財政課転職PUBLIC → PRIVATE 無料で相談する

制度とお金 / 服務

前職の取引先へ営業してよいか

財政課で働いていると、自治体の取引先と接点ができます。システムの受託事業者、指定金融機関、監査法人、コンサルタント、印刷や物品の納入業者。転職先が自治体向けの企業なら、この取引先が、転職先の顧客や競合や協業先になります。

「前職の取引先に営業してよいか」は、転職後に実際に迷う問題です。結論から書くと、取引先への営業そのものを禁じる法律の規定はありません。地方公務員法第38条の2の働きかけの規制は、古巣の自治体の役職員への働きかけを禁じるもので、取引先の事業者への営業は対象外です。ただし、守秘義務、個人情報保護、そして前職の立場の利用という3つの線があります。

この記事では、前職の取引先への営業を、地方公務員法第38条の2、第34条、個人情報保護法第67条の3つの規定で整理します。転職先の内部の規程(利益相反の管理など)は企業ごとに違うので、転職先の上司にも確かめてください。古巣への働きかけは地方公務員に再就職規制はあるのかに、名刺と人脈は名刺・人脈の扱いに書いています。

3つの規定と、取引先への営業

規定何を規制するか取引先への営業との関係
第38条の2(再就職者による依頼等の規制)離職前5年間に在職した組織の役職員に対し、契約等事務に関し、離職後2年間、職務上の行為を要求・依頼すること取引先の事業者は「役職員」ではないので、対象外。ただし、取引先を通じて古巣に働きかける形は対象になり得る
第34条(秘密を守る義務)職務上知り得た秘密を漏らすこと。退職後も同様営業の中で、前職で知った非公開の情報(他の事業者の見積り、内部の評価、次の調達の予定など)を使えば対象
個人情報保護法第67条(従事者の義務)業務に関して知り得た個人情報を、みだりに他人に知らせ、不当な目的に利用すること。職員であった者も対象取引先の担当者の名刺の情報を、相手の同意なく営業に使えば対象になり得る

取引先への営業は、第38条の2の対象ではありません。取引先は自治体の役職員ではなく、営業をかけても古巣への働きかけにはなりません。線があるのは、営業の中身(秘密と個人情報を使わないか)と、営業の形(取引先を通じて古巣に働きかける形になっていないか)です。

「営業の中身」の線——第34条と個人情報保護法

前職の取引先への営業で、最も注意が要るのは、営業の材料として前職の情報を使うことです。

使ってよい使えない
自治体の仕事の進め方の一般論(予算の時期、決裁の流れ、調達の一般的な手順)前職の自治体の内部の検討状況(次年度に何を調達する予定か、予算の見込み)
公表されている情報(公表済みの予算、計画、入札の結果)非公開の情報(他の事業者の見積り、内部の評価、契約の交渉の経緯)
自分の経験(どういう提案が通りやすかったか、どこで判断が分かれたか)取引先の担当者の個人情報を、相手の同意なく営業に使うこと
業界の構造の理解前職の自治体の職員の個人的な事情(誰が決裁権を持ち、誰がどういう考えか、といった非公開の内部情報)

取引先が「前職の自治体の内部を教えてほしい」と期待している場合、期待に応えると第34条に触れます。取引先が求めているのがあなたの経験ではなく前職の秘密であることが分かったら、その営業は止めるべきです。

「営業の形」の線——第38条の2

取引先への営業が、取引先を通じて古巣に働きかける形になると、第38条の2の対象になり得ます。

形扱い
取引先に、転職先の製品・サービスを提案する対象外
取引先と協業して、前職以外の自治体に提案する対象外
取引先と協業して、前職の自治体に提案し、自分が前職の役職員に働きかける第38条の2の対象(離職後2年間、契約等事務に関する要求・依頼の禁止。自ら決定した契約等は期間なし)
取引先に「前職の自治体の担当者に口をきいてほしい」と頼む直接の働きかけではないが、趣旨に反し、取引先の立場も難しくする。避ける

取引先への営業は自由でも、その先に前職の自治体があるなら、自分が古巣に働きかける形にならないよう、転職先と役割を分けてください。

前職の「立場」の利用——法律より先に、信頼の問題

法律の線を越えなくても、「財政課の職員だった」という立場を営業に使うことは、相手の受け取り方によって、信頼を損ないます。

使い方相手の受け取り方
「前職で自治体の予算の仕組みを見てきたので、提案の時期と形をこう組みます」経験の説明。評価される
「前職の自治体では御社が受託していましたね。次はうちも入れてください」立場の利用。相手は警戒する
「前職の自治体の内部では御社の評価は……」秘密の漏えい(第34条)。相手も、この人は自分のことも他で話すと考える

取引先は、あなたが前職の秘密を話す人かどうかを見ています。話さない人だと分かれば、経験を信頼して相談してくれます。話す人だと分かれば、情報だけ取られて信頼はされません。第34条を守ることは、営業の面でも有利です。

転職先の内部の規程

多くの企業には、利益相反の管理や、前職の情報の利用に関する規程があります。自治体向けの企業では、前職の自治体を担当から外す、前職の取引先との協業を上司の承認の対象にする、といった運用があります。入社時に、前職の自治体と取引先との関係を上司に伝え、担当の割振りと営業の範囲を確かめてください。転職先の規程を知らずに営業を始めて、後から問題になる形が、最も避けたいところです。

転職するとどうなるか

転職を考えている方にとって、前職の取引先への営業で効いてくる点は3つです。

1. 取引先への営業そのものは自由

第38条の2の対象は古巣の役職員で、取引先の事業者は対象外です。

2. 営業の中身に、秘密と個人情報を使わない

第34条と個人情報保護法第67条は退職後も及びます。前職の内部の情報を求められたら断る。それが信頼になります。

3. 転職先の規程と、古巣への働きかけの形に注意

入社時に前職との関係を上司に伝え、担当と営業の範囲を確かめる。取引先を通じて古巣に働きかける形にしない。

手続きと期限

順序すること根拠
入社時前職の自治体と取引先との関係を上司に伝え、担当の割振りと営業の範囲を確かめる転職先の規程
営業の前「話せること」と「話せないこと」を紙に分ける第34条、個人情報保護法第67条
営業のとき前職の内部の情報を求められたら断る。経験と公表情報で提案する第34条
取引先との協業前職の自治体への提案では、自分が古巣に働きかける役割から外れる第38条の2(離職後2年間)
名刺の扱い前職で得た取引先の担当者の情報を、相手の同意なく営業に使わない個人情報保護法第67条
継続前職の立場ではなく、経験で信頼を築く第33条の趣旨

誤解されやすい点

「前職の取引先には2年間営業できない」と思い込む

第38条の2は古巣の役職員への働きかけの規制で、取引先への営業は対象外です。

「取引先なら前職の内部の話をしてもよい」と思い込む

第34条の守秘義務は、相手が誰でも及びます。取引先も第三者です。

「前職の立場を使えば営業が有利」と思い込む

立場の利用は警戒され、秘密を話せば信頼を失います。経験で提案するのが有利です。

「転職先の規程は関係ない」と思い込む

利益相反の管理や前職の情報の利用に関する規程がある企業が多く、知らずに始めると問題になります。

財政・会計の経験が効く求人を見てみる

まとめ

よくある質問

前職の自治体のシステムを受託していた会社に転職します。前職の自治体への営業は担当できますか

法律上、就職も担当も禁じられていませんが、第38条の2の働きかけの規制が及び、転職先の規程で担当から外される場合があります。転職先が前職の自治体と契約関係にある場合、あなたが離職前5年間に在職した組織の役職員に対して、その契約に関する事務について離職後2年間、職務上の行為を要求・依頼することは、第38条の2第1項で禁じられています。在職中に自らが決定した契約については、期間の限定なく規制されます(第5項)。つまり、前職の自治体への営業の担当になると、営業の中核である「働きかけ」ができないので、実務上、担当から外れる形が現実的です。多くの企業では利益相反の管理として、前職の顧客を一定期間担当から外す運用をしています。入社時に、前職の自治体と在職の部局、自分が決定に関わった契約を上司に伝えて、担当の割振りを相談してください。前職以外の自治体への営業では、あなたの経験がそのまま生きます。

前職の取引先から「次年度の調達の予定を知っていたら教えてほしい」と言われました

断ってください。前職の内部の検討状況は、第34条の「職務上知り得た秘密」に当たります。次年度に何を調達する予定か、予算の見込みはどうか、といった情報は、公表されるまでは非公開の内部情報で、退職後に取引先に伝えることは、退職後も続く守秘義務の違反です(第34条第1項、第60条第2号の罰則)。断り方は、「公務員の守秘義務は退職後も続くので、前職の内部の情報は話せません。公表されたら、公表の内容を踏まえて一緒に考えましょう」で足ります。この断り方が、相手からの信頼を作ります。前職の秘密を話す人は、相手の会社のことも他で話すと見られ、情報を引き出された後は信頼されません。話さない人は、経験を信頼して相談される相手になります。代わりに提供できるのは、自治体の予算の時期と決裁の流れの一般論、公表されている計画からの推測、提案の形の組み方で、これはあなたの経験です。

前職の取引先の担当者の名刺を持っていませんが、連絡先を調べて営業してよいですか

名刺を持っていなくても、前職の業務で知った担当者の情報を営業に使うことは、個人情報保護法第67条の問題になり得ます。第67条は、業務に関して知り得た個人情報の内容を、みだりに他人に知らせ、または不当な目的に利用することを、職員であった者にも禁じています。前職の業務で知った担当者の氏名と所属をもとに、転職先の営業として連絡することは、相手の同意のない業務外の利用として、「みだりに」「不当な目的」に当たる可能性があります。線は、相手の同意と、情報の経路です。取引先の会社の代表の連絡先(公開されている問合せ窓口)から正式に営業を申し込む、業界の集まりで改めて名刺を交換する、共通の知人を通じて紹介を受ける、といった経路なら、前職の業務で得た個人情報の利用ではありません。退職の挨拶で個人の連絡先を交換し、相手から連絡が来た場合も同様です。前職の業務で知った情報を、相手の同意なく転職先の営業に転用しないこと。それが、法律の線であると同時に、相手からの信頼の線です。

出典

  1. 地方公務員法 第33条(信用失墜行為の禁止)/第34条(秘密を守る義務)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索
  2. 個人情報の保護に関する法律 第67条(従事者の義務)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

「自分の経験に、どこで値段が付くのか」から相談できます

在職中でも、情報収集だけでも構いません。応募する求人が決まっていない段階のほうが、むしろ整理する意味があります。ご利用はすべて無料です。