険料です。家族が多いと任意継続が安いことがあります。
「国民健康保険は退職して収入が減れば安くなる」と思い込む
退職した年度は前年(在職中)の所得で計算されます。安くなるのは翌年度からです。
「一度選んだら空白の間は変えられない」と思い込む
任意継続は自分の意思でやめられ、年度の切替えで国民健康保険に乗り換えられます(第144条の2第5項第5号)。
「扶養に入る道は自分には関係ない」と思い込む
要件は退職後の年間収入の見込みです。在職中の給与の高さは直接は関係ありません。
まとめ
- 任意継続は在職中の標準報酬(地方公務員等共済組合法第144条の2第2項)、国民健康保険は前年の所得と被保険者の人数(国民健康保険法第76条、施行令第29条の7)、家族の扶養は本人の保険料ゼロ(健康保険法第3条第7項)。基礎が違うので一般論では順位が付きません
- 逆転の軸は、家族の人数、在職中の標準報酬と定款の上限、退職した年度か翌年度か、退職後の収入の見込みの4つです
- 共済組合と市区町村に、退職日の見込み・前年の源泉徴収票・世帯の人数を持って聞けば、その場で自分の額が出ます
- 比較表は縦に月、横に選択肢。年度をまたぐなら4月で国民健康保険の額が変わります
- 任意継続で始めて翌年度に国民健康保険へ乗り換える組合せもあります(第144条の2第5項第5号)
- どれを選んでも払った保険料は社会保険料控除の対象です(所得税法第74条)
よくある質問
単身で、退職から入社まで2か月あります。任意継続と国民健康保険のどちらが安いですか
一般論では、単身の方は国民健康保険が安くなりやすいですが、退職した年度は逆転することがあります。国民健康保険は本人1人分の均等割で済み、家族の人数による上乗せがありません。ただし所得割は前年の所得が基礎なので、在職中の給与が高かった方は、退職した年度の国民健康保険が任意継続の掛金を超えることがあります。任意継続は在職中の標準報酬が基礎で、定款の上限があれば頭打ちです。2か月分なので差は大きくありませんが、市区町村に源泉徴収票を持って行けば年度内の月額がその場で出ます。共済組合の任意継続の見込みと並べて、2か月分を合計して比べてください。空白が2か月なら、任意継続の申出(20日以内)と国民健康保険の届出(14日以内)のどちらも間に合う期限なので、聞いてから決められます。
配偶者と子2人が扶養に入っています。空白は半年です。どう比べればよいですか
家族が多い方は任意継続に傾きますが、年度をまたぐかどうかで変わります。国民健康保険では4人全員が被保険者になり、4人分の均等割と、前年の所得による所得割がかかります。任意継続は被扶養者が何人いても掛金は同額です。退職した年度は、国民健康保険の所得割が在職中の所得で計算されるので、任意継続が有利になりやすいです。空白の半年が4月をまたぐなら、翌年度の国民健康保険は退職の年の所得で下がるので、市区町村に翌年度の見込みも聞いて、月ごとに表に入れてください。任意継続で始めて4月に国民健康保険へ乗り換える組合せも計算に入れます。配偶者が勤務先の健康保険の被保険者なら、あなたと子があなたの退職後にその被扶養者になれるかも、配偶者経由で確かめてください。入れれば、その分の保険料はゼロです。
市区町村で見込みを聞くと、退職することが職場に伝わりませんか
伝わりません。市区町村の国民健康保険の担当課は、住民からの制度の照会に答える窓口で、あなたの勤務先に連絡することはありません。共済組合も同じで、任意継続の掛金の見込みは、組合員からの照会として答えます。どちらも「退職を検討しているので見込みを知りたい」と伝えれば足り、退職日が決まっている必要もありません。持っていくのは前年の源泉徴収票と世帯の構成が分かるもので、退職の意思を示す書類は要りません。家族の勤務先の健康保険への照会は家族経由なので、これも職場には関係しません。退職の準備で職場に伝わるのは、退職の意思を上司に伝えたときだけです。それまでの照会は、すべて制度の確認として進められます。