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業界研究 / SIer・システム開発

SIer・システム開発は公務員のどの経験を評価するか

SIer・システム開発は、財政課の方が「プログラマーの世界」と受け止めて候補から外しがちな業界です。この受け止めは、開発職については正しく、業界全体については違います。自治体向けのシステムを受託するSIerでは、「コードを書く人」と同じくらい、「自治体の業務を知っていて、要件に落とし、導入して定着させる人」が要ります。財政課の経験が評価されるのは、後者の側です。

もう1つ、押さえておきたい前提があります。自治体向けの情報システムは、標準化の対象になる基幹系(住民基本台帳、地方税、国民健康保険など政令で定める20の事務)と、対象外の業務系・情報系(財務会計、予算編成、公会計、文書管理など)に分かれます。SaaSのGovTech企業が主戦場にしているのは後者ですが、SIerは前者の標準化・ガバメントクラウド移行の主役であり、後者も長く提供してきた側です。財政課の方が触れてきた財務会計・予算編成のシステムを提供しているのは、多くの場合、SIerです。

この記事では、SIer・システム開発の業界構造(標準化、ガバメントクラウド、受託の仕組み)を法律と公式資料で押さえたうえで、財政課の経験のうちどこが評価され、どこが評価されないかを、職種ごとに整理します。GovTech(SaaS)との違いは自治体向けSaaS・GovTechは公務員のどの経験を評価するかとあわせて読むと、2つの業界の境目が見えます。

業界構造——標準化とガバメントクラウドが、基幹系の前提

地方公共団体情報システムの標準化に関する法律は、政令で定める標準化対象事務のシステムに標準化基準への適合を義務づけ(第8条第1項)、デジタル庁の公式ページによれば20の事務が対象です。同法第10条は、地方公共団体がデジタル社会形成基本法第29条に規定する国による環境の整備(いわゆるガバメントクラウド)の状況を踏まえつつ、その環境でクラウド・コンピューティング・サービス関連技術を活用してシステムを利用するよう努めるものとしています。

区分内容主な担い手財政課の経験
基幹系(標準化対象事務)住民基本台帳、地方税、国民健康保険、介護保険、児童手当、生活保護など、政令で定める20の事務のシステム。標準化基準への適合義務、ガバメントクラウド活用の努力義務SIer・大手ベンダー、地域のベンダー業務そのものの経験はない。ただし、標準化対応の予算を査定する側にいた
業務系・情報系(標準化対象外)財務会計、予算編成、公会計、人事給与、文書管理、電子申請などSIer(長く提供)、SaaSのGovTech業務そのものの経験がある

この構造で押さえるべきことは、SIerの自治体向け事業は「基幹系の標準化・移行」と「業務系の提供と更改」の2本立てで、財政課の経験が直接効くのは後者、間接的に効くのは前者(標準化対応の予算と契約の側)という点です。

受託の仕組みは、自治体側から見れば財政課がよく知るものです。契約は地方自治法第234条により一般競争入札、指名競争入札、随意契約のいずれかで、随意契約は施行令第167条の2に列挙された場合に限られます。システムの導入や保守は複数年度にわたるため、債務負担行為(地方自治法第214条)で予算を組むことが多く、財政課はその設定を査定する側にいました。また、自治体から個人情報の取扱いの委託を受けた事業者は、個人情報の保護に関する法律第66条第2項により安全管理措置の規定が準用されるので、SIerは自治体の個人情報を扱う事業者としての規律の下にあります。

財政課の経験が効く領域——4つ

1. 財務会計・予算編成システムの要件定義と更改。財政課は、財務会計システムの利用者であると同時に、更改時には要件を出す側です。予算要求の集約、査定の記録、執行の伝票、決算統計の様式、公会計の財務書類——「システムがどう扱い、どこが手作業か」を利用者として知っていることは、要件定義で価値があります。SIer側で要件を聞き取る人は、自治体の業務を「聞いて理解した」側なので、「使っていた」側の知識は補完になります。

2. 導入・移行の業務側。新しいシステムへの移行では、旧システムのデータの検証、年度の切替(3月末から4月1日への処理)、当初予算の登録、決算の締めなど、自治体の年度の周期に合わせた作業が要ります。財政課で年度末・年度初めの処理を回していた方は、この周期を体で知っています。

3. 自治体営業。システムの提案は、自治体の予算の周期(要求→査定→議会→執行)と、調達の手続き(仕様書、入札・プロポーザル、債務負担行為)に沿って進めます。財政課はこの全体を査定する側で見ていたので、「この提案はいつ、どの予算で、どの契約の形で通るか」を組み立てられます。

4. 運用保守の顧客対応。財務会計システムの障害や問い合わせは、予算編成期、決算期、年度切替に集中します。どの時期のどの処理が止まると自治体側が最も困るかを知っていることは、保守の優先順位の判断で価値があります。

職種ごとの評価——財政課の経験はどこで効くか

職種業務財政課の経験の評価評価される部分評価されない部分
業務SE・要件定義(財務会計・予算編成)自治体の業務の聞き取り、要件の整理、設計への橋渡し、受入テストの支援高い財務会計・予算編成・公会計の実務、年度の周期、自治体ごとの違いと共通点設計・開発の技術、要件を仕様書に落とす型は学習が要る
導入・移行のプロジェクト管理導入計画、データ移行、年度切替、自治体側との調整、定着高い年度の周期、自治体の意思決定の作法、庁内の調整の進め方プロジェクト管理の手法、複数の自治体を並行して管理する経験
自治体営業提案、調達への対応、予算化の支援、契約中〜高予算の周期と調達の手続き、債務負担行為の組み方、財政課がどう見るか会社の製品と実績は変えられない。技術提案は技術者が書く
PMO・品質管理複数案件の進捗と品質の管理、リスクの把握中文書の作法、進捗の報告、リスクの説明開発工程の理解、品質管理の手法
開発・インフラ(エンジニア)設計、プログラミング、クラウド基盤の構築、標準準拠の対応低い業務の知識が設計の理解を助ける程度技術が前提。財政課の経験は代替にならない

財政課の経験が最も評価されるのは、財務会計・予算編成の業務SEと、導入・移行のプロジェクト管理です。この2つは、「業務を知っている人」と「技術を知っている人」が組んで進める職種で、前者の枠に財政課の経験が当たります。基幹系(住民、税、福祉)の業務SEでは、財政課の経験は直接には効きませんが、標準化対応の予算と契約を査定した経験は営業側で補助的に効きます。

評価されない経験——3つの落とし穴

1つ目は、「システムを使っていたから、システムが分かる」という一般化。利用者としての経験は要件定義で価値がありますが、設計や開発の理解とは別です。面接で「開発の経験はありますか」と聞かれて「システムは毎日使っていました」と答えると、技術者の面接官には「分かっていない」と受け取られます。「利用者と要件を出す側の経験がある。技術は御社の技術者に学ぶ」と線を引いて示すほうが評価されます。

2つ目は、自分の自治体の運用の一般化。財務会計の運用(伝票の流れ、決裁の段階、予算科目の構造)は自治体ごとに違います。SIerは複数の自治体に同じ製品を入れるので、「私の自治体ではこうだった」を「自治体一般はこうだ」と語ると、面接で修正されます。共通する制度(地方自治法の会計の章、決算統計の様式)と、自治体ごとの運用を分けて話すのが型です。

3つ目は、「発注者の視点」への過信。発注者側にいた経験は提案の精度を上げますが、受注者側に移ると、自分が査定していた立場の人に提案し、仕様書に沿って納品し、検査を受ける立場になります。この転換を軽く見ていると、入社後に「決められない」「仕様の外のことを頼まれても断れない」ことにストレスを感じます。

自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

入り方——職種の選び方と、準備

1. 「財務会計・予算編成・公会計」の製品を持ち、業務SEか導入の枠がある会社を探す。SIerの求人の多くは開発職です。求人票で「業務SE」「業務コンサルタント」「導入」「要件定義」といった言葉と、「財務会計」「予算編成」「公会計」「自治体」の言葉が両方ある職種を探してください。基幹系(住民、税、福祉)だけの会社では、財政課の経験が効く枠がない可能性が高いです。

2. 財政課の業務を「システムがどう扱い、どこが手作業か」の軸で棚卸しする。予算要求の集約、査定の記録、執行の伝票、決算統計、公会計の財務書類、起債管理。それぞれで「システムの外でやっていた作業」と「更改のときに要件として出したいこと」を書き出すと、そのまま職務経歴書の材料になります。

3. 自分の自治体のシステム更改の資料を、受注者の視点で読み直す。仕様書、プロポーザルの要求水準、債務負担行為の設定。財政課にいた方は、これらの予算と契約を査定しているはずです。「受注者がどう提案したか」「財政課としてどこを査定したか」の視点で読み直すと、業務のイメージがつかめます。

4. 服務の線を確かめる。在職中にSIerの調達(システム更改の予算査定、プロポーザルの審査、契約)に関わっている場合は、その会社への応募の時期と、退職後の働きかけの規制(地方公務員法第38条の2)を確認してください。財務会計システムの調達は財政課が直接関わることが多いので、この確認はSIerへの転職では特に重要です。再就職者による働きかけの規制に整理しています。

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まとめ

よくある質問

プログラミングができなくても、SIerに入れますか

開発・インフラの職種は技術が前提なので、財政課の経験だけでは入れません。業務SE・要件定義、導入・移行のプロジェクト管理、自治体営業の枠であれば、プログラミングは応募の前提にならないことが一般的で、財務会計・予算編成の実務を知っていることが評価されます。ただし、技術者と協働する前提で、システムの構造(データベース、クラウド、他システムとの連携)を会話で理解できる語彙は入社後に学ぶ必要があります。

基幹系(住民・税・福祉)の標準化対応の求人が多いのですが、財政課の経験は効きますか

基幹系の業務SEでは、住民基本台帳や地方税の業務そのものの経験が求められるので、財政課の経験は直接には効きません。効くのは、標準化対応の予算と契約を査定した経験を営業側で使う場合と、財務会計・予算編成の業務SEの枠です。求人票で担当する業務領域(基幹系か業務系か)を確かめ、財務会計・予算編成・公会計の製品を持つ会社の枠に絞ってください。

自分の自治体の財務会計システムを提供している会社に応募したいのですが、問題になりますか

応募そのものが禁じられているわけではありませんが、2つの点を確認してください。1つは、在職中にその会社の調達(システム更改の予算査定、プロポーザルの審査、契約、検査)に関わっていたかで、財政課は財務会計システムの調達に直接関わることが多いので、該当する可能性が高いです。該当する場合は選考の中で隠さず伝え、応募の時期と入社後の担当の切り分けを相談してください。もう1つは、退職後に元の職場へ働きかけることの規制(地方公務員法第38条の2)で、元の自治体を担当から外す配慮を会社が求めることがあります。再就職者による働きかけの規制に整理しています。

出典

  1. 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律 第2条(定義)/第8条(標準化基準に適合する地方公共団体情報システムの利用)/第10条(クラウド・コンピューティング・サービス関連技術の活用)|e-Gov法令検索
  2. 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律第二条第一項に規定する標準化対象事務を定める政令|e-Gov法令検索
  3. デジタル社会形成基本法 第29条(国及び地方公共団体の情報システムの共同化等)|e-Gov法令検索
  4. 個人情報の保護に関する法律 第66条(安全管理措置)|e-Gov法令検索
  5. 地方自治法 第214条(債務負担行為)/第234条(契約の締結)|e-Gov法令検索
  6. 地方自治法施行令 第167条の2(随意契約)|e-Gov法令検索
  7. 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索
  8. 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化|デジタル庁

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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