制度とお金 / 年金
厚生年金に切り替える場合
転職先に入社すると、年金は厚生年金に切り替わります。ただし、公務員のときも厚生年金でした。平成27年10月の一元化以降、地方公務員は厚生年金保険の第3号厚生年金被保険者です。転職で変わるのは、第3号から第1号への「種別」です。
それでも、民間の厚生年金には、公務員のときと違う点がいくつかあります。保険料の率、標準報酬の決まり方、短時間勤務の場合の要件、配偶者の扱い。「同じ厚生年金」と分かったうえで、違う部分を先に知っておくと、転職先の給与明細を見たときに驚かずに済みます。
この記事では、民間の厚生年金に切り替わるとき、何が起きるかを、厚生年金保険法の条文で整理します。年金は個別性が高い分野なので、制度の骨を書きます。自分の場合は、転職先の担当部門と年金事務所で確認してください。一元化の全体は被用者年金一元化で何が変わったかに書いています。
誰が被保険者になるか——適用事業所に使用される70歳未満の者
厚生年金保険法第9条は、被保険者をこう定めています。
> 適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。
転職先が適用事業所であれば、入社した日から、70歳未満の者は被保険者です。本人が加入を選ぶものではなく、使用される事実で決まります。
そして第2条の5第1項第1号は、第2号から第4号(公務員・私学教職員)以外の厚生年金の被保険者を第1号厚生年金被保険者と定義しています。民間の会社員は第1号です。公務員のときの第3号から、同じ厚生年金の中で種別が変わる形です。
保険料——18.3パーセントを労使で折半
第81条第3項は、保険料の額を「標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ保険料率を乗じて得た額」と定め、第4項の表で平成29年9月以後の月分の保険料率を1000分の183.00としています。18.3パーセントです。
そして第82条第1項は、こう定めています。
> 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。
本人の負担は、標準報酬の9.15パーセントです。残りの半分は事業主が負担します。給与明細で天引きされるのは、この本人負担の分です。
公務員のときとの違いは、ここにあります。公務員の共済組合の掛金は、厚生年金の保険料に相当する部分に加えて、退職等年金給付の掛金などが含まれていました。民間に移ると、退職等年金給付の掛金はなくなり、厚生年金の保険料だけになります。その代わり、退職等年金給付の積み増しも止まります。仕組みは職域加算と年金払い退職給付に書いています。
標準報酬——入社時の給与で決まり、その後は定時に決め直す
保険料と将来の年金額の基礎になるのが標準報酬月額です。第20条以下で、報酬月額を等級に当てはめて決める仕組みが定められています。
転職の場面で効くのは、入社時の決め方です。入社時は、その時点の報酬の見込みで標準報酬月額が決まります(資格取得時の決定)。その後、毎年の定時の決定で、直近の報酬をもとに決め直されます。入社時の給与が公務員のときと違えば、標準報酬月額も変わり、保険料と将来の年金の計算の基礎も変わります。
基本給だけでなく、通勤手当や残業代なども報酬に含まれるのが原則です。公務員のときの給料表の額だけで考えていると、標準報酬の水準がずれることがあります。転職先の担当部門に、入社時の標準報酬月額を確認してください。
短時間勤務の場合——週20時間と月額8.8万円の線
正社員として入社するなら、第9条でそのまま被保険者です。短時間勤務やパートタイムの形で入社する場合は、第12条の適用除外に当たるかどうかを確かめる必要があります。
第12条第5号は、事業所に使用される者であって、一週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3未満などの場合に、次のいずれかに該当する者を被保険者としないと定めています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| イ | 一週間の所定労働時間が20時間未満であること |
| ロ | 報酬の月額が88,000円未満であること(厚生労働省令で定める計算による) |
| ハ | 高等学校の生徒、大学の学生その他厚生労働省令で定める者であること |
つまり、週20時間以上、報酬の月額88,000円以上、学生でないなどの要件を満たせば、短時間勤務でも厚生年金の被保険者になります。要件の詳細は法律と省令で定められ、事業所の規模による段階的な適用もあるので、転職先の担当部門で確認してください。
被保険者にならない場合は、国民年金の第1号被保険者として自分で保険料を納めることになります。国民年金に切り替える場合に書いています。
配偶者——第3号被保険者に戻る
退職で自分が厚生年金の被保険者でなくなると、配偶者は国民年金の第3号被保険者の資格を失います(退職時の年金の手続き)。転職先で厚生年金の被保険者になれば、配偶者は再び第3号被保険者になれます。
国民年金法第7条第1項第3号は、第3号被保険者を第2号被保険者の配偶者で、主として第2号被保険者の収入により生計を維持する20歳以上60歳未満の者と定めています。日本年金機構の案内では、要件として年収が原則として130万円未満であることが示され、手続きは配偶者の勤務先の事業所を通じて行うとされています。転職先の入社の手続きで、配偶者の第3号被保険者の届出も一緒に出します。
転職するとどうなるか
転職先の厚生年金に切り替わるとき、効いてくる点は3つです。
1. 入社日から、自動的に第1号厚生年金被保険者になる
適用事業所に使用される70歳未満の者は被保険者です(第9条)。転職先が届出を行い、本人は基礎年金番号を伝えるだけです。
2. 保険料は標準報酬の18.3パーセントを労使折半。本人は9.15パーセント
第81条・第82条の定めです。標準報酬は入社時の報酬で決まるので、公務員のときと額が変わります。
3. 短時間勤務なら、週20時間・月額88,000円の線を確かめる
第12条第5号の要件です。満たさなければ国民年金の第1号被保険者です。
手続きと期限
| 手続き | 誰が | いつ |
|---|---|---|
| 厚生年金の資格取得の届出 | 転職先の事業主(第27条) | 入社時 |
| 基礎年金番号の提出 | 本人 | 入社の書類で |
| 配偶者の第3号被保険者の届出 | 転職先を通じて | 入社時に一緒に |
| 標準報酬月額の確認 | 本人が転職先の担当部門に聞く | 内定〜入社時 |
本人が年金事務所や市区町村に出向く手続きは、原則としてありません。入社日が退職日の翌日でなく空白がある場合は、その期間について市区町村での国民年金の届出が別に要ります。
誤解されやすい点
「公務員は共済年金、民間は厚生年金で、別の制度に移る」と思い込む
公務員も厚生年金です。種別が第3号から第1号に変わるだけです。
「保険料の率は会社ごとに違う」と思い込む
18.3パーセントで、法律で定められています(第81条第4項)。会社で違うのは、標準報酬の基礎になる報酬の額です。
「短時間勤務なら厚生年金に入れない」と思い込む
週20時間以上、月額88,000円以上などの要件を満たせば被保険者です(第12条第5号)。
「配偶者の第3号は自動的に戻る」と思い込む
転職先を通じて届出が要ります。入社の手続きで一緒に出してください。
まとめ
- 転職先が適用事業所なら、入社日から70歳未満の者は厚生年金の被保険者です(厚生年金保険法第9条)。公務員のときの第3号から、第1号厚生年金被保険者に種別が変わるだけです(第2条の5)
- 保険料は標準報酬の18.3パーセントで(第81条第4項)、労使折半です(第82条)。本人の負担は9.15パーセントです
- 標準報酬月額は入社時の報酬で決まり、その後は定時に決め直されます。公務員のときの給料表の額とは別です
- 短時間勤務は、週20時間以上、報酬月額88,000円以上、学生でないなどの要件で被保険者になります(第12条第5号)
- 配偶者の第3号被保険者は、転職先を通じて届出をすれば戻ります(国民年金法第7条、日本年金機構の案内)
- 転職先が届出を行い、本人は基礎年金番号を伝えるだけです(第27条)
よくある質問
民間の厚生年金の保険料は、公務員のときより高くなりますか
率は同じ18.3パーセントの労使折半で、法律で定められています(厚生年金保険法第81条第4項・第82条)。変わるのは、保険料の基礎になる標準報酬月額です。入社時の報酬(手当を含む)で決まるので、転職先の給与が公務員のときと違えば、標準報酬月額も変わります。また、公務員の共済組合の掛金には退職等年金給付の分が含まれていましたが、民間の厚生年金の保険料には含まれません。天引きの額が違って見えるのは、この2つの理由によります。内定の段階で、転職先の担当部門に入社時の標準報酬月額の見込みを聞いてください。
契約社員や週30時間の勤務で入社します。厚生年金に入れますか
要件を満たせば入れます。厚生年金保険法第12条第5号は、一週間の所定労働時間が20時間未満、報酬の月額が88,000円未満、学生などに該当する者を被保険者としないと定めています。週30時間で、報酬の月額が88,000円以上で、学生でなければ、この除外に当たらず、被保険者になります。ただし、要件の詳細は法律と厚生労働省令で定められ、事業所の規模による段階的な適用もあります。転職先の担当部門に「厚生年金の被保険者になるか」を確認してください。被保険者にならない場合は、国民年金の第1号被保険者として自分で保険料を納めます。
配偶者を扶養しています。転職先で何をすればよいですか
転職先の入社の手続きで、配偶者の第3号被保険者の届出を一緒に出してください。国民年金法第7条第1項第3号は、第3号被保険者を第2号被保険者の配偶者で主として第2号被保険者の収入により生計を維持する20歳以上60歳未満の者と定め、日本年金機構の案内では、要件として年収が原則として130万円未満であること、手続きは配偶者の勤務先の事業所を通じて行うこと、が示されています。退職で配偶者は第3号被保険者の資格を失っているので、転職先での届出で戻ります。退職から入社まで空白があれば、その期間は配偶者も第1号被保険者として市区町村での届出と保険料の納付が要ります。