業界研究 / ITコンサルティング
未経験からITコンサルティングに入るには|公務員経験の使い方
「ITの技術がなく、コンサルの経験もなく、民間で働いたこともない。それでもITコンサルティングに入れるのか」——財政課の方からこの質問を受けたとき、当社の答えは「テクノロジー系のコンサルタントには入れない。ただし、公共部門の調達支援やPMOの枠なら、財政課の『発注者の内側』の経験が経験者として扱われる」です。
「未経験」と一括りにされているものは、3つの別のものです。ITの技術がない(IT未経験)、仮説を立てて提案するコンサルの型を経験していない(コンサル未経験)、自治体側の意思決定と調達の仕組みを知らない(発注者側未経験)。ITコンサルの公共部門が重く見るのは3つ目で、財政課の方はここだけは経験者です。前の2つが未経験であることは、枠を選べば入り口を閉じません。
この記事では、「未経験」の3つの分解、財政課の経験が効く入り口の枠、資格と学位の位置づけ、在職中にできる準備の順序、公務員が使えない支援制度と使える機会、服務の線を整理します。業界の構造と職種ごとの評価はITコンサルティングは公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に、志望動機はITコンサルティングの志望動機に書いています。
業界構造の要点——「テクノロジー系」と「公共部門の計画・調達支援」の線
ITコンサルの公共部門は、自治体のDX計画の策定支援、システム調達の支援、標準化・ガバメントクラウド移行(地方公共団体情報システムの標準化に関する法律第8条第1項により標準化基準への適合が義務づけられ、デジタル庁の公式ページによれば20の事務)のPMO、業務改革を受託します。受託は地方自治法第234条の契約方法により、複数年度の支援は債務負担行為(同法第214条)で予算を組みます。
この構造で押さえるべきことは、「テクノロジーコンサル・アーキテクト(システム構成、クラウド設計、セキュリティの助言)は技術が前提で、財政課の経験では代替できない」線と、「公共部門の計画・調達支援、PMO、業務改革は、発注者の内側の経験が評価される」枠が、同じ会社の中に並んでいることです。未経験から入る道は後者にあります。
「未経験」を3つに分ける
| 未経験の種類 | 財政課の方の実態 | ITコンサルでの重み |
|---|---|---|
| 発注者側未経験(自治体の意思決定と調達を知らない) | 経験者。システム更改の予算査定、仕様書の読み込み、債務負担行為の設定、プロポーザルの審査、議会説明を実務で回している | 公共部門の計画・調達支援、PMOでは最も重い。「外から学んだ」コンサルタントが持っていない知識 |
| コンサル未経験(仮説を立てて提案する型を経験していない) | 未経験。ただし、査定で「出てきたものを判断する」経験と、議会向けに「根拠を添えて説明する」経験はある | 中程度。入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的。選考ではケース面接で「提案まで言えるか」で見られる |
| IT未経験(技術がない) | 未経験。ただし、財務会計システムの利用者としての経験と、更改の予算査定の経験はある | テクノロジー系では決定的。計画・調達支援、PMO、業務改革では前提ではないが、技術者と話す語彙は入社後に要る |
財政課の方が「未経験」と感じているのは後ろの2つですが、公共部門の枠で最も重いのは1つ目で、そこは経験者です。この認識を直すことが、応募できる枠を見つける最初の一歩です。
入り口になる枠——財政課の経験が効く順
1. 公共部門コンサルタント(計画・調達支援)。DX計画の策定支援、調達支援(仕様書、予定価格の考え方、評価基準)、予算化の助言。財政課の経験が最も直接に効く枠で、コンサルの型は入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的です。求人票に「自治体」「公共」「調達支援」「DX計画」の言葉があるかで見分けます。
2. PMO・移行管理。標準化移行やDXの進捗・課題・リスクの管理、庁内調整。財政課で査定を通じて庁内のどこで何が引っかかるかを見てきた経験が効きます。プロジェクト管理の手法は入社後に学びます。
3. 業務改革コンサルタント。業務フローの分析と改善案の設計。財務会計・予算編成の業務フローを毎年回していた経験が効きますが、業務系以外(住民、税、福祉)の業務は別の経験なので、担当領域を確かめます。
4. テクノロジーコンサル・アーキテクト。未経験からの入り口としては現実的ではありません。システム構成、クラウド設計、セキュリティの技術が前提です。財政課の経験だけでこの枠に入る道は、当社の見る範囲では一般的ではありません。
入り口は1か2、次いで3、という順序が現実的です。「未経験だから」とITの技術やコンサルの手法の学習から始める必要はなく、むしろ逆です。
資格と学位の位置づけ——取るべきか
未経験の方から「ITストラテジストやプロジェクトマネージャ試験を取ってから応募すべきか」「MBAを取るべきか」と聞かれます。答えは、公共部門の計画・調達支援やPMOの枠では前提ではなく、取ることでテクノロジー系の枠が開くわけでもないです。
情報処理技術者試験(情報処理の促進に関する法律第26条)の区分のうち、システムの構成や調達の考え方を体系的に押さえられるものは、技術者と会話するための語彙と、調達支援で使う「システムの全体像」の見方を学ぶのに向いています。資格の取得を応募の前提にするのではなく、勉強の範囲を決める目安として使うのが位置づけです。学位(MBAなど)も、公共部門の枠で応募の前提になることは一般的ではありません。
一方で、財政課の経験を示す材料として効くのは、資格や学位より「調達と予算」の軸で棚卸しした業務の具体です。システム更改の予算査定で何を聞き何を切ったか、仕様書と積算の対応をどう確かめたか、債務負担行為をどう設定させたか、プロポーザルの審査で何を評価したか、議会でどう説明したか。これが職務経歴書の中心です。
自分の業務の棚卸しが、どの会社のどの枠に当たるのかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
在職中にできる準備——順序
1. 業務の棚卸し(コンサルの型の学習より先)。「調達と予算」の軸で、自分が判断し、作ったものを書き出す。査定で「直した」場面(保守を債務負担行為に組み替えさせた、仕様と積算の対応表を作らせた)を中心に。
2. 自分の自治体の調達やDXの課題を「現状→原因→仮説→提案→留保」で3分で話す練習。公表資料(予算書、DX推進計画、調達の公告と結果)の範囲で。査定の型(出てきたものを判断する)から抜けて、「まだないものを仮説として作り、提案する」まで言い切る練習です。選考フローと面接で見られている観点に、ケース面接の答え方を整理しています。
3. 自分の自治体のDX推進計画や標準化移行の計画を、支援者の視点で読み直す。「支援者がどう作ったか」「財政課としてどこに口を出したか」「財政フレームは付いているか」の視点で。納品された計画への不満は、批判ではなく持ち込める経験の素材です。
4. 技術の語彙とコンサルの型を、必要な分だけ。システムの全体像(基幹系と業務系、クラウドの提供形態、他システムとの連携)、調達の考え方(要件定義と仕様書の関係、予定価格の積算の構造)、コンサルの型(構造化、仮説、提案書の構成)——提案を言う練習の中で「足りない」と分かった部分から学びます。
5. 庁内の研修と、業務での機会。地方公務員法第39条は、職員に研修を受ける機会が与えられなければならないと定めています。庁内のDX研修、情報システムの調達に関する研修、他の自治体との研究会は、在職中の正当な学習機会です。また、財政課としてシステム更改の予算査定、仕様書の確認、債務負担行為の設定、標準化移行の予算に深く関わることは、そのまま経験になります。転職のためではなく、現在の業務としてこれらに関わることが、結果として最も強い準備です。
公務員が使えない支援制度と、代わりの機会
雇用保険の教育訓練給付金(雇用保険法第60条の2)は、対象が雇用保険の被保険者または被保険者でなくなってから一定期間内の人で、支給要件期間が3年以上あることが条件です。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外なので(同法第6条第6号)、在職中の公務員はこの給付の対象になりません。IT資格の講座やMBAの課程が指定の教育訓練になっていても、在職中は使えないということです。民間に転職した後、被保険者としての期間が要件を満たせば対象になります。
代わりに使えるのは、前述の庁内研修(地方公務員法第39条)と、自治体職員向けに開かれている外部の研修です。「転職の準備」としてではなく「今の業務の能率を上げる研修」として探すと、庁内の手続きも通りやすく、内容も業務に直結します。
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服務の線——在職中の準備で触れてはいけないこと
1つ目は、自治体の内部資料を学習や応募の材料に使うこと。地方公務員法第34条の秘密を守る義務により、未公表の資料(予定価格、他社の提案、審査の内容、庁内の未公表の判断、システムの設定)を持ち出して、ケースの練習や勉強の材料にすることはできません。調達を扱う業界なので、この線は特に厳しく見られます。練習は公表資料の範囲で行い、資料を持ち出さないでください。
2つ目は、報酬を得る副業的な準備。地方公務員法第38条は、任命権者の許可なく、報酬を得て事業や事務に従事することを制限しています。ITコンサルから「入社前に案件を手伝ってほしい」「有償のアドバイザーになってほしい」と言われた場合、許可なく報酬を受ければこの条文に触れます。在職中の副業・兼業の許可に、許可の仕組みを整理しています。
3つ目は、在職中に応募先の調達に関わっている場合。コンサルティング業務の委託料の査定、プロポーザルの審査、契約の担当に該当する場合は、選考の中で隠さず伝え、応募の時期と入社後の担当の切り分けを会社側と相談してください。退職後に元の職場へ働きかけることは地方公務員法第38条の2で規制されており、調達支援やPMOで元の自治体を担当すると規制との関係が問題になりえます。再就職者による働きかけの規制に整理しています。
内定後は、労働基準法第15条により労働条件が書面などで明示されるので、未経験での入社に伴う条件(入社時の職位、研修期間、試用期間、職種と就業場所の変更の範囲)を通知書で確かめてから承諾してください。
まとめ
- 「未経験」は発注者側未経験・コンサル未経験・IT未経験の3つに分かれる。公共部門の枠で最も重いのは発注者側未経験で、財政課の方はそこは経験者
- テクノロジー系は技術が前提。入り口は公共部門コンサルタント(計画・調達支援)とPMO・移行管理が現実的
- 情報処理技術者試験やMBAは、公共部門の枠の前提ではない。語彙と全体像を学ぶ目安として位置づける
- 準備の順序は業務の棚卸し(調達と予算の軸、「直した」場面)→提案を3分で言う練習→自分の自治体の計画を支援者の視点で読む→必要な分だけ語彙と型→庁内研修と業務での機会
- 在職中の公務員は雇用保険の適用除外で、教育訓練給付金の対象にならない
- 内部資料を持ち出さない(第34条:調達の業界では特に厳しい)。入社前の有償の協力には許可が要る(第38条)。調達に関与しているなら隠さず相談する(第38条の2)
よくある質問
コンサルの経験がまったくありません。ケース面接で通る見込みはありますか
公共部門の計画・調達支援やPMOの枠では、コンサルの型は入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的で、ケース面接で見られるのは型の完成度より「発注者の内側の経験から、仮説と提案まで言えるか」です。財政課で調達と予算を見ていた方は、構造化の材料と原因の仮説を持っています。足りないのは「提案」と「留保」を言い切る練習で、これは公表資料の範囲で今日からできます。査定の型(判断で止まる)から抜けることが要点です。
ITストラテジスト試験を取ってから応募したほうが有利ですか
テクノロジー系の枠を目指すなら技術の学習と実績が要りますが、公共部門の計画・調達支援やPMOの枠では、資格が選考で有利になる度合いは限られます。それより、システム更改の調達と予算を発注者側でどう回したかを具体的に説明できることのほうが、面接で重く見られます。資格の範囲を学ぶなら、業務の棚卸しをした後に「この語彙を知らないと技術者と話せない」「調達の全体像を体系的に押さえたい」と分かった部分を目安にする程度が、入り口の枠には見合っています。
在職中に、ITコンサルの会社が主催する自治体向けセミナーに参加してよいですか
自治体の担当者として業務で参加するセミナーは、業務そのものです。転職の準備として個人で参加する場合は、報酬を伴わず、勤務時間外で、内部の資料を持ち出さなければ、参加そのものは服務の線に触れません。ただし、主催する会社が自分の自治体の調達支援を受託している場合、在職中の関係の持ち方は慎重に扱う必要があるので、参加前に所属の服務担当に確認するのが安全です。在職中の副業・兼業の許可に、許可の要否の考え方を整理しています。
出典
- 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律 第2条(定義)/第8条(標準化基準に適合する地方公共団体情報システムの利用)|e-Gov法令検索
- 情報処理の促進に関する法律 第26条(情報処理技術者試験)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第214条(債務負担行為)/第234条(契約の締結)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条(営利企業への従事等の制限)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)/第39条(研修)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第60条の2(教育訓練給付金)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)|e-Gov法令検索
- 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化|デジタル庁