業界研究 / SIer・システム開発
SIer・システム開発の選考フローと、面接で見られている観点
SIer・システム開発の選考は、公務員の採用試験とも、SaaS企業の選考とも違う点があります。職種によって選考の型がまったく違うことです。開発職では技術の試験やコードの提出があり、業務SE・導入・営業の職種では、自治体の業務の理解と、技術者と協働できるかが中心になります。財政課の経験を持つ方が応募するのは後者ですが、同じ会社の中で開発職の選考の型を前提に準備してしまい、技術の話に合わせようとして崩れる方が少なくありません。
もう1つの特徴は、応募者が「発注者側にいた人」であることに固有の確認事項が、他の業界より重い点です。財務会計システムの調達は財政課が直接関わることが多く、応募先が自分の自治体のシステムを提供している会社であることも珍しくありません。在職中の調達への関与と、退職後の働きかけの規制は、選考の中で必ず確認されます。
この記事では、SIer・システム開発の選考の一般的な流れ、開発職と業務系職種で見られる観点の違い、財政課の経験に固有の質問の型、発注者側だった経歴に固有の確認事項、服務の線を整理します。業界の構造と職種ごとの評価はSIer・システム開発は公務員のどの経験を評価するかに書いています。選考の流れと回数は会社ごとに違うので、この記事は一般的な形の説明です。
業界構造の要点——選考で前提になること
自治体向けのシステムは、標準化の対象になる基幹系(地方公共団体情報システムの標準化に関する法律第8条第1項により標準化基準への適合が義務づけられ、デジタル庁の公式ページによれば20の事務)と、対象外の業務系・情報系(財務会計、予算編成、公会計など)に分かれます。SIerは両方の担い手で、財政課の経験が直接効くのは業務系の側です。受託は地方自治法第234条の契約方法により、システムの導入・保守は債務負担行為(同法第214条)で複数年度の予算を組むことが多く、自治体から個人情報の取扱いの委託を受けた事業者には個人情報の保護に関する法律第66条第2項により安全管理措置の規定が準用されます。
選考で前提になるのは、「業務を知っている人」と「技術を知っている人」が組んで進める構造です。財政課の方は前者の枠に応募するので、選考では「業務をどれだけ具体的に、技術者に分かる言葉で説明できるか」と「技術者と協働する姿勢があるか」が見られます。
選考の流れ——一般的な形
| 段階 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 1. 書類選考 | 履歴書、職務経歴書。開発職は技術の経歴書、業務系は担当業務の具体 | 財政課の経験を「システムがどう扱い、どこが手作業か」の軸で書けているかで通過が決まる |
| 2. 適性検査・技術試験 | 業務系では一般的な適性検査が中心。開発職ではプログラミングの試験やコードの提出 | 業務系の枠で技術試験が課されることは一般的ではない |
| 3. 一次面接(部門・現場) | 配属予定の部門のマネージャーや業務SE。業務の理解と、一緒に働けるかを見る。技術者が同席することが多い | 財政課の経験の具体性と、技術者との協働の姿勢が最も問われる段階 |
| 4. 二次面接(役員・事業部長) | 会社の方向性との一致、長く働けるか、人物 | 「なぜ発注者側から受注者側へ」の説明が固まっているか |
| 5. オファー面談 | 労働条件の提示と確認 | 労働基準法第15条により条件は書面などで明示される。承諾前に確認する |
| 6. リファレンス | 会社による | 在職中の応募では時期を企業側と調整する |
大手のSIerでは段階が多く、面接の回数も増えることがあります。カジュアル面談から始まる会社もありますが、SaaS企業ほど一般的ではありません。一次面接で技術者が同席する場合、その人が「この人と一緒に自治体の案件を回せるか」を見ています。
開発職と業務系職種で、見られる観点が違う
| 観点 | 開発・インフラ | 業務SE・導入・営業 |
|---|---|---|
| 中心の評価軸 | 技術の経歴、コードの質、設計の理解 | 自治体の業務の理解、要件に落とす力、技術者との協働 |
| 財政課の経験の扱い | 補助的。業務の知識が設計の理解を助ける程度 | 中心。財務会計・予算編成・公会計の実務、年度の周期、自治体の意思決定の作法 |
| 典型的な質問 | 「どの言語で何を作ったか」「設計で工夫した点は」 | 「予算編成のどの処理に手作業が残っていたか」「更改のときに何を要件として出したか」 |
| 落ちやすい答え | 技術の経歴が曖昧 | 「システムを使っていたので分かります」の一般化 |
財政課の方が応募するのは右の列なので、左の列の観点で自分を売り込もうとしないことが第一です。「開発の経験はありますか」と聞かれたら、「ありません。利用者として、また更改のときに要件を出す側として関わっていました。技術は御社の技術者に学びます」と線を引いて答えるのが型です。
面接で問われる質問の型——財政課の経験に固有のもの
1. 「予算編成や決算の処理で、システムの外でやっていた作業は何か」。面接官が聞きたいのは、財務会計・予算編成システムの利用者としての具体です。「要求書をExcelで集めて転記していた」「査定の履歴が残らず前年の判断を探していた」「決算統計の様式に合わせて数字を組み替えていた」——頻度と関わる人数を添えて話します。
2. 「システムの更改に関わったことはあるか。何を要件として出したか」。関わっていれば、仕様書の作成、プロポーザルの要求水準、受入テストでの指摘を具体的に。関わっていなければ「関わっていない」と言い、利用者として更改のときに出したかった要件を話すほうが、曖昧に関わったふりをするより評価されます。
3. 「年度切替のとき、何が起きるか」。導入・移行の職種で必ず聞かれます。3月末の締め、4月1日からの新年度の処理、出納整理期間中の旧年度と新年度の並行、当初予算の登録——自治体の年度の周期を体で知っているかを見ています。
4. 「自分の自治体と、他の自治体で、運用はどう違うと思うか」。複数の自治体に同じ製品を入れる視点の有無を見ています。「伝票の流れや決裁の段階は自治体ごとに違う。共通する制度(地方自治法の会計の章、決算統計の様式)と、自治体ごとの運用を分けて考える」と答えます。
5. 「技術者と協働した経験はあるか」。財政課でシステム更改やデータ移行の検証をしたとき、ベンダーのSEと要件や不具合を詰めた経験があるはずです。「技術者の説明を、業務の側からどう読み、どう質問したか」を話せると、協働の姿勢が伝わります。
6. 「受注者側に回ると、仕様書に沿って納品し、検査を受ける立場になる。どう考えるか」。発注者視点への過信を確かめる質問です。「決める側から、仕様の中で納品し、仕様の外の要望には契約の範囲で応える側に変わる。財政課が検査で何を見るかを知っているので、その視点で品質を組む」と、転換の理解と経験の使い方を1つにまとめます。
自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
発注者側だった経歴に固有の確認事項——SIerでは特に重い
財務会計・予算編成システムの調達は、財政課が直接関わることが多い調達です。応募先が自分の自治体のシステムを提供している会社であることも珍しくなく、他の業界より確認事項が重くなります。
在職中に、応募先の会社の調達に関与していたか。システム更改の予算査定、仕様書の作成、プロポーザルの審査、契約、検査、保守の対応——これらに該当する場合、選考の中で正直に伝え、応募の時期と入社後の担当の切り分けを会社側と相談します。財政課の方はどれかに該当する可能性が高いので、「関与していない」と言い切れるかを、応募前に自分で確かめてください。
退職後、元の職場に働きかける立場にならないか。地方公務員法第38条の2は、再就職者が離職前の職務に関して元の職場に働きかけることを規制しています。自治体営業や導入担当では、元の自治体を担当から外す、一定期間は接触しないといった配慮を会社側が求めることがあります。再就職者による働きかけの規制に、規制の内容を整理しています。
守秘義務。地方公務員法第34条の秘密を守る義務は退職後も続きます。選考の課題や面接で、自分の自治体の未公表の情報(予定価格、調達の内部評価、他社の提案の内容、システムの設定や脆弱性に関わる情報)を使ってはいけません。「業務の性質」は話せますが、「個別の数字と判断」は話せません。守秘義務は退職後も続くかに線引きを整理しています。
個人情報。自治体のシステムには個人情報が含まれます。在職中に触れた個人情報や、システムのデータの構造のうち未公表の部分は、当然ながら選考で使えません。転職後も、自治体から委託を受けた事業者として安全管理措置の規律の下に入ることを理解している姿勢は、面接で見られます。
在職中の選考活動。面接は勤務時間外か年次有給休暇で。地方公務員法第35条の職務専念義務との関係は退職前に転職先と条件を詰めてよいかに整理しています。
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まとめ
- SIerの選考は書類→適性検査→部門の面接(技術者が同席)→役員面接→オファーが一般的。職種によって選考の型が違う
- 開発職と業務系職種で見られる観点が違う。財政課の方は業務系の観点(業務の理解、要件に落とす力、技術者との協働)で自分を示す
- 固有の質問は、システムの外の作業、更改での要件、年度切替、複数の自治体の視点、技術者との協働、受注者側への転換
- 技術の話に合わせない。「分からないことは分からない」と言い、自分の側の知識を技術者に分かる言葉で説明する
- 発注者側だった経歴の確認はSIerでは特に重い。在職中の調達への関与(財政課は該当する可能性が高い)、退職後の働きかけ(第38条の2)、守秘義務と個人情報(第34条)
よくある質問
一次面接で技術者から専門的な質問をされました。答えられなかったのですが、落ちますか
業務SE・導入・営業の枠であれば、技術の質問に答えられないこと自体で落ちることは一般的ではありません。見られているのは、答えられないときの対応です。分からないことを分かったふりで答えると、技術者は見抜き、信頼を失います。「その点は分かりません。業務の側では、こういう処理をしていました」と、自分の側に話を戻せれば、協働の相手として評価されます。開発職の枠に応募していた場合は、技術が前提なので、枠の選び方を見直す必要があります。
自分の自治体の財務会計システムの更改で、プロポーザルの審査に関わりました。その会社に応募できますか
応募そのものが禁じられているわけではありませんが、選考の中で必ず伝え、会社側と応募の時期・入社後の担当の切り分けを相談してください。審査に関わった案件が進行中(導入中、保守契約の期間中)であれば、その案件の担当から外す、元の自治体を一定期間担当しないなどの配慮を会社が求めることがあります。退職後に元の職場へ働きかけることは地方公務員法第38条の2で規制されているため、営業や導入の職種では特に確認されます。隠して入社することは避けてください。
職務経歴書に、使っていたシステムの製品名や、更改の予算額を書いてよいですか
製品名は、自治体が公表している調達の結果(契約の相手方、契約金額)の範囲であれば書けます。未公表の情報(予定価格、他社の提案の内容、審査の採点、システムの設定や脆弱性に関わる情報)は、地方公務員法第34条の守秘義務により書けません。「財務会計システムの更改(契約金額は公表資料のとおり)で、要件の整理と受入テストを担当」のように、公表の範囲で具体性を出すのが型です。判断に迷う情報は書かず、面接で「公表の範囲で話す」と前置きして話してください。
出典
- 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律 第2条(定義)/第8条(標準化基準に適合する地方公共団体情報システムの利用)|e-Gov法令検索
- 個人情報の保護に関する法律 第66条(安全管理措置)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第214条(債務負担行為)/第234条(契約の締結)|e-Gov法令検索
- 地方自治法施行令 第167条の2(随意契約)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第35条(職務に専念する義務)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)|e-Gov法令検索
- 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化|デジタル庁