制度とお金 / 服務
信用失墜行為とは何か
公務員の服務の規定のうち、最も範囲が広く、最も境界が曖昧なのが、第33条の信用失墜行為の禁止です。条文は1行で、「その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」とだけ定めています。
範囲が広いのは、勤務時間外の私生活の行為にも及ぶからです。職務専念義務(第35条)が勤務時間の規定であるのに対し、信用失墜行為の禁止は、勤務時間の内外を問いません。転職を考える方にとっては、転職活動、SNSでの発信、退職前の言動が、この条文とどう関係するかが気になる点です。
この記事では、第33条の条文と、転職に関わる場面での線引きを整理します。何が信用失墜行為に当たるかは、個別の事案ごとに任命権者が判断し、懲戒の基準は自治体の指針によるので、この記事は枠組みです。
条文——第33条
第33条は、職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならないと定めています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 「その職の信用を傷つけ」 | 自分の職(財政課の職員、など)の信用を損なう行為 |
| 「職員の職全体の不名誉」 | 公務員全体の信用を損なう行為 |
| 勤務時間 | 問いません。勤務時間外の私生活の行為も対象 |
| 職務との関連 | 問いません。職務と無関係の行為も、公務員としての信用を損なえば対象 |
罰則はありません(第60条以下の罰則に第33条は含まれていません)。違反した場合の扱いは、第29条の懲戒処分(この法律に違反した場合、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合)です。
典型的な信用失墜行為
任命権者の懲戒の指針で、信用失墜行為として挙げられるのは、次のようなものです。
| 分類 | 例 |
|---|---|
| 犯罪・非行 | 飲酒運転、暴行、窃盗、痴漢、薬物 |
| 職務に関わる不正 | 公金の横領、収賄、文書の偽造、虚偽の申請 |
| ハラスメント | セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメント |
| 情報の漏えい | 個人情報の漏えい(第34条の守秘義務違反と重なる) |
| 不適切な発信 | 職務上知った情報や、住民・同僚を侮辱する内容をSNSで発信 |
転職活動は、この一覧のどこにも入りません。転職活動そのものは、信用失墜行為ではありません。
転職に関わる場面での線引き
| 場面 | 第33条との関係 |
|---|---|
| 転職活動をすること | 対象外。転職活動は職員の自由で、信用を傷つける行為ではない |
| 転職支援サービスに登録すること | 対象外 |
| 面接で前職の職務を説明すること | 対象外。ただし、職務上の秘密を話せば第34条、自治体や同僚を不当に貶める発言は第33条に触れ得る |
| SNSで転職活動を発信すること | 転職活動の発信自体は対象外。自治体や同僚を侮辱する内容、職務上の情報を含む内容は対象 |
| SNSで匿名で自治体の内部を批判すること | 匿名でも、特定されれば対象になり得る。内容が事実に反する、侮辱的、職務上の秘密を含む場合は特に |
| 退職前に、同僚や住民に不満をぶちまけること | 内容と態様によっては対象。職場の信用を損なう言動は、退職前でも職員としての行為 |
| 退職の意思を伝えた後の勤務態度 | 職務専念義務(第35条)の問題が主。著しく不誠実な態度は第33条に触れ得る |
| 休暇の理由を偽ること | 虚偽の申請として対象になり得る(年次有給休暇に理由は要らないので、偽る必要がない) |
転職活動は自由で、線があるのは「発信」と「言動」です。転職を考えている時期は、自治体への不満が高まっていることが多く、それをSNSや職場で口にすることが、第33条に触れる場面です。
SNSでの発信——最も注意が要るところ
転職を考える方が最も注意すべき場面は、SNSです。
| 発信の内容 | 第33条との関係 |
|---|---|
| 転職活動をしている、転職先が決まった | 対象外(ただし退職の申出の前に発信すると、職場に伝わる) |
| 公務員の仕事の一般的な感想、制度の解説 | 対象外(職務上の秘密を含まなければ) |
| 自治体、上司、同僚、住民を特定できる形での批判・侮辱 | 対象。匿名でも特定され得る |
| 職務上知り得た情報(個別の事案、未公表の情報) | 第34条の守秘義務違反。第33条とも重なる |
| 事実に反する内容で自治体を貶める | 対象。名誉毀損の問題にもなり得る |
匿名のアカウントでも、投稿の内容、時期、写真、フォロワーの関係から特定されることがあります。特定されれば、匿名であったことは免責になりません。転職を考えている時期のSNSは、「自治体の名前が出ても困らない内容か」を投稿の前に確かめてください。
転職先での信用にもつながる
第33条は在職中の規定ですが、転職の場面では、信用失墜行為に当たる言動が、転職先の評価にも影響します。面接で前職を貶める発言をする応募者は、転職先でも同じことをすると見られます。SNSで自治体を批判していた投稿は、転職先の採用担当が検索して見つけることがあります。第33条の線を守ることは、公務員としての義務であると同時に、転職先での評価を守ることでもあります。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、信用失墜行為で効いてくる点は3つです。
1. 転職活動そのものは信用失墜行為ではない
転職活動は職員の自由です。第33条を理由に転職活動を控える必要はありません。
2. 線があるのは発信と言動
自治体、同僚、住民を貶める発信と言動が対象です。転職を考えている時期は不満が高まりやすく、ここに注意が要ります。
3. 退職日まで及び、転職先の評価にもつながる
「もうすぐ辞めるから」は、慎重になる理由です。懲戒処分は退職手当と転職先への説明に影響し、SNSの投稿は転職先に見られます。
手続きと期限
| 場面 | すること | 根拠 |
|---|---|---|
| 転職を考え始めたら | SNSの投稿を「自治体の名前が出ても困らない内容」に絞る。過去の投稿も見直す | 第33条 |
| 面接で前職を説明するとき | 職務上の秘密を話さない。自治体や同僚を貶めない | 第34条、第33条 |
| 休暇の申請 | 理由を偽らない。年次有給休暇は「私用」で足りる | 第33条、労働基準法第39条 |
| 退職の申出の後 | 引継ぎを含めて丁寧に勤務。不満を職場で口にしない | 第35条、第33条 |
| 退職後 | 守秘義務は続く(第34条)。第33条は退職後には及ばないが、転職先の評価は続く | 第34条 |
誤解されやすい点
「転職活動は信用失墜行為に当たる」と思い込む
当たりません。転職活動は職員の自由です。
「勤務時間外の私生活は自由」と思い込む
第33条は勤務時間外にも及びます。私生活の行為でも、公務員の信用を損なえば対象です。
「匿名のSNSなら何を書いてもよい」と思い込む
特定されれば対象です。内容が侮辱的、事実に反する、職務上の秘密を含む場合は特に。
「退職の申出をすれば、もう関係ない」と思い込む
退職日までは職員で、第33条は及びます。懲戒処分は退職手当に影響します。
まとめ
- 地方公務員法第33条は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為を禁じ、勤務時間外の私生活にも及びます。罰則はなく、違反は第29条の懲戒処分の対象です
- 転職活動そのものは信用失墜行為ではありません。転職支援サービスへの登録も、面接も、職員の自由です
- 線があるのは発信と言動です。自治体、同僚、住民を貶める発信、職務上の秘密を含む発信、事実に反する批判が対象で、匿名でも特定されれば免責になりません
- 休暇の理由を偽ることも虚偽の申請として対象になり得ます。年次有給休暇は「私用」で足ります
- 退職日までは職員で、第33条は及びます。懲戒処分は退職手当と転職先への説明に影響します
- 第33条の線を守ることは、転職先での評価を守ることでもあります。不満は公開の場ではなく、転職支援の担当者との面談で
よくある質問
匿名のSNSで、自治体の働き方への不満を書いています。問題になりますか
内容によっては、匿名でも第33条の問題になり得ます。公務員の働き方についての一般的な意見(残業が多い、制度がこうあるべきだ)は、職務上の秘密を含まず、特定の人や自治体を侮辱するものでなければ、対象ではありません。一方、自治体や上司、同僚を特定できる形での批判や侮辱、職務上知り得た個別の情報を含む投稿、事実に反する内容で自治体を貶める投稿は、匿名であっても、投稿の内容や時期、写真、フォロワーの関係から特定されれば、第33条(内容によっては第34条)の問題になります。特定された場合、匿名であったことは免責になりません。転職を考えている時期は不満が高まりやすく、投稿の内容が過激になりがちです。「自治体の名前が出ても困らない内容か」を投稿の前に確かめ、過去の投稿も見直してください。転職先の採用担当が応募者のSNSを検索することもあり、自治体を批判する投稿は転職先の評価にも影響します。不満は、転職支援の担当者との面談で口にすれば、次の職場を選ぶ材料に変わります。
面接で「前職の不満」を聞かれました。正直に答えると信用失墜行為になりますか
事実に基づき、特定の人や事案を貶めない形で答えれば、第33条の問題にはなりません。面接で転職の理由を聞かれて、前職の課題を述べること自体は、転職活動の一部で、信用失墜行為ではありません。線があるのは、上司や同僚を特定できる形で侮辱する、職務上知り得た個別の事案を持ち出す、事実に反する内容で自治体を貶める場合です。前者2つは第33条と第34条、後者は第33条と名誉の問題です。答え方としては、「財政課で予算の査定に携わる中で、制度の枠内でできることの限界を感じ、民間で自治体を支援する側に立ちたいと考えた」のように、自分の判断と志向を軸にして、前職の課題は一般化して述べる形が、第33条の面でも、面接の評価の面でも適切です。前職を貶める応募者は、転職先でも同じことをすると見られるので、法律の面を離れても、貶めない答え方が有利です。転職の理由の組み立ては退職理由の伝え方に書いています。
退職の申出をした後、上司から「信用失墜行為に気をつけろ」と言われました。何を気をつければよいですか
退職日までは職員で、第33条が及ぶこと、そして退職前は不満が言動に出やすいことを指しての言葉だと思います。具体的に気をつけるのは、第1に、職場で同僚や住民に自治体への不満をぶちまけないこと。第2に、SNSで自治体や同僚を貶める投稿をしないこと。第3に、引継ぎを含めて最後まで丁寧に勤務し、著しく不誠実な態度を取らないこと(これは第35条の職務専念義務とも重なります)。第4に、休暇の理由を偽らないこと。転職活動そのものや、退職すること自体は、信用失墜行為ではないので、上司の言葉を「転職を批判された」と受け取る必要はありません。退職前の懲戒処分は、退職手当の額と、転職先への説明の両方に影響するので、上司の言葉は、あなたを守る助言として受け取るのが得です。丁寧に退職した方は、前職の同僚との関係が転職後も続き、業界によっては転職先の仕事にも生きます。